王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
「ついにこの日が来たかぁ……。出迎えは僕達だけでいいのかな?」
「いいんじゃないでしょうか?あちらからもあまり大袈裟にされると困る、と事前に通達がありましたから。剣王であり国の代表であるトーマ君とその従者のヒカリさん、後は聖女の役割を担ってる私くらいで」
あの初の実戦である『王戦』から約一ヵ月経った今日この日、いよいよ槍王最有力候補だったシオン・エースがこの国に来訪する。
『王戦』の結果とはいえあちらから優秀な人材であるシオンをこちらで預かる、という事に対して何かしらのアクションがあると思っていたのだが何もなく。当の本人であるシオンから「出迎えは必要最低限でお願いする」という通達があるだけだった。
本来であればそう言われてても国家の代表として来賓に対して恥ずかしくない出迎えをすべきなのだが、キャロルとクラリスちゃんがまた魔道具を暴走させたため大人数がそちらに割かれてしまっている。彼女達は来月の給料を楽しみにしているといい。いつもより0の数が減っているからね。
「そういやシオンって奴、どこで寝泊まりするんだ?部屋とか空いてたっけ」
「客室があったと思うけど。王城とか未だに全容を把握できてないからうろ覚えだなぁ」
「女性ですから、そう言う事を考慮した部屋割りを大臣さん達が考えてると思いますよ?」
そっか、それなら安心だ。餅は餅屋って言うし……ちょっと待て、今物凄い事聞いた気がする。
「女性って、誰が?」
「シオン様ですが……」
「おい、トーマ……お前、まさか性別誤認してたとか言わないよな……?」
すみません、思いっきりしてました。えっ、マジで?喉元隠してたから確かに喉仏とか見えなかったけど。確かに男装の麗人でも伝わるくらいにはめっちゃ美人だったけど!!
「そもそもヤランリ王国の槍王は女性しかなれませんから、後継者候補という時点で女性って決まってる、らしいですよ?なんでも子供の頃から集めているとかで」
それみんな知ってたの?知らなかったの僕だけだったら間抜けなの僕だけじゃないか。というか女性を男性と間違えるとか失礼の極みで殴られても仕方ないと思う。
確かに下手な女性より美人だとは思っていたけど、勘違いしていたことを踏まえて考えるととんでもない美人になるな、彼女。
「見ればわかるよな。雰囲気とかまんま女だったし」
「そうですね。凛々しいとは思いましたが男性とは違う感じがしますし、一目見れば……」
またここに一つ、僕の記憶が当てにならない根拠が出来てしまった。こうなるとマジで前世の記憶とかほとんど忘れててよかったとすら思う。何の役にも立たないし。
考えても仕方ないかもしれないが、あまりに忘れやすいことにも何か関係あるかもしれない。まぁ十数年も覚えてる方がおかしいのかもしれないけれど。
しかし子供の頃から集めて英才教育を施すのか。
「聖剣抜けば王様、よりはしっかり決めてるみたいだな。まぁこんな国が他にあったらそれはそれで心配になるけど」
「普通に後継者作ってとか王族とかの方がシステム的に引継ぎとか絶対楽だよね」
「あ、あははは……その件に関しては剣王教会の私は何も言えませんね……」
何せ聖剣を抜ける人が500年現れなかった結果がこの国なのだ。それと比較したら槍王候補が何人もいるヤランリ王国はソードリアの何倍もきちんとしていると言っても過言じゃないかもしれない。こちらは国是で決まっていた為変更も下手に出来なかったので仕方ないだろうけれど。
どんな意味があるかもわからないルールでも当時の状況を考えると必要な法だったのかもしれないが、それが未来ではいらなくなるというのもまたよくある話だ。
「あっ、来たみたいですよ」
その声に顔を上げてみればそこには白い馬車が静かに王城前まで移動してきた。御者をしていたのは『王戦』の最後、シオンに泣きそうな顔で走っていったシオンと同じ藍色の髪をしている少女。
馬車を止めて、こちらに気付くと彼女はぺこりとお辞儀してその小さい口を開いた。
