王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
「というか前世を持つ人って多いの?」
「最初にそれから聞くのね。まぁ普通は気になるか。多い、って言うかほぼ全員前世あるわよ。アンタみたいに他の世界の魂がこっちの世界の魂と混ざり合ってるなんてほとんど見たことないけど」
その場合でも前世の記憶なんて蘇らないのが普通らしい。それはそうだろう、もし蘇っている人が過去に多くいるならなんかこう、内政チートとかしてそうだし。
僕はそんな知識ないし、そもそも魔道具のおかげで普段の生活に不便することがなかったのでする気も動こうという想いもなかった。
あったのはこの世界における最高のカップリングをこの目で見るという決意だけ。
それさえもこの僅かに、微かにこびりついたような記憶が本当だったとしたらの話。僕の脳が作り出した妄想でなければの話。
「前世の記憶を取り戻す奴は事故にあったとか、頭に衝撃を受けたとか、そもそも元からあったからか。まぁ色々とあるけど原因なんて分からないわね。一つ確かなことは執着するものがあるってところかしら」
「まぁぶっちゃけ覚えてることなんてほぼないわけだしね」
前世の名前も覚えてないし、かすかに残った記憶にある単語もそのほとんどが理解できない物。正直に言ってこれは僕の妄想なのではと思ったことすら何度もある。
この考えはあの何度も死を味わう前の僕では受け止められなかっただろう。必死に目を逸らしていたのがその証拠だ。
それでもいいと僕は思っている。僕はトーマであり、それ以外の何者でもない。僕が僕として生きてる中で邪魔にしかならないとすら思っている。
みんなが当たり前のようにやっていることを「不便だなぁ」と思うことがたまらなく嫌だった。人とはずれているという事が非常に不快だった。大事な人達と同じものを見て同じように感じられないのは心を軋ませてとてつもなく不安にさせた。
「これを全部忘れさせてくれるって言うなら僕はそれを選んでもいいと思うくらいにはこびりついた記憶が嫌だよ。僕じゃない僕の記憶なんて、この世界で生きるのに邪魔にしかならないから」
「ま、分かるわ。他人と外れてるって言うのはどうしても不安になるものだから。私だってこんな魔眼のせいで色々と拗れたり面倒な生き方してきたもの」
互いに人とは違うものを見てきた者同士、初対面の時からなんとなく好意的に思えたのは初めてこの感覚を共有してくれる人だと直感したからかもしれない。
「前世持ちはその記憶で拗らせたり振り回されたりして不安定になるのよね。そういう意味じゃアンタはかなりまともな方よ」
「それが本当だとしたら、間違いなくヒカリのお陰だね」
今いるのは夢の世界、だから本物の彼女はここにはいない。それでもいつでも一緒にいてくれていた幼馴染を思い出して先程まで忘れていたはずの笑みを取り戻す。
「僕が変なことをしてたら叱ってくれる。一緒にいて笑ってくれる。それがどれだけ救いになってるか多分彼女は分かってないんだろうね」
「世の中そんなもんでしょ。自分がしたことの影響も、誰かがしてくれた影響も。ちゃんと分かってる奴なんてそうそういないわ」
確かにそうかもしれない。自分のふとした行動が誰かの救いになってたり、はたまたその逆になっていたり。
それは人の心の中にしかない答えだからこそ外からは決してわからない。でも、だからこそ心から繋がっている関係は美しいと思う。
「ま、前世なんてあったとして一つだけ感謝するとしたら僕をカプ厨にしてくれたことかな」
「かぷちゅう?」
可愛い女の子が意味が分からないまま「かぷちゅう」って言ってる姿は想像以上の破壊力だった。不意打ちだったから瀕死だ、前準備ありでも多分同じ結果だ。
「要するに人間関係を見てニヤニヤして悦に入る変態のことだよ。基本的に創作物の登場人物に対して向ける者だけど……僕は普通に現実でもニヤついてる」
「私が言うのもなんだけどアンタの趣味ヤバいわね」
そんなことはとうの昔に知っている。何度ヒカリにシバかれていると思うんだ。
それでも僕にとってこれは譲れないし、譲るつもりもないので彼女には諦めてもらいたいところだ。
「要するに僕は繋がった人間関係で幸せになる人を見るのがとてつもなく好きなんだよね。僕自身、人間関係に救われているわけだから」
