目の前にカニがいる。結構ずんぐりむっくりというか、身が詰まってそうな肥えてるやつが。
そいつがぶっ刺しているのは、カニみたいな、というよりはザリガニみたいな、なんとなくそんな感じのするやつだ。人型ではない。
「……アマツ、あれ何?」
「ヴァル・ヴァロと……ズゴックですね」
「どういうやつなの?」
「ヴァル・ヴァロは『0083』にいたような……あ、ほとんどカットされてましたね。あれはジオン軍のモビルアーマー、ビグロの系譜にある機体です」
「なるほど」
「それでズゴックもまたジオン軍のモビルスーツで、水陸両用の機動性に優れた機体ですね。……ちょっとシュールなんですけど」
「その辺りは水陸両用機の宿命ね」
「かわいいよね」
「まぁ、ニッチな人気はありますけど……」
水陸両用モビルスーツか、今度調べてみよう。
まぁそれはいいだろう。問題は目の前のこれだ。なんなんだこれは。
「貴様は今、海で泳いでいた機体の足を掴み、沈め、自らのポイントを目的に破壊しようとした。違うか?」
「う、うるせぇ! さっさと下ろせ!」
「救えないな。貴様はこのイベントのルールを破壊する不届き者、乗機の破壊をもってこの場から退場させてやる」
「ま、待て──」
上空に突き上げられたヴァル・ヴァロをビームが貫通。ヴァル・ヴァロは爆発と共に消滅した。もったいないという感情はこの場において絶対に間違っているので封印しよう。
…………ん? この声、どっかで聞いたような……。
「……あ! 今朝あったELダイバーの子だ!」
「えっ、あの人が?」
「うん、声の感じ的に間違いないと思う」
ズゴックのヒトツメが動いてこちらを向く。どうやら僕の声に気付いたらしい。
「ん……、お前は……」
「あ、気付いた」
機体はそのまま、本人だけが降りてくる。水着ではなく普通に今朝見た格好だ。
「今朝会った人間。まさかこの場で会うとは」
「この人がツバキさんの言うELダイバー、ですか?」
「うん。名前は…………あ、聞いてなかった」
「リツだ。ELダイバーリツ、人は俺をそう呼ぶ」
「リツ君ね、了解。それでここで何してるの?」
「ライフセーバーだ」
「はい?」
ライフセーバー…………?
「このイベントの平和と秩序を守る者。それを壊す輩にはさっきのように制裁を加える。または、万が一参加者が危険に陥った際、助ける。それがライフセーバーの仕事だ」
「うんなんか違うけど知ってるけど……なんで?」
「俺は正義を重んじるELダイバー。このGBNを守り、育むこと、すなわち正義の元に俺は進む。ライフセーバーもその一環だ」
「なるほど…………?」
ちょっとよくわからないけど、まぁ、そういうことなんだろう。よくわからないけど。
「なるほどなるほど、話はよくわかったのです」
そこでコネコ先輩が割り込んでくる。なんで?
「つまり君は、女同士の間に入ってくる”間男”というわけ……なのです?」
何言ってるのこの人。
「その概念については知っている。邪魔をするようなことはないから安心しろ」
君は君でどういう受け答えなの。
「カグラ先輩がいたらめちゃくちゃ荒れてたのです……。まぁいいのです」
まぁいいんだ。どういう選考なの?
「では、俺はまだ仕事があるから失礼する」
「なんかデジャブ」
「さらばだ」
リツ君は機体に戻って海へと潜っていった。なんだったんだろう、今の。
「……随分、仲良さそうでしたね」
「浮気なんてしないって、言ったでしょ?」
「そうじゃないですけど……」
あー、また機嫌を損ねてしまった。アマツは繊細なんだから、もっと見てあげないとだよ、僕。
どうしよう、このご機嫌ななめなアマツ。どうすれば海で遊んでくれるくらい回復してくれるか…………うーん、よし。ちょっと恥ずかしいけど、アレをやろう。
「アマツ」
「なんですか」
「はい、どーぞ」
アマツの目の前で、手を広げてアマツを受け入れる体勢をとる。
「えっと、どういう……?」
「マーキング。してもいいよ」
「え、ぇあっ!?」
「ほら、すりすりしてもいいんだよ? 思いっきりぎゅーってしたり、匂い嗅いだりしたりしていいんだよ」
「え、ぇ、え……?」
「もぉ冗談だよ……って、あれ?」
やば、加減間違えた。
気絶……してる? いやログアウトしてないから意識はあるか。とにかく、アマツがフリーズしてしまった。どうしよう。
「私たち、完全に忘れられてるわね」
「それでいいのです。オタクっていうのは、ああいうイチャコラを見守る壁になりたいものなのです……!」
「はぁ、どいつもこいつもやりたい放題ね……」
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ようやくアマツが復活してくれたので、ビーチでちょっと遊ぶことにした。
「とはいっても、私は泳げないので見てるだけですけどね」
「教えてあげるよー?」
「大丈夫です。社会に出たら、川に溺れかけてる人を助けるみたいなシチュエーションにでも出くわさない限り水の中を泳ぐなんてしませんから」
「そんなことないと思うけど……」
泳げないし泳ぎたくない、という強い意思をアマツから感じる。本人もこう言ってるし、無理やり誘うのは良くないよね。
「じゃ、僕も海はこのぐらいにして、アマツと一緒になんかする」
