王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

24 / 76
槍王候補

 

 アリシアに対し一方的な約束、誓いをしてから数日後。ついに剣王として公式的な初仕事が行われる日が来た。流石は王が使う馬車というべきか、乗り心地が快適過ぎる移動方法を使い会談が行われる街に向かう。

 

 今回行われる会談はヤランリ王国とソードリア王国の国境近くの街で行われる。そこには『王戦』ようの戦いの場もあり、場合によってはそこですぐにでも戦うことが出来る状況が整っている。

 

 この場所を指定したのは相手側、つまりヤランリ王国の代表者。槍王候補である彼は今日の会談後、すぐにでも戦うつもりなのだろう。

 

 それがどういう理由からかは会って話してからじゃないと分からないが。

 

「しかし本当に慌ただしいよな。王様就任後すぐ修行に入って、それが終わったら今度は会談とか」

「しょうがないよ。この会談は元から決まっていたもので、そこに後から僕が剣王になっちゃったんだから」

「そんでももう少し配慮してくれてもいいと思うけどな。こっちなんてド素人だぜ?」

 

 同じ馬車に乗っているメイド姿のヒカリはこの会談について色々と言いたいことがあるらしい。その気持ちは分からないでもないがこういうことには流された方が楽だと経験的に分かってる僕は抗わない。

 

 別に無理して抗うところでもないし、反対したらその分面倒事起きそうだからという理由もある。基本的に事なかれ主義なのだ僕は。

 

「トーマ様の初の公式的なお勤めとなります。フォローできるよう事前に決まっていた会談を利用した、というデプロン大臣の心遣いもあるのでしょう」

 

 そう言って笑顔で窘めてくるアリシアだが、それはあの話を聞いた僕から見ても自然な笑顔だった。笑顔と言っても苦笑成分が割増だが。

 

 聖女じゃない本当の彼女を見るとは言ったが僕の目玉は節穴なのか全く区別がつかない。いや本当長年続けてきて自然過ぎるんだよ、彼女の仕事っぷり。

 

 かろうじて見つけたところは意外と筋肉好きだったり、甘いもの大好きだけど人前ではあまり食べないように我慢してるけどたまに隠れて誰にも見つからないよう変装して街でお菓子を買い食いしてたり。お小遣い稼ぎに街でマジックしてお布施貰ってたりしてた。

 

 ……うん、思ったよりイイ性格してると思ったが、一番びっくりしたのはキャロルへの対処だな。ここ最近はクラリスちゃんと一緒になってやらかす気配がどんどん濃くなっていたのだがアリシアが説教したらなんかビクビク怯えちゃってたんだよね。

 

 あのキャロルが怯えるとか本当異常事態だから何を言ったのかは凄く気になる。気にはなるが藪をつついて蛇を出したくはないので深く聞く気はまるでない。

 

「おっ、あれが会談場所か。趣あるっていうか、なんか偉い奴が集まりそうな豪華な街だ。王都ほどじゃないけどさ」

「そりゃ偉い奴が複数人訪れるのが前提の街作りしてるわけだしね。言っておくけどヒカリもその偉い奴の関係者なんだからしっかりしててね?」

「分かってるって。ここ最近ずっとセバス師匠に言葉遣いとか叩き込まれたんだから。問題ありません。役割はきちんと果たします、陛下」

 

 途中からキリっとした顔で出来るメイドの雰囲気を出すヒカリにドキッとするがすぐに顔を背けて見られないようにする。いつもとはギャップがあってこれもいいと思ってしまう僕は本当どうかと思う。

 

「ふふふ、ヒカリさんは本当に多才なんですね。すぐにメイドの仕事も覚えちゃいましたし」

「やれば大抵のことは出来ますから。この程度のことであれば、陛下に恥をかかせない作法は覚えます。私は陛下お付きのメイドですので」

「お願いだから仕事以外でその口調やめて……本当やめて……」

 

