鍛えられた武術に、呪術が勝てるわけないだろッッ‼︎   作:チチメカ

8 / 10
お久しぶりです。少し難産でした。


第六話 挫折

ニコチンが煙る匂いがする。これは…

 

「硝子か…?」

 

「お、目が覚めた?」

 

体の痛みは無かった。今回の五条の記憶ははっきりしている。あの男にボコボコにされた上で、気絶してしまったのだ。また、敗北したのだ。

いつかの夜に初めての敗北を期してから、五条は自分の土台を見失いかけていた。幼い頃から最強の術式を持ち、最強と持て囃された男。呪術界で負け知らずの男が、殺す気はなかったとは言え非呪術師に負ける。

 

「……クッソ…」

 

開いた目を、もう一度自分の腕で覆い隠す。

「最強」の自分を取り返す戦い。これに、五条は負けた。その現実に目を背けたかった。

しかし

 

「お、やっと起きたのか坊主」

 

この男はそんな事など、知らなかったのである。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

呪術高専京都校。

わざわざ東京に帰るのも難だとして、4人は京都で一泊する事にした。

四人+運転手の合計5人の京都校に向かう道中に、会話という会話は存在しなかった。運転手の世間話の様なものが一言二言あっただけだ。家入も夏油も、一番うるさい五条に限っては一度も口を紡ぐことはなかった。ただ、手に顎を乗せて窓の外の景色を、呆然の眺めていた。

 

京都校に着いた四人は京都校の門を潜った。その時、まるで待ち伏せていたかの様に、一人の女性が四人に話しかける。

 

「……本当に静かになってる」

 

「……歌姫か」

 

五条は、猫背になった体のまま顔だけを上げて、その女性…歌姫を見る。

 

「呆れた。たった二度負けたくらいで拗ねてるの?」

 

「うるせぇよ歌姫。雑魚には俺の気持ちなんざ分かんねぇ」

 

「敬語!あと、誰が雑魚だッ!」

 

どれだけへこたれても、口の悪さは変わらぬと、そう思った歌姫であったが、その五条の後ろを歩く一人の大男に目が止まる。

 

「おうおう、若者は元気があっていいのぉ!」

 

「…大鬼強さんですよね」

 

「そうじゃ。お嬢ちゃん、(みやこ)の人間なのに、えらく標準語がうまいの」

 

まるで、そこら辺にいるただの爺さんの様に話しかけてくる男。呪力と言うものは明らか一般人レベルである。しかし、この男。あの五条と夏油(クズ二人)を倒したと言うではないか。

 

「お話を聞いてもよろしいですか?」

 

「ワシの話か?別に構わんが……それより、あの話は守ってくれるんじゃろうな?」

 

「……"あの話"?」

 

歌姫は三人に目を向ける。

五条は下を向いたまま、夏油は知らぬ存ぜぬと空を見ている。

 

「私達は彼の衣食住を保証する代わりに、一緒に着いてきて貰う約束を結んですよ…」

 

家入が、申し訳なさそうにそう話す。

それを聞いた歌姫は、大きくため息を吐いたのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

その後、「お話」という名の「尋問」を大鬼は受けた。名前、年齢、好きな物などから、妻はいるのか、職についているのか、あの山で何をしていたのかなどの事まで。最初は、元気そうに答えていた大鬼も、終盤になるとグッタリとして、机に屈しながら、質問に答えていた。

 

「では、次にー

「いい加減にしてくれェ」

 

疲れ果てた様に、大鬼は叫んだ。時計を見ると、尋問開始から早三時間が経っており、既に日も完全に落ちていた。

 

「…流石にやめましょうか。」

 

「よし!飯じゃ!」

 

「やめる」の一言を聞いた瞬間。先程の疲れはどこへやら、元気そうにそう言い放ち、扉を開いて外へ出ていった。風を切る程の速度で、移動した大鬼を見て歌姫が唖然としていると…

 

「あぁ!忘れておった!」

 

急にドアから大鬼が顔を出す。

 

「な、なんでしょう…」

 

「あの坊主たちの事なんじゃが…」

 

「あぁ…五条と夏油の事ですか?」

 

「うむ、実はな彼奴らが何故か落ち込でおってノォ」

 

「はぁ…」

 

「理由がわからんくてな、お嬢ちゃん何か知らんか?」

 

歌姫は質問を通して理解していた。この男は「ただ力が強すぎるだけの老人」であると言うことを。つまるところ、武術を最大限極めただけのただの人間であり、その本質は近所にいるお節介好きのお爺ちゃん。

この男は、純粋に二人を気にしていたのだ。

 

「……あの二人は、自分たちを最強だと思ってたんです」

 

「ほう、『最強』とな?まぁ、あれくらいの歳ならそれくらいの自惚れくらい…」

 

「いや、実際に最強でした」

 

「…ほう」

 

「呪術界については、もうお話ししましたよね。彼らはその中でも特別クラスに強くて、まともに負けたことは一度もなかったんです」

 

「そうか」

 

「だから、多分拗ねてるんだと思います。一度負けた時、復讐のために探し回ったって聞きますし」

 

それをため息混じりで歌姫が言うと、大鬼はそうではないのではと疑問に思う。

歌姫に感謝を伝えると、大鬼は二人のいる食堂へ足を運ぶのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

五条と夏油は机に片腕を置いて、無言でいた。

ただ、机の上や食堂の片隅をふと眺めては、思考を加速させていた。

しかし、そんな時間も一人の男の登場で、終了する事となった。

 

