王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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これで一章完結です。

ここまでありがとうございました





一章 エピローグ  騒がしい毎日へ

 

 シオン・エースとの『王戦』後、丸一日経ちようやく僕達は王都への帰路を辿っていた。本来であればすぐにでも戻る予定だったのだが僕の意識が戻るまで待っていた為こうなったわけだ。

 

 シオンによって付与された毒は彼が魔力の供給を止めれば消えるのだが、『王戦』中その効果を全開にしたせいで消えるまでに時間がかかったらしい。

 

 アリシアによる治癒魔法で治してもよかったのだが、自然と治るモノに治癒魔法はいらないと僕が事前に言っていたのでこうなった。実際毒によるダメージより自傷行為だったり限界以上の身体強化を行ったのが大きいので彼を責めることは出来ないだろう。

 

『剣王トーマ殿、この王戦は貴殿の勝利だ。約定通り私は貴殿に下る。が、その前にある程度祖国でしてきたいことがある。許してもらえるだろうか?』

 

 シオンは別れ際そう言っていた。そういえばなんか彼の身柄を賭けるとかなんとか話題に出ていた気がする。正直あの時はアリシアのことと不甲斐ない自分への怒りで頭が茹っていたので特に覚えてないので反故にしてもよかったのだが、それは『王戦』に例外を作ることだと言われ受け入れた。

 

 とりあえずこれからヒカリ以外に模擬戦の相手が出来るのは助かる。彼はそれだけの戦士だと実戦で理解したので信頼も出来る。

 

「あの、ヒカリさん?もういい加減機嫌を直しても……」

「うっせぇ。あんな衆人環視の前であんなこと。アタシだってしたことないのに」

「うぅ……言わないでください……。あの時はもう本当にどうかしてたんです……」

 

 まぁシオンや鉱山の権利を手に入れて喜んでいたデプロン大臣達には悪いが、今回の一番の収穫は目の前の光景だろう。

 

 アリシアとヒカリが対等に会話している。いつも一歩引いていたアリシアが、だ。

 

 僕の戦いが彼女に影響を与えたのか、それともヒカリが何とかしてくれたのかはわからない。それでも今の『聖女』じゃないアリシアの姿を見ているだけで僕は満足だ。筋肉痛で身体を動かすことすら億劫な気分も忘れられるほどに。

 

「ところで二人は何を言い争ってるの?何か問題でも起きた?」

「トーマには絶対言わない」

「トーマさんにだけは聞かれたくないんです……」

 

 酷い、仲間外れだ。デプロン大臣達も生暖かい目で見てきたという事は僕以外は全員事情を知っているという事だ。同じ国の仲間の中で僕だけが仲間外れなのだ。

 

「まぁ無理に聞き出そうとは思わないけど。その代わりアリシアに一つだけお願いがあるんだけど」

「私に、ですか?トーマさんが言う事ならいいですけど……」

「その僕への信頼感はどこから来るのかわかんないけどそう言う事あんまり言わないでね?僕も男だからね?」

 

 アリシアみたいな美人にそんなこと言われたらいけない妄想をしそうになりそうなくらいには欲望に直結してるんだよ、この頭。

 

 ただ彼女達の信頼を裏切りたくない僕は色々と思いつきそうになる頭を二・三度振って煩悩を追い出す。今頼むことはそう言う事ではないので。

 

「あー、また馬鹿なこと考えてたなこいつ。あるいは欲望まっしぐらなこと」

「なんでヒカリは僕の頭の中を読み取れるの?以心伝心なの?僕はヒカリのことたまにしかわからないのに不公平じゃない?」

「えっと、それでなんでしょうか。お願いとは」

 

 うんうん、ちょっと強引さが出てきていい感じだ。その調子で楽しく生きてほしい。

 

 さて、それはそれとして僕も頑張ったご褒美をもらいたい。そう、具体的には名前だ!!

