王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
第二章 プロローグ 彼方から今まで
「なんでガキなんて産んだんだよ!!おかげでこっちの生活はまともな飯も食えねぇ!!!」
「邪魔だクソガキ!!俺の視界に入るんじゃねぇよ鬱陶しい!!!!」
「クソが……このガキさえ、こいつらさえいなけりゃよぉ……」
私の最も古い記憶は罵倒から始まる。夢の始まりもそうだ。
毎日見る夢はいつだって罵倒、罵声、暴力に怯える日々だった。その頃の私は食事をするのも苦労をし、街で生ゴミを漁っている。
常に味は最悪で、それでも食べれるだけマシで何も食べられない日が何日も続いた。食べ残しのパンが捨ててあればご馳走、まともな肉や魚など口にした事すらない。木の根を齧ろうとしたこともあるくらいの飢餓感に襲われた事すらある。
母は娼婦として働いていた。男に媚び諂って生活する卑しい仕事。それでもそれ以外が出来なかったのだから仕方ない。私に対して彼女は罪悪感に満ちた目で見ていた。
父と思われる男は母に避妊をさせずに手を出した客だったという。私生活でも関係があった為結婚し、最初は上手くいっていたようだが商売に失敗。結果私という存在を疎ましく思い酒に入り浸っている。
毎日虐待を受け続けて、普通の家族という物に憧れて。それが絶対に手に入らないことが分かって再び絶望していた。
「君には才能がある。槍王様の元へ連れていく。これは全国民の義務であり責任である為拒否権はない」
そんな中、街中で綺麗な鎧を着た騎士にそう言われた。彼が持っているのはこの国の象徴である槍、しかも上質のものだと学のなかった私にも分かった。
私が槍王様の元へ連れていかれることに父は喜んだ。彼は報奨金を手に出来ると言って、私を売ったのだ。この瞬間、元からなかった父への関心は全くなくなった。生きていようが死んでいようがどうでもいい存在だ。男など、その程度の存在だと見限った瞬間でもある。
一転して母は拒絶した。涙を流して、上質の武器を持つ騎士に対して歯向かうことも躊躇わず。そこにはいつも見下していた娼婦の姿などなく、子供を愛する親の情を感じた。
「分かった、私を連れていって。ただし、お母さんも一緒に」
母をこのまま置いていけばまた父による暴力を振るわれると子供ながらに察せた。それならばいっしょに行けばいい。子供と見まごうほどに小さいその身体ではきっと父から暴力を受け続けていれば死んでしまう。それは嫌だと素直に思えた。
結果的にその願いは叶い、私は母と一緒に槍王様が住んでいるという王都の中でも特区と呼ばれている場所へその日のうちに連れていかれた。
特区内にいるのは私と似たような背丈、年恰好の同世代達と私達を連れてきた騎士達。その生活に必要なものを提供している豪商と呼ばれる人間だけ。母は驚愕し、目を回していた。その姿が妙に面白く私は何年ぶりかもわからない笑みを浮かべて、それを見た母は号泣していた。
「槍王様への謁見が決まった。急ぎ着替え、準備を済ませよ」
そのまま流されるように私は槍王様に会うことになった。初めて見る服を着るのに酷く苦労して、何故かそういう知識のあった母に手伝ってもらってようやく着れる。
そのまま母には待っていてもらい槍王様と会う為に彼の方が待っている王宮、その中心部に進む。
玉座と思われる場は妙に暗く、魔道具による明かりが灯っていないことに気付く。今どき珍しい蝋燭だけが明かりで、それならばこんなに暗いのも当然だと思った。
謁見に来たのは私だけではなく、集められていた同世代達も大勢いた。同世代達もまた私と同じような経験をしていたのだろう。その目は暗く、それでもここに来た困惑に満ちていた。
「我が前に集まったか、次の
その声は物理的に重く感じるほどの重圧を感じた。跪かなければ死ぬと思わせるその威厳に気圧され、まともに槍王様を見ることも出来ない。
「槍王になる者は強く美しく気高くなければならん」
その一言一言に自身に対する絶対視を感じる。自分こそが唯一絶対であり、それ以外は有象無象。利用出来る者がいれば視界に入れる。その程度の考えを持っている。
「みすぼらしい所から拾われた貴様らの命はこの槍王のものだ。強くなれ、『竜王』にも『銃王』にも『万王』にも『狂王』にも『魔王』にも、そして何より『
それまで何の関心もないようにつぶやかれていた王達の中で最後の『剣王』のみが唯一親しみや愛情、そして物理的に感じるほどの執着心を感じさせ、それにその場にいた私達は気圧され意識を失いそうになる。
「…………この程度で意識を失う愚者はおらぬか。よい、いれば裁く所だったが合格とする。明日より槍王になる為の訓練を始める。覚悟せよ」
