「…ねえノア」
「なんですかニアちゃん?」
「あの、作業出来ないんだけれど…」
現在ノアに絶賛抱きつかれ中の私である、もう仕事にならねえんだこれが。四六時中引っ付いてくるからどうしようもない。とは言うが、人前ではやってこないけれど。二人っきりのタイミングを見計らったりしたときとか、不意に此方に注目が集まってないときとかに抱きついてきたりとか色々としてくるのだ
「ニアちゃんはお仕事の方が大切なんですか…?なんてことは言いませんよ?そこまで面倒くさい女じゃありませんから」
ジトーっとした視線を向けられたと思うと、すぐにクスクスと笑う声に切り替わる。相変わらずからかい癖は治らないと言うか悪化してる気がする
「はぁ…まあ、良いんだけどさ」
「ふふっ」
こうやって身体を密着しながらセミナーの仕事を一緒に片付けていく。ユウカはシャーレの方によく入り浸ってるから実質二人っきりの方が多い。もう一人、一年生がいるんだけどその子は色々とやらかして反省室にほぼ軟禁状態だ。やらかしたことがやらかしたことだから仕方ないんだけどね
「じゃ、さっさと仕事を片付けましょうか」
ノアの言葉に耳を傾けつつ、やりにく状態のまま仕事を勧めていくしか無いんだろうな…
──私、生塩ノアは蒼望ニアのことが好きだ。友人とか、そういったオブラートに包んだものではなく。情愛にまみれた方の好きに当てはまる。一緒にいる時間はかけがえのないものであり、邪魔もされたくはない。同じセミナーの2年生である
少し前、たまたま3人で女子高生らしく…とは言うものの。男子生徒なんて見たことがない状態で話す恋バナというものに女子高生らしさがあるかは不明だけれど。そういう話になった、ユウカは照れながら、私は当たり障りなく。ニアちゃんの番になった時、目をそらしつつ、彼女はこういった
『私、誰かを好きになったこと無いんだよね』
困ったような、どこか寂しそうなあの顔を生塩ノアは一生忘れないだろう。
多分、きっと。ニアは工学が恋人。というタイプの人間なのだろう、自分には似合わないよ。というようなニュアンスであるとおそらくユウカは感じたはずだ。だが、付き合いが長い私には分かる、ああいう表情で言う時のニアは欲しいけど、手に入れられないから要らないよ。というような時に言う顔だ
…なんとなく、なんとなくだけれども。彼女が好きな人…いや、好きだった人はおそらく白石ウタハその人だろう、憧れがそのまま恋愛感情に繋がるのは珍しいものではない。珍しいものではないが現実とのギャップに苛まれることも当然ある。そもそも白石ウタハは女性が恋愛対象として認識してないだろうことは、ニアがよく分かっているだろう。彼女もまた、工学が恋人なのだろうから
…なら、別にニアのことを私が貰っても問題はないだろう。この胸に秘めていた感情をぶつけることに、私は特に躊躇いはない。もう我慢しない、5年だ。5年の片思いだ
──もっとも長く続く愛は片思いである、そう、誰かが言った。確かにそうなのだろう、片思いというのは相手の感情を一切合切無視して恋慕するだけなのだから続くのも簡単だ…だが、それが何だというのだ
私は、彼女がほしい。それだけだ、それだけでいいんだ
「ノア、こっち終わったよ……大丈夫?」
端末とにらめっこしていたニアが顔を上げて此方を見てくる、考え事をしてて反応が遅れた私の方を見て首を傾げつつ。少し心配そうな声で呼びかけてくる
「大丈夫ですよ、今日はニアちゃんと一緒なので」
「…私と一緒だから?」
そう返すとニアちゃんはまた不思議そうな顔をしつつ首を傾げる。私はこの時のニアちゃんの顔が一番好きだ、彼女が見せる一番あどけない顔と言っても過言ではない
「ふふ、そうですよ?」
「…変わってるよノアは」
「ニアちゃんもですよ?」
ポリポリと頬を掻くニアちゃんにクスクスと笑いつつ返答するとちょっと恥ずかしそうにしている、この顔も私は好きだ。年相応の女の子の顔
「時間、大分余りましたね…今日は早めに帰れそうです」
「そだね…じゃ、帰ろっか」
そう言いつつ、荷物を片付けて外に出る。既に日はすっかり落ちて…
「降ってきてるじゃん…」
夜空は広がっておらず、生憎の雨模様だった。ニアちゃんは辟易した顔をしている、私は雨も嫌いではないがニアちゃんはどうやらそうではないらしい
「私は傘持ってきてるけど…ノアは?」
「それが今日予報を見忘れてしまっていて…」
嘘だ、本当は今日雨が降るらしいことは知っていた。予報を見ていなかったことは本当だが、それは知っていた。だけどニアちゃんと触れ合う距離が近くなる可能性をみすみす逃すことは出来なかった、浅ましい感情からくる打算だった
「そっか。珍しいこともあるもんだ。しゃーない、ほれ」
そう言ってニアちゃんは私に自分の傘を差し出してくる。こういう時のニアちゃんは走って戻ってびしょ濡れになることに躊躇いはない、それで風邪を引いたら私のせいになるのだけれども。自分のせいだからって笑うことは想像に難くない
なので
「それでは、こうしましょうか?」
強引な手段に出る。ニアちゃんの持ってた傘は一人用なので勿論肩を並べて相合い傘、とはいかない。ならどうすればいいか?と聞かれれば、私ならこうすると言い返す
「ノア、えっと…」
「ふふ、こうすればお互いに濡れませんし。寒くも有りませんよね?」
簡単なことだ、相手の腕の中に収まってしまえば良い、多少歩きづらいが別に構わない。なんなら相手に傘を持ってもらえば良い。と思うだろうが、それだと密着度が薄まってしまう、あくまでも主導権は此方で握ることが最も大事だ
「しょうがないな…」
頬をかきながらため息混じりに此方を見ながら言うニアちゃんにクスクスと笑う。ニアちゃん、こういう時は突き返すことはまず無いので。此方から行動することが一番大事なのだ、守りに入ったらこの子は絶対に落とせないし興味を持ってもらえない
「それじゃあ、帰りましょうか」
とにかく攻めて攻め続ける、ニアちゃんはそうでもしないと落とせませんからね
この場合、ヒロインレースがノア一強になってシナリオが破綻するのと、本編ルートも崩壊します。ミレニアム離れずに普通にやり合うことを選択するので