王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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王戦の始まり

 

「これ以上話し合ってもお互いに譲ることはないでしょう。こういう場合の『王戦』だったはずです。互いにどうしても譲れないとき、可能な限り平和的に場を収めるための制度」

 

 『王戦』を受けると宣言した彼女ははっきりと聖女の仮面を被っていた。気丈に重ねる言葉は聖女らしさにあふれていて、それは素晴らしい献身に見えるだろう。

 

「私の処遇でこの場が収まらないのならば、トーマ様には悪いと思いますがこうするしかありません」

 

 困ったような笑顔を作って、それを僕に向ける彼女はこの場にいる全員を想っての提案をしているのだろうと見た人に錯覚させる。

 

「私は自らが諍いの種になることを望みません。それでもそうなってしまうのであればこの方法が一番問題がなく、後に続くと思うのです」

 

 それは本心じゃないだろうと叫びたい。自分が聖女として利用されることを君は嫌がっているのだろうと叫びたい。こうなってしまった自身の未熟さを呪いたくなる。

 

 それでも場は動く。動いてしまった。もうこの流れは止められないと確信してしまう。

 

 『王戦』は元来この為にあるというのも事実であり、これ以上の交渉は無意味というのもまた同じく真実だ。

 

「ヤランリ王国とソードリア王国。両国の友好的な未来の為なら私はこの身を捧げられます」

「ふざけんな」

 

 ああ、駄目だと思うのに言ってしまう。彼女がここまでしたのはこれから先を考えても間違いなく最優の選択だというのに。

 

 それでも僕はそれを否定したい。この流れを作ったヤランリ王国の人間も、それを止められない僕自身もイラつくしムカつくし憤りを感じている。

 

「そんな風に考えてる奴の身柄なんか何の価値もない。どうなっても別にいいなんて思ってる奴には何も変えられない。自分がどうしたいかもわからない奴に何かを決められるなんて僕は絶対嫌だ」

 

 だけど僕が一番今腹が立っているのはアリシアに対してだ。絶対に嫌だった聖女の役割を完璧にこなそうとして、嘘で塗り固めた笑顔でいる彼女に腹が立って仕方がない。

 

 悲しいなら泣けばいい。苦しいならそう言えばいい。僕のようにずっと笑顔でいるとそう決めたわけじゃないだろうに。

 

 いつまでも瘦せ我慢が続くほど人間は強くはないのだから。

 

「だから君の未来は僕が決めることにする。『王戦』をやろうか、シオン・エース。勝っても負けてもお互いに恨みっこなしの尋常な決闘を」

 

 君が背負おうとしてる物を僕が少しでも肩代わりする。この世界にはいない主人公の代わりを出来るとは思わないし、なれるとも思わない。

 

 それでもせめて、彼女が自分の意志で歩けるように。聖女であってもなくても君は素敵なんだって伝える為にこの場で勝とう。

 

 アリシアが彼女のエゴを押し付けるというのならば、僕もまた自身のエゴを押し付けるまでだ。

 

 そして自分の押し付け合いにおいて僕の右に出る者などいない。

 

「準備時間は2時間。2時間後、この街の中心にある闘技場にて貴殿を待つ」

「それでいいよ。とりあえず国を離れる準備をしておいてね」

 

 さぁ、それじゃあ始めよう。僕の初めての『王戦』を。

 

 

 

 

「なんであんなこと言ったの」

「あの場でも言いましたが、それが最善だと思ったからです」

 

 会談は終わり『王戦』の準備をお互いの国の人間が行っている。今回は一対一の真っ向勝負。フィールドもオーソドックスな物になる。それはつまり実力が諸に出るという事で、本来ならば少しでも対策に時間を使いたい。

 

 それでも僕はアリシアに詰め寄った。周囲には何かあった時止められるようにヒカリがいる。メイド姿だがそんなもの気にせずいざとなれば僕を止めてくれるだろう。

 

「私一人を賭けることが出来ずにこれから先やっていくつもりですか、剣王様」

「やっていくつもりだよ。それが僕の果たすべき責任であり義務だ。だけどその分権利だって持っている。今回の君の行動は越権行為だよ」

「今回の『王戦』は剣王様の土台固めにちょうどいいでしょう。相手だって勝てば手に入るモノだってそれら全て破格の条件です。私が言い出さなければそのチャンスも不意になっていたと思えば」

「誰か一人の行動で救われるような国ならそのうち足元掬われて土台から崩れていくよ」

 

 彼女はため息を吐く。これまでに見たことのないその気怠げな顔が自分の本性と言わんばかりに。

 

 そんなものが本当だと思っているなんて本当にアリシアは自分のことを知らないんだと思った。

 

「剣王様、私は聖女です。聖女として生きて来てそれ以外の生き方を知りません。だからこうするのが『聖女』として正しいのだと思ってます」

「何が聖女としてしか生きられないだよ。フード被って変装してるつもりになって、お小遣い稼ぎに街でマジックしてお布施貰ってたりしてたくせに」

「は?えっ、マジで?アリシアそんなことしてたの?」

 

 僕の言葉にヒカリが大袈裟に反応する。ただ気持ちは凄く分かるので今は黙っててほしい。そんなにアリシアを凝視しないであげてくれ。この時点でもう真っ赤になってるし。

 

