ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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定義④:ガンプラバトル

 言われた通り、ガンプラを持って横浜ベースにまでやって来た。一応ロゼアを持ってきたけど、大丈夫だっただろうか。

 

 入口の前には僕と同様制服のままの飯綱さんが立っている。

 

「……来ましたか」

「う、うん。一応持ってきたよ。ガンプラ」

「はい。では入りましょうか」

「うん」

 

 何をするんだろうか。ガンプラバトルをするかどうか聞いてきたから、ガンプラバトルをするんだろうけど。

 

 飯綱さんは店内に入るとすぐにレジの方まで行って、店長と思しき小太りのおじさんに話しかけていった。

 

「すみません、GPDの筐体ってまだありますか」

「GPD? 今時珍しいねぇ。倉庫の方に眠ってると思うけど」

「一回だけ使うことってできます?」

「さぁ……、僕もあんまり詳しくないんだよね。まぁ出すだけ出してみるよ」

「ありがとうございます」

 

 と、いうことで、これからGPDというものをやるらしい。GBNの前身で、GBNのように仮想世界にガンプラを読み込むのではなくガンプラそのものを動かすということは知っている。

 

 けれど、一体どうしてGPDをやるんだろうか。

 

「三月さん」

「な、なに?」

「さっきのガンプラ部の件、受けてもいいです」

「ほんと? やった!」

「はい。けれど条件がひとつ、私を倒してください。この、GPデュエルで」

 

 GPD…………。倉庫から引っ張り出されたGPデュエルの筐体は、僕の視点から見てもとても大きい。

 

「僕からもひとつ聞きたいんだけど、どうしてこれ? GBNじゃダメなの?」

「…………はい。GBNはやっていないので」

 

 なんとも奇怪な話だ。GBNをやっていないのに、ガンプラバトルで倒せたらガンプラ部に入ると言う。

 

 ワンテンポ置いて答えた飯綱さんに、僕は懐疑的な気持ちになった。

 

「どちらもゲストプレイヤーとして戦います。その円盤状のエリアにガンプラを置いてください」

「わかった」

 

 飯綱さんに言われた通りに、ガンプラを置くエリアにロゼアを置く。するとガンプラを認識したシステムが立ち上がって、様々な設定画面が表れる。

 

「機体と武器の登録、操作マニュアルはよく読み込んでおいてください」

「……飯綱さんは?」

「わかってます」

 

 飯綱さんもスクールバッグから赤と白のガンプラを取り出し、エリアの上に置いた。システムが飯綱さんのガンプラを認識する。

 

「三月さん」

「今度はなに?」

「よろしくお願いします」

「え……? あ、うん。よろしく」

 

 突然の挨拶に少し戸惑った。

 

 設定を終えてからコントローラーを握る。シンプルなグリップ型だけど、ボタンは色々あって複雑だ。不安でちゃんと読んでおいたはずの操作マニュアルの内容にもやがかかる。

 

「では、始めましょう」

「うん。いつでも」

 

 嘘だ。一生引き伸ばしていたいぐらいには緊張している。

 

 しかし、無慈悲にもシステムは戦闘モードへの移行を始め、ロゼアの周りに大量の粒子が付着していった。

 

「飯綱ヒカリ、ガンダムクロスレイ(レッド)フレーム、行きます」

「え、えっと……。三月トウカ、ゼフィランサス・ロゼア、行きます」

 

 飯綱さんのをそのまま真似して、掛け声に応えるようにお互いの機体が稼働を始める。

 

 カタパルトによる急加速で発進するように、ロゼアが荒野のフィールドへと飛び上がった。

 

「す、すご、本当にガンプラが動いてる……」

 

 GPDは既にもう旧式らしいが、この感動は今でも色褪せることは無いだろう。それくらいには、僕は今感動を覚えている。

 

 それはまるで、自分の子供がハイハイを覚えたみたいな、そんな感覚だ。

 

 いつまでも空中にいれる訳じゃないから、コントローラーで操作して地上に降り立つ。これがかの有名な、『ガンダム、大地に立つ!』というやつなのだろうか。

 

「……じゃなくて。飯綱さんのガンプラ探さないと……って」

 

 見当たらない。地上と空、両方探しても飯綱さんが持っていた赤いガンプラが見えない。砂煙に紛れているのだろうか。

 

「……どこに」

「ここですよ」

「えっ!?」

 

 突然目の前に赤いガンプラが現れ、持っていた日本刀を振りかざしてきた。僕はロゼアの盾を咄嗟に構え、受け止める。

 

「と、透明になってた!?」

 

 ガンプラが透明になるなんてありなの!?

