王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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第一章 剣王の再誕
カプ厨という者


 

「ここに新たな英雄が生まれました。この方の手にある英雄剣こそがその証です!!!!」

 

 この世界において発展しているであろう王都、そのど真ん中に存在する広場の前で僕は死んだ目をして目の前を見ていた。

 

 いや、目の前をというか何も視界に入らないというか、視界には入ってるけど脳がそれを認識していない状態というべきか。

 

 要するに茫然自失と呼べる状態なのだろう。思考もクソもなく僕は目の前の事実を受け入れることが出来ていないのだから。

 

 そんな僕の状態が目に入っていないように、目の前の民衆は声を張り上げる聖女様の言葉に耳を傾け一言も聞き逃さないように真剣な顔をしている。

 

「皆さん、かつてこの剣を抜く者こそが真の王だと我が国の初代剣王は言いました。それから500年の時を超え、こうして新たな剣王は現れました」

 

 違うと言いたい。そんなはずがないと言いたい。

 

 だって剣を抜くべきは僕じゃない。僕はただの村人Aであり酒場の跡継ぎ息子だ。それ以外の何物でもない、作中で言えばモブポジションなのだから。

 

「二代目剣王様、私達は貴方の存在を待っておりました。私達剣王教会を始めとしたこの国の全ては貴方の為にあります」

 

 それ、アニメで聞いたセリフだ!!!と、本来であればそう言って狂喜乱舞して作ってきた花吹雪をパーッと巻き上げるはずだったのに。

 

 言われているのが僕という時点でそれはただの悪魔の宣告にしか聞こえずに、静かに涙が落ちていく。

 

「剣王様!!!このアリシア・セプテム、この国の。何より貴方のために尽くします!!!!」

「凄いなトーマ!!!二代目剣王様だなんて!!!!幼馴染として鼻が高いぜ!!!!」

 

 違う、違うんやアリシアちゃん。君の相手はそこで目をキラキラ輝かせて溢れんばかりの笑顔を見せてる元気っ娘なんや。

 

 幼馴染のヒカリちゃん。僕の真っ青な顔と死んだ目が見えないのかな?

 

 この剣を抜くのは本来君なんだよ?そこの聖女様と恋人関係になるのは君だったんだよ?

 

「さぁ皆さん!!!新たな英雄、新たな王の誕生を皆で祝いましょう!!!!!」

 

 聖女アリシアのその声に王都の広場に集まった民衆は大歓声を上げた。

 

 それはこれから来る明るい未来を喜ぶように。聖女の言葉に元気づけられたかのように。

 

 その光景とは裏腹に僕の目からはとめどなく涙が溢れ、足元はもうびちょびちょで水分不足で倒れるような気さえしてきた。

 

 なんでこうなったんだろう。僕の脳みそは過去を遡り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カプ厨、と呼ばれている人種を知っているだろうか。カップリング厨の略だが。

 

 簡単、かつ簡潔に言うと他人の恋愛や人間関係を外側から見て悦に浸っているという中々に気持ち悪いであろう趣味をしている人間達の事を言う。

 

 ただ勘違いしてほしくないのは(僕の場合はだが)どんな人間関係だろうと平気で楽しむわけではないという事だ。あと別に他の人が推してるカップリングに対しても口を出す気はない。

 

 いや推しの紹介をする時は別だけどね?推しカプについて聞かれたら一時間でも二時間でも語れる自信が僕にはあるし、大抵のカプ厨もそれは同じだろう。

 

 つまり推しカプをいつでも楽しむための努力を僕達は常に怠らないという事だ。

 

 供給がなければ自ら作り出し、想いを同じくする同志達と与え合い、語り合い、ネットという文化も相まって自分達で何とかして来た。

 

 まぁその自分達による供給も公式からの爆撃投下には何の抵抗も出来ず塵になるしかないのだが。

 

 もしくはさらに燃え上がって炭になるまで盛り上がるかのどちらかだ。

 

