ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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定義③:新しい生活

「…………よし」

 

 やっと完成した。

 

 僕だけのガンプラ、『ゼフィランサス・ロゼア』。

 

 ロゼアの名前はゼフィランサスの品種から取った。どれくらいの完成度なのかはわからないけど、なんとか形になったと思う。

 

 まさか、完成が高校の入学式の日になるとは流石に思わなかったけど。

 

「そろそろ支度しないと」

 

 制服を取り出して着替える。肌を出すのはあんまり好きじゃないから、タイツも履いておこう。

 

「行ってきます」

 

 朝食を済ませた後、前髪を軽く決めてから外に出た。久しぶりに外に出るから日差しが眩しい。

 

 かつて、行きたかった高校に行けなくて悔しかったことを覚えている。けれど、今はその悔しさを払拭することができた。

 

 ガンプラが、僕に新たな世界を見せてくれたから。

 

 だから今日は、そんな僕が新たな世界に歩き出す最初の一歩。僕は前を向いて、学校に目指して歩き出した。

 

 

「水無月先生! どうしてあなたはいつもいつも髪を染めてくるんですか! 今日は大切な入学式ですよ!?」

「えへへー、すんません」

 

 教師に注意されてる教師がいる…………。

 

 高校に辿り着いてから一分足らず。僕は、この学校はもしかしたら結構やばいんじゃないかと思案していた。

 

────────────────────

 

 出席番号二十七番。まぁ大体それくらいだろうとは思っていたけど、縁もゆかりも無い番号なので少し気になった。いや、今日から縁ができたのか。

 

「はい、じゃあこれから皆さんには軽く自己紹介をしてもらいます。共通した趣味の人を見つけて仲良くなりましょう」

 

 自己紹介自体が苦手な訳じゃない、ただ名前が三月トウカだから誕生日が三月十日だと思われることが多少あったりする。そういう名前弄りがなんとなく嫌なのだ。

 

「では、まず出席番号一番の飯綱さんから」

「はい、飯綱ヒカリです。趣味は……特に。よろしくお願いします」

 

 加えて、問題はもうひとつある。それは趣味の話だ。

 

 絵を描くことが趣味の子はたくさんいる。ただ、僕とは趣向が違うのだ。あの…………BL? っていうのかな、そういう男同士が抱き合ってるような絵は僕の管轄外だ。僕はどちらかといえば抽象画や風景画専門で、あまり人は描いてこなかった。

 

 そういうわけなので、僕は今まで完全に趣味の合う人と出会うことがなかった。故に友達なんていたことがない。強いて言えば、絵が僕の友達だ。

 

「次、巽くん」

「はい」

 

 それにガンプラもやっている。この高校にはガンプラをやっている人は何人いるのだろうか。ひとりでもいてくれたら嬉しいけど、恐らくハードルは高い。あれだけの工程を積むのだから、やろうとは思ったものの挫折したとか、そういう人が多いはずだ。

 

「次、響さん」

「はい」

 

 だから、今回の自己紹介はできるだけガンプラをやってる人とワンチャンいるであろう僕と同じタイプの絵を描いている人をどっちも捕まえられるものにしないといけない。今までずっとソロだったけど、流石にそろそろ友達が欲しい。

 

「次、三月さん」

「え、あっ、はい!」

 

 いつの間にか僕の番が回ってきていた。びっくりして少し上擦ってしまった、恥ずかしい。

 

「あぁ〜……えっと、三月トウカです」

 

 まずい、ここから先を全く考えていない。どうにかして、どうにかして孤立しないような自己紹介をしなければ!

 

「…………た、誕生日は三月じゃないです。ので、よ、よろしくお願いしまぁす……」

 

 終わった。

 

 過去一で滑り切った挨拶だ。なんか僕、最近どんどんコミュニケーション能力落ちてない? 気のせい?

