「………………」
考えている。
どうやってヒカリにリベンジするかを、必死に考えている。
「はぁー……無理だよ、あんなのどうやって攻略しろっていうんだよ……」
透明になるし、そもそも速いし、何より武装構成がショットガンと日本刀だけと特化しすぎている。完全にインファイト仕掛けるための機体相手にオーソドックスな汎用仕様のロゼアでは対処に困る。
「はぁー……、どうしよう。このままじゃ勝てない……」
本日二度目のため息が出た。
「三月ちゃーん」
「わっ! み、水無月先生?」
外のベンチで項垂れていると、いきなり水無月先生が横から話しかけてきた。
「どしたー? 今日天気いいのに、随分ご機嫌斜めだね」
「……実は、かくかくしかじかで……」
手短に昨日ヒカリとあったことを話す。
ちなみにあの後、僕は微妙なテンションでロゼアを修復した。速乾タイプの接着剤とパテは偉大なもので、一日で塗装まで行くことができた。
「ほほう。にしても器用だねその飯綱ちゃんって子。刀を投げてグサァってぶっ刺すとか狙ってできるようなものじゃないでしょ」
「はい、それを目の前でやられたんです」
「……ぶっちゃけしゃーなしじゃない?」
「そう言われればそうなのかもですけど、僕はまだ納得いってません。ヒカリはガンプラバトルを条件に持ち出したのに、もうしないって言ったんですよ?」
「あー、確かにふざけんなって言いたくなるけどね……」
水無月先生がいつものおちゃらけた雰囲気から一転して、真面目に思考する表情をした。凛々しい目が女子に受けそうだと思ったが、それは伏せておく。
「……でも、リベンジマッチには応じてくれたわけでしょ? だったらその子のガンプラバトル熱を再燃させられるぐらいまで、君が強くなればいい!」
「僕が、強くなる…………」
確かに、ヒカリは僕のロゼアのことは認めてたし、僕のバトルの腕も『場数を踏めば強豪に名を連ねられる』と言っていた。つまり、僕がその強豪レベルまで強くなれば、ヒカリを振り向かせることができるということかもしれない。
「よっし! そうと決まればこの天才美少女ティーチャー水無月カグラちゃん先生がとっておきの師匠を紹介してあげよう!」
「本当ですか!?」
「マジだとも! ちょっとクセしかないし気難しいけど師匠キャラにはありがちだから我慢してねーっと……」
先生がスマホを取り出し、素早くフリックして誰かに電話をかけた。
「あーもしもし? あたしあたし。……詐欺じゃねーよ。何年あたしの声聞いてんだよお前。あのさぁうちの生徒まぁ厳密には違うんだけど、その子がガンプラバトルめっちゃ強くなりたいらしいのよねー指南してくんない? え? やだ? お前ごときに拒否権なんざあるわけねーだろさっさと横浜ベース来いやボケ。…………よし、都合はついた」
「相手めっちゃ嫌がってませんでした……?」
水無月先生、身内には意外と毒が強いらしい。まぁ大体予想はしていたけど。
「三月ちゃんら一年生ってもう用事ないんだっけ?」
「あ、はい。三限まででガイダンスだけでした」
ちなみに一昨日の入学式は式とクラス分けと自己紹介だけ。昨日は学校からの連絡事項やその他部活等の説明などだった。
「うんうん、じゃあ昨日の今日で悪いけど、横浜ベースまでお願い。近くのGBNってあそこしかないから致し方無し」
「はい、わかりまし…………って」
え?
今、GBNって言った?