「人の推しカプ最高場面が収録されてるブルーレイ失くしただぁ!?ぶち殺すぞダボがぁ!!!!!」

「悪い!!本当に悪かったって!!!寝落ち寸前で最後まで見て片付けたからどこ行ったのか分からなくなったんだよぉ!!!」

「黙れ喋るな僕が行くまでに探し出しておけ。見つからなかったらお前の部屋のフィギュアを一体一体見せつけるようにぶち壊してやる」

 

 悲鳴と共に急いで部屋丸ごとひっくり返す音が聞こえると同時に通話が切れる。まぁ当然だろう、僕の友人であるなら今言ったことが完全無欠に本気だという事に気付いているだろうから。

 

 まぁ結局何が言いたいかというとだ。

 

 そのカプ厨である僕の最推しが結ばれるシーンの入ったブルーレイを貸した結果失くしたとかほざく友人を血祭りにすることも僕はためらわないという事実を知ってほしかっただけだ。

 

 というか人から借りたものなくす時点で死罪だろ死罪。 ぶち殺し確定ね!!!!

 

『私は貴方が好きです!!!誰よりも、何よりも愛してます!!!!』

『俺だって……!!俺だって君が好きだ!!世界を変えることを願うくらいに!!!!』

「あ~~~、ドラマCDで聞くこのシーンも最高なんじゃ~~~~!!!」

 

 燃え尽きることのない炎で心を燃やしながら友人の家に向かって歩き出す。

 

 耳にはイヤホン、流すのは最推しの告白シーンをドラマCD化した場面。声だけだがアニメとはまた違い二人のそれぞれの心情が語られるという点だろう。

 

 それを聞くだけで耳が幸せになり、他人から見られたらドン引きされるような笑顔を浮かべながら歩くのだから不審者と言われても仕方ないかもしれない。

 

 そんなことまるで気にしないしどうでもいいけど。

 

『でも、でも!!私は貴方にこれ以上傷ついてほしくないです!!!!』

『何も言わなくていい。俺が何とかする。全部、俺が何とかしてみせるから!!!!』

 

 何もかもを背負おうとする主人公ヒカルと、その背負った物を少しでも肩代わりしたいメインヒロインアリシアのこのシーンが好きなんだ。

 

 涙ながらにヒカルを止めようとするアリシアと、好きな女の子を振り切ってでも彼女を聖女という立場から解放しようとするヒカルのすれ違い。

 

 互いを大切に想うからこそ起きるこの件が後に響き、事件を起こす。

 

 でも、だからこそこの二人のやり取りには良さしかないんだよなぁ……。

 

 だからこそこの作品、『Legenda Septima Rex』には多くのファンがおり、僕と同じカプ厨の多くが彼らの関係に魅了されるのだ。

 

 今まで恋も何も知らず、自らの使命に準じようとしていた聖女が、普通の女の子のように誰かを好きになるという当たり前のことを知る。

 

 剣を振ることしか知らず、自らの才能と努力を信じて強く在ろうとする剣王が、普通の男の子のように好きになった女の子を守りたいと思う。

 

 言ってしまえば陳腐だが、極上のシナリオでそれを出されてしまえばそれは最早高級レストランで出されるフルコースと同じほどのインパクトを誇る。

 

「やっぱヒカアリだよなぁ。いやでも他のカップリングもまたよし……」

 

 しみじみと呟くが思った以上に声が大きかったのだろうか。周囲が僕を見てくるがその視線もまるで気にならず僕をカプ厨の道に引きずり込んだこの作品について思い返してしまう。

 

 『Legenda Septima Rex』は原作はゲームから始まり、ドラマCDを経て、アニメへと漕ぎつけた作品である。実写映画化もされており、僕はそれを5回は見に行った。

 

 世間一般全部が知ってるとは言えないが、一時は実写映画化のこともありニュースになったこともある為世間認知度は意外と高いのだろう。イラストを投稿できる某サイトでは多くの二次創作が載せられ僕の心は大変潤った。

 

 物語としてはよく言えば王道、悪く言うならばありきたりなのだろう。どこかで見たような設定や世界観は目の肥えたオタク達にとっては目新しさを感じさせなかった。

 

