ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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定義⑦:飯綱ヒカリ

 昔から憧れていたものが二つあった。

 

 ひとつは、幼い頃に忙しい両親が時間を作って行った、京都旅行のときに見た、時代劇の殺陣。

 

 目まぐるしく変わる陣形、襲いかかる敵、それを目にも止まらぬ速さの太刀で斬っていく侍。

 

 カッコよかった。感想はそれだけ。それで充分だと思ったし、今も思っている。憧れに余計なものは要らない。

 

 ふたつ目は、ある日テレビで見たあの大会。

 

 GPデュエルのチャンピオンシップ。壊れゆく己の機体すらも顧みず、ただ勝利を求めて戦い続けるガンプラの姿に胸が躍った。

 

 だから、その後すぐにGPデュエルのサービスが終了してしまったのは残念でならなかった。

 

 その後始まったGBNも、GPDの無念があるからか上手く打ち込めず、次第に全くログインしなくなっていった。

 

 そんなときに送られてきた。

 

『共にGPDの栄光を取り戻そう』

 

 全く知らない人、というわけではない。元々掲示板でよく話していた人物だし、話も合う優しい人だった。だから私は、その誘いに乗ってしまった。

 

 そこから先が、地獄だとも知らずに。

 

────────────────────

 

「それで、話ってなんですか」

 

 コンビニのイートインスペースで身知った長髪を見つけた私は、フライドチキンを齧ってる彼に向かって話しかけた。

 

「軽食でも買っといたらどうだ? 何も買わずにここ使うわけにもいかねぇだろ」

「はぁ、もういい時間なんですけど」

 

 とりあえずジュースだけ買って彼の席の隣に置く。キャップを捻りながら目線で話を促す。

 

「……お前、ガンプラバトルやめたんだってな」

「ッ……! どうしてそれを……」

「カグラから聞いてる。お前にボコされたやつがリベンジしたがってるってな」

「…………」

 

 あれは、ハッタリじゃなかったのか。

 

 一口ジュースを飲んで息を吐く。

 

「俺今そいつに稽古つけてんだよ。お前にぶつける、お前をぶつけるんだったら最適な相手だ。にも関わらず、持ったいねぇよなぁ?」

「それは、そうですけど……」

 

 実際彼女は初めてとは思えないほど強かった。あのまま行けば、きっと私よりも強くなってこの人にも届くだろう、という程に。

 

 けど。

 

「……もう、やりません。ガンプラバトルは。怖いんです。誰かに後ろ指を刺されるのは、誰かを故意に傷付けてしまうのが」

 

 あの日、初めてGPDをして私は思い知った。

 

 誰かのガンプラを破壊するということを。誰かの思いを無下にするということを。それらがいかに残酷で、非情な行いなのか。

 

 戦い、壊し、壊される、その恐怖。私はそれによって誰かを傷付けることが、自分が傷付くことがたまらなく怖い。

 

 あの日憧れた、あの栄光の裏にある影に潜んでいるものが、どれほど混沌に溢れていたのか。幼い私は、子どもの私は、それを理解しようともしなかった。

 

「都合のいい話です。かつてはあんなにGPDに拘っていたのに、いざやってみたらその恐怖に屈してしまうなんて」

「よくある話だ。ゲームなんてやってみたら思っていたより違ったなんてザラだぞ」

「そうかもしれませんが………………感情は、どうにもなりません」

 

 何も感じない人間なんていない。一体どんなに冷酷な判断を下せる人でも、そこに行き着くまでに大きな揺らめきがあったはずだ。

 

 ガンプラバトルを、ただシンプルに熱く楽しむ。それだったらいい。ただ、私は負けた側のことまで考えてしまう余計な思考の人間だ。なにをどうしても、それができない。

 

「所詮は感情、されど感情、つくづく向いてねぇなお前は」

「はい。だから、もう……」

「だが、そんなお前を無理やり引き込もうとする馬鹿がいる」

「えっ……」

 

 それはつまり、三月さんのことだ。

 

「あいつはそれこそ馬鹿みてぇな速度で進化してる。明後日にでもリベンジしちまうんじゃないかってぐらいにはな」

「…………」

「覚悟は固めておけ。あいつは自分のガンプラが壊れた程度じゃ泣かないぞ」

 

 その執着心は計り知れない…………と、続けて、小泉さんは席を立ち去った。

 

 一人取り残されて、考える。三月さんのことを。

 

