夏休み。それは山と海とバイトと、遊びと勉強とを尋常ではない暑さとともにこなす日々。楽しく、大変で、ただ暑いだけの夏を彩ってくれる。
無論、こんな時期をGBN運営が見逃すはずがないわけで。僕はそんな運営が用意したとっておきのイベントに参加しに来ていた。
「えっと、ディメンションどこだったっけ……」
GBNを始めて三ヶ月。僕のランクもBに上がって、ようやく慣れてきたかというところ。だけどやったことないイベントやミッション、行ったことのない場所はまだまだたくさんあって、改めてこのゲームの奥深さを思い知らされた。全く見つからない。ちくしょう。
「はぁ……。…………ん、あれって」
意固地にならず、大人しく検索機能を使おうとしたところ、ある場面に出くわした。GBN初心者が多く集まるここでは、よくある場面だった。
「どうだいこのミッション、格安だと思うだろ?」
「えっと……」
「ここだけの話、俺達から受諾してくれたら特別報酬も出るんだぜ!? やるしかねぇだろ〜?」
「あの……」
あれ、初心者狩りってやつか。ああいうの、いつもはレイメイ先輩が止めてたけど今日はいないからなぁ。それに他の人たちは見て見ぬふり。僕が行くしかないかなぁ……。
「おい、貴様ら」
「あ、なんだよ?」
おろ、僕より先に別の人が。
アマツに似た綺麗な黒髪だけど、アマツと違ってくせっ毛だ。おまけに男。それに白と黒の、まるでディストピアものの映画に出てくるエージェントのような風貌。中々洒落たメイキングをしている。
「我が兄弟に粉をかける真似はやめろ。困っているだろう」
「は? 何言ってんのお前」
「もう一度言う。やめろ」
「お前には関係ない話だろ、しゃしゃんなよ」
わー、ガラ悪。仮にも客を横目にする態度かっての。それにしてもあの人、喋り方まで何か芝居がかっているというか、現実じゃあまり聞かない口調だ。
「関係ない? ふざけているのか。俺も彼女も同じELダイバー、生まれを共有する兄弟だ。三度言うぞ、彼女に近付くな」
「チッ、ELダイバーかよ……」
「狩ってもポイント美味しくねーし、運営が黙っちゃねぇな……帰っぞ」
ELダイバー……ビリーヴ先輩と同じか。GBNで生まれた電子生命体……今はどんどん数が増えて数百人はいるんだとか。うひゃー、隣で話してる人が実は電子生命体でしたーなんて、もう珍しくないんだろうな。
「貴様、我が兄弟を愚弄するか……!」
とか思ってたら、ちょっとヤバいかも……? あれはさすがに止めないと!
「ちょ、ちょっとちょっと! ここで喧嘩はご法度じゃない!?」
「あ、誰だよテメェ」
「僕が誰かはいいでしょ。ややこしくなるから、この子は諦めてさっさとどっかに行ってよ!」
「…………チッ、わーったよ」
僕が間に入って嫌悪なムードをどうにか誤魔化した。とぼとぼ歩いてくゴロツキ共の背中を見送ってから、ELダイバーさんたちの方を向く。
「あなたも、ちょっとセーブした方がいいんじゃない?」
「……そうだな。すまない、あのような輩相手にはすぐ激昂してしまう。悪い癖だ」
白黒のELダイバーさんが頭を下げる。よく見ると……中学生くらい? に見えるな。ビリーヴ先輩もそんな感じだし、ELダイバーって基本的に十代前半くらいの姿で生まれるんだろうか。
向かってすぐ横、絡まれていた女の子の方は、前に腕を出してうるうると目を潤わせていた。うんうん、そうだよね。怖かったよね。
「もう大丈夫だよ。怖い人たちいなくなったから」
「…………ん」
「え」
安心させるように言うと、女の子は白黒のELダイバーさんを指さした。彼が驚いたように声を漏らす。
「あー、ごめんね。その人ちょっと怒りっぽいから」
「ち、ちょっと待て。確かにそうだが俺は──」
「…………あり、がとう」
「はい、どういたしまして」
「おい……」
ELダイバーということは、保護者……後見人がいるはずだ。周りには、そういう感じの人は見当たらないけど。
「後見人さんは?」
「あとで、くるって……それで、まってて……」
「そうなんだ。じゃあその人が来るまでお姉さんが一緒にいてあげる」
「ほんと?」
「うん」
女の子の顔がぱあっと明るくなった。用事はあるけど、遅れないように早めに出たし大丈夫かな。万が一のためにワープの準備はしておいて、遅れるかもしれなかったら連絡しておこう。
「……驚いたな。ELダイバーを初めて見たにも関わらず、それほど友好的に接してくれるとは」
「初めてじゃないよ。友達にひとりいるから」
「そうなのか」
「そっちこそ、まるで人間に偏見があるような言い方だけど?」
「そうではない。ELダイバーと聞くと、人間は少し戸惑うからだ。どう接すればいいかわからず、空回り、そういうことをしないために人は我々を避けていく。そういう傾向があるんだ」