母さんとヒカリ、この二人がいなければ今の僕はいないと断言できる。こんな所まできて必死に頑張る理由だってなかった。剣王だってやる気には欠片もならなかっただろう。
それこそキャロルの言う通り変に拗らせて馬鹿みたいなことをやらかしてそうだ。
「好きな人と一緒に歩いて幸せそうな人が好きだ。友達と遊んでまた明日って言いあってる光景が好きだ。兄弟みたいな、家族みたいなやり取りが出来る程仲のいい人達が好きだ。頑張って繋げた人間関係で幸せになってる人達が好きだ。その人達の幸せを見るのが好きだから、だから僕は結局僕の都合で戦うんだよ」
王様なんてやる柄でもなければその器でさえない。それでもその資格を持っているのが僕だけだというのなら、それを受けなければ僕の見たい光景が見られないならそれは戦う理由になるのだろう。
僕は僕の欲望のために戦ってる。それが誰かを助ける結果になるというならそれはそれでいいのだと思う。
「はぁー。聖剣抜いたって言うからその動機とか色々と聞こうと思ったけど。まさかこんな濃い話されるとは。アンタそれもっと関係深い奴に言いなさいよ」
「いやだよ。前世とかヒカリに言った日には王様辞めさせるって絶対暴れるもん。心労のせいでこうなったとかなんとか」
「アンタが心労でどうにかなるような類じゃないと思うけど。ま、それはいいわ」
座り込んでいた彼女はやはり何もない所から鎌を取り出し、ゆっくりと立ち上がる。
何度も僕を斬り裂いた鎌をもう二度とみたくないと思いながら聖剣を抜いて臨戦態勢に入る。一瞬でも目を、意識を逸らした瞬間に殺されるという確信がある。
「アンタは人同士が関わることで幸せになる姿が好きって言ってたけど、私はそうは思わない。そもそも人と関わることなんてめったにないし」
その鎌の重さは間違いなく小柄な女性が片手で振り回せるものではないが、キャロルはそれを棒のように振り回す。
彼女の戦闘力を考えてみれば危険すぎる鎌の間合いに入る。それでもまだ僕は動かない。彼女の言葉を待ち続ける。これは僕と彼女の関係性が決まる大事な瞬間だと聖剣の力で強化された僕の直感が痛いほど叫んでいる。
「だから思う存分私を殺しにかかりなさい。私はアンタの嫌いなタイプの人間よ」
「いや大分好みのタイプだと思うけど。ツンケンしてるのに妙に優しい所とか、変に悪ぶってるのに悪くなりきれないところとか、なんかポンコツ臭がするところとか」
今まで周囲にいないタイプだったが、なんというか一緒にいると騒がしくて楽しいタイプだと思う。ヒカリのように傍にいて当然とまで行く安心感とは違う。アリシアのように一緒にいて大事にしたいタイプともまた違う。
何というかこう、一緒に大騒ぎしながら遊ぶと滅茶苦茶楽しそうなタイプ?
「い、いや。私人間関係とか面倒だし、そういうの作る暇があったら魔道具触ってたいし。ほら!アンタの嫌いなタイプじゃない!!」
「そういう人が嫌いなわけじゃないって。好きな物に夢中になってそれ以外疎かにするとかよくある事だし。自分が思っているより変人じゃないよ、キャロルは」
いやまぁ聖剣を渡しでもしたら今すぐにでも頬ずりしそうなところは変だが、それくらいだったら別に僕は受け入れられる。
カプ不足で犬同士のCPを夢中で見ていた僕と比較してもあっちの方がまだ納得されるのではないだろうか?そう考えると僕の方が変人なのでは?
「僕が幼馴染だったり友人だったりで彼女達は大丈夫なのかな……?人間関係見つめなおせって言った方がいいのかな……?」
「多分だけどそれ言った瞬間に銀髪の子の方は切れるわよ。マウントとって殴ってきそう」
想像してみたが、うん、確かにそうなりそう。「ふざけんなボケ!!!」とか言って泣きながら馬乗りになって殴りに来そう。
泣かせるのも殴られるのも嫌なのでこのことは心の中にしまっておくことにする。
「さて、それじゃあ頑張る理由は聞けたしそろそろやりましょうか。今度は50回死ぬ程度で済むかしらね?」
「生憎だけど僕の生存欲求はキャロルが思う以上に高いと思うよ?とりあえず返り討ちにしていくから心折られないでね?」
さぁて、それじゃあ死と隣り合わせの鍛錬を始めていこうか。
二人の女の子が頑張っているのに僕が何の成長もないって言うのも嫌だしね!!!
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!