ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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定義⑥:特訓

『Battle ended』

『Winner:Anomalocris』

 

 か、勝てない…………!

 

 初戦でいきなり負けてから大体二十戦ほどやったが、そのどれもで完璧に倒されてしまっている。

 

「そんな……」

「お兄ちゃん、流石に手加減しなよ」

「なんでそんな面倒なことやる必要がある。俺レベルまで強くなりゃいいだけだろ」

「後々後悔するよ?」

「上等」

 

 そしてこの人についてわかったことがある。この人は、生粋のジャンキーだ。僕だってこの特訓の中で得たものがないわけじゃない。そうやって僕がどんどん動きに対応していく度、彼は嬉しそうに攻撃を激しくしていった。恐らく逆行でワクワクしちゃうタイプなのだろう。

 

 僕からしたらせっかく突破できたのに後出しジャンケンの如く新しい手を出されて参ってしまうのだけど。

 

「ツバキ。ひとつアドバイスをやるよ」

「は、はぁ……」

「この戦い、っつーかほぼ全戦においてお前は受け重視の姿勢に入ってる。攻撃を受ける前提の動きだ」

「だ、だってそれは、少しでも生存率を上げようと──」

「は?」

 

 ひぃっ!!

 

「なるほど、お前がいつまで経っても俺に勝てねぇ理由がわかったなぁ」

「どういうこと、ですか……?」

「お前がそうやってガタガタ震えてシニタクナーイとか言ってるから相手側からすりゃザルなんだわ。あー、ガンダム的に言うんならどうだったか…………」

「”身構えているときに死神は来ない”……ってこと、かな」

「死神は来ない…………」

 

 死神とは、何かの比喩だろうか。身構えず迂闊に近付けば死神に駆られる。対して、臆病にならず突き進めば自らが敵にとっての死神になれる。どちらの意味にも取れる巧妙な言葉だ。

 

「ま、そういうこった。考えろツバキ、相手は『何故』攻撃してくるのか。『何故』自分は武器を持っているのか。お前自身がビクついてるようじゃ一生勝てねぇ、『負けない戦』じゃなくて『勝つ戦』を仕掛けろ。わかったな」

「は、はいっ!」

 

 しかし今日はもう遅いということで、僕は早々に帰ることになった。

 

 ロゼアも疲れただろうし、僕自身も疲れた。でも確実に得たものはあった気がする。

 

「僕から仕掛ける、僕自身が……死神になる」

 

 ヒカリの凝り固まった考え方ごと、その頭を切り落とす。

 

「ヒカリ、首洗って待ってなよ」

 

 この言葉の意味が、改めて理解できた気がした。

 

────────────────────

 

 翌日。

 

「バズーカ?」

「今日、横浜ベースで組み立てました」

「そうかよ。まぁやってみろ、武器を増やしたところで勝てなきゃ意味ねぇがな」

 

 簡単に作ったものだけど、威力、破砕性共に高いバズーカがあれば攻撃に転じることができるはず。ただ機動力の高い相手には若干相性が悪いと思うから、そこは技量の見せどころだ。

 

 バトル開始。

 

 僕は接近するスカルライダーから見て右に避け、着地点を予測してバズーカを放つ。スカルライダーは構えたシールドで砲弾を受け止めるが、そのシールドはバズーカの威力によって破壊。好機と見た僕がビームサーベルを抜いて突撃すると、相手は残ったシールドの残骸を蹴って僕にぶつけてきた。

 

「うああっ!?」

 

 咄嗟に目を瞑り、視界が塞がってしまったところでシェキナーによる攻撃が入り撃破。負けてはしまったが、シールドを破壊できたのは大きな進歩だ。

 

「ニパーセント程度はマシになった。次」

「はい!」

 

 二戦目、バズーカで相手の動きを阻害しようとしたら、シェキナーを投げ付けられた挙句誘爆されて敗北。

 

 三戦目、早々にビームサーベルによる接近戦をしかけたが、正面から競り負けて敗北。

 

 四戦目、バズーカは撃ち捨ててビームライフルとビームサーベルを絡めたヒットアンドアウェイで立ち向かったが、不意打ちのビームトンファーにやられ敗北。

 

