王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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がんばれ

 

 左目の視覚が黒に染まっていく。無事な右目も遠くが霞み始め、シオン・エースの姿を上手く写せなくなっていく。

 

 全身から力が抜け始め、石柱の頂上で膝をついてしまう。

 

「『毒槍』、『毒煙』、私の魔法と槍の力による魔力向上。それを僅かとはいえ受けて未だに意識を失わないのは驚嘆に値する」

 

 膝をついてその場にとどまろうとしても気分が悪くなり、残った右目の視界まで歪み始めた。上下がどちらがどちらなのか意識が混濁していく。

 

「剣王……いや、剣王トーマ殿。貴殿は私が考えていたような人物ではなかった。高潔であり、とてつもなく強い戦士だ。その精神性に追いついていない技量から貴殿が少し前に『剣王』になったというのも納得した」

 

 そして僕は石柱の上から滑り落ち、頭から落下した。

 

「私が槍王になった際貴殿を最も尊敬し、そして警戒するだろう。貴殿の成長速度はそれほどまでに異常だ」

 

 懐からナイフを出すことすら出来ず落ちていく。仕方ないので震える右手で握った聖剣を左手にぶっ刺して気つけにする。気分の悪さは変わらないがそれでも意識の混濁はなくなった。

 

「貴殿を認め、これまでの無礼を全て謝罪する。だがそれでも」

 

 ああ、安心した。

 

「今回の『王戦』は」

 

 ただ頭から落ちているだけだ。

 

「私の」

 

 すぐ傍に足場に出来る石柱もある。

 

「勝利」

 

 それならばあの夢の中の死闘と比べれば遥かにまともな状況だ。

 

「だ」

 

 それならば対応することも可能だ。聖剣の第二能力をこれまで抑えていた分もまとめて全開にする。身体にかかる負担が限界を超えるかもしれないがそれはこの戦いが終わった後のこと。

 

 今はただ、この瞬間の勝利が欲しい。

 

「なっ!?」

 

 その言葉が聞こえたのは、僕が空中で体勢を変えて『黒星』により落下速度を減衰、石柱を蹴り砕く勢いで足場にした時に聞こえたものか、それともその破滅的な勢いのまま聖剣をシオンに叩きつけた時に聞こえた声なのか判別することは出来なかった。

 

 毒に犯された肉体の判別機能はほぼ死んでいる。左目は見えず身体は痺れて動かしにくく、耳も周囲の音を拾うことすら難しい。

 

 ただそれでも、僕の聖剣による一撃を槍で受けたことは分かる。その一撃で中央付近から再び石柱にぶつけられ負傷したことも第二能力による「直感」で分かった。

 

「なん、だっ!?この力、さっきまではこんな!?」

 

 考察を重ねる時間は与えない。キャロルによる毒飯訓練によりつけられた毒耐性でもシオンの毒相手には時間稼ぎ程度にしかならない。

 

 だから今出せる最高速度で突っ込み聖剣でその胸を突き刺そうとする。

 

 彼はそれを左、僕の視覚の死んでいる方に転がって避ける。流石に戦いなれており死角に入りこまれたことで彼の動きを把握することは出来ない。

 

「なぜ!見える!?」

「見えてないよ。分かっただけで」

 

 それでも僕の「直感」は警報を鳴り響かせる。咄嗟に空いていた左手を盾にすることでシオンの毒槍を止める。

 

 見事に突き刺さり、貫かれて血しぶきが上がる。が、そのまま槍を掴み取る。幸い感覚が消えて痛みを感じない。槍に込められた魔力によってさらに毒が回り始めるが、それでも彼を捕まえたことに変わりない。

 

 聖剣の第二能力による身体強化を最大にしたまま無造作に槍ごとシオンを石柱に叩きつける。何度も何度もぶつける度に槍が突き刺さった左手からは血が噴出するがそれを無視してただ彼を叩きのめす。

 

「い、いい加減にィ!!!」

「ガ、ァ……!!」

 

 5度ほど叩きつけた瞬間振り回される勢いに乗ってシオンの横蹴りが僕の頭に突き刺さる。僕自身も石柱に叩きつけられ無理矢理留まらせていた意識が再び混濁し始める。

 

 混濁した意識に左手から槍が抜けたと直感が警鐘を鳴らした。だから逃がさない事だけを考えてそのまま思いきり踏み込む。

 