「あなた、口を開けばアマツアマツね」
「悪いけど、アマツと一緒にいるときがいちばん楽しいからね」
「無意識って恐ろしいわ……」
レシアがなんか言ってるのをよそに、僕はアマツの隣に座った。アマツがこっちを見てくれてる。主に胸元とか、腰とか、目つきがちょっとやらしい。嫌じゃないけどね。
「……なんですか」
「アマツ、今僕のおっぱい見てたでしょ」
「みっ見てませんっ、けど!?」
「うっそだぁ。ま、男の子じゃなくても見ちゃうか。結構大きいもんね、僕」
「じ、自慢ですか?」
「んー、アマツのも好きだけどね。女の子ってあんまり大きいより、人より少し小さい方が全体のスタイルが引き締まってて好きなんだよね」
「…………えっちな話なら帰りますけど」
「違うよ。でも、アマツがすけべだったから」
「ちが…………い、ますよ」
「結構溜めるね」
自覚はしてるんだ。じゃあもう少し踏み込めばもっと面白い反応見れるかも。
「あ、そうだアマツ。日焼け止め塗ってあげようか?」
「日焼け止め!? ……じ、GBNにあるんですか?」
「あるよ」
「あるんですか!?」
「ま、テクスチャだけのハリボテだけどね」
「っ……、か、からかわないでください!」
「アハハっ! ごめんごめん、照れてるアマツがかわいくってつい」
「だ、だからぁ……!」
本っ当にかわいい。水着だから夏服より肌が見えていて、その分アマツの中身が今までより見えている気がする。それがとてもかわいい。
「いたっ」
「こら、遊ばないの」
「うぅ……」
怒られた。しょうがないか、ちょっと悪ノリしすぎたし。
「アマツ”で”遊ぶよりアマツ”と”遊びなさいよ。ほら、あそこに丁度よさそうなのがあるじゃない」
「あそこ?」
「ガンプラビーチバレー、ですか?」
「なにそれ……」
「シンプルよ。ガンプラでビーチバレーをする、それだけ」
ガンプラでやる意味とは……。いや、そこが独自性というやつか。確かにガンダムがビーチバレーしてる図は面白い。よし、やろう。
ということで。
「チーム分けは私とレシアちゃん、ツバキちゃんとアマツちゃんなのです!」
「異論はないわね。じゃあ始め──」
「ちょっと待てーい!」
ゲームが開始される直前に待ったをかける。
「何よ」
「レシアの機体腕6本あるよね!? しかも飛ぶやつ! ちょっとズルすぎない!?」
「何を言い出すかと思えば……、そんな不条理GBNでは普通なのです」
「ひどくなーい?」
「まぁまぁ、ではこちらはボレロAを使わせていただきます。これでどうでしょう」
「問題ないわ。さ、改めて始めましょう」
僕の文句はなぁなぁとなったままゲームが開始される。サーブはこっち、つまり最初は相手チームからで、予想通りイーシュヴァラを活用して返してきた。ずるい。
「っと、アマツ!」
「は、はい!」
じゃあ絶対取れないようにと、めちゃくちゃ高いところまでボールを打ち上げる。空中を(ラインから出ない範囲で)飛ぶアマツのクロスレイがすごい勢いで相手コートに叩きつけ、早速一点をもぎ取る。どうだ。
「やるわね」
「こっちも負けてらんないのです! さぁ、行くのです!」
僕がサーブで相手コートに投げ入れる。よく考えなくてもこの構図だいぶシュールだな。
アデラバルデがトス、軽く跳ねたボールをコネコ先輩の機体(黒くて詳細がわからないけど、多分前使ってたP.F.S.N.だと思う)がネット付近まで運び、イーシュヴァラが上向きに打ち出した。
「そんなの通用しませんよ!」
「フッ……」
さっきよりボールが高いので、上空のクロスレイが取ろうとする。だがその直前、アデラバルデの膝の機雷が炸裂。
「なっ!?」
「はっ、せこ!?」
爆発が煙幕となってクロスレイの視界を遮り、ボールはクロスレイに拾われることなく地上に落下してくる。そういえばあれ、どれだけ重いんだろう。
……じゃなくて! 機雷撃ってくるとかせこくない!? スポーツマンシップはどこ!?
もう! ロゼアの振動感知センサーで空気の揺れを見て、ここ!
「アマツ、トス!」
「はっ! つ、ツバキさん!」
煙幕から逃れるため降りていたアマツが反応。そのままボールをこちらに返してくる。アイコンタクトだけだけど、意図伝わったかな。
「そっちがその気なら……!」
僕のアタックと同時に、クロスレイのボレロからミサイルが発射。絶対に取らせてたまるかって感じで、ボールより先に相手コートへとたどり着く。
「ここは! 任せるのです!」
フリーダムが前に出て、ビームシールドを展開。ミサイルを一身に引き受けた後、飛んでくるボールをビームシールドで弾く(あれビーム耐性あるんだ……)。イーシュヴァラが弾かれたボール目掛けてグーで押し出し、勢いを付けてこちらに打ち込んできた。
アマツが応戦しようとするがボールの速度に追い付き切れず、手がボールをかすめるところで通り過ぎてしまう。その分は僕が補填して、ネット付近のクロスレイが一番得意なレンジにまでボールを誘導した。
「よし、行っけー! アマツ!」
「はいっ!!」
飛び出したクロスレイが、ボールをこれまで以上に強く、強く叩きつける。
勝負は激しく、楽しく、とてもとても白熱したのだった。
青春パワーが強すぎて書きながら苦しんでます