「初めまして、シオンの母のシエルと言います。今日から娘共々お世話になりますが、どうぞよろしくお願いします」
その場にいる全員が固まってその言葉の意味をかみ砕いて理解しようとする。が、上手く飲み込むことが出来ない。
目の前にいる女性は明らかに少女と言える姿で、僕達と同年代どころか下に見える。身長なんて僕の肩まで届いていないし、背の低いアリシアよりもさらに下だ。
ただいつまでも放心している場合ではない。この国の代表として彼女達を迎え入れなければならない。じゃないとこの後予定されている歓迎のご馳走を美味しく食べることが出来なくなる。微妙な空気で美味しい料理を食べても味は分からないのだ。
「こう見えてももう40超えてるおばさんなのであんまり気にしないでくださいね?あとシオンには出来ればいいお部屋を……私は馬小屋でも大丈夫ですので!!!」
「こ、これで40……!?滅茶苦茶お肌ぴちぴちなのに……!?」
「あ、あの!!どうやったらそんなに髪をサラサラに出来るんですか!!色々と教えてほしいです!!」
ヒカリとアリシアはシエルさんの年齢に見合わぬその容姿に色々と聞きたいことがあるらしい。こういうところは女の子なんだなぁ、と口を挟まずに見に徹する。
女性の美に対する興奮の邪魔をすれば怪我をするのはこちらだという事はよく知っている。母さんから嫌というほど叩き込まれてきた。
人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死ねというが、女性の美意識の邪魔をする男は女性にマウントとられて殺されかねないと母さんは言っていた。確かに二人のあの勢いを見ていると嘘だとは思えなくなってくるので困る。
「母さん!!それ以上は恥ずかしいからやめてくれ!!!」
「あらシオン、お相手に対してちゃんと挨拶するのは大切なのよ?」
「それは分かってる!!ただ偶には私の言い分を聞いてくれてもいいと思うんだけれど!!!いつもいつもポヤンとして!!!!」
そしてついに我慢の限界が来たのか、母親のそういう話題を聞くのが嫌になったのかシオン・エースが馬車から飛び出してきた。
シオンはシエルさんを引っ張って隣に立たせると一旦咳払いをして場をリセットする。だけど先程流れた空気は完全にはなくなっておらず、隣のシエルさんは何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。おかげで周囲の空気はポヤンとしたままだ。
「コホン。……改めて、槍王候補だったシオンと言う。この度ソードリアに渡るという事で一時的に槍王候補とエースの名を返上して文字通り裸一貫で来た。文字通り道具として扱ってくれて構わない。そういう契約だったのでな」
「ご丁寧にありがとうございます。僕はこの国の王に二ヵ月ほど前になったばかりのトーマ・ソードリアです。至らぬ点もあるでしょうが、その度に厳しくチェックしていただきたいなぁ、と。王様になる教育を受けていたなら色々と知ってると思いますし……」
「む、貴殿はそういう教育を受けていなかったと?いや待て、本当に二ヵ月前偶然聖剣を抜いたというのか?」
シオンが唖然とした顔をしているが事実そうなのだ。一応この国では誰がいつ剣王になるか分からない為、村にある剣王教会で最低限の教育は受けることを義務付けられているが本当にそれだけだ。
先日の大臣達による王族を作ろうという動きもそれが理由だ。幼い頃から英才教育を受けないと上に立つ者の心構えとか持つのは難しいだろう。僕はかなり特殊なパターンだからまだましかもしれないが。
「私はてっきり、二ヵ月前まで聖剣を抜いてないのは事実でもそれ以前に色々と専門的な教育を受けているとばかり……」
「剣王になる前は田舎の村で酒場の一人息子でしたね。こうなっちゃって母さんには本当に悪いと思うけど……手紙送ったら「こっちはいいからアンタはアンタのやるべきことをやってきな」って返事が届きましたよ」
