王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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剣王の実力

 

 『王戦』では万が一にも対戦者同士が死なないように魔道具による仮死化が行われる。腕のいい治癒魔法使いがいれば終わった後何の後遺症も残さずに復帰できる優れものだ。

 

 これがある限り滅多なことでは死ぬことはない。それはつまり、お互いに何の遠慮もなく武器をぶつけ合うことが出来るという事だ。

 

「オラァ!!!」

「チッ!!!」

 

 剣と槍がぶつかり合って火花を散らす。僕もシオンもまずは様子見なのだろう。お互いの技量、身体能力を確認していく。間合いをとらせないように接近戦に持ち込みつつ、有利な距離であるにも限らず攻め切れないことで技量はあちらが上だと確信する。

 

 剣と槍、二つの武具のつばぜり合いが崩れるのは時間にして5秒くらい経つか経たないかくらいだろう。実際はどうかは分からないので、あくまで体感的な話だが。

 

「ツアッ!!!!」

 

 こちらが少し腰を引いたと判断した瞬間、シオン・エースは力を思いきり込めてこちらを押し返そうとする。身体能力は聖剣によるブーストをかけているこちらが上だという事は短いつばぜり合いの中でお互いに理解したからだろう。

 

 とにかく距離を離したい。そう思っての行動だと思う。槍と剣では間合いが違い、よーいドンのある程度距離が開いてる状況ならば槍の方が有利に戦える。

 

 何せこちらの剣が届かない距離でも関係なくあらゆる方向から突く、薙ぐ、他にも様々な攻撃方法で一方的に殴ってこれるのだから。

 

 だがこの近距離では彼の槍捌きを十全に発揮できない。だからこそ弾き飛ばせるタイミングを逃さなかった。

 

「それはこちらとしても助かるけどね」

 

 シオンの押し返す力に逆らわず、逆に利用するように足に思いきり力を入れて後ろに飛び下がる。彼の持つ槍もまた魔道具なのだろう。でなければ最初の一撃を受けきることなど出来るはずがない。

 

 とはいえ間合いを取れば勝てるなんて思われるのも面白くないし、あのつばぜり合いが続いた場合体力が先に尽きるのは僕の方だろう。

 

 相手は十年近く鍛えてきた槍王候補、僕は約一ヵ月前まで酒場で酔っ払いの相手をしていた平民。基礎体力が違う為長丁場になればこちらに不利になる。

 

「だからこそ、焦らずに行くよ」

 

 思いっきり後方に飛び下がり、着地と同時に四本の石柱の内近くにあった一本の後ろに隠れ、再び石柱に聖剣をぶっ刺しながら上まで駆け上る。

 

「何度もそのような手に!!!」

 

 当然二度目なら対応もしてくる。手に持った槍とは別に、短槍と表現しそうなものを駆け上がっている僕に向けて投げる。それは正確にこちらに向かってくる。

 

 なるほど、一ヵ月前までの僕ならここで突きさされ標本にされた虫のように石柱に突き刺さっていたところだろう。

 

「悪いけど、この程度は見慣れたよ」

 

 聖剣を突き刺して一時停止し、こちらに向かってくる短槍を掴み取り、その力を殺さないように倍速で投げ返す。片手でこの程度をこなせる器用さがなければリチャード騎士団長との文字通りの死闘で何度死ぬか分かったものじゃない。

 

 投げ返されるとは思っていなかったのかその場から下がることで回避するが、その隙に頂上に上った僕は一気に石柱を駆け下りて加速する。

 

 聖剣の第二能力に寄る身体強化がなければ決して出ない速度のままぶつかるようにシオンに渾身の突きを放つ。

 

 短槍を避けることに意識を向けていた彼は僕の全力疾走に反応しきれず、それでも肩を掠める程度の負傷でその場を切り抜ける。

 

「こんな速度いつまでも続くわけが―――――!!!!」

「うん、続かないね、十分程度しか」

 

 常に全力で動くことを強いられ続けたあの鍛錬で文字通りの全力疾走できる時間は跳ね上がった。魔力を使用しなければ1時間だろうと走り続けれる。今のように加速している状態も聖剣による強化と合わせればこの速度を十分は保てさせれる。

 

 その後は一分も動きを緩くすれば大体は回復しているのであんまり気にせずに突っ込むことにする。

 

 現在シオンは闘技場の中央にいる。出来る限りその場を動かさないように調整していたのだから当然だが。

 

 そしてその中心から等間隔に四方向に石柱が存在し、つまり彼を囲むような状況になっている。

 

「ここからは」

 

 加速した速度を維持しつつ四本の石柱に『黒星』を仕込む。引き寄せる対象は僕のみ。そしてこの魔法は仕込んだままオンオフが出来る。

 

「僕の」

 