 彼女のガンプラ、ロゼアと言ったか。あれはとても作り込まれた機体だ。正直、私にあの出来のものを作れるとは思えない。彼女のオンリーワンが詰まったような、とてもすごいガンプラ。それを壊すなんて、普通のビルダーなら考えられない。

 

 それでも、一度ガンプラバトルに駆り出せば破壊されてしまう。

 

 それは非情で残酷で、戦いの世界がいかに狂っているかを端的に表しているようだった。それなのに私は、あの恐怖こそ至高のものだと信じて、結果的にたくさんの人を傷付けてしまった。私自身を傷付けてしまった。

 

 デモニックバルバトスを、傷付けてしまった。

 

 バルは今仕舞ってある。今、私はあの子と向き合う覚悟ができていない。あの子に罪はないはずなのに、本当に悪いのは私なのに、あの子を見る度にスタルの歪んだ笑顔がフラッシュバックして、震えが止まらなくなる。

 

 逃げるように作ったクロスレイには、デモニックバルバトスが持つ要素はできるだけ削いだ。出力差で押し潰すことも、一騎当千の特殊な力も一切ない、無難に固められたウィザードシステムを各所に用意しただけの、戦国アストレイの劣化版。

 

「……クロスレイ、私は……どうすればいいですか」

 

 クロスレイをテーブルに置いて問いかける。答えはない。ここは夢の世界ではないし、クロスレイはELダイバーの依り代じゃない。

 

 …………いや、それでいい。今は聞きたくない。

 

 誰かの言葉に惑わされたくない。それは、私が道を間違える時のセオリーだ。

 

 私はクロスレイを鞄に入れて、夕暮れ模様の下を歩いた。

 

────────────────────

 

 月曜日。

 

 ただでさえ憂鬱気味なのに、一昨日のことがあるからさらに憂鬱だ。結局、一日だけでは意思がまとまることはなかった。

 

「はい、じゃあ席に着いて」

 

 もう既にいくつかのグループができていた。それに遅れたことにはもう今更何も感じないが、騒がしいのは少し苦手だ。その中に三月さんがいるのも含めて。

 

 今日は体力テストだった。あまり自信はないから、せいぜい平均を下回る程度だろう。それにしても…………。

 

「サンガツさんすごい! プロ狙えるじゃん!」

「いやいや、体力だけでプロは無理だから」

「でも五十メートル六秒台ってすごすぎない!? 体育祭のリレー、アンカーは絶対サンガツさんにお願いしたい!」

「それは別にいいけど……僕サンガツじゃなくてミツキだよ」

「あっ、ごめん!」

 

 少し遠くに人だかりができていた。一方、私の記録用紙の五十メートル走の欄には『9.83』。酷い差だ。

 

 何度考えても、あんなに住んでいる世界が違うような人が、ガンプラバトルをしているとは思えない。ガンダムって、小うるさい古参の人とか何もわからないのに知ったかぶりするにわかな人とかたくさんいるから、ああいうキラキラしている人がやっていることに違和感を覚える。

 

 そう、ああいう人と、私が似合うとは──。

 

「っ…………?」

 

 私、今、なにを考えた……?

 

 ち、違う違う。そういうことじゃない。そういうことじゃないから……って、誰に言い訳しているんだ私は!? とにかく違う、別にそういうわけじゃなくて、三月さんが私みたいなガノタ全開の人とつるんでるのが想像つかないだけ。そうだ、ホント、そうだから…………。

 

「ヒカリ」

「うひゃああぁぁあっ!!?」

 

 

 び、びっくりした! 三月さんいつの間に!?

 

「なんかデジャブだね」

「な、なんですかっ……?」

 

 咄嗟に記録用紙で顔を覆う。

 

「ヒカリのことが気になって。…………ヒカリって、運動苦手?」

「え? …………あっ」

 

 しまった、三月さんに記録が見えるように隠してしまった……。

 

「わああっ! ち、ちがっ、これは違くて……!」

「あははっ、ヒカリってかわいいね」

「か、かわっ……!?」

 

 なんなんだ、なんなんだこの人……!