「よお、坊主ども」

 

浴衣姿の大鬼が、二人にニカリと笑顔を見せる。夏油はまるで興味のなさそうに、五条は舌打ちをして大鬼を見た。

 

「話でもせんか?」

 

「する話なんてねぇよジジイ」

 

「いや、悟。あの強さの秘訣とか聞いた方がいいんじゃないか」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか」

 

そう言って、二人を挟む机の正面に椅子を引っ張り、大鬼が座る。数秒の沈黙の後、大鬼が呟いた。

 

「悩んどるんじゃろ」

 

「は?」

「え?」

 

二人は大鬼を凝視する。

 

「わかる、わかるぞ?わしにもその気持ち、十分わかる。わしも若い頃は…」

 

「うるせぇよ、自分の若い頃の自慢話でもして、気持ちよくなろうとでもしてんの?そんなんなら…」

 

「『最強の俺たちが無力な筈の非呪術師に負けた』」

 

五条の口はピシャリと止まり、夏油は自身の目を見開く。

 

「青いな。やはりこの程度の悩みか」

 

フンと、五条に鼻息をかけて、二人に向けて言い放つ。

 

「わしだって六十余年生きとるんじゃ、てめぇら若造の悩みくらい既に乗り越えとる」

 

「貴方は…大鬼さんよりも強い人なんているんですか?」

 

「ん?おったぞ。ワシの親父じゃな。言っておくが親父も呪術師なんかじゃないぞ」

 

「嘘だろ…」

 

五条は、天井を見て信じられぬと思考を半分放棄する。着いていけるか、こんな男が何人もいるだなんて…五条はその事実を受け入れることは出来なかった。

 

「坊主ども、お前達は何故戦う」

 

ふと、二人に大鬼は問いかけた。

閉じた目を、細く開けては、大鬼に向い夏油が答える。

 

「弱者救済」

 

「ほう、お前さんは強者気取りか?」

 

夏油は、感情に身を任せ椅子から身を乗り出す。

 

「…ッ!非呪術師は呪力を持たない!呪霊に襲われるばかりだ…だから私達呪術師が彼らを守らないと…」

 

「落ち着け、別にその信念を否定したわけではないじゃろ」

 

「じゃぁ!」

 

「だが、その信念はあまりにも脆いな。自分なら救えるとの思い上がり、自分の戦闘の理由を他者に依存する虚弱さ。まさに青臭い坊主じゃ」

 

そう言って夏油をギロリと睨みつけ、大鬼は話を続ける。

 

「『弱者救済』素晴らしい大義に聞こえる。実際素晴らしいもんじゃろう。だがな、自身が救う救わないを選べる立場にあると自覚しているからこそ、それを言うことができる」

 

「……実際そうだろう!非呪術師は」

 

「だから、それが思い上がりと言っとるんだろうがッ!」

 

目を見開いて、口をつぐむ。

 

「非呪術師だから?呪術師だから?救う?救わない?神にでもなったつもりか?なんだ、お前は神なのか、お前の一存で非呪術師は救われなくなるのか?」

 

「いや…そんなことは言ってな」

 

「使命感に苛まれておるんじゃろ、自分の決めた使命に従って、強者であるから選ぶんじゃ。非呪術師を救う。いや"救ってあげる"」

 

「おい、お前そろそろやめ」

 

「これを神気取りと言わずしてなんと言う?」

 

「……」

 

目を見開いたまま、夏油は力無く椅子に身を預ける。自身の目元に手をつけて、口をまたつぐんで下を向く。

 

「おい、傑に謝…」

 

「お前さんもじゃ」

 

「は?俺ぇ?」

 

「『慢心』じゃな」

 

「慢心ン?」

 

「一度目も、二度目も、慢心が滲み出ておったわ」

 

「…それが?」

 

「お前さん。ワシが本当に殺す気じゃったらどうする気だったんじゃ?」

 

「……」

 

敗北…いや死いう言葉が五条の頭によぎる。最強…故の慢心。しかも、相手は非術師の一般人。

五条は何も言い返すことはできなかったのである。

 

「坊主ども。いいか、よく聞いてろ」

 

二人がゆっくりと顔をあげ大鬼を見つめる。

 

「こいつは"挫折"じゃ。お前さんらが、自惚れて、自分の力を過信しすぎた結果のものじゃ」

 

二人は何も言わずに、その言葉を受け入れる。

 

「なに、別に悪い事じゃない。逆に、今挫折しておいて良かったと思え。挫折とは、失敗の後自分を反省したからこそ起きるものじゃ。本番…生死を分ける戦いだとか、自分の未来の大きな分岐なんかで失敗したもんは…もう戻れなくなる。チャンスなど無くなる」

 

大鬼は二人の目を見て、優しく微笑む。

 

「挫折しない人間は、まともな人生を送れなくなる。蓄積された慢心や自信は、大事な所で失敗した結果、自分の未来を破壊する事になるからな」

 

京都の夜。

二人の青年に一人の老人が、昔話をする様にそう言うのであった。




評価、感想の程よろしくお願いします!
闇落ちの芽は早々に摘んでおきたい思いがある…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。