 

 幸いあっちにパワーは無いから押し負けることはないけど、また透明になられたらなす術がない。

 

「一体どんな仕組みで……!」

「わからないようなら、逆立ちしても勝てませんよ」

 

 飯綱さんのガンプラ…………クロスレイって呼んでたっけ。それが飛び上がって、目で追いかけるとまた視界から消えた。

 

 軌道上から考えて回り込むつもりだろうから、えーっと、ど、どうする!? あーもう! こんなことなら、パパのゲームやっておけば良かった!

 

「そ、そこか!」

 

 ビームライフルで適当に撃ってみる。案の定ビームはどこにも当たらず、遥か空の果てに消えていった。

 

「どこ狙ってん、ですか!」

「なっ、今度はそこ!?」

 

 今度はロゼアの左斜め後ろにクロスレイが出現し、鉄砲を持ってこちらに向けて撃ち出す。シールドがある方向だからそのまま守ろうとするが、拡散したビームがシールドを抜けて本体に降り掛かってきた。

 

「拡散した!?」

「知らなすぎです!」

 

 もうなんでもありじゃん!!

 

 渾身の心の叫びをかました後、僕は背中から伸びてるビームガンとビームライフルを乱射する。クロスレイはその弾幕をすり抜け、あっという間に刀の間合いにまで接近してきた。

 

 盾を構え攻撃に備えるが、クロスレイは接近した勢いそのままに一回転し、その遠心力を利用してシールドを斬り裂く。

 

「ぐっ……!」

 

 二太刀目が来る前に背中のスラスターを吹かして距離を取る。攻撃が空振ったクロスレイに照準を合わせ、ライフルで撃ち抜く。

 

「ッ!!」

 

 飯綱さんはクロスレイを透明にして逃げようとするが間に合わず、右肩を突き出して攻撃を受けた。やった、と思って着地すると、クロスレイの肩の黒い装甲だけが崩れ落ち、透明になりかけていたクロスレイの右腕の輪郭だけが明確になっていった。

 

「はっ、あの黒い装甲!」

 

 あの黒い装甲が光学迷彩を引き起こしていたんだ! そうとわかれば……!

 

 僕は真っ二つになった盾を捨てて、空いた左手でビームガンを引き抜き、ビームの刃を発生させてビームサーベルにする。

 

「わかったところで!」

 

 クロスレイから黒い装甲が全て剥がれ、二本の刀を引き抜いて突進してくる。

 

「ッ……!?」

 

 速い。

 

 僕はクロスレイの動きを捉えることが出来ず、すれ違いざまにライフルを切断されていた。爆発する前に手放して離脱。

 

 まずい、さっきは透明になって見えなかったけど今回は速すぎて見えない!

 

「っ、弱気になるな!!」

 

 己を鼓舞し、ビームサーベルをもう一本引き抜く。

 

 再び接近してくるクロスレイの刀を受け、はじき返す。反撃のためにサーベルを振るうが、これも同じように弾かれた。だが軽装の相手がその勢いに押され、後退した。

 

「…………、」

「さっきみたいにやられっぱなしじゃないよ、飯綱さん!」

「そうですか、なら……!」

 

 クロスレイが刀を大きく振りかぶり、そして…………。

 

「はっ……?」

 

 刀を、投げ捨てた。

 

 飯綱さんは生まれた隙を逃さず、すぐに腰にマウントしていた鉄砲を引き抜いてロゼアへと向けた。

 

 そうか、これは視線誘導! 大事な得物を捨てるという行為に気を取らせて、確実な隙を作る戦略!