 

 ただでさえ顔が良いのに、やれ私のことが気になったとかかわいいとか、そんなことばっかり…………頭がどうにかなりそうだ。

 

「……す、すごいですね、三月さん。どの測定でもいい結果残してて」

「結構運動するからね。体力はあって損はないし」

「確かに、そうですね……」

 

 耳が痛い。

 

「ヒカリ、今日」

「あ……」

 

 そうか、そうだった。

 

 小泉さんは確かに今日の辺りと言っていた。

 

「リベンジ。横浜ベースで」

「……わかりました」

 

 正直乗り気じゃないけど、あそこまでの意気込みをされては断れない。それに、別に一回ぐらいでどうだこうだと言うのは気が引ける。

 

「不思議だな、中学の頃はこんなに誰かに入れ込んだりしなかったのに」

「そうなんですか?」

「うん。なんでだろ、誰とも特別仲良くなろうとも思わないのに、ヒカリだけは別に感じる」

「…………」

 

 なんだか、こそばゆい話だ。私なんかが誰かを惹き付けるなんて──

 

「ッ…………!」

「ヒカリ? 大丈夫?」

「あっ…………、いえ、大丈夫です」

 

 ……思い出すな。

 

 スタルはもう、私には関係ない。関係、ないんだ。

 

────────────────────

 

 四日ぶりのGPDの筐体に、武装したクロスレイを置く。彼の言葉を信じるならと、警戒して前より武装を追加した。

 

 アサルトシュラウドから着想を得た、ミラージュコロイドによる隠密性と増加VPS装甲による防御性能を併せ持つウィザードクロスシステム、『玄武』。

 

 ミラージュフレームをモチーフにした、PS装甲とヤタノカガミによる複合装甲を用いたシールドと鉤爪状の白兵戦用装備を兼用したウィザードクロスシステム、『白虎』。

 

 これら二つをクロスレイに盛り込んだスタイルこそが、『戦神』。

 

 対するあちらの機体は、前には見られなかったバズーカが装備されている。伝統的なガンダムの兵装だが、ビームライフルも据え置きな分、動きは前よりも遅くなるはずだ。けれど、それはこっちも同じこと。

 

「…………飯綱ヒカリ、ガンダムクロスレイ紅フレーム、行きます」

「三月トウカ、GP01ゼフィランサス・ロゼア、行きます!」

 

 クロスレイを操作して出撃。フィールドは『砂漠』、あまり好ましくない場所だけど、ランダム設定だから仕方ない。

 

 敵影がない。砂塵が酷いわけじゃないのに、全く見えない。まさか、上? いや、エネルギーゲージの節約のために普通は降り立つはず──

 

「ッ!! 上から!?」

 

 上に熱源反応。これは、砲撃! 鉤爪を展開して、PS装甲部分で防御。シールドを構えた方向、真上を見ると、上空にいたのは三月さんの機体、ゼフィランサス・ロゼアだった。

 

 ガンプラバトルに推進剤の概念は無い。しかし、エネルギーゲージという形でスラスターに限界が設けられている。よくあるゲームと同じシステムだが、ストレスなく強すぎずを体現したものだ。とはいっても……。

 

「斜めに上がって、落下中に回復で滞空するのは至難の技ですよ……」

 

 それをいきなりやってみせたということだ。三月さんは本当に、強くなっている。

 

「ヒカリ、絶対に越えてやるから」

 

 なぜだろう、今こんなときに何故か、胸がざわざわとしている。

 

 どうしようもない、感情の昂り。

 

 …………恐ろしいものだ。

 




MBF-P0E クロスレイ・紅フレーム
ヒカリがビルドしたガンプラ。
機体胸部、背部、肩部、腕部、腰部、脚部、足部にハードポイントを設けることで、別々のウィザードを組み合わせて使える『ウィザードクロスシステム』を搭載。
本体はシンプルな仕様だが、インパルス同様ある程度の戦闘能力は保持されている。
武装はガーベラストレート2本、ビームショットガン”ナナフシテッポウ”2丁。

EX-CT ウィザードクロス『玄武』
クロスレイ専用に制作されたウィザード。
玄武は胸部、両肩、両脚部のハードポイントに増加VPS装甲を取り付けることで防御性能を底上げし、さらにミラージュコロイドによって隠密性能も確保されている。

EX-CF ウィザードクロス『白虎』
『玄武』同様、クロスレイ専用に制作されたウィザード。
専用の鉤爪状複合装備『ドゥルガー』を両腕と両足部に取り付ける白兵戦用装備。鉤爪部分はヤタノカガミ、それを格納する部分はPS装甲なので、シールドとしても使用可能。
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