 石柱全てに仕込みを終える。この四本から強烈な僕のみを引き寄せる引力を持つ魔力が仕込まれた。

 

「時間」

 

 それはつまり、現在の身体強化だけでは届かない速度域からさらに加速することを意味する。

 

「だ」

 

 その言葉と同時に闘技場の中央で火花が散る。金属同士の高い音が鳴り響く。一撃ではなく連続で、まるで打楽器をリズムも何もかも無視して叩き続けるようになり続ける。

 

 石柱から石柱へと駆ける。その瞬間『黒星』の引力をオンにし僕を引き寄せさせ加速しながら聖剣をシオンに叩きつける。

 

 この速度が予想外だったのか受けることしかできない彼はまるで自動車にぶつかったかのように吹き飛ばされる。

 

 シオンが体勢を整える前に再び石柱から別の石柱へと駆けだす。『黒星』の引力をオンにすることでさらに速度を上げる。脚の回転数が上がりギリギリ回せるかどうかまで行く。

 

 それでも行ける。行けなければ死ぬという強迫観念が身体を無理矢理動かす。後日酷いことになりそうだったが今この時を乗り越えることが出来れば構わないと考えた。

 

 ギリギリ、本当にギリギリで回避し続けるシオンだが次第に速度について来れなくなったようで身体中に細かい傷を付けていく。それでも致命傷を避け続ける辺り彼の修練は本物なのだと言わざるを得ない。

 

 そしてその表情には焦りはあっても諦めはない。この状況がそう長くは続かないと考えているのだろう。実際その読みは正しいし、僕自身も初めてのやり方で非常にコントロールが困難になっている。

 

 だが少しでも速度を落とせばシオンはそこを狙ってカウンターをいれてくるだろう。聖剣の力によって強化された僕の直感がその未来を見透かす。

 

「死中に活を求める、って慣れちゃいけないと思うけど!!!」

 

 だからこそ、その一撃を僅かに速度を落として叩き込む。狙い通りに速度を落としたとシオンは判断したのだろう。僕の速度に合わせて槍を突き出す。顔を狙ったそれに首をかしげ避けほんの少し頬を傷つける。破滅的な速度から少し緩めたと言ってもこの速度で避けきることは出来ない。

 

「恐怖はないのか!?」

「あるけど関係ないね!!!」

 

 恐怖で動けなくなれば待っているのは確実な死だと知っている、身体で学んできた。恐怖は身を竦ませる、それを意志の力でねじ伏せて聖剣をねじ込む。

 

 シオンの纏っている鎧に聖剣がぶち当たり甲高い音が響く前に振りぬく。聖剣は鎧を切り裂きその下にあるシオンの胸の付近を斬りつけて血を噴出させながら、彼の身体を吹き飛ばして石柱へと叩きつける。

 

 大きな激突音と共に瓦礫と煙が舞い上がる。不自然なほどに巻き上がった煙によって視界が塞がれて、周囲のどこから襲われるか分からない為即座にその場を離れ、一本の石柱の上まで駆け上がる。

 

 上から見下ろせば闘技場全体に煙が立ち込めている。僕の直感が嫌な予感がすると警報を鳴らしている為、恐らくシオン・エースのなんらかの策なのだろう。

 

 駆け回ったせいで上がった息を整えつつ、煙が落ち着くのを待つ。その間も警戒は決して怠らず、視線は煙の中にいるシオンに向ける。

 

「――――なぜ、そこまで破滅的な戦いをする」

 

 煙の中からシオンの声がする。破滅的な戦い、確かに自分の体力を削りながらカウンターを誘発してその隙を狙うという戦法は戦っている側からしてみれば何の恐怖もないように、心を殺しているかのように見えるかもしれない。

 

「貴殿はそこまで無茶な戦いをするのか。一歩間違えれば頭を一突きにされ、仮死状態とはいえ死ぬかもしれなかったというのに。『聖女』がかかっているからなのか?」

「『聖女』じゃない。賭けられているのはアリシアだ」

「同じことだろう。貴殿が『剣王』であるように、彼女が『聖女』であることは変わらない」

「確かにアリシアは聖女だよ。だけどアリシア=聖女じゃない。彼女が聖女じゃなかったとしても僕にとっての価値は何も変わらない」

 

 煙の中から僕を見上げながら語りかけてくるシオンの声は心底から不思議そうで、それがどうしようもなく心を苛立たせる。

 

 なんで彼女をその力の希少性だけでしか見られないのか、それこそ僕には不思議で仕方がない。

 

 あんなに他人のことを想えるくせに、自分のことを綺麗だとは思えないその高潔さが何故わからない。

 

