王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
結局食事の時間はずらすしかなかった。昼食を王城で食べるはずだったのに現在の僕達がいるのは王都のとある一角。
こうなった理由は王城でシオン・エースとその母であるシエルさんを出迎えた僕達は一度荷物をおろしてもらおうと思ったのだが
「荷物は着替え一着と槍くらいのものだ。私は敗者、私物を持ってきていい立場ではない」
「この子はずっとこんな感じでしてー……、せめて着替えはもう少し持って行けと言ったんですけれどー」
「母さん、これは旅行じゃなくて敗者になったことに関する罰なんだから着替えなど持ってきたら意味がないだろう?周囲に対する見せしめにもならない」
などと言ってほとんど荷物を持っていなかったらしい。ただその時の発言が女性陣を焚きつけたのもまた事実。
要するにこんな美人で着飾ればさらに光る素材を前に何もしないなどと言う選択肢はない、という感じに。アリシアも最近は色々な服を着ておりお洒落を楽しんでおり、さらにヒカリはというとこれが結構服集めをするのが楽しいらしくて色々な服を試着させてもらったりしている。
見る度に色んな服の感想を言ってきたが、やはり元がいいからだろう。まったく文句の付け所がない美人で結構ビビってる。それ以上に着せ替え人形にされかけたことにビビったりしてるけど。
僕自身がそうだが人の趣味に対する熱意というのは時折理解不能なところまで行く時があるので注意が必要である。
そんな彼女達の目の前に着飾るなんてことを知らない美人がいたらどうなるか、火を見るより明らかだ。
「んじゃこれからシオンに似合う服を集めるぞ!!!用意はいいか!!!!」
「「おぉーーーーーーーー!!!!!!」」
「資金はトーマが出してくれるから安心だ!!!んじゃ行くぜ!!!!」
「ちょっと????」
「あー……なんというか、その、すまない」
というわけで財布役として僕も連れてこられたわけで。ぶっちゃけ使い道のない給金の使い方としては上等だし別に構わないのだがそれはそれとしてもやもやはするもので。
ただヒカリ達の楽しそうな笑顔を見ていると非常に満足して簡単に許してしまう辺り僕は彼女達に甘い、というかチョロいのかもしれない。
「何度も言うが、すまないな。母は何故かここに来ることに大いに賛成した上に自分を置いて行けと言い出したため無理やり連れてきた。貴殿らにとっては予定にない来訪になっただろうが……」
「家族と離されるのは誰でも嫌だと思うからそこは気にしてないよ。部屋は別にした方がいいかと思ったから街に出る前に担当者に手紙渡したし、多分問題なし」
それに、だ。シエルさんはヒカリ達と仲良くしてくれている。生来の気質と、これまでの人生による経験で警戒心が強い彼女達とだ。
あの二人が楽しそうに笑っていられるのならば僕としては何の文句もない。
「シアちゃんシアちゃん!!この服王様に似合うと思わないかい?今ならペアセットでこっちのドレスもついてくるよ!!!!」
「う、うぅぅ~~~~~!!!と、トーマ君にぜひ着てほしいけど、これ買ったら今月のお給料の大半が……」
「そんならヒカリちゃん、こっちの洋服も付けるから二人で三着買わない?それならちょーっとお安くしておくよ