王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
今日は3回投稿、明日からは一回に戻ります
死ぬ気で頑張るとは言ったが、その結果死ぬより辛い目に合うとは聞いてない。
現在僕は(夢の中の)森の中で倒れ伏して息も絶え絶えの状態だ。正直呼吸すること自体が辛いが、呼吸を止めると死ぬので無理にでもしないとまずい。意識消えたら死ぬ可能性が出てくるのでこうして必死に考えてギリギリ繋ぎとめている形になる。
「ふぅ……ふぅ……、では一旦休憩に入ります。聖女殿、陛下の治療を」
「わ、分かりました!!」
アリシアがそのあまり鍛えられていない腕で必死に僕の体勢を変えようとしているが、身体に全く力の入らない僕はその行動に為すがままにされるしかない。
うつ伏せになっている状態から、彼女は何とかひっくり返そうとしているのだが悲しいかな。(夢の中の)数ヵ月で僕の体重はかなり増えている為結構難しいようだ。
「だ、大丈夫ですか!?お水飲めますか!!?」
「ヒュー……ヒュー……」
返事をしたいところだが声が出ない。とはいえ何とか少しでも回復しなければならないのでろくに動かない右手の指で水の入った水筒を指さす。
それに気付いたアリシアはその水筒を僕の口元に運んでくれたため、こぼれることも構わずその中身を飲み干す。
「トーマ様、もう、こんなのやめた方が……」
いつの間にか彼女は僕をトーマ「様」と呼んでいるが、それに関して反応を返すことは出来ない。彼女の光魔法による治癒で大きい傷は癒されていく。
傷全てを治す時間はない為、動くのに支障が出ないところだけを集中的に。この一点集中の治癒を彼女が出来るようになったのはこの鍛錬合宿中らしい。僕よりも成長しているようで何よりだ。
「陛下、では続きを始めましょう。ルールは変わらず、です」
「ま、待ってください騎士団長!!まだたった10分しか休んで」
「10分も、だ。陛下は度重なる死を乗り越えた。だからこそ今度は死なない方法を覚えるしかない。そして俺はこの教え方しか知らん」
キャロルとの幾重に重ねた文字通りの死闘。それによって戦いに関しての恐怖心を無理矢理にでも克服し、今では剣を振るうことにも相手の攻撃を受けることに関しても冷静に見れる実感がある。
だがその代わりに僕は死を重ね過ぎた。要するに死にやすくなっているのだ。
死んだ場合少し前に戻りやり直すという経験を重ねた結果、死を前提の戦い方をし始めていたらしい。僕自身その自覚はあったが、まずは戦いに対する心の姿勢を作ることが最優先だったので仕方ない。
「陛下。私に殺されず、その上で10回攻撃を与えてください。それが出来たら再び休憩に入ります。これを100セット繰り返し終われば眠ることが出来ます。途中で死んだ場合最初からやり直しです」
死に対する恐怖心をこの死に続けられる空間で取り戻すのは非常に難しい。だからこそ組まれたこの鍛錬方法だが、本気で辛い。
騎士団長に対し10回攻撃を当てる。この時点でかなりきついが、彼は全力ではないにしろ本気でこちらを殺しに来る。殺された場合この地獄から抜け出すことが遠ざかる為それこそ死に物狂いで避ける。
一度終わりギリギリまで行ったのに集中力が途切れたせいで殺され、最初からやり直しになった時本気で死にたくなった。最早拷問の一種だと思うくらいには辛い。
泣こうが喚こうが絶望しようがこのループから抜け出すことは出来ず、ただ生きて攻撃を当て続けるという一つを達成しなければならないのだ。
「ですからもうやめてください!!トーマ様だってもう限界で……!!」
「……ヒュー……ヒュー……わ、るいけど、さ……。ぼくは、まだ、やれるから……」
止めようとしてくれるのは嬉しいし、アリシアの優しさを感じる為幸せですらある。だが騎士団長は絶対にこの鍛錬をやめないし、僕自身やめる気はない。
彼はもう憎み、恨まれる覚悟を決めている。そう宣言し、その言葉に違わず思わず恨みそうになるほどの鍛錬を加えてくる。それが自身の責務だと以前僕の前で言ったように。
それに対し、僕は一体なんと答えただろうか?