────────────────────
いやいや。
いやいやまさか。
「GBN、かぁー…………」
別に嫌なわけじゃないけど、少し抵抗はある。そもそもゲームすらまともにやったことがないのに、フルダイブ型のVRなんてイロモノに挑戦したくはない。
なんて思いつつ、脚はしっかりと横浜ベースの前まで運ばれていた。昨日ぶりなので記憶に新しく、ナビを使わなくても簡単に辿り着けた。
「それで、約束の人はどこに……」
一応水無月先生が僕の写真を送ってくれてるらしいけど、当の僕はその人の顔も特徴も全く知らないから探しようがない。強いてわかるのは、水無月先生とはお互いに砕けた口調で話し合う仲だということだけだ。
「あ、見つけた」
声のした方に振り向くと、銀色の綺麗な髪がたなびく女性が僕を見ていた。
「えーと、あなたが三月トウカさん?」
「あー、はい。そうですけど……」
「よかったぁ……。あぁごめん、私はみなづ……小泉イチカ。カグラさんから話は聞いてます」
この人が水無月先生が言ってたバトルの師匠? なんか電話の雰囲気と比べて随分と明るいし、物腰柔らかなような…………。
「えっと、水無月先生が紹介してくれる師匠ってあなたで合ってますか? なんか、聞いてたのと雰囲気全然違ってて……」
「あぁ、それは私じゃなくて、私のお兄ちゃんですね。お兄ちゃんコミュ障だから私が代わりに案内することになったんですよ」
「ははぁ……」
こんな美人さんの兄とは、一体どれだけルックスのいい人なんだろうか。いや、ネットゲームだからそういうのあんまり関係ないかな。
小泉さんに連れられて横浜ベースまで向かう。小泉さんがダイバーギアを取り出すと、僕の方を見てきた。
「……あれ、ダイバーギアは?」
「実は僕、初めてでして……」
「あぁ、確か最初はGPDでやったんでしたっけ」
「はい」
「じゃあ、ダイバーギアの購入かレンタルが必要ですね。後のことを考えるなら購入がいいかもです」
「わかりました」
小泉に言われた通りにダイバーギアを購入。…………結構したな、画材ほどじゃないにしても、高校生的にはそこそこ痛い出費だ。
「買ってきました」
「はい。アカウント登録はダイバールックの設定の時に済ませられるので、ぱぱっとやっちゃいましょう」
「はい!」
とても穏やかで接しやすい小泉さんの指示に従って、どんどんGBNを始める準備を進めていく。
ダイバーギアをセットして、その上にロゼアを置いて、ゴーグルをつけてからコントローラーを握る。
GBNにアクセスして、意識が吸い込まれる感覚を覚える。違和感に少し気分が悪くなるが、身体が段々と順応していき、気付けばアカウント登録とダイバールックの設定画面にまで来ていた。
アカウント登録を済ませた後はお待ちかね、ダイバールックを決めるターン。といっても僕は、自分で言うのもなんだが結構素材はいい方だから、あくまでも髪色を藍色に変更して、現実じゃ全然着ないような服装をさせるだけにしておいた。人によっては、それこそ人間じゃなくなるくらいにまでカスタムしているんだろう。
「…………ふぅ、着いた」
目を開けると、青と白を基調にした近未来的な空間が広がっていた。多くの人達の姿形はバラバラで、完全な人間の見た目をしたダイバーもいれば、ゆるキャラみたいなのもいる。あそこまでの短足は歩きづらいんじゃないだろうか。
「あ、きたきた。おーい!」
たくさんの人の中から一人が手を振っている。その姿に強い面影を感じた僕は迷わず手を振っている方へと駆け寄った。
「一応ダイバーネームを聞いてもいいですか?」
「ダイバーネームは『ツバキ』にしました。僕の名前、”冬”の”華”って書くので」
「そうなんですね。私はサモネです。GBNに限らず、ネットゲームではできるだけ本名では呼ばないように」
「最低限のマナー、ってやつですね」
「そうです。…………カグラさんっぽくなっちゃったな」
頬をかいて照れ臭そうに言うサモネさんは、どこか艶がある気がした。
………………もしかして、二人ってそういう関係だったりするのか?
