ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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定義②:ガンプラ作り

「…………」

 

 美味しい。今日のご飯はパパにしては当たりだ。

 

 なぜなら今日の夕飯は仕事先で貰ってきたらしい餃子。皮でタネを包んだ状態だったのであとはほとんど蒸し焼きにするだけだったらしい。つまり、これは厳密にはパパの料理ではない。

 

「トウカ? ずっと浮かない顔だけど……」

「大丈夫か? 食欲無いのか?」

「ううん、大丈夫」

 

 ……ガンプラ、すごく難しい。

 

 まず、箱を開けた時点で少し目眩がした。おびただしい量のパーツ、それらが全て円柱(ランナーと言うらしい)に繋がっていて、全て切り出すだけでも一苦労なんてものじゃない。僕は一旦そっと閉じて、深く深呼吸してからもう一度開けて、ランナーを全て袋から取り出した。

 

 パーツとランナーの隙間にニッパーを通して、パチン。

 

 ニッパーを通して、パチン。

 

 パチン。パチン。

 

 子気味のいい音だったが、正直言って気が遠くなるような作業だった。切っても切っても無くならない、しかもパーツひとつひとつが小さいから飛び上がってしまったらどうしようもない。

 

 世のビルダーは、これを日夜作っているのだろう。場数をこなしている分、僕よりもよっぽど効率のいい切り方を知っているだろうし。

 

 結局、ランナー1枚と2枚目の半分辺りでご飯による作業ストップがかかった。僕はバラバラのパーツしか見ていない。

 

「自信満々に出した割には意外と普通だなって」

「確かに。でも貰い物なんだからそんな事言わないの」

「はーい」

 

 ご飯を食べ終えて、エネルギー満タンの状態で机に向き合う。

 

 ……正直、ランナーだらけパーツだらけのこの状態から始める気力はあんまり起きない。

 

「でも、やるしかないか」

 

 これをどうにかしないと、そもそも勉強ができない。だからニッパーを持って、ランナーからパーツを切り出していく。

 

 パチン。パチン。

 

 …………うん、これは続かないな。このままだと精神が擦り切れる。

 

 何とかならないかとスマホを開いて、動画サイトを漁る。色々と出てくるが、やはりどれもパッとしない。

 

『ガンプラ』と入れて検索してみると、ガンプラの制作動画などがずらりと並んで出てきた。その中で特に気になったのは、僕がガンプラを買う要因になった人、カスミさんの投稿だ。

 

「この人、動画出してたんだ」

 

 タイトルは、『勝ちたい人必見!GBNでオススメなガンプラの作り方!』。GBN上で勝つための作り方を伝授する動画みたいだ。

 

 見てみたが、なんだか要領を得ない。というよりは、僕自身にガンプラに対する知識があまりないから、ガンプラをただ”組み立てる”段階からランクアップしているこの動画はあまり参考にならない。

 

 チャンネルの欄から動画を探して、もっと初心者向けの動画を見つけて再生する。エントリーグレードのガンダムを作る動画……らしいが、エントリーグレードがまずわからない。EGだけにイージー、とかなのだろうか。

 

「へぇ…………」

 

 エントリーグレードについてはともかくとして、内容は為になるものが多かった。動画としてはガンプラ自体のレビューになるのだが、エントリーグレードを買う人はもっぱら初心者ビルダーだそうなので、それに沿った解説をしている。パーツは一度周りのゲートを切ってからもう一度切るだとか、やすりは番目の低い方から使っていくとか、デザインナイフを使う時は要注意だとかだ。

 

 つまり、元々初心者向けのハイグレードから更に子どもや初心者に配慮したエントリーグレードがあるのに、僕はそれらを全て無視していきなりリアルグレードを買ったことになる。

 

「これはやっちゃったなぁ……」

 

 でももう、パーツは切り取ってるわけだし、後戻りはできない。それに基礎が同じなら応用できることもあるはずだ。

 

 動画を参考にしながら、僕はパーツを全て切り出していく。全て切り出してから全てのパーツにやすりがけをして、ニッパーで出来た傷を無くしていく。番目の低い方からやすりをして、最後に千番のやすりで表面を綺麗にする。これを二千五百番のやすりまで行えば表面にツヤが出るらしい。

 

 パーツのやすりがけが終わって、ついに説明書をめくって組み立てのターンだ。小さい上に似たようなパーツが多くて苦戦したが、ひとまずは順調にフレームを組み立てることが出来た。

 

「か、っこいい……」

 

 自分が作り上げたもの、それは僕自身が絵画で何度も経験してきた感情。

 

 でも今回は、何かが違う気がする。

 

 フレームと一部の装甲だけで組み上がったゼフィランサスをしばらく見つめて、作業に戻る。だがそこで、トラブルが起きた。

 

「……あれ?」

 

 パーツがはまらない。ちゃんとゲートを切って、やすりがけもしたはずなのに。

 

 説明書には書かれていない白い突起がパーツとパーツの間に割り込んで、はめ込むことができない。もしかして、ここに来て成形不良……?