 普段はしないような営業スマイルに照れてしまう。いや本当にもう無理、尊い、可愛い。今すぐ誉め言葉ならべ立てたくなるけど後々後悔するのは間違いないので自重することを決めた。

 

 緊張感とは無縁の会話をしながら馬車は進む。いよいよ僕の剣王としてのスタートを切る瞬間が近づいてきたのだ。

 

 

 

 

 

「聖女アリシア殿の身柄を要求する。こちらからは採掘場を提示する。事前に伝えてあった話に変更はない」

 

 会談が始まり開口一番にそんなことを言いだしたのは藍色のような艶のある黒髪を腰まで伸ばした中性的な青年だった。その近くには身の丈以上の黒い槍があり、それこそが彼が槍王候補だという証になっていると聞く。

 

 ヤランリ王国代表、『槍王候補』シオン・エース。それが彼の名前だ。

 

「剣王殿。貴殿がいつから『王戦』を準備していたかは知らないが、私は貴殿を認めることは決してない。一ヵ月前に見つかった、などと言う与太話を信じる程私はお人好しではないのでな」

「うん、それが事実なんだけどそれを言っても信じてくれないよね。君の中でもう結論出てるし」

 

 それが誤解であろうとなんだろうと彼の中ではもう答えは決まっているのだ。その証拠に僕の発言にも肩をすくめて今にも「やれやれ」と言いたげな表情だ。

 

「聖女を賭ける、そう話しが出てから急に剣王が見つかり『王戦』に出てくる。そんな偶然があるモノかよ。騎士を使った個人戦では私に勝てないからようやく重い腰を上げたというところか?随分と聖女殿に執着しているようだな」

「うーん、訂正してもらおうかな。僕は聖女に執着してるんじゃなくてアリシアに執着してるんだよ。聖女の肩書が欲しいなら貰って行って、どうぞ?」

 

 売り言葉に買い言葉、この類の相手に言い負かされればその後の流れは持っていかれる。というか言い返して行かないと僕の後ろに立っている銀髪メイド幼馴染さんが爆発しかねない。

 

 わざわざ振り返ってみなくても分かる。絶対無表情でキレてる顔してる。我慢の限界が来たら迷わず襲い掛かる、そんな決意をひしひしと感じる。

 

「ふん。噂通り一ヵ月前まで片田舎の平民だったというのならそのような言い回しを出来る教育は受けていないはずだ。それこそ貴殿が以前から剣王であり、『王戦』から逃げ続けてきたことの証となる。以前から会談の仕方の勉強だけはしてきたか?」

「あははは、なんで僕が『王戦』から逃げなきゃならないのさ。君みたいな失礼な奴な上に格下から逃げる理由なんて皆無でしょ?わざわざ国益を無視して君ごときから逃げるなんてそれこそ無駄じゃないか」

 

 あちらは本気かどうかは分からないが、僕のこれは煽りであり事実ではない。実際戦ったら実戦経験の差と鍛えてきた年月の差でこちらが不利になるのは間違いない。

 

 僕も騎士団長相手に何割か勝てるまでは行けたがそれは慣れた相手だったから。鍛錬の後半から始まった騎士団長が今まで戦ってきた強敵シリーズにはボロ負けした。1割も勝てなかった。

 

 ただまぁ喧嘩腰で交渉に臨まれたのならこちらも強気で返すしかないのだ。というかなんであちらの側近は止めたりしないのだろう。怪しいとはいえ他国の王相手に言っちゃいけないことのオンパレードだと思うんだけど。

 

「……貴殿がどのような人間かはわかった。ではこうしようか。こちらは採掘場以外に我が身も賭けよう。貴殿が勝てば私をどう扱おうが自由にすればいい」

 

 いやなんでそこまでするの。本当に意味が分からなくて困惑するんだけど。

 

 横目で見た同行していたデプロン大臣も絶句してるじゃん。これ絶対今決めた奴でしょ。相手が見てる前で相談をするわけにもいかないし、これは僕が考えないといけないのか?