 

「トーマさんとかトーマ様とか剣王様とかって色々と呼び方変わったけどさ、もうちょっと砕けた呼び方してほしいんだ。友達にそういう風に呼ばれると何というかこう、ぞわっとするから」

「え、そ、それじゃあなんて呼び方すれば……」

「普通に呼び捨てでいいけど」

「それは無理ですっ!」

 

 食い気味に断られた。彼女の性格上呼び捨ては無理だとは最初から分かっていたから特にショックではないけれど。

 

 というわけでドア・イン・ザ・フェイスとやらの出番だ。こういう使い方があっているかは全く知らないが多分正しいと思う。

 

「それなら呼びやすい感じで、ただし親しみが分かる感じの奴で!!」

「う、うぅぅ……!!」

 

 呼び方ひとつでうんうん唸っている彼女はとても愛らしいと思う。ヒカリは太陽みたいな輝きで僕を元気にしてくれるが、アリシアは何というか木陰の中というか。とても安心できる雰囲気がある。これはきっと彼女生来の魅力なんだと昔からの彼女を知らなくても確信できた。

 

「そ、それじゃあ……トーマ、君、で……」

 

 ただし今の真っ赤な彼女は叫びたくなるくらい可愛い。上目遣いでこちらをチラチラとみている姿もそうだが、呼び方ひとつでここまで悩むその在り方がだ。

 

 これで聖女であること以外に価値がないと言っていたんだから自分のことを知らなすぎだろうに。

 

「もう一回呼んで」

「と、トーマ君……」

「うん。これからそれで呼んでね?もちろん仕事の時とかは仕方ないかもしれないけどさ」

「う、うぅぅぅ……慣れません……」

 

 こういう穏やかなやり取りはいつ以来だったか。もしかしたら彼女とこういう雰囲気になるのは初めてかもしれない。

 

 それはきっとお互いにあった遠慮がなくなったことを意味して、こちらの方が断然居心地がいいと思った。

 

「陛下、もうすぐ王都につきますよ」

「ん、ありがと」

 

 馬車の運転を任している御者からそんな言葉が聞こえた。たった数日出ていただけなのに酷く懐かしい気がする。

 

 街の人達は元気だといいが、と思ったが彼らが元気じゃないところは想像が出来ないので考えるだけ無駄だろう。少しの間接しただけで分かるあの活力と活気はそうそう消えたりしない。

 

 というかなんか街を囲む城壁の向こう側から騒がしい声が聞こえている。ここまで騒がしいのは酷く珍しいが何かあったのだろうか。

 

「なんだろうこの声、悲鳴じゃないよね?」

「キャーキャー言ってるけど悲惨さはまるで感じないな」

「むしろ喜んでいるというか恥ずかしがっているというか、そんな感じの声ですね」

 

 三人そろって首をかしげるが結局答えは出ない。

 

 そんな感じで城壁を潜り抜け、王都の中に入ると大勢の市民が待ってましたとばかりに大声を浴びせてくる。いきなり大人数で声を掛けてくるのでその内容すべてを把握することは出来なかったが、一部分だけは何とか聞き取ることが出来た。

 

 

「おかえりなさい剣王様!!それで結婚式はいつになるの!?」「シアちゃん聖女だってこと隠してたの!?あれで!?正直全然隠せてなかったよ!!!」「いつもと雰囲気同じ服ばっかり着てるからねぇ。王様に新しい服プレゼントしてもらった方がいいわよ!!」「あのキスシーン凄くドキドキしました!!!いつからそういう関係になったんですか!!!」「新たにこの国に正式に王室、王族が誕生すると話題になっています!!!ぜひ取材をさせてください!!!!」「剣王様は女性を口説くプロだって聞きました!!!コツを教えてください!!!!」「あれを見せられちゃ祝福するしかねぇな!!!王様、アリシア様をちゃんと幸せにしてやってくだせえ!!!!」

 

 

 一つ一つ聞いていたが何のことかさっぱりわからない。どうしてそんな話題が出てきたのかもわからないしなぜこんな大騒ぎになっているかもわからない。

 