「先ほども言ったが彼女の価値を私は分かっているつもりだ。いや、私だけではない。彼女の価値を他国の上層部は知っている。重い病さえ完治させるその治癒魔法は、上手く使えば『王戦』を行わずとも取引に使える。その価値は計り知れない」

「それは『聖女』の価値だろ。アリシア自身の価値を、お前たちはどこに見出してる」

「何度も言わせないでほしい。彼女の価値とはその治癒力と」

「力の価値を聞いてるんじゃない!!!!!彼女自身の!!あの子の心や行い、その価値を聞いてるんだよ!!!!」

 

 話が通じないことに、いい加減はらわたが煮えくり返る。堪忍袋の緒が切れる。脳みそが燃えるような怒りが滲みだす。

 

 あんな目を向けられ続けたから、きっと彼女は『聖女』であること以外の自分の価値を信じられなくなったのだと分かった。それがアリシアを縛る鎖になっていると分かった。

 

「さっきから聞いてればアリシアの力だけを見て何をしてきたか、何を想っているのかの説明が全くない!!彼女の真価はそこにはないってことを全く理解してない!!!その治癒力を一切自分の為に使わずに他人に施せるその心こそが最も価値があるという事が分かってない!!!!」

「それは彼女に余裕があるからだ。余裕があるからこそ優しさという余分が生まれる」

「目の前で友達がズタボロに死にかけにされながらそれでも抗ってる姿から目を逸らさず、戦ってる二人を止めようとした時のあの子にそんな余裕はなかったよ!!!!」

 

 そうだ、あの時ほとんど見えない視界の中でほんの少しだけ見えたのは、彼女が震えながら、それでもこれ以上は無茶だとリチャード騎士団長に鍛錬を止めるよう言っていた姿だった。

 

「治すしか出来なくてごめんなさい、そんなことを言われたことだってあった。それがどれほど助けになっていたのか彼女は分かっていなかった。謝る必要なんてなかったのに傷ついた誰かを想って謝ることを止められなかった。それがどんなに凄いことか想像がつかないから聖女の力だけしか見られない」

「……もし仮に、貴殿の言う事が正しいとしよう。だが何故そこまで貴殿は彼女に心を砕きそこまで怒る?」

 

 そんなこと、当然のことだ。あの子が背負っているモノを考えることが出来れば。

 

「年老いたご老人が重い荷物を背負っていたら声を掛けて助ける。幼い子供であっても同じことを僕はする。じゃあその重い荷物を背負っているのが成人したての女の子だったらどうする」

「……いきなり何の話を」

「僕はただ、責任って言う重い荷物を背負って頑張ってる女の子を助けたいだけだ。その女の子が大切なら、尚更助けたい」

 

 目の前で苦しんでいる彼女に対して僕は何も出来なかった。伝えた言葉は彼女の心に届かず、結局はなかったことになる。言葉だけじゃだめだ、それじゃあ伝えきれない。

 

 だから行動で示す。それしか思いつかないから、せめてその姿で伝わってくれればいいと思った。君の為なら必死の行動だって出来るんだって証明したい。

 

 皆に愛されているあの女の子が、幸せになれないなんてありえない。この世界に彼女を救うことが出来るヒーローはいない。僕はその代りにはなれない。それでも僕に出来ることがあるとすればこうやって身体を張ることだけだ。

 

「アリシアのことを聖女としてしか見てないから知らないだろ。意外と筋肉好きだったり、甘いもの大好きだけど人前ではあまり食べないように我慢してるけどたまに隠れて誰にも見つからないよう変装して街でお菓子を買い食いしてたり。お小遣い稼ぎに街でマジックしてお布施貰ってたりしてたり」

 

 それら全て隠してると思ってるけれど隠しきれてないところの可愛さとかも、何も知らない。

 

「知らない、知ろうとしない、そんな奴らに彼女を渡してたまるか」

 

 煙が晴れていく。叩きつけられた石柱のすぐ傍に血を流して満身創痍になったシオンがいるのが分かった。

 

「僕の大切な人に手を出すな」

 

 それが僕の言いたい一番のことだ。彼女の幸せを邪魔するなら僕が叩き切る。

 

 石柱の上から聖剣を構え――――そして力が上手く入らず、視界が半分消えていくことに気付いた。

 






トーマ君の魔法紹介

『闇星』
引力を発している黒球を作り出す魔法。いくつかの条件を付けることでコントロールが可能になっている。
条件は発動時に決めることが出来、引き寄せる対象を限定する。引力のオンオフを可能にする等がある。
条件を付け足さなければ付け足さないほどその引力は強くなる。


ってなわけでこんな感じで需要があれば魔法紹介とかやってく感じです

ちなみに本編でトーマ君が言ってること、ヒカリやアリシアに見られてるとはつゆほども思ってません。

評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!

出来ればお気に入り登録もぉ!!!!!!

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