 だがそういった感想を捻り潰す熱さとキャラ愛がこのゲームにはあった。

 

『俺が!!最強なんだよ!!!!』

『俺は俺の為にしか戦わねぇ!!!誰が王様なんかやるかよ!!!!』

『俺がここに立ってんのは国の為なんかじゃねぇ。俺が!!俺らしくある為だ!!!!!』

 

 最初期はそう言っていた主人公。この時の彼を好きな者もいる為悪く言うつもりはないがそれでも一人よがり、という言葉が似合う少年だった。

 

 それが戦いを超えて、色んな柵を抱えた人達の存在を知り、心の在り方を鍛えなおしていった結果。

 

『俺は最強じゃなくていい。俺は無敵なんかじゃなくていい。それでも負けられねぇから勝つだけだ』

『何度も立つのが、みじめで格好悪いことだって言うなら、俺は格好悪くていい』

『俺はいつも通り俺らしく勝って、みんなの所に帰るんだよ!!!!』

 

 それまでのプライドをそのままに見事に成長を遂げていく姿。それを支えるヒロイン達との姿が多くのカプ厨の心を掴み彼らの関係の尊さに目を焼かれるものが大勢現れたのだった。

 

 何人ものヒロインがおり、発売後もファンディスクが生まれた結果さらにヒロインが増えて主人公であるヒカルとのカップリングは増えていった。

 

 だけど広まったのは主人公達のカップリングだけではない。登場するライバルキャラ達もまた大勢の目を焼く魅力があったのだから。

 

 おかげでどのカップリングこそが至高にして究極なのかと連日ネットでは言い争いが起きていた。もちろん僕もそれに参加し、「みんな違ってみんないい」という派閥を率いらせてもらった。

 

 周囲からフルボッコにされながらそれでも語って何人かをこちら側に寝返らせたのはいい思い出だ。僕の熱意に他の人がドン引きしたという事実からは目を逸らす。

 

 そんな『Legenda Septima Rex』のアニメブルーレイを貸してやったら失くしたとか言い出すのだからぶん殴っても許されると断言できる。

 

 もちろんそれは布教用で、実用と保管用に持ってはいるがそれはそれだ。あのブルーレイを貸し出してこちらの沼に引きずり込みたい友人はまだまだいるのだから。

 

「おいそこの君!!危ない!!!!」

 

 カプ厨の本能か、尊いカップリングに頭を使っているとそれ以外が疎かになってしまう。

 

 だからか頭上から聞こえたその声に対して反応が遅れてしまい、僕の頭蓋骨は上から降ってきた小さな植木鉢とぶつかり、互いを砕いてしまった。

 

 その衝撃と痛みを脳が認識する前にその機能を失くしてしまったのは幸いと言えるだろうか。

 

 そのまま、視界は白くなって、いや、消えていった。

 

 全てが、認識できなくなって最後の瞬きをした瞬間。

 

「トーマ!!トーマ!!!起きないとおばさんにまた怒られるぞ!!!!」

「うおわっ!?」

 

 頭上から勝気な少女の声が聞こえてきて、僕の意識は覚醒した。

 

 起きた僕の目の前にいるのは銀色の長髪を首のあたりで結んだ吊り目の美少女だった。

 

「ひ、ヒカリ……?」

「そーだよ、なんだよ人の名前を恐る恐る呼んで」

 

 頭に浮かんだ名前を呼んでみると合っていたらしく、少女は怪訝そうな顔を隠そうとしない。

 

 ああ、彼女はこういう人間なんだとすぐさま理解すると同時に二つの人生の記憶が僕の脳みそを襲って来た。

 

 日本で暮らしていたカプ厨の僕と、この世界で生まれ育った僕の人格が溶け合って混ざり合って、やがて一つになることで一つの事実に気付いた。

 

「この世界、『Legenda Septima Rex』だ……!!!」

 

 僕は推しカプが大勢いる世界にいるという事実に歓喜したのだった。

 

 ……今思えば人の夢と書いて儚いと読む、その言葉にふさわしいのだろう。

 

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