その後解放され、部屋に戻った私は母に大いに心配された。それほど顔色が悪かったのだろう。せっかく準備されていた見たこともないご馳走を口にしてもまるで味を感じず、その日の夜は母に抱き着いて眠ったことを覚えている。
いつまでも柔らかいベッドの中で眠れない私を抱きしめて、母は歌を歌ってくれた。
初めて聞くその歌はとても美しく、綺麗で。その日初めて私は母が歌手を目指していたのだと知った。きっとこの人は私以上に苦労したのだと思った。だから、この人にこそ幸せになってほしいとそう思った。
「シオン、愛してるよ」
その言葉が、声音がとても優しくて、私は涙を流しながら眠りについた。
次の日から始まった鍛錬はまさに地獄だった。三ヵ月に一回試験があり、その試験の下位10名は不合格となり特区内から追い出される。そうなれば今までと同じ、いやそれ以下の環境で生きなければならないと思った。
同世代達も同じことを考えたのか、全員が必死になった。故意に罠を仕掛けたりすれば騎士が即座に来て特区から追い出される。私達は純粋に上を目指すしかない。
私が下位10人になれば母との穏やかな生活もなくなる。そんなことは断じて認められなかった。母には今まで苦労した分ずっと幸せになってもらいたい。今の生活を続けてもらいたい。それが私のモチベーションになった。
上へ上へ。同世代達を圧倒し、蹴落とし、いつしか私は次期槍王最有力候補として名声を持った。母に従者の真似事をしてもらうのは酷く心が痛んだが、何もしない方が嫌だと言っていたので仕方ない。
5年もすれば残った全員が精鋭と言えるメンバーになっている。ここまで耐えた者達は特区での永住権を手にした。恐らくこの特区内にいる騎士達も元は槍王候補だった者達なのだろうと察した。
特権を持つのにふさわしい実力を私は手に入れた。魔道具である槍を持つことも許された。
私の努力は無駄ではなかったと確信し、その上で強くなることに貪欲になる。
だがそうなればなるほど男への嫌悪感は強くなる。私達が死にもの狂いで強くなっているのに、奴らは元から得ていた筋力で私達を脅かすのだ。
魔力による強化を成せばそれを超えることも十分可能だ。それでも奴らが敵なのだと私は内心思っていた。何度か他国に行くこともあったが、それでもその認識は変わらない。
もちろん表に出さないようにはしていた。表情を偽ることなど子供の頃からしていたことで慣れた物。見破る者も中にはいたが、そういった者ほどこちらに関わろうとしないのでそれはそれで問題なかった。
下卑た目で見てくる男も多く、余計に嫌悪感を抱かせる。未だに若く見える母をそういう目で見る者もいた。殺したくなるのを必死に我慢し、愛想笑いを浮かべる日々。
それでも母と一緒にいれれば幸せだった。いつまで続くか分からない日々だったが、これだけで私はあらゆることに耐えられる気がした。
そして同時に私はこの世界は力が絶対なのだと悟る。力がなければその言葉に価値はなく、存在さえ認められない。
かつての私はまさにそういう存在だった。貶されて当然、殺されないだけマシ。淘汰されて行った同世代達もまた弱者なのだから仕方ないと、そう思った。
そう思っていたはずなのに。
「それは『聖女』の価値だろ。アリシア自身の価値を、お前たちはどこに見出してる」
「力の価値を聞いてるんじゃない!!!!!彼女自身の!!あの子の心や行い、その価値を聞いてるんだよ!!!!」
「僕はただ、責任って言う重い荷物を背負って頑張ってる女の子を助けたいだけだ。その女の子が大切なら、尚更助けたい」
「僕の大切な人に手を出すな」
目の前にいる男のその言葉を理解することが難しかった。男で、聖剣を抜いただけで王になったという男。大した力もないのに選ばれたその男を憎悪までしていた。
それなのに、その言葉は全てが全て本音で出来ていて。その言葉には力と愛が宿っていて。それが分かった瞬間もう憎むことは出来なくなった。
だって、彼の言葉や行動は私が愛する母と同じものなのだから。献身的で、親密で、他人をよく見ていて。自分より大切な他者を想えるその姿が。
結果的に私は負けた。これまで許されなかった負けを許してしまった。私の価値はなくなった。
それでも駆け寄ってくる母の姿を見て、私はその愛を実感して。想ってはいけないはずなのに、負けてよかったとさえ思ってしまった。勝ち続けたからこそ愛されていたのではなく、私自身を母は愛してくれていたのだとはっきりわかったのだから。
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