魔王と勇者のいない世界に英雄は必要ですか? 作:てつろう
約3000字あります。
モンスターの襲撃から二日が経った。国に散乱した瓦礫は兵士達によって片付けられ、国民達は以前と変わらず生活している。緊急事態を除いて、一般人と会えない私には、城の窓から彼らの様子を眺めるくらいしかできなかった。
「失礼致します。モンスターの襲撃による被害状況が把握できたので、そのご報告に参りました」
私がいる公務室にノックと共にサイモンが入ってくる。私は窓から離れ、彼が入ってきたドアの方に体を向けた。
「……遅かったわね」
「ええ、突然の出来事で兵士達の対応が遅れ……。いえ、これでは言い訳にしかなりませんね。それで、被害状況なのですが……。」
サイモンはそこで言葉を止める。彼が持っている書類から目線を上げて、私の方を見た。
「……本当にお聞きになりますか?」
「聞くわよ。むしろ聞かない理由があるかしら?」
私が聞き返すと、彼は何も言わずに再び書類に目を落とした。そして、口をゆっくりと開く。
「オークによる一次被害だけでも、十棟の家屋が全壊、あるいは半壊しています。死者は二十二名。負傷者は多数いましたが、回復魔法を使える者のおかげでほぼ完治しています」
あくまで淡々と、抑揚なく彼は述べていく。私に凄惨な事実を隠すように、オークによる被害を無機質に話していく。
「そんなに死んだのね……。……私に何か出来ることはあるかしら?」
「……いえ、フロランス様はいつも通り仕事をして頂ければ充分です。戦争の事後処理については、私ともう一人の家臣でしておきますので」
「もう一人の家臣……?」
私が疑問を声に出すと、サイモンがわざとらしくパンパンと手を叩く。その合図を聞いたのか、誰かが公務室のドアを開けた。部屋に入ってきたのは、中年のおじさんだった。
「紹介します、彼がフロランス様の新たな家臣です。モルガン、自己紹介を」
部屋に入ると驚いたように目を見張り、私を見詰めるモルガンとかいうおじさん。私が彼に会うのは初めてではなかった。
「あの時のお嬢ちゃん……?」
モンスターを倒した後に話したおじさんこそが彼だった。おじさんに会うのは二度目だ。正体がバレた私は、気恥ずかしくて少し目線を逸らしてしまう。
「……ふふっ、私が女王だと知って驚いたかしら?」
私はイタズラっぽい笑みを浮かべて、おじさんに笑いかける。おじさんは私の可愛げある顔を見て、
「こいつはたまげたな……。こんな幼い子に国の命運が懸かっているなんて、この国は終わりだ」
絶望した顔で言った。どうやら私の印象はあまり良くないみたいだ。
「な、何よ……。私はまだ15歳だけど、女王なのよ。上に立つ者としての素質はあるはずだわ」
「二日前のモンスターの襲撃の事後処理も、女王様はまともに出来ていないだろう。仮設住宅と食事の提供は? 心的外傷を負った者への対応は?」
「それは……」
おじさんの指摘に私は何も答えられない。私の様子を見たサイモンが、すかさず助け舟を出す。
「今回の事件の事後処理は、フロランス様は関与させません。まだ幼い彼女には無理でしょうから」
二人とも私の事を女王としてではなく、子供として見ているようだ。まともに相手にされていない。
「私は女王よ。この国で最高位の身分なの。私を子供扱いせずにちゃんと説明しなさい……! 私達の国を攻撃したのは誰か、そもそも何故こんな事をするのか……!」
私にだって出来ることはあるはずなのに、何も分からないのが悔しかった。怒りを抑えながら、彼らに問い質す。
「これはフロランス様の為に言っているのですよ。子供が知らない方がいい事もあるのです」
「……まぁ待てサイモン。話だけならしてもいいはずだ。俺から