 

 しかし考えてみても賭ける物が釣り合っていない。こういうことは天秤が釣り合わないといけないと思うのだが。しかもなぜかあちらがどんどん賭ける物を重くしていってる。

 

 僕個人の感情を抜いて考えるが、こちらが差し出すものは後から面倒事が増える可能性が高いが後継者を作ることも出来る聖女一人。対してあちらは貴重な魔法石が採れる採掘場と槍王最有力候補、つまり後継という事になる。どう考えても釣り合ってない。

 

 何か狙いがあると思うが、その狙いが何かわからない。情報が足りなすぎる。だけど相手から情報を引き出すには僕の口はそこまで上手くはない。

 

 ぶっちゃけアリシアを賭けるという時点でもうこの席を立って出ていきたい気持ちが大きい。それをしないのは後ろで僕以上にブチギレているヒカリがいるから。彼女が僕の代わりに怒ってくれるお陰で僕は冷静さをかろうじて維持することが出来る。

 

「僕の底を見抜いた、なんて言ってるけど君程度じゃ僕の底なんて見えないって。人はそこまで単純じゃないし、一目でわかる人間なんていないよ」

「世の中そのように深い者ばかりではないという事だ。底の浅く、欲に塗れた存在も多い。貴殿のようにな」

 

 うーん、なんというかこう、個人的な憎悪を感じるんだが。僕は彼と初対面だし、何かした覚えはない。剣王になる前もなった後も何かした覚えがないのになんか凄い憎まれている。今もすごい睨みつけられているし。

 

「まぁどれだけ条件を釣りあげられようとアリシアを賭けるなんてことはしないから。他に要求するものはないの?」

「挑まれた勝負から逃げるか。それでも王だと?」

「一番大切で育てるのが大切な人材という宝を守ろうとしない方が王としてどうかと思うけど?僕や君みたいなのがその立場にふさわしい生活をするのにどれだけお金をかけてると思う?知ってたらそんなこと言えないと思うけど」

 

 いや僕も適当言ってるだけで詳細は知らないのだが。デプロン大臣の書類の手伝いを徐々に始めていたが見えるお金の額がとんでもないレベルで震えてきたのは覚えている。

 

 だが、なんとなく読めてきた。彼はとにかく僕との『王戦』をしたいのだ。それが彼自身の意思か、それ以外の誰かの意思が介在しているかはわからないが。

 

 新しい剣王の力量を調べるのが目的か。その為なら次期槍王候補が消える可能性を考慮していいと思っているのか。そこまで僕の情報に価値があるとは思えない……が通信技術はあまり発展してない世界だし、そういうこともあるのかもしれない。情報が値千金の価値を持っている可能性もある。

 

 もう何を考えても情報が足りな過ぎて妄想にしかならないので思考を打ち切ろう。分かってることはただ一つ、シオン・エースは僕との戦いを望んでいる、それだけだ。

 

「そもそも『王戦』なんて最終手段で話し合いで決められたならそれでいいと思うけどね。採掘場は欲しいけど絶対ってわけじゃない。そちらにとっても大きすぎる痛手を被るでしょ。僕の初仕事なんだしもう少し手加減してくれてもいいと思うけど」

「……この決定は私ではなく槍王陛下の決定だ。私の一存で変えることは出来ない」

 

 また分からなくなってきた。なんで槍王はこんな状況を作り上げようとしてるんだ?というかそもそも僕が剣王になる前からこの状況を作り上げていたわけで。

 

 そんなにアリシアが必要なのか?でもそれなら槍王本人が出て来ればいいのに、本当に何を考えているのかわからなくなってきた。

 

「………………いいでしょう、お受けします」

 

 悩む僕を無視してそう言いだしたのは、賭けにされている本人であるアリシアだった。

 





評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。