「な、なんで、それ」

「いや結構気付いてる人多かったよ。りんご飴の屋台のおっちゃんなんか嬉々として話してくれたもん。みんな気付いてて気付かぬふりしてくれてたよ?」

「そ、そんな……へ、変装だってちゃんと!!」

「アリシアはもう少し自分の容姿考えた方がいいと思うよ?そんな可愛い上に声も綺麗で目立つのに髪型変えて服を着替えた程度じゃ誤魔化せないって」

 

 今までもなんとなくそうじゃないかと思っていたけど彼女は間違いなく天然だ。アレで誤魔化せてると思っているのがその証拠だ。もしくは箱入り娘というべきか。

 

 というか彼女はよく人助けをしてる。聖女として頑張ってる時も、変装(笑)している時も転んだ子供を見かけたら必ず声を掛けるという。そのおかげで彼女の王都での人気は非常に高い。

 

 さらに言うなら王都だけじゃなく周辺の村にも巡礼という事で治癒の旅を行っているのでその時の患者さんとかその家族からの人気もえぐい。それこそ彼女を『王戦』の賭けにしたら下手した場合一揆でも起こりそうだ。

 

 出来立てほやほやの剣王なんかより、ずっと助けてきてくれた『聖女』……いや、アリシアの方が彼らにとっては大切なのだから。

 

「そんな、私一人だけでそんなこと、起きるわけ……」

「そうだね。普通は起きないだろうさ。ただの聖女を賭けて、それで負けてもそこまでの反感は買わないよ」

 

 ではなぜ、今回はそんな危険が出てくるかと言えばその答えは簡単だ。

 

「君がやってきたことをみんな見てたんだよ。聖女じゃない君がやってきたことを、聖女の君がやってきたことを。両方の姿をずっと見てたんだ。君の言葉に、行動に、心に感謝してアリシアのことを好きになっていたんだ」

 

 彼女は言った。聖女じゃない自分なんて求められてないんだと。

 

 僕は断言できる。それは違うと、彼女のことを大好きな人達の代わりに僕が伝えよう。

 

「みんな聖女だから君を好きになったんじゃない。そんなこと関係ないくらいのことをしてきたから好きになったんだ」

 

 彼女がもし聖女じゃなかったとしても、同じ才能があればきっと今と同じことをしていたと断言できる。それだけ彼女は優しくて、他人のことを心配できる人だから。

 

「ち、違います。私はそんな人間じゃなくって、だって私は、貴方のことを怖がった。あの森の中で、血塗れになっても片目をなくしても、戦おうとしていた貴方を怖がって、その強さが羨ましくて妬んで!!そんな人間が、聖女になんて……」

「でも君はそこから目を逸らさなかった」

 

 見たくなければ見なければいい。目を逸らしたって彼女が責められる謂れはない。自分でもそれくらい凄惨な戦い方をしていたという自覚はある。

 

 死なないこと、それ以外の全てをかなぐり捨てて、アリシアの光魔法による治癒を当てにして戦った。

 

「私が、あの夢を作ったんです。魔法で、みんなの夢を繋げて。貴方が傷ついたのは」

「僕が弱かったからだ。君のせいじゃないし、もうあんな怪我はしない」

 

 そうだ、彼女の悪い所なんてどこにもない。アリシア自身が勝手に罪悪感を抱いていることだ。でもそれは傲慢だ。

 

「全部が全部自分が悪いなんて思わないで。一人で背負えるものなんて限られてるんだから。重いなら重いって言ってくれ。疲れたならそう言ってくれ。僕は馬鹿だから言ってくれないと肩を貸したり、手を差し伸べることさえ出来ない」

 

 アリシアの表情は俯いたままで見えない。彼女が何を考えているのかは僕にはわからない。それでも言葉は届いてると信じてただ語り掛ける。

 

 せめて僕の本音を、誤解されないように。それを伝えることだけが僕に出来ることだ。

 

「アリシア。僕は君と友達になりたいと思って、あの日一緒に王都を回ってほしいって言ったんだ。聖女だろうが聖女じゃなかろうが関係なく君と。僕の話に付き合って、色々と話してくれた君と」

 

 あの運命の日に出会った僕らは、今は剣王と聖女だけれど。それでもあの日あの時、出会ったばかりの僕らはただの友達だった。肩書なんて関係なく、ちゃんとお互いを見れてた。

 

「もう僕は行くけど、最後に一つだけ言っておくね」

 

 何を言うべきかわからずに長々と語ってしまうのは悪い癖だ。そのせいで話がとっ散らかって何を言いたいかが分からなくなってしまう。本当に、色々と言いたいけれど最後くらいは一言だけで済ませよう。

 

「僕は他の誰でもない君と一緒にいたいよ」

 

 返事は怖くて聞けない。彼女が聞こえているかどうか顔を見て確かめることも出来ない。彼女が強いと言った僕は女の子の気持ち一つ向き合えない弱い奴で、彼女の認識と違うけれど。

 

 それでもせめて格好つけるくらいのことはしたいと聖剣を強く握りしめていた。

 

 





度々難産になる話が出てくる……

いや本当マジでこういう話は書くの時間かかって困るんだよね……



評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!

出来ればお気に入り登録もぉ!!!!!!
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