 右目も霞み聖剣の間合いの中でさえ満足に見えない、それでも振った聖剣。僅かに残った右手の感触が防がれたことを僕に悟らせる。

 

「はっはっはっはっ……!!!」

「化け、物め……!!!」

 

 酷いことを言われた気がする。その声さえ耳に完全には届いていない。聴覚も徐々に死んでいく。

 

 僕の直感は強化された五感による副産物。その五感が奪われて行けば自然と直感も機能しなくなる。

 

 口に溢れる血の味はしない、味覚が死んだ。周囲の音は集中しなければほとんど意味を成さない、聴覚が死んだ。

 

 血の臭い、汗の臭いはまだ感じられる、嗅覚は生きている。左目は真っ黒で右目は霞む、視覚もほとんど死んでいる。槍が突き刺さった左手の痛みは麻痺して感じず全身に痺れるような痛みが駆け巡っている、つまり触覚は半端だが生きている。

 

 外の情報を得る手段が奪われていく。それでも残った嗅覚と霞んだ右目で直感を機能させる。

 

 ギリギリで避け続け、それでも身体中に傷は増えていく。聖剣を振っても対応され、感じるのは防がれたことによる衝撃のみ。

 

 見ているほとんどの人間はもう勝負は決まったと思うのだろう。それは仕方ないことだ、僕だって外から見ていれば同じことを思う。

 

 それでもなお諦めない、諦めるなんて選択肢はないしぼく自身が許さない。

 

「――――れ」

 

 声が聞こえた気がした。

 

「―――ばれ」

 

 女の子、鈴のような声が届いた気がした。

 

「――んばれ」

 

 右手で握った聖剣が熱い。燃えていると錯覚するほどに熱くて、だけどそれが害を為さないと直感で理解する。

 

「がんばれっ!!!!!!!」

 

 アリシアの声が聞こえた瞬間、黒に染まっていた視界が、閉じていた感覚全てが広がった。目の前に猛スピードで突っ込んでくるシオンは、血に染まりながらも端正なままの顔を驚愕の色一色になって。

 

「悪いけど僕は彼女に勝利を願われたらしいんだ」

 

 それだけでもう、負ける理由はなくなった。

 

「これで、終わりだ」

 

 槍が僕の肩に突き刺さる。防ぐことはせずに受け止めて、固定する。

 

 彼は槍を手放しすぐにその場から逃げようとする。だけれどその反応は遅い。

 

 聖剣がシオンを大きく切り裂く。袈裟斬りによって噴き出た彼の血で僕は赤く染まった。

 

 その瞬間勝敗は決まりブザーが鳴る。歓声が聞こえる。シオンに駆け寄る女の子の姿を目にして、その必死さにきっと彼は慕われているんだろうと場違いな感想を抱く。

 

 勝ったと言われてもその実感はわかない。ただただ終わったという安堵感だけが身体を包み込み、限界を超えた身体強化の影響で意識を遠のかせる。

 

 倒れる瞬間見えたのはこちらに走ってくるヒカリとアリシアの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 その戦いは凄まじいものでした。剣王と槍王候補の戦いは身体能力では前者が、技量では後者が勝っており私の目からは互角に見えます。

 

 だけどそんな感想を吹き飛ばすようにトーマさんは滅茶苦茶な戦い方を、今まで見たことのないような自由な戦いをします。

 

 

「あれが剣王様かよ!!」

「とんでもない速度だしどうなってんだあれ!?」

「シオン様が受けるしか出来てない!!?」

「カウンター避けたよね今!?!!?」

 

 

 私の光魔法とは正反対の闇魔法、それを使って速度を上げていった彼の攻撃を槍王候補は受けきれずいくつもの傷を負っています。

 

 それでも戦意が落ちないのは流石は槍王最有力候補なだけはある、そう思わせますがそれでも有利不利は変わらないはず。

 

 だけど、私にとってはそんな戦況がどうでもよくなるようなことをトーマさんは言いました。

 

 

「僕はただ、責任って言う重い荷物を背負って頑張ってる女の子を助けたいだけだ。その女の子が大切なら、尚更助けたい」

 

 

 それは私達にしかわからない重み。適性があるからと、その道を生きるしかなくなった私達二人にしかわからない辛さ。責任という重しは確かに常日頃から私の足を重くする。

 

 それはきっと彼も同じなのに、なんであんなに私のことばかり気にしていられるのか心の底から疑問に思って。

 