 その後十戦以上やったが、勝つことはできなかった。それでも段々とついていけるようになっている。経験値は確実に、積めている。

 

「ツバキさんすごいじゃないですか! あのお兄ちゃん相手にあそこまでできるなんて!」

「でも、まだ決め手が出せてません」

「まだランカーにゃ心許ねぇな。サーベル、バズーカ、ライフル、自分の持った武器を使った工夫をもっと凝らしてみろ。アレを作ったんだ、得意だろ?」

 

 二十二戦目。

 

 互いに睨み合いながら旋回し、様子を伺う。スカルライダーがシェキナーを持って強力なビームを放とうとしてきたので、僕はシールドを構えて迎え撃とうした。けど……。

 

「っ…………?」

 

 ビームの発射直前にシールドを反らして、受け流す体勢を作った。そして機体が下に傾くのを利用して、シールドの下からビームライフルを撃つ。スカルライダーは、飛び上がってそのビームを回避した。

 

「下だと……」

 

 ビームガンを乱射しながら接近する。空中のスカルライダーはシェキナーを投げ捨て、シールドで攻撃を防ぎながら反撃のタイミングを読もうとしている。

 

 そんな隙は与えない……!

 

 大きく飛び上がって、一気に距離を詰める。そして……!

 

「……まさか」

「やああああぁぁぁッ!!」

 

 シールドの先端で、スカルライダーを殴りつける!

 

「グゥゥッ……!」

「なっ、殴った!?」

 

 間髪入れずに次の攻撃へ! 右手のビームライフルをスカルライダーの腹部に押し付け、引き金に指をかける。この距離なら絶対に当たる……!

 

「ッ、ハァッ!!」

「視界が……!」

 

 スカルライダーは、フリーの手に持っていたビームザンバーで頭部を串刺しに。巻き込まれたビームサーベルが誘爆し、頭部が完全に破壊される。

 

 それでもこの重さは、確実にまだ取り付いていられている証拠! 迷わず引き金を引こうとする…………が、その瞬間、大きな衝撃が身体を揺らした。

 

 状況から考えて、視界を奪った際にできた一瞬の隙を突かれて蹴られた。さっきまで感じていた重みが消えていく。それでもがむしゃらにスラスターを吹かすが、その直後に機体がロスト。

 

「えっ……!?」

「…………サブジェネレーターを投げて、」

 

 スラスターの熱で誘爆させた……!?

 

「ど、どうやって勝てばいいのぉ…………」

 

 完全に詰んでる状況で、僕はらしくもない弱音を吐いた。

 

────────────────────

 

「今のは随分いい動きだったな。流石に焦った」

「はい……」

 

 結局、今日も一勝することもできなかった。今、僕は完全に意気消沈してテンションが爆下がり中になっている。

 

「こ、今回はダメージらしいダメージ与えられましたよっ、ここからさらにステップアップです!」

「僕、もう自信ないです…………」

「大丈夫ですって! 普通の人はあの状況下であんなことできません! お兄ちゃんが異常者なだけです!」

「ぶっ飛ばすぞテメェ」

 

 サモネさんが必死に励ましてくれている。サモネさんはお兄さんと違って優しいから、この人の撫でてくれる手が心地よく感じる。だからこそ、アノマロカリスさんの言葉がチクチクと刺さる。

 

「さて、大体一段落ついたか。これでBラン相当ってところだな」

「これだけやってBなんですか!?」

「”たった”これだけでBだ。正直驚いてんだからな、このレベルになるのは明日ぐらいを想定してたんだが」

「お兄ちゃん、三日でFからBまで上げるつもりだったんだ……」

 

 GBNにはランク制度があるらしい。ミッションをやっていない僕のランクは現在最低ランクのFらしいが、アノマロカリスさん曰く今の段階でBランク相当の強さになっているらしい。

 

「ってことは僕、一日で四ランク上に上がったってことですか!?」

「まぁそうなりますね。実際のランクはほとんど変動してませんが……負けてるし」

「うっ……」

「PK戦はぶっちゃけコスパ悪い。わかりやすく強さをランクで表したいなら手軽なミッションでも受けるんだな」

 

 もう少し穏やかな言い方はできないのだろうか。ここまでひねくれているといっそ接しやすいと感じてしまう。

 