「なるほど……人間らしい」
よくある話だ。割れているかどうかわからない鍋を、よくわからないからと割れていることにして蓋をする。人間はとても臆病で、そうやって危険を回避して生きていく。時にはその危険に立ち向かうこともあるけど、それは茶柱が立つとか、宝くじに当たるみたいなレアケースなのだ。
アマツも、そうやって僕にぶつかってきて欲しい。けれどアマツはいっそう臆病で、僕が傷付かないようにと手を引いているんだ。僕はそんなにやわじゃないのに、アマツは心配性なんだから。
「では、俺はここで失礼する。彼女を頼んだぞ」
「うん。じゃあね」
さて、と。待ち合わせの時間は少し遅れちゃうだろうから、事前に連絡はしておこう。
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「……っていうことで、遅れちゃった。ごめんね」
「それは大丈夫ですけど……」
十分ほど遅れて来た待ち合わせ場所には、若干不機嫌気味なアマツが立っていた。レシアは先に着替えてきてるらしい(GBNで着替えるって何……?)。
「どうかした?」
「いえ、なにも……」
「もしかしてアマツ、嫉妬してるの?」
「そっそういうわけじゃ……!」
「ハハハっ、もぉ心配しなくても浮気なんかしないのに〜」
「あう……」
ついついいじめちゃうなぁ、キュートアグレッション……ってやつ? 仮にも友人相手に感じるものではない気がするけど、まぁいいか。
「さてさて、じゃあ何から見ようか」
「……、ツバキさんの好きにしてください」
「そう? じゃあ…………お、水着のレンタルとかやってるんだ。レシアはそっち行ったんだね」
「え」
「ちょうどいいし、僕たちも行こうよ!」
「え、あの」
「好きにしていいんでしょ?」
「っ……、はい……」
よし、観念した。
レシアだけ水着で僕らは普通ってのもアンフェアだもんね。それにアマツの水着姿も見たい。せっかくの美少女アバターなんだから。
そういうわけで、すごいそわそわしているアマツを連れてレンタルエリアまで直行。アバターなんてボタンひとつで色気もなく変わるのに、わざわざ男女別で更衣室があるのはリアリティ重視ってことなんだろう。まぁ、女性アバターの男性とか、男性アバターの女性とかはすごい気まずいだろうけど。
「どれもかわいい……。うーん、迷うなぁ」
「うぅ……は、恥ずかしい……」
ワンピースもビキニもいいデザインのばっかりだ。てっきり簡素なものしかないと思っていたけど、普通にデパートとかの規模はある。
「お」
この水着、ワンピースタイプでアマツに合うんじゃないだろうか。イラストレーションの世界でも、黒髪ロングには白ワンピって相場が決まってるからね。
「アマツ、これなんかどう?」
「えっあっ、よ、よく似合うと思います……」
「……アマツに、なんだけど」
「え……? す、すみません」
「ううん、大丈夫。それで、どうかな?」
「わかりました、じゃあ、それで……」
あえてすごい露出するような水着でからかおうとも思ったけど、無理して本当に着ちゃったら申し訳ない。それにアマツってファッションに頓着なさそうだから、こうやってかわいい自分を見つけてもらいたい。
アマツの水着は決まったけど、僕のはどうしようか。うーむ…………、ビキニから選ぶとして、……あ、このホットパンツデザインいいな。よしこれで。このはみ出てるヒモとかアマツにはいい刺激かも。じゃあ上は……このハイネックがいいかな。ひらひらしてて、デザインもいい。カラーは紺……いやオレンジもいいな。うわぁ悩む……。……よし、このライトブルーにしよう。
指定のコインを支払って、コーディネートのボタンをタップ。するとアバターが変化して、僕が選んだ通りの衣装になった。
「お、おお……」
アマツから感嘆の声が出る。悩殺……とまではいかずとも、アマツとしては中々刺激的な姿だろう。よし計画通り。
「ふふん、どう? 似合ってる?」
「……は、はい。すごく……」
「そっか、よかった。アマツも早く着替えなよ」
「わ、わかりました」
アマツがウィンドウを操作すると、僕が勧めた通りの水着姿に変化した。白いワンピースタイプの水着で、機能性はともかくとした長めのスカートが特徴。…………かわいい。
「どう、ですか?」
「うん、いいよ! すっごく似合ってる!」
「そ、そうですかね……」
「そうだよ。アマツはもっと、自分がかわいいってこと自覚した方がいいと思う!」
「ぅえ!? はっ、はぃ……」
顔真っ赤にしててかわいい。やっぱアマツって素材がいいよね。リアルから弄ったのは髪と身長ぐらいなのに、すごく美人に見える。めちゃくちゃにかわいい。リアルでも水着姿見てみたいなぁ、流石に断られるかな。