 

 それに気付いた僕はすぐに視線をクロスレイに移して、散弾の攻撃を横に飛んで回避する。

 

「その手には──」

「私の勝ちです」

「え?」

 

 飯綱さんがそう言い放った瞬間、ロゼアの胸に刀が突き刺さった。

 

 胸部にはコクピットという人が乗る場所があり、つまるところ急所になる。

 

『Battle Ended』

『Winner:Guest player 2』

 

「負け、た…………?」

 

 視線誘導で隙を作るように見せかけて、回避を誘発して投げ捨てた刀を当てる策略。

 

 僕は、飯綱さんに、敗北した。

 

────────────────────

 

「正直賭けでしたが、当たってくれてよかったです」

「…………」

 

 気まずい空気での帰路。途中まで一緒らしいので同行することになった。

 

 突然口を開いた飯綱さんに対して、僕は言い返す言葉もない。あれは客観的に見れば、どう考えても僕が当たりに行った完全な自爆だ。

 

 悔しい。

 

 自分のガンプラが動いた感動より、ガンプラバトルができた経験より、飯綱さんに負けたことがすごく悔しい。

 

 ロゼア自体の損傷はそこまで酷くはない。ライフルと盾が真っ二つになって、胸に穴が空いただけだ。それは彼女なりの配慮なのかもしれないが、配慮されるだけの余裕があったことが余計に悔しさを倍増させる。

 

「三月さんも、筋は良かったです。もっと鍛えれば強豪に名を馳せることができるかも」

「あ、ありがとう」

 

 今更褒められても……。

 

「それに、機体の出来では完全にあなたの方が上でした。一瞬でも、勝てないかもと思ってしまいました。なので、そういう意味ではあなたは私に勝っています」

「そ、そう。それじゃあ……」

「でも、この勝負において必要なのはガンプラバトルでの勝利。勝ちは勝ちです」

 

 飯綱さん、結構いい性格をしている。

 

「……三月さん」

「なに?」

「ありがとうございました。私とガンプラバトルをしてくれて」

 

 いきなり褒めてきたかと思えば、今度はお礼をされた。何か複雑な事情を抱えているんだと思うけど、完膚なきまでに叩きのめされた後だから素直に受け取れない。

 

「あんなに熱くなるのは、久しぶりでした」

「そ、そうなんだ。…………飯綱さんって、ガンプラバトルがしたかったから今回の条件を持ちかけたの?」

 

 その言葉を最後に沈黙が訪れる。聞いちゃいけないことだったのかもしれない。

 

 一分くらい経って、ようやく飯綱さんが僕の方に振り向く。

 

「…………やりません。もう、ガンプラバトルは」

「え? じゃあ、なんで……」

「何でもです」

 

 飯綱さんが走り出す。僕の言葉を遮るように。

 

 それが、どうしても納得いかなくて、僕は一息吐いて叫ぶ。

 

「……絶対! リベンジするから!!」

「っ……」

「今日、負けてすっごく悔しかった! でも楽しかった! あんな曲芸みたいな美しい戦い、僕にはできない!! だから! あれよりも、”ヒカリ”よりも強くなって、絶対勝ってみせるから!! そのときは来てよ! ガンプラ部に!」

 

 つい、名前で呼んでしまった。けれど、もう吐いた唾は飲み込めない。

 

「…………一回バトルしただけで、馴れ馴れしいです」

「わかってる、でも……」

「……入部届の提出は、来週末までです。新しい部活メンバーもそれまでに集めなければなりません。それまでならリベンジ、受けてあげてもいいですよ」

「…………本当?」

「責任は取ります。あなたは、あんなにすごいガンプラを作れるんですから」

 

 彼女の右目を隠す髪が揺れる。去っていく彼女の背中を見ながら、僕を決意を固めた。

 

 来週末までに強くなって、ヒカリにリベンジする。

 

 僕の新たな目標は、ヒカリを手に入れることだ。

 




飯綱ヒカリ
トウカのクラスメイトで学級委員。隠れガンダムオタク。
黒いストレートのボブカットで、右目が隠れるほどに前髪が長い。左目の方ははっきり見える程度に避けている。
ガンプラバトルに対して並々ならぬ複雑な思いを抱えているらしい。

RX-78GP01Rゼフィランサス・ロゼア
トウカの作ったガンプラ。
ゼフィランサスをベースに、各所に装甲とバーニアをバランス良く追加して機動力と防御力を確保。ビームサーベルはZガンダムのようにビームガンとしても使用でき、リアアーマーはライフルとバズーカ両方をマウント可能。
バックパックに大型のフレキシブルスラスターバインダーを増設し、AMBACによる姿勢制御や推力の強化に役立つ。
武装はビームライフル、ハイパーバズーカ、ビームガン兼ビームサーベル、伸縮可能なシールド。頭部バルカン砲は被弾時のデメリットを考慮してオミットされた。
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