 ヒカリとアリシアは何か知ってるかと思って二人に視線を向けるが、そこにいたのはアリシアを凝視するヒカリと、真っ赤になっているであろう顔を必死に手で隠しているアリシアだった。

 

 この調子じゃ二人から話を聞くのは不可能と判断した僕は何かヒントになる物はないかと馬車の窓から街中に視線を向ける。

 

「あっ!!今日もまた映像配信だ!!!」

「俺王様の戦ってるところ見たい!!!」

「私アリシア様と王様が仲良くしてるところ!!!」

 

 子供たちが騒ぎ出し、それにつられて大人たちまで騒がしくなっている中でそれは始まった。

 

 クラリスちゃんが以前開発していた遠い地からで映像音声を送信する魔道具と、空中投影できるという受信機。恐らくはそれを改造した物が王城の方角から飛んできて市民たちはそれを待っていましたとばかりに喜ぶ。

 

 そして映し出される僕達にとってのごく最近の羞恥心を煽る映像達。

 

 

『力の価値を聞いてるんじゃない!!!!!彼女自身の!!あの子の心や行い、その価値を聞いてるんだよ!!!!』

『僕はただ、責任って言う重い荷物を背負って頑張ってる女の子を助けたいだけだ。その女の子が大切なら、尚更助けたい』

『知らない、知ろうとしない、そんな奴らに彼女を渡してたまるか』

『僕の大切な人に手を出すな』

 

 

 それはあの『王戦』を映し出したもの。この娯楽に欠けた世界において市民たちの心をとらえて離さない物。僕の言葉や戦いが全てそこに映し出されていた。

 

 羞恥心で顔を覆う。テンションが上がっている時ならともかく素面の時にこれを聞くのはもう本当にどうにかなりそうなくらいに恥ずかしい。そりゃこれを見れば市民達だってあんな風に騒ぐよ!!!

 

「あ、あ、あ、ああの……も、もしかして、この映像って、王戦が終わった後の光景も……!?」

「さっきの声からして映されてるだろ。よかったな」

「あわわあわわわっわわわわ!?!?!!と、トーマ君見ないでください!!お願いですから見ないで――――」

「ごめん、もう遅かったみたい。僕、倒れた後あんなことされてたんだね……」

 

 空中に投影された映像にはでかでかと、これ以上ないくらいいい位置からのキスシーンが流れていた。流石にこれを見ればなぜヒカリの機嫌が悪く、アリシアが強く出れていなかったのかが分かる。

 

 膝枕からの治癒されながらのキスシーンはまるで映画のようで、こんなもの見たらそりゃ目も焼かれるという物だ。要するに今の王都の市民達は全員カプ厨になったようなものと思えばいい。

 

 僕が治めている国はカプ厨の国でした。

 

「にゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!?!!?!!!」

「あっ、壊れた」

「凄い、これ以上ないくらい丸まって外から顔も耳も見えない。まるででっかいボールみたいだ」

 

 羞恥心が限界にきたアリシアを眺めながら現実逃避をする。この大騒ぎはしばらくの間収まらない。僕自身推しが出来た時はそんな感じだったので確実にそう言える。

 

 つまりこの周知による羞恥プレイに慣れなければならないわけで、とりあえずこの事態を作ったロリっ子と魔道具マニアクソ強エルフを締めに行くことを決めた。

 

「村にいた時とは違って本当騒がしいよね」

「でもま、そういうのも飽きなくていいんじゃね?」

「悪くはないね、こういう日々も」

 

 僕が王都に来てから、まったくと言っていいほど平穏な日々はなかった。毎日どこかで騒がしく忙しなく動いていた。それはこれまでにない日々で、それが楽しかったのは間違いない。

 

 そしてそんな毎日がこれからも続くと思い、それはとても楽しみなことだと胸を弾ませる。

 

 

 僕が『剣王』になってからの物語はここからが本番だ。

 

 

 






第一章『剣王が生まれた日』はこれで終わりです


第二章『剣王の騒がしい日々(仮)』は書けたらどんどん投稿していきます

まずはサムライレムナントだ……
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