王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
「僕は他の誰でもない君と一緒にいたいよ」
そう言いのこし、彼は『王戦』が行われる闘技場に向かいました。その場に残ったのは私と、何故か残っていたヒカリさんだけ。
当然先程の会話を聞いていたのも私達三人だけでした。
「アイツ、本当馬鹿だよなぁ……」
ヒカリさんがしみじみと呟いています。それは本当に実感の籠った言葉で、それだけでこれまで似たようなことを言われてきたのだと分かりました。
「アタシはさ、トーマとアリシアがどんな話してたかは知らない。でも一つだけ言えるのはアイツはいつも本気で言ってることだけ。それだけは絶対にあってるって思ってる」
そう言って静かにほほ笑むヒカリさんは同性から見てもとても魅力的で、その笑みを作ってるのはきっと彼なんだと分かって。
彼は、トーマさんは剣王になる前もなった後も何も変わってないんだとようやくわかりました。
「トーマはもう自分で決めたからアタシは何も言わない。言ってもアイツは変わらないし変えようともしない。だけどアリシアは違うから」
そうです。私はトーマさんほど強くない。一度決めたらもう揺るがないあの人ほど強くないから、ずっと『聖女』として生きてた。
『聖女』を続ける勇気も、やめる勇気も私にはない。それでもトーマさんは私と一緒にいたいと言ってくれた。聖女でも聖女じゃなくても、「私」と一緒にと。
それがどれほど嬉しかったかきっと彼は分かっていないんです。
だって、それが一番欲しかった言葉なんだから。全部吐き出した後にそんなことを言われて、嬉しくないはずがないです。
「言っとくけどアイツめんどくさいから、そこは気を付けなよ?」
「……ヒカリさんが思ってるような感情はないですよ。そこまでチョロくないですっ」
「そうかよ。それじゃあそう言う事にしておいて……どうする?見に行くか?」
そうです、この程度でどうにかなるほど私の乙女心は安くはないはずです。
それでも言わなければいけないことを私は何も言えてない。彼が伝えてくれた言葉の十分の一も伝えれてない。だから私は見に行かなければならない。
私の言葉が作ったこの戦いの行く末を、彼だけに背負わせるのはずるいと思うから。
いよいよ『王戦』が始まる。もう逃げ場はない、やるしかない状況だ。心臓はバクバクいって今にも爆発しそうだし、聖剣を握った手は力の入れ過ぎで痛くなっている。
一本一本意識して指の力を抜いていく。ゆっくりと、何の為に戦うのかを思い返しながら。
昔からゴチャゴチャ考えるのが嫌いだ。それでもこれは必要な作業だと言えるだろう。戦う理由がきちんとしていれば案外頑張れるものだと『魔霧の森』での鍛錬で学んだ。
「ふぅ……よし」
僕は僕の我儘のために戦う。誰かの為じゃなく、僕の欲望のために戦う。戦う理由に誰かを使うことはしない。
僕はヒカリと約束した。彼女が笑えるよう、ずっと笑っていると。ここで負けたらきっと彼女は泣くだろう。せっかく出来た友達と離れてしまうのだから。
僕は騎士団長の頑張りに応えたい。今まで彼はこうやって各国の王と『王戦』を行い敗北し続けた。王とはその国最強の存在、いかに彼と言えど勝利することなどほとんど出来ない。王には専用の魔道具があったりするからだ。負け続けた彼が各国に何と言われているか想像はつく。その評価を絶対に覆す。
そして何より僕はアリシアとまだまだ一緒にいたい。彼女のことをまだまだ全然分かってないから、これから知っていきたいと思うから戦う。聖女の君も、聖女じゃない君もどちらも君自身で、どちらも素敵なんだと言わないといけない。言いたいことが山ほどある。それを言うまで負けるわけには絶対に行かない。
「うん。思ったより戦う理由、あるじゃないか」
理由があるなら剣を握れる、剣を振るえる。
負けることなど一切考えずに、ただ勝つことだけを考えて。
≪それではお待たせいたしました!!!!ただいまよりソードリア王国とヤランリ王国代表による『王戦』を開始いたします!!!!!≫
音響装置を使った大声が聞こえてくる。この世界の人にとって『王戦』とは一種の娯楽であり、それを見れるのを楽しみにしている人が多い。
にしても音響装置まで作れるとか魔道具って本当万能だよね。
≪ソードリア王国代表、剣王トーマァアアアアアアアアアア!!!!!!≫
実況の人の言葉に合わせて闘技場の選手部屋から舞台に向かう。大きな歓声が聞こえてくるがそれ以上に気になるのは『王戦』を行う舞台だ。
どうやら場外で勝敗を分ける……なんて甘い考えはなく、闘技場内全てが戦いの場なのだろう。いわゆるコロシアムをイメージすれば大体目の前の光景になると思う。
違いというか目立っているのが闘技場の中心を囲むように、上から見れば正方形の四隅になるように鎮座する巨大な石柱だ。闘技場は広いからあんまり邪魔にはならないだろうがこれは何かに利用できるかもしれないので戦術に組み込めるよう覚えておかなければ。
「剣王様ぁアアアアアアアアアア!!!!!!」
「500年ぶりに登場した二代目がどんなものか見物だな!!!」
「でもあの子成人したてじゃないの?」
「そんなの関係ないって!!!剣王って言うんだから絶対強いよ!!!!」
「俺さ、前王様同士の『王戦』見たけどマジですごかったよ!!!!」
聞こえてくる声が気になり目線を上に向けてみれば僕を見る多数の目が存在し、彼らは熱狂している。魔道具はあり、生活が楽になっても娯楽がないというのは辛いものなのだろう。