『貴方の思う僕に適した修行で、鍛錬で、僕が僕の理想を貫ける強さをください。僕はそれを勝ち取りたい』
彼は目の前の、たまたま聖剣を引き抜くことが出来た子供に跪くことが出来る男だ。そんな彼に僕は強くしてくれと言った。
ならば彼の為すことは僕が望んだことだ。そして自分で望んだことから逃げ出すような男に僕はなりたいとは思わない。逃げたくても、楽になりたくても、それはしちゃいけないと思う。
それをしたら今も僕と一緒にいる為と頑張ってる幼馴染に顔向けできなくなる。だから
「きゅうけいは、おわり……!!もうちょっと、付き合ってもらうよ……!!」
「……お見事です、陛下。では、参ります」
僕は死なない為に死ぬ気で抗うのだ。
「……………………」
「……………………」
そして鍛錬が終わり、現実空間に戻った僕は『魔霧の森』に存在する温泉に浸っていた。騎士団長と一緒に、男二人で。
別に夢の中でも入れるのだが、それだと現実の肉体を放置しっぱなしになってしまう。夢での影響が現実にもあらわれるこの鍛錬方法だが食事などは現実でとった方がいいとのことだ。
その代わり現実でお腹いっぱいになるまで食べたら、実時間半日は何も食べずに済む。つまり夢の中ではその数倍の時間を鍛錬のみに集中することが出来るのだ。
先程終えた延々と戦い続ける鍛錬も途中で食事を挟むことなく進めることが出来たのはこの為である。
まぁ後は生理現象とかも現実でちゃんとしないとという事と、いざ戻った時に肉体の感覚がおかしいとかなっても困るので確認しなければならないという事情もある。本当に時間がない時の鍛錬以外では案外不便な『魔霧の森』ブートキャンプである。
「……………………」
「……………………」
それよりこの地獄のような空間を何とかしてほしい。男同士、二人で入ってるけど互いに無言で物凄い空気が重いんだよね。ナニコレ、空気が鈍のようなんだけど。実際に質量を感じ始めるのも時間の問題だよ。
この空気に耐えられないので聖剣の力の練習をしようと思い、身体強化を試す。今は聖剣を手に持っていないが、その状態でもある程度の力を引き出すことには慣れてきた。
第三の能力に関しては未だとっかかりが掴めず、また夢の中での毒飯に対する適応にも意外と時間をかけている。
戦闘経験だけは積まれていくが、新しい手札も欲しい所だ。
「―――ら、あ―つとは――いうかんけ―――ってば!!」
「そんな―――って、お姉さん――――みな―いって」
「しつ―いぞおば―ん!!」
「ぶち殺す―クソガ―が」
五感が強化され、その結果結構離れているはずの女湯の会話が聞こえてくる。聞いてはいけないと理性は忠告するが本能はそれを断固拒否し戦いを起こす。結果理性のボロ負け、僕は本能に支配されて彼女達の話を盗み聞きする。
「というかアンタら浮いた話とかないの?本当に?今どきの少年少女って和気あいあいとグッチョンバッコンやってるもんじゃないの?」
いきなり聞こえてきたのがキャロルのこれだ。なんかもうこの時点でキャッキャウフフな話を期待することは出来ないと悟る。
しっかし下世話なエルフだなあの人本当……。案外世話好きなのかもしれないが、余計なお世話という言葉がこれほど似合う者もないだろう。
「最近まで片田舎にいたのにそんな話あるかよ」
「私は聖女の役割がありますので……トーマ様の側近としても、今出来ることをしないと」
「かぁー!!枯れてるわねアンタら!!特にアリシアの方!!女でも揉みたくなるようないい乳と尻しながら本当俗世から離れてるっていうか」
「セクハラやめろよチビエルフ。僻んだってこのスタイルがアタシらのモノになるわけじゃないっての」
「私はもう成長止まってるから別にいいけど、貴女はまだ成長の余地あるでしょ。今からでもがんばりなさいな。ポテンシャルはあるんだし、いい物食べれば成長するわよ」
「アタシは別に今のままでいいし。このままでも困ったことないしな」
聞いたことがバレたら殺されるような内容が聞こえてくる。そうか、アリシアって着やせするタイプなのか。うん、あの露出度の低いシスター服、今回は動きやすい服だけど相変わらず肌の露出が少ない服装の下にはそんな凶器があったのか。
ちなみにヒカリの方は僕の知る限りだと、胸はそこそこ尻もそこそこである。時々酒屋でセクハラしていたおじさんが教えてくれていた。ちなみにそのおじさんは毎度のごとくヒカリにボコられていたのに懲りなかった人だ。その不屈の心だけは今も尊敬している。