 

「はい。じゃあ次……」

 

 完全に終わっている挨拶をかました羞恥心に苛まれたまま、その日は終了した。

 

 そして翌日。

 

 案の定普通に孤立してしまった僕は、担任から配られた入部届の紙を見ながら苦悩していた。

 

 こうなったらもう、部活動で仲間を集めるしかない。

 

 とは言っても、美術部に入る気にはなれない。僕は一応挫折した身だし、そもそもあそこはキャラクターイラストが描きたい子達が沢山いるから趣向が合わない。BLとかもよくわからないし。

 

 なので、傾倒するならガンプラだ。でもガンプラに関連するような模型部はこの学校にはない。作る必要があるのだが、人が集まるかどうかもわからない。

 

「そもそも模型部って名前自体が敷居上がっちゃってるしなぁ……」

 

 シャーペンで入部届に『ガンプラ部』と書いてみる。アホらし。

 

「ガンプラ部?」

「うひゃっ!」

 

 いきなり話しかけられて驚いた。見上げると、今日学級委員に指名された飯綱さんがそこに立っていた。

 

 ボブカットに切られたストレートの黒髪がとても綺麗だ。って、そういうことが気になるのなんか気持ち悪いな。

 

「……そんな部活、無かったと思うのですけど」

「あ、ああ! 例えばね、例えば! あったらいいなーって…………」

 

 飯綱さんがどことなく複雑な目で僕を見ている。そして、ひとつため息を吐いた。

 

「新たに部活動を設立するなら、職員室まで行ったらいいですよ」

「あ、ありがと……」

 

 それだけ言って彼女は去っていった。

 

 部活を作ると言っても、集まる自信がないから今悩んでいるんだけど。と言っても、彼女はそんなの知らんみたいな反応しかしないだろう。

 

 まぁ、一回試してみてもいいかもしれない。ガンプラ部。募集して、宣伝して、それでガンプラ部に入ってくれる人がいたら万々歳だ。集まらなくても別にいい。何人かでワイワイやるのも、ひとりで黙々とやるのもガンプラの楽しみ方のひとつだ。

 

 僕はそういう思いを込めて、職員室の扉を叩いた。

 

「ほいほーい。あら、どちらさま?」

 

 あ、この人確か昨日注意されてた髪を真っピンクに染めてる教師だ。

 

「一年B組の三月です」

「新入生? 早速うちに来るとは一体なんの用かね」

「えっと、新しい部活動を始めたくて」

「部活動ねぇ……。ちなみにどんなの?」

「ガンプラ部です。あっ」

 

 しまった、ガンプラって何かの商標なんじゃないのか。いや、Excelとかも特に使って大丈夫だし、もしかしたら大丈夫なのかな。

 

「ガンプラ部? ほへー、奇遇なことにあたしもやってんだよね、ガンプラ」

「えっ、そうなんですか?」

「うんうん。ガチってるって程じゃないけどね。あ、その部活、あたしが顧問やってもいいかな? 丁度フリーだし」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 早速仲間を発見した。先生だけど。

 

 入学式のときには見なかったから、この人は二年以降の担当なんだろうか。それとも非常勤講師とか。

 

「それでそれで、他の部員は?」

「僕だけです」

「はい?」

「僕だけです。他にはまだ誰もいません」

「あー……」

 

 にぎやかだった先生の顔が固まる。あまりの考えの無さに思考がショートしてしまった。

 

「……ま、まぁまだこれからだよね! あたしも部員集め手伝うから、頑張ろー!」

「お、おー!」

 

 何はともあれ、顧問ゲット!

 

────────────────────

 

 ということで、今僕は帰るついでに電機屋まで来ている。

 

 ロゼアを作るときにはお世話になった。色々なものが必要になる度ここに来ては買って、たまにネット通販で済ませてを繰り返していた。

 

 今では暇なら来てしまうぐらいには足に根付いてしまっている。

 

「別に買いたいものもないんだけどねー……」

 

 ロゼアを作る過程で何個かガンプラを作ったことがあるが、今はそこまで欲しいものは置いていない。どうやら再販がかかっていて見慣れない箱が何個か置かれているが、それらも今いちピンと来ず、立ち往生してしまっている。

 

 今日はもう帰ろうかと踵を返すと、横から突然記憶に新しい声が響いた。

 

「Ez-8! Ez-8が再販されている……!」

「……え?」

 

 記憶に対して声がかなり明るかったので思わず振り返ると、その先のガンプラコーナーに飛び付くようにガンプラの箱を持っていた飯綱さんがいた。

 