私を女王と知って尚、お嬢ちゃんと呼ぶ無礼なおじさんを私は睨んだ。子供扱いを変える気はないようだ。
「まず名前を名乗って下さる? 女王に対して敬語を使わないのも失礼よ」
「俺の名はモルガン、堅苦しい言葉は苦手でな。悪いがこのまま話させてもらうぞ」
不敬な態度をとるモルガンというおじさんが、私は少し苦手だった。
「今回のオークの襲撃。犯人は隣国のバルバトスという国だ。その高い技術力と、飛行船が来た方角からしても間違いない。
市場の確保や原材料の供給、資本輸出……。俺達の口を攻撃した理由は色々考えられるが、まぁ自分達の国の為にやったのは確かだな」
難しい話で私に分からない事もある。ただ分かるのは、相手国が私利私欲の為に今回の事件を起こした事だ。
「とりあえず敵国に宣戦布告をするしかない。国中の冒険者に召集令を出して兵士と共に戦わせよう」
「私達の兵力で勝てるでしょうか。あの国は冒険者の数は少ないものの、それに勝る軍事力があります。恐らく戦争は長期戦になるかと……」
「……二人とも何を言っているの……?」
何故か二人は敵国に反撃するのが当たり前のように話していた。そんな事をしたら私達も敵国と同じ過ちを犯す事になる。人が死ぬ可能性だってあるのに。
「いざとなったら女王様が直々に戦線に出れば良いんじゃないか? 噂では、あのオーク達を倒したのも女王様なのだろう」
聞き間違いではないか、おじさんの顔をまじまじと見る。私のスキルは戦争の道具ではない。亡きお父様にもこの実力は人の為に使わないといけないと言われている。
「いい加減にしなさい、あなた達……! 本当に怒るわよ! 私は人と争うつもりはないわ」
断固として彼らの意見に反対する。私の怒気を孕んだ声を聞いたサイモンが、
「やはり、この話はやめましょう。大人達の争いに子供を巻き込んではいけません」
気まずそうに言った。彼が私に事情を説明しようとしなかったのは、この大きな考えの違いがあるからなのだろう。
「まぁいい。戦の用意が必要だ。元帥と冒険者ギルド長には俺が話を通しておく。記者にも宣戦布告の声明を出すように……」
「待ちなさい」
私は彼らの行動を認可する事は到底出来ない。
「敵国への反撃は許可しないわ。私は女王よ、最高位の身分の人が反対しているの。この決定は覆らないわ」
「お嬢ちゃん、ちゃんと勉強をしたか? 女王様とその家臣は対等に国を治めるものとされている。お嬢ちゃんが反対しても、俺達だけで強行する事は可能だ」
どうやら彼と分かり合える事はないようだ。
仕方ない、この手は使いたくなかったが、女王としてやらなければならない。
「"超法規的措置"をとるわ」
「フロランス様……!」
超法規的措置という言葉に、考え事を喪失したかのように黙るおじさん。この異例の事態にサイモンも固唾を飲んで見ている。
「超法規的措置……! 女王様だけが行使できる法律に囚われない特別な行為……それを使えるのは有事の時だけのはずだが……!」
「今回がその有事よ。二人とも、頭が高い。控えなさい」
私の言葉を聞くと同時に、二人は片膝を着いて敬意を示す。女王の超法規的措置に反抗すれば、死刑になる事もあるから、当然の対応だった。
「その敵国に連絡して、戦争をするか話し合いで解決するか選ばせなさい。相手からの返答が来るまで私達から攻撃を仕掛けることを禁じるわ」
かつてお父様が言っていた。真の強さとは、どれだけ人に優しくできるかという事だと。私は勇者であるお父様の意志を受け継がなければいけない。
「……愚かなお嬢ちゃんだ」
頭を下げたままモルガンが呟いた。
結局、彼は最後まで私に対して子供扱いを変えなかった。
もっとピンチなシーンを入れたかった。