「あらあら、随分似合ってるじゃない」
「わっ、ってレシアか」
後ろから話しかけてきたのは、さっきから見当たらなかったレシアだった。
「レシアさん、今までどちらに?」
「フォースフェスは形式上、人が多くなるのよね。私たちみたいな少人数もいれば、まるで野球部かってぐらい大所帯なのも。だから先に行って、場所取り代わりにアデラバルデを置いてきたのよ」
「わー、目立つだろうね」
「レディーたるもの、常に自らをアピールし続けるものよ」
レシアは胸に手を当ててそう宣言する。……にしても、レシアの水着姿ってなんか、あるもの無いものを堂々と強調してるっていうか、なんというか……。
「……あら、この私の色気にやられちゃった?」
「いや、GBNは思い通りの姿になれるのが強みのひとつだよねって思っただけ」
「ですね……」
「ちょっと、どういう意味よ!」
寸劇もそこそこに、アデラバルデが鎮座している場所まで向かう。ビーチのど真ん中に居座るアデラバルデは、少し装備が変わっているようだった。
「あれ、手が四つも付いてる 」
「ミニゲーム対策よ。手はひとつでも多い方がいいと思ってね」
「えっと、宝探しでしたっけ? フェスのエリア内にある秘宝を探すんだとか」
「例年通りではそうなるわね」
「盛大なフラグが立った気がする……」
絶対例年通りに行かないパターンだ。まぁ、多分どうにかなるだろう。アマツもいるし。
「考えすぎよツバキ。そんな綺麗なフラグ回収が現実で起こるわけないじゃない」
「フラグを乱立していく……。一体どうなることやら」
……と、一抹の不安を抱えつつ周りを見渡す。白い砂浜に青い海、リアルと見分けのつかないほどにリアルな空。そしてそこかしこを走り、泳ぎ、楽しむのは、人型の巨大ロボットたち。なんともまぁ非日常的で新鮮な光景だろう。リアルでは絶対お目にかかれない。
「……あれ?」
「どうかしましたか?」
「あの人、コネコ先輩じゃない?」
「え…………あ、ほんとですね」
ひとりでアイスクリームを食べているネコミミで茶髪のストレートヘアな少女がビーチに座っていた。フォースが違うからビルドリバイバルも来ているのか? いや、だったらなんでひとりでいるんだろうか。全員どっか行ってるとしても、七人もいたら二人くらい残りそうなものだけど。
「おーい! コネコせんぱーい…………って、めっちゃ不機嫌な顔してる!!」
呼びながら近付いてみると、コネコ先輩はそれはもう立派なしかめっ面でこちらの方を向いた。……と思えば、僕たちの方を見るなりすぐにその表情を解除した。
「おぉ、後輩達よ……聞いて欲しいのです……」
「聞いて欲しいって?」
「実は全員で夏のフォースフェスに行こうって約束したのですけど……」
「はぁ」
「まさかの当日で他のメンバー全員からドタキャン食らったのです……」
「えぇ……?」
結構悲しい理由だった。そりゃ不機嫌にもなる。
「一体どうしてそんなことに……?」
「レイメイ先輩は補習、ビリーヴ先輩はなんかの講演会……? みたいなのがあるとかで飛び出していったらしくて、アノマロ先輩はそもそも不参加で、カグラ先輩とサモネさんはリアルの海に行くとかで来なくて、カスミさんは海が苦手だからって逃げ出したわけなのです」
「わぁ……」
「みなさん好き勝手してますね」
「他はともかくカスミさんは昔溺れかけた経験で海が若干トラウマらしくて、それなら無理やり連れ出すのも悪いかなって……」
「苦労してるわね……」
「うぅ、後輩ズが来てくれなかったらぼっちだったのです……。ありがとうなのです……」
「偶然見つけただけですけどね……」
ビルドリバイバルって、調和が取れてるようで意外と混沌としているな……。そもそも全員の系統が違うから、メンバー全員集まって何かやるっていうのがあまり多くないんだろう。
「よ、よし! じゃあ、フォース『ART_club』は今回、withコネコ先輩でめいっぱい楽しもう! おー!!」
「おー!! なのです!」
「「お、おー!」」
そうして決意を固めたその瞬間……、
私たちを、波が覆った。
「うわあああ!!?」
波によって後ろに押し流される。口の中がなんだかしょっぱい……、こういうところまで再現されてるのかってそうじゃなーい! 何が起こった!?
「うぇ……、……って、え!?」
大きい影の先を見ると、一機の巨大なザリガニ(?)のロボットが、白いカニ(?)みたいなロボットによって串刺しにされていた。
……………………いや、ホントに何!!!?
ヒカリさん、前作のラスボスとは思えないようなただの萌えキャラと化してる
※機体解説に新しく2機追加してます。まだ未登場なので少しお待ちを