「……あ、お兄ちゃんはそのうち来ると思うので、このまま待ちましょう」
「はい」
「それで、どうですか? 初めてGBNに来た感想は?」
「そうですね、現実と変わらないというか……、ゲームってここまで進化してたんだっていう感動が大きいです。行き交う人も、彼らの情熱も、とてもリアルに感じる」
ゲームクリエイターの父を持っているにも関わらず、知らなかった。
GBNは、僕が想像していたものよりもずっと、すごい。
「好印象なら嬉しいです。カグラさん達、みんなが守ってくれた世界なので」
「それって、第四次有志連合戦とかっていう……」
「カグラさんもお兄ちゃんも大活躍だったんですよ。……あ、噂をすれば」
サモネさんがゲートの方に視線を向けたので、僕も会話を切ってそっちの方向を向く。ゲートから現れたのは、サモネさん同様に白い髪を一本にまとめた、長身の男性。
「お兄ちゃーん! こっち!」
「…………わ」
こっちに気付いたサモネのお兄さんが、何故かこっちを睨み付けてくる。その眼光があまりにも鋭くて動けないでいると、いつの間にか目の前にまで来ていた。
遠目ではわからなかったが、予想通り数多の女性を引き込むような美男子といった見た目だ。いや、これはダイバールックだから実際はわからないんだけれど。
「……お前がカグラが言ってたやつか」
「は、はいっ」
「そうか、ついてこい。前置きで時間取らせるな」
「す、すみません……」
声が限りないほどに低い。明らかにイラついているテンションで、身長以上に大きく見えて腰が低くなってしまう。
「大丈夫です、お兄ちゃんいつもあんななので」
「いつも……?」
毎日あの顔と対面するなんて中々に気力の要る生活をしている。流石に毎日一緒だったら慣れるのかな。
不機嫌な彼の後ろをついて行く。あ、そういえば名前を聞いていないし名乗ってもいない。
「俺はアノマロカリス。お前のダイバーネームは?」
「えっあっ、ツバキです」
「そうか。カグラから詳細は聞いてる。三日だ。今日含めたこの三日間でお前を強くする。駄目だったら知らん」
「わ、わかりました」
今日は金曜日、明日明後日は土日だから、つまるところ休日は特訓漬けになる。描きたい絵もないしそれはいいんだけど、三日連続でボコされるとかだったらちょっと心にくる。
なんというか、サモネさんと比べて正反対な人だ。愛想悪く、ぶっきらぼうで、丁寧な解説などは一切なく手短に済まそうとする。この二人、一体どういう人生を歩んでいけばここまで表裏の関係につけるのだろうか。
「お、大きい……!」
アノマロカリスさんが向かっていた場所は、僕がスキャンしたガンプラを保管するドックスペースだったようだ。僕の作ったロゼアが、現実とは比べ物にならないくらいに巨大化している。
「チュートリアルはいいか」
「えっと、どうしましょう……」
「GBNもGPDも操作感は基本的には一緒らしいです。実機を使うかどうかっていう差はあるみたいですけど」
「じゃあ、パスで」
「なら助かる。オレは先に行ってるから、このポイントまで機体で来い。サモネは道案内」
「わかった。……じゃあ、乗る手順から教えましょうか」
「は、はい」
────────────────────
ロゼアに乗って、アノマロカリスさんが言っていたポイントまで辿り着く。見渡すばかりの荒野で、どれだけ暴れ回っても迷惑はかからなさそうだ。
「き、来ましたぁ……」
「ああ。じゃあさっさと始めるぞ」
サモネさんから教えてもらった機体、スカルライダー。全身灰色で、名は体をあらわすといった風体だ。
道案内として同行してもらっていたサモネさんはロゼアから降りて、安全圏で観戦している。
「ルールは一つ。何をしてもいい、俺の技術を盗んで勝ってみせろ」
「は、はい!」
「説明は以上。始め」
「え?」
次の瞬間、スカルライダーがもう目の前にまで迫ってきていた。
『Battle ended』
『Winner:Anomalocaris』
アノマロカリス
GBNでは名の売れたSSSランクダイバー。
”ガンプラバトルというゲーム”を楽しみ、ガンプラバトルそのものを楽しんでいる者とは別枠の、圧倒的な強さを誇る。
RX-80SR スカルライダー
アノマロカリスの駆る機体。
五本のアンテナとグレーを基調としたカラーリングが特徴のペイルライダーシリーズで、リミッターを設けていないHADESによる、危険性度外視のドッグファイトを得意とする。
武装はビームザンバー兼ビームハンドガン、腕部ビームガン兼ビームトンファー、バスターソード、大型複合兵装シェキナー。