「フフフ……そう言ってられるのも今の内よ……。そうやって余裕をぶちかましていていざ成長が止まったら「あの時もっといいモノ食べてればよかった」ってなるわ……」
「なんかすげぇ実感の籠った言葉を吐くな……」
キャロルの言葉に彼女の身体を思い出す。文字通りの死闘の中では意識する暇はなかったが、何度か彼女の服を切り裂いた記憶がある。
その下は……うん、なんというかこう、なだらかというか、平原というか。人とはここまで残酷に不平等というものを形に出来るのかと思う。
ただそれを差し引いても彼女の肌はこの『魔霧の森』で過ごしていたせいか白く、そして何よりシミ一つなく透き通っていた。キャロルは卑下しているが決して魅力がないわけではなく、それこそ普通の少女にはないミステリアスな魅力があった。
「……ねぇ、騎士団長。キャロルにおっぱいはなくても君は魅力的だよって言ったらどうなると思う?」
「恐らく殺されるのではないでしょうか。私も本気のアレは相手にしたくありません」
うん、だよねぇ。そもそもそんなこと言ったら盗み聞きしてることがバレてしまうし、キャロルにばれるってことは連鎖的にヒカリ達にもバレるってことだ。
アリシアはともかくヒカリにばれたらこちらも殺されかねない。それほど乙女の話を聞くというのは罪深い物なのだ。
まぁ罪深いからこそ余計に気になるから聞くのをやめる気はさらさらないんだけどね!!!
「しっかし、本当に何度も死ぬとは思わなかったというか、死ぬことに慣れるまでになるとは思わなかった……。団長達が矯正しようとしてくれたからよかったもののそのままだったら現実世界でもぽっくり逝くところだったよ」
「短時間に何度も殺される経験をし、その経験を積み重ねて本来勝てるはずのない相手に勝利を掴んできましたからな。情報を得る為なら仕方ない、という考えをまずは消しつつ肉体を戦えるものにしていかなければならなかったのです」
それがあの地獄の鍛錬という事だ。正直あれ以上の鍛錬という名の無間地獄は思いつかないので何度もクリアしてきた自分を本気で褒めたい所だ。
「ただ、私の一つ前の団長であれば陛下をもっと上手く鍛え上げることが出来たでしょう。私以上のスパルタですが、陛下の剣才と魔力はあの方の指導の方があっている気がします」
「剣才って……僕にそんなものある?」
「なければ私に攻撃を当てることにもっと苦労していたでしょう。間違いなく貴方は戦いの天才です。それに反して精神性は戦いには向いていませんが、それは平和な人生を歩んできた証拠なのでしょう」
確かに僕は今までの人生で苦労してきたことはないように思う。それは偏に母さんが頑張っていたからで、剣王になってから仕送りをしているが大丈夫なのかたまに心配になる。
いつか仕事が一段落したら顔を見に行きたいものだ。その時は護衛とかついてきそうだけど、それはもう仕方ないと諦める。
「しかし団長がそういうってことは前の騎士団長はもっとスパルタだったってことだよね。何というか想像できないなぁ」
「女性でありながら我が国の騎士のトップに立ったお方です。陛下不在の『王戦』でも何度か代理出撃し、戦果を勝ち取ったこともある方。現在の槍王などと戦ったこともあるベテランでしたが、結婚するなり田舎に引っ越しましたな。それ以来もう見ていませんが……殺しても死にそうにないので多分無事でしょう」
「わぁ、なんというかそれ聞くだけで会いたくなる気がなくなるね。間違いなく今より酷い目に合いそうな気がするよ」
「陛下にとっては幸運だったのでしょうなぁ……」
遠い目をしているリチャード騎士団長に、恐らく今僕が経験している無間地獄の発想を彼に吹き込んだのはその前騎士団長だと直感する。マジで余計なことをしてくれたなと思うと同時に彼もまた似たような経験をしてここまでの強さを得たのだと思ったら少し親近感がわいた。
しかしこの熊のような騎士団長を上回る強さっていったいどんなゴリラみたいな女性なんだろう、その人は。
少し気になったがそれ以上に話題を変えたかったので団長とその副官さんの話に話題をすり替えていったのだった。
「ヘックシ!!……このくしゃみからすると誰か噂しているね?恐らく……あのバカ息子か。こっちから一回様子見に行った方がいいねぇ」
そのうち地獄が顕現することが確定になったことを僕はまだ知らなかった。
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!