「まさかこんなところで会えるとは……! これはもう、買うしかないで──」

「飯綱さん?」

「うひゃあっ!?」

 

 本日二度目のコミュニケーションミス。驚かせてしまった。

 

「な、なな……!?」

「あ、ごめん。驚かせるつもりとかじゃなくて……」

「え、えっと、同じクラスの……サンガツさん?」

「ミツキです」

「ミツキさん」

 

 早速間違えられたので食い気味に訂正しておく。わかりづらいとはいえ、ちょっと傷つくので。

 

「さっきはありがと。おかげで部活成立はまだだけど、顧問はできたんだ。それで…………この状況について説明して欲しいんだけど……」

「…………」

 

 飯綱さんは黙ってしまって、持っていたEz-8の箱を棚にそっと戻してから立ち上がった。

 

「…………はい、私の趣味はガンプラ作りで、自己紹介のときは恥ずかして誤魔化しました。ごめんなさい」

「あれ、そうだったっけ?」

「聞いてない……?」

「ごめん、考え事してて……」

 

 もしそうだとしたら、飯綱さんも自分の仲間がいるかどうかわからなくて、怖くて誤魔化してしまったのかもしれない。つまり、僕達は同じ趣味、同じ趣向思考の仲間ということだ。

 

「あ、あと別に謝らなくてもいいよ。人の趣味を笑うなんてことしないし。そもそも僕も、何の気なしにガンプラ見に来たクチだからね……」

「あー、何となく見に来たはいいけど金銭的に買うのもはばかられるしパッケージ見るだけで満足しちゃって帰るの、ありますよね」

「そう! そうなの!」

 

 ガンプラのパッケージイラストはとても美麗で、機体ごとの特徴をよく押さえて仕上げていると思う。あれらを描いたイラストレーターの人達は探しまくってはフォロー、随時チェックしている。おかげで毎日あの美しい絵を堪能できる。

 

「でも今回のEz-8は買うべきです! 元々マイナーな作品のマイナーなガンダムなので、再販されることはあまりないんです。横浜ベースにまで行けばなんでもあるんですが流石に遠くて……」

「うんうん、僕もEz-8のガンプラいつか買いたいとは思ってた!」

 

 ……あれ?

 

 飯綱さん、ザ・学級委員長みたいな雰囲気なのに結構物腰柔らかで接しやすい。それに趣味が同じだから気が合う。

 

 これは、ガンプラ部に勧誘するチャンスなのでは!?

 

「あ、あの、飯綱さん」

「はい、なんですか?」

「僕の作る部……ガンプラ部に、来てくれませんか? こんなに話し合える人全然いない、し」

「っ…………」

 

 あ、話の腰を折ってしまったかもしれない。飯綱さんの笑顔がどこか曇ったような表情になってしまった。

 

 もしかして、そういう集まりは苦手なんだろうか。

 

「……ごめんなさい、私、委員会があるので部活は……」

「そ、そうだよね。ごめん」

 

 あぁ、そういえばこの人は学級委員だった。だったらできなくてもしょうがないか。せっかく見つけられたと思ったんだけどな。

 

「…………」

「……え、えっと! 両立できないって、わけじゃ、ないんですけど……ひとつだけ聞きたいことがあって」

「え?」

 

 飯綱さんが顔を上げてそう言う。

 

「その部活は、その、”GBN”…………ガンプラバトルは、するんですか」

「GBN?」

「はい。それだけ、聞きたくて」

「そうだな……」

 

 GBN、ガンプラバトルか。確かにやってみたい気持ちもある。ただ、一番は人が人なりにガンプラを楽しむことだ。ただ、僕がやりたいかそうでないかで言えば、やりたい方になる。

 

「僕自身興味あるから…………やる? の、かな」

「…………そうですか、わかりました」

 

 飯綱さんは、少し間を置いてから話し始めた。

 

「来て欲しいところがあります。横浜ベースまで、ガンプラを持って来てください」

「え? わ、わかった」

「はい、それでは」

 

 若干低い声色で話してから、飯綱さんはその場を後にした。

 

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