「じゃ、帰る」

「え、もう? もう少しいたら?」

「用事があんだよ。そもそも本来この時間も仕事してんだからな」

「そ、そうなんですね……」

 

 アノマロカリスさんはウィンドウを操作して、砂のように消えていった。

 

「……こういうの失礼かもですけど、アノマロカリスさんって普段どんな仕事してるんですか?」

「お兄ちゃんは探偵業やってます。私は探偵学校で勉強中で、そのうちお兄ちゃんの事務所にお世話になる予定です」

「へぇ、探偵って珍しいですね」

「確かにそうですね。アニメみたいに殺人事件に颯爽と駆け付けるみたいなロマンスはないんですが……。人の助けになる仕事がしたいって思ってるんだと思います、お兄ちゃんは」

 

 人の助けになる……この特訓に付き合ってくれているのも、その一環なのだろうか。見た目や雰囲気に反してお人好しな人だ。

 

「お兄ちゃんは人生嫌なこと連続で、完全に消沈してました。自分の人生に価値は無いとか言っちゃって。でも、それで自分ができることを求めて、探偵という道を見つけた。私はそんなお兄ちゃんが立派だと思って後追いで探偵になろうって決めました。少なからず、カグラさんに憧れてたっていうのはありましたけど」

「……あの、み……カグラ先生とサモネさんって…………どういう仲なんですか?」

「…………」

 

 まずいことを聞いてしまったかもしれない。

 

 サモネさんはしばらく黙り込んで、やがて顔を覆ったまま僕に一枚の写真を見せてきた。

 

「こ、これって」

「こういう仲、です……」

 

 写真には、サモネさんと水無月先生によく似ている女性が抱き合って、女性の方がサモネさんの頬にキスをしている写真。昨日、もしかしたらお付き合いしているのかもしれないと思ったけど、まさか本当だったとは。

 

「カグラさんは、私にとって理想の女性像でした。優しくて、たくましくて、それでいて人間臭い部分も持っている。完璧じゃないけどそれ以上に素晴らしい人間。私は、そんなカグラさんのことが好きだし、憧れてるんです」

「な、なるほど……」

 

 いきなり惚気話が始まってしまった。

 

「カグラさんみたいに人を笑顔にできるようになりたい、そうかねてから思ってました。けどそんな漠然としたものじゃ全然進路とか定まらなくて、私は高校経由しないで大学行ったので、友達とも話合わないし、苦労しました。それで結果として、探偵として頑張ってるお兄ちゃんの背中を追いかけることにしたんです」

「なんか、サモネさんって人間を理解するのが上手い気がします」

「そ、そうですか?」

「僕はそこまで人に感情移入できないというか…………あんまり人と関わってこなかったので」

「人間を理解するのが上手い、か……。私からしてみれば、お兄ちゃんの方が上手いと思いますけどね」

「え? 失礼ながら僕はあんまりそうは思わないんですけど……」

「確かに、初対面じゃわからないかもですけど。お兄ちゃんってすごいお人好しだし、優しいし、人のことを考えて行動できるんです。まぁ、その方向は斜めにいってるんですが…………」

 

────────────────────

 

 一年を通して風が強く感じる時期。私は、ある人から久しぶりに連絡をもらった。

 

「はい、お久しぶりですね。小泉さん」

「ああ。話したいことが少しあってな、お前の”ご友人”についてだ」

「……、ご友人?」

 

 一体誰のことを指しているのか、皆目見当もつかない。スタルのこと? もしかして、彼が捕まったとかだろうか。それだったら嬉しいニュースだけど……。

 

「まぁ軽く話す程度だ。近くのコンビニにでも来てくれりゃいい」

「……わかりました」

 

 彼が何を企んでいるのか、どんな話をするのかはわからない。けれど、彼が私に連絡を寄越してきたということは、それだけのことのはずだ。

 

 私は身支度をして、一応クロスレイを持って、誰もいない家の電気を消した。

 

「……いってきます」

 

 マンションの一階にまで降りてから気付く。

 

 私はもう、ガンプラバトルはしないはずなのに、どうしてクロスレイを持ってきたのだろう。

 




観戦中のサモネさん「私の作ったシェキナーすぐ投げ捨てられてる……」
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