「なるほど……。どうやら貴殿の母は王の重要性を理解しているようだ」
「まさか一言で済ませられるとは思いませんでしたけどね。もう少し引き留められるものとばかり」
なお王様になる事自体はそれで終わっていたのは事実だが、手紙の殆どはヒカリを大切にしろとかそういう話ばっかりだったのは口にはしない。
もうほとんど娘のように扱っていたので本当に母さんはヒカリを可愛がっていたのだ。その影響を受けてヒカリも口調が母さんに似てきている気がするし案外似た者同士だったのかもしれない。
僕のことも普通に愛してはくれていたがそこは男と女の違いだろう、結構適当に扱われていた気もする。僕に対しては放任主義だったのか、それとも犬と猫のカップルを見てニヤけてた僕の自主性を重んじていたのかはわからないが。
「ま、なんにせよあちらは大丈夫だと思いますし、今はこっちで覚えることが多すぎて正直気にしてる余裕もないというか。母さんなら酒場で暴れる大男も簡単に捻じ伏せるだろうから安心です」
「母上を信頼しているのだな。羨ましい、と軽々しく言ってはいけないのかもしれないが」
「いやいや、あそこで二人に囲まれて美容トークしてるシオンさんのお母さんもいい人じゃないですか。あの二人とあそこまで早く仲良くなれるなんて」
「ポヤポヤしてて逆に不安だがな……。ちゃんと見ていないとどこかで大変な目に合いそうで……」
シオンの言う事も分かる気がする。あちらでヒカリとアリシアと話しているシエルさんの雰囲気は本当に緩くて、警戒心がないんじゃないかと心配になるくらいだ。
その分人に愛されるタイプなんだろうと思う。何というか守護欲が湧いてくるというか、守らなければという想いが生まれてきそうというか。
もしかしたらそれが彼女の生存戦略なのでは、と思ったのは純粋に僕の直感だったのか、聖剣による警告だったのかは分からない。ただ、何故か分からないがこの直感は決して
「なんにせよ、自身の母を深く信頼し愛している貴殿とはいい関係を築けそうだ。改めて、先日の暴言を謝罪させてもらう。すまなかった」
そう言って深く深く頭を下げる彼女は文字通りの誠意を感じる。他国にまで連れてくる……、いや従者にしてまでシエルさんを守ろうとしている彼女は母親想いなのだろう。
父親はどうしたのか、とも考えたがそこは今触れるべきではない。確かなのは彼女は己の間違いを間違いだと認められる人間だという事だ。それはとても好感の持てるものであり、僕自身もそうありたいと思う。
「いえ、こちらこそすみませんでした。売り言葉に買い言葉とはいえあそこまで挑発したのは僕も同じだ。貴女に対して散々失礼なことを言ってすみませんでした」
だから彼女に対して僕も深く頭を下げる。王としてやってはいけない事だろうが、今は誰も見ていないし見られていても困るものではない。
僕にも譲れないものがあったとはいえ、それは彼女も同じで。その為なら命を懸けて戦える、それだけで尊敬に値する。こういうところは僕と彼女は似た者同士なのだろう。
「……私の目も節穴だったな。貴殿のような男をあのように罵るとは、穴があったら入りたいとはまさにこのことだ」
「それはこちらも同じだからもう遠慮はなしってことで。さ、もう歓迎の食事を用意しているから行きましょう。料理は温かいうちに食べるに限るしね」
「ああ、そうだな。温かい食事などほとんど食する機会がないから楽しみだ。だがその前に……」
そのまま視線を僕から横で談話している三人に向ける。女三人寄れば姦しいとは言うが、さらにそこに美容の話が絡むと女性というのは思った以上に熱くなるらしい。
まずは彼女達の話を止めて食事をするという方に誘導しないといけないな……。
設定が黒くなりそうになるのを必死に止めている今日この頃
重い話はこの小説では求められていないのだ……!!!
まぁ多分抵抗むなしくブラックが滲み出るんだけどね、この章から
それでも友情努力勝利恋愛をモットーにやっていきます
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!