 

「ど、どうして」

 

 他の白いパーツを見てみても、そのほとんどのパーツの裏に謎の白い突起がある。こんなにあるのは不自然だからどうやら成形不良ではないらしいが、だとしたら最初からこういう形だということになる。一体どういうことなんだ。

 

「ん、アンダーゲート?」

 

 パーツと説明書を何度も見返して、ふと説明書にそういう名称がパーツ番号の下に書かれているのに気付いた。

 

 スマホで調べると、アンダーゲートはパーツをゲートから切り離したときに出るバリを残して見栄えを悪くしないように、パーツとゲートのつなぎ目をパーツの裏に仕込む成形方法なのだそうだ。確かにアンダーとは裏や下という意味があるから、調べてから納得が行った。

 

「予期せぬところに落とし穴が、やっぱりガンプラって難しい……」

 

 何はともあれ、アンダーゲート部分をもう一度切ってやすりがけをし、完全に突起を無くす。これでちゃんとはまるはずだ。

 

「………………できた」

 

 予想通り、パーツは想定していた通りにはめ込むことができた。次々にパーツをフレームの上から被せていって、黒いボディを白く染め上げていく。

 

 最後に頭部をつけて、全身を少し動かしてから立たせてみる。

 

 ガンダムGP01ゼフィランサス。

 

 それが僕の、初めてのガンプラ。

 

────────────────────

 

 僕の初めてのガンプラを作ってから一ヶ月半ほどが経過した。

 

 もう桜が咲き乱れる三月で、今卒業式から帰ってきたところだ。

 

「疲れた…………」

 

 卒業式の後は基本的にみんな余韻に浸ってから帰るものだが、僕の場合は何故か同級生や後輩から何回も呼び出されては告白ラッシュを食らい、その度に断るといったことをしてきた。

 

 卒業する前にも、こういうことは何度かあった。けれど当時の僕は絵に夢中でそういう色恋には全くの無頓着だったから、誰に告白されてもピンと来ず、傷つけてしまうのもよくないから断ってきた。

 

 そして、今僕は久しぶりにキャンバスと向かい合っている。

 

 なぜこのタイミングなのか、それはわからない。けれど、なんとなく描きたくなった。それだけだ。

 

 こうやって好きに絵を描こうとするのは久しぶりだ。というかそもそも、絵を描くこと自体が久しぶりだ。

 

 筆を置いて、滑らせる。なんとなく羽根をイメージしているが、全体像は描きながら考えていく。

 

「………………詰まった」

 

 筆を洗ってから置いて、椅子を引いて全体を見つめる。羽根が大きすぎるのか、何だかアンバランスに見えてきた。それに思いがけず描いていたがこれは…………。

 

「が、ガンダムだ……」

 

 僕の最初のガンプラ、ゼフィランサスをシルエットぐらい簡単に描き込んでいた。

 

 この羽根は、ロボットにしては有機的すぎる。似合わないはずだ。なのに、何故かマッチしているように感じる。

 

「なんで……? アンバランスだし、こんな雑でやっつけ感すごいのに……」

 

 何故なのか気になって、スマホを取り出して羽根のあるガンダムを画像検索で探す。すると、あるSNSの投稿が出てきた。

 

「これ、またカスミさんだ。この人多彩すぎない?」

 

 そう、またもやカスミの投稿。タイトルは『月光蝶』。奇抜な見た目のガンダムの後ろに巨大な虹色の羽根が描かれていて、恐らく写真とデジタルCGを統合したものだろう。実物にしては羽根が綺麗すぎる。

 

『マッッッジで疲れた。こんなんもう二度とやらん』

 

「確かにこれ、とんでもない作業量になってそう……」

 

 説明は一切されておらず、ただただ作業量に対する愚痴が簡潔に添えられていた。昨日見た動画然り、この人らしいと言える。

 

「すごいな、これ」

 

 この作品自体はデジタルだけど、絵画やアナログでも再現出来たりしないだろうか。それにしても、有機的な羽根と無機的なガンダムがこうも合うとは思わなかった。ガンプラは、僕に新たな発見をくれる。

 

 もう一度、絵画を見つめる。

 

 有機的な蝶の羽根と、無機的なガンダムのシルエット。

 

「やってみる、か」

 

 筆を取って、作業を再開した。

 

 ガンダムの部分は白が多すぎるので、情報量を上げて羽根とバランスを取る。青をベースに加えていって、曲線を増やして有機的な要素を足していく。

 

 羽根はカスミの月光蝶のように、緑をベースに虹色のグラデーションをかける。色のバランスを不揃いにして、ハイライトを入れて影をつけず、発光しているように見せた。

 

 そして、親和性を高めるために、羽根の付け根にガンダム部分と同じカラーリングのパーツを描き加えた。

 

「すごい……」

 

 こんなに筆が進むのは初めてだ。全体像が決まってるわけじゃなかったはずなのに、自然と位置が決まっているように色が乗っていっている。

 

 微調整をして、ひとまず完成にする。もう日が暮れていたことに気付かなかった。

 

 自由に羽根を伸ばすこのガンダムを見る。

 

「これが、僕のガンダム……」

 

 僕が作ったゼフィランサスを、この作品の通りに作り替えることはできないだろうか。飾っているゼフィランサスを見て、あれが新しい姿になることを想像する。

 

「……いいかも」

 

 ゼフィランサスを手に取る。

 

 この子を僕の思い描くように作り替える。よく考えてみれば、このゼフィランサスは説明書通りに組み立てただけであって、僕がデザインしたわけじゃない。そんなゼフィランサスを僕がアレンジする。それは、明確に僕自身の”作品”と言えるんじゃないだろうか。

 

 細部は誤魔化しているから、後からデザインを考え直さなくちゃいけない。でも、絵ではなく立体で形をとらえるガンプラだからこそそれが容易にできる。

 

 だから、僕にもできるかもしれない。

 

「よし!」

 

 僕はスマホを再び立ち上げて、必要なものを調べ始めた。

 

「へぇ、ピンバイスで穴を開けて……」

 

「え、真鍮線? そんなの使うの?」

 

「ラッカー塗料……。食い付きがいいからよく使われるらしいけど、臭いがなぁ……」

 

「筋彫りって、これ刃があらぬ方向に行かないか心配すぎるんだけど……!」

 

 ……………………うん。

 

 やっぱりガンプラって難しい!

 

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