僕は犬と猫のカップルを観察しているだけで一日過ぎたりすることもままある事なので彼らよりはきっと平和な趣味をしていると言える。見られていることに辟易としながらそれを表に出してはいけないのが王様の仕事という奴だ。
ついでにファンサービスとして聖剣を抜いて空に向かって掲げてみた。めっちゃ歓声が上がって耳が痛くなった。
≪続いてぇ、ヤランリ王国代表!!次期槍王最有力候補シオン・エースぅうううううう!!!!!≫
僕とは逆方向から闘技場に姿を現したシオンは既に臨戦態勢。いつでも飛び出せるように全身に力を入れている。
「随分と余裕そうだ。貴殿が羨ましい。敗北してなお失うもののない貴殿がな」
「ナチュラルに除外してるけど僕が負けたらアリシアが奪われるんだろ。彼女がいなくなったら僕のメンタル的にキツイって分かって言ってる?」
『魔霧の森』から出てきた後も毎日のように僕は扱かれている。それは基礎訓練を中心としたものだけどその密度は普通の騎士の五倍くらいだ。
それを毎日のように繰り返し、その度に彼女が僕を治癒してくれている。肉体的にも精神的にも彼女のお陰で僕は健康でいられるという事だ。
「貴殿は分かっていない。『聖女』とは軽々しく与えられる称号ではない。ソードリア国内だけであっても『聖女』を名乗れるその治癒能力。それがどれほど希少なものかを。怪我だけでなく病さえ治すその力の意味を。国家間でどれほど有益に取引できるかも」
アリシアはあくまで『剣王教会』、つまりソードリア国内の宗教内での聖女だ。だから他国に行ったら聖女ではなくなる……なんて少しだけ期待したが甘すぎる考えだった。
僕が負けたら彼女は今度こそ政争の道具にされる。生まれ持った力のせいで、何もかも他人に決められる生活が待っている。それは生きてると言えるのだろうか?
「この戦いは貴殿の実力を測ると同時に『聖女』を取り込むことが第一目的だ。彼女を大人しく引き渡す、というのであればこの『王戦』最終的に負けても」
「それ、僕の大切な人を売れって言ってるようなもんだって理解してるのかな?理解していってるなら挑発として満点だし理解してないなら君の脳みそはどうやらスポンジのようにスカスカらしい」
その鬱陶しい長髪全部刈り取ってあげようか?頭がすっきりして日の光を浴びれるようになれば何も考えてなさそうなその脳みそにも栄養が行くのかな?
「歓声で聞こえてないだろうからってそういうことを言いだすのが既に人を舐めてるし。そもそもその取引って僕が君に勝てる実力がないことを前提にしているし。そして何よりムカつくのが僕の大切な(友)人を物扱いしているって事実だ」
実に不愉快極まりない。なんでこうも人の怒りのボルテージを上げていくのだろうか。
そんなに僕が怒っても怖くないと思ってるの?ヒカリでさえ僕を怒らせようとは思わないのに?
「もうなんでもいいよ。早く始めて早く終わらせよう。こうやって言い争いして無駄な時間を使うのも不愉快だ」
「…………もう少し賢いと思っていたのだがな。買い被りだったようだ」
「真夏にマフラー売りに来るような馬鹿な商人相手にそんなものに金払えるかって追い返したのと同じだと思うんだけどなぁ」
つまりお前は真夏にマフラー売りに来る馬鹿だと言ってるわけで。当然それに気付いたシオンはただでさえしかめっ面の顔により深い皴を刻んでいる。
対して僕の表情は穏やかだと自己認識しているが、内心はらわたが煮えかえっている。冷静に現状を把握しようとしてやめた。こういう時は考えるよりも直感に任せた方がいいと相場は決まっている。
≪さて、それでは両者準備が出来たようです!!!『王戦』……開始ィイイイイイイ!!!!!≫
「オラよぉ!!!!!!」
「っ!?」
開始の合図が鳴ると同時に片手で持った聖剣に魔力を込めつつ力いっぱい、今の僕の最速でシオンの顔面目掛けてぶん投げる。
まさか僕が唯一の武器を投げるとは思っていなかったのだろう。驚愕の表情を隠せず、それでいて長年鍛えてきた身体が反応し聖剣を避ける。
その聖剣とほとんど同時に迫っていた僕の拳を避けることは出来なかったが。
「ゴッ!?」
聖剣に『闇星』を纏わせ僕のみを引き寄せる引力を発動。聖剣に引っ張られる力と目一杯の脚力をつぎ込んだ加速によりシオンの意表を突き先制攻撃に成功する。
ただそれでも流石は次期槍王、槍で防ぐことは間に合わなかったが狙った場所とは違う場所に当たる。僕は顎を狙って一撃で脳を揺らそうとしたのだがそれだけは許さないとばかりの反応によりズレた場所を殴ってしまった。
それでも若干殴られた影響はあったようで動作が緩慢になる。投げた聖剣に追いつき握りしめその力を解放する。第二能力によって引き上げられた身体能力で中央付近にある石柱の内一本を駆け上がる。
石柱の上まで登り切り、即座に僕を探しているシオンに対して飛び降りながら聖剣を振り下ろす。当たる前に気付いた彼は焦った顔で槍を使い聖剣を受け止める。
「猿か貴殿は……!!」
「これでも故郷じゃ野生児って呼ばれてたよ……!!」
最初のスタートダッシュは僕がとった。このまま流れを掴んで一気に勝負を決める……!!
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!
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