「そこでアイツの心配をしちゃうアリシアだから、きっと助けたくなったんだろ」

「ヒカリ、さん」

「アイツは馬鹿で、思ったことはすぐ言うし隠し事は出来ないし。いつだって真っ直ぐに突っ込むしか出来ない奴で、器用とは程遠いけどさ」

 

 私に声を掛けるヒカリさんの視線はトーマさんを見つめたままで、それは今ではない過去のどこかを思い出しているように遠くて。

 

 彼はずっとそうやって生きた来たんだとようやく理解しました。

 

「トーマにとっちゃ特別でも何でもない事なんだろうな。でもそれにアタシは助けられた、ずっとに一緒にいたいと思わされた」

「私は……」

「アリシアがどうしたいかだよ。責任を背負うも、それを放り投げるのも。そのどちらを選んでもトーマもアタシも友達で味方だ」

 

 私は責任を放り投げるのが怖いです。『聖女』でなくなった自分に価値があるとは思っていません。だけどトーマさんは私が私であること自体が価値のある事だと言ってくれました。

 

 傷だらけで、毒に犯されてもういつ倒れてもおかしくないはずなのに。それまで以上に大暴れする姿は必死過ぎて、その必死さが誰のためのモノか考えるだけで胸が鼓動を早めて、目から熱い雫が流れ落ちます。

 

 血に染まって、もう何も見えないはずなのにそれでも前を見据える姿に。恐怖と痺れで強張る身体をそれでも強い意志で動かし続けるその姿に。以前は怖いと思ったその姿は、とても頑張っていると思えて。

 

 私の、誰かの為に戦っているというだけで、その姿は尊いと思えて。

 

「普段のアリシアがしていることだよ」

「……………………」

「トーマやアタシから見た、アリシアの姿があれだよ」

「……………………」

「助けたくなる姿だろ?」

 

 確かに助けたくなります、放っておけなくなります。だけど今の私にできることなんて何もなくて、それが悔しくて、握った拳から血が滲むくらい思いっきり力を入れて。

 

「助けたいと思うならさ、応援してやってよ。今トーマが待ってるのはきっとアタシじゃないから」

 

 何が出来るか分からない、こんな言葉だけでどうにかなるとは思えない。

 

「………………れ」

 

 それでも叫ばずにはいられなかった。

 

「…………ばれ」

 

 それが届くと信じて、届いてほしいと願って。

 

「……んばれ」

 

 ただ、彼が望む結末を掴み取ってほしくて。

 

「がんばれっ!!!!!!!」

 

 この胸からあふれ出る想いを一つの言葉に込めて叫んだ。

 

 その言葉が彼に届いたと信じ、そしてトーマさんは勝利した。

 

 ぼーっとして今にも意識を失いそうになる彼に駆け寄る。私達と視線が合い、ふにゃっとしたいつもの笑みを浮かべてそのまま倒れ込む。

 

 ギリギリで受け止めた私の腕の中で彼は安心した顔をしている。その身体は重くて、筋肉質なのが分かってしまう。

 

 その場から移動させることも出来ず、少しでも怪我を早く治してあげたくて彼を膝枕の上にのせて治癒をする。

 

 いつかのマラソンの時に言った約束を守ってなかったことを今更思い出したから。恥ずかしいから意識のない今だけだけれど。

 

 トーマさんの寝顔は安心しきったようで、とても幸せそうで。傷ついた彼がそんな顔を浮かべてくれるのが嬉しくて。

 

 胸の熱さに押し出されるように寝ている彼と自分の唇を重ねる。ヒカリさんが絶句してる気がするが今回は許してほしい。

 

 だから本当は起きている時に言うべきことを今すぐ言いたくて。何度でも言うから、今一度だけ許してほしいと思いながらつぶやく。

 

「―――私を見つけてくれて、ありがとう」

 

 きっと届いてないと思うけど、その時は何度でも言い続けることを決めた。

 

 彼の勝ち取った時間が、私にはあるのだから。

 

 『聖女』として『剣王』の傍にいるのではなく、私自身の意思で彼の傍にいる。

 

 それは絶対譲らないことを決めた。

 

 






次回一章のエピローグに入ります


評価感想くれるとテンションぶち上げで続きが書けますのでよろしくお願いします!!

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感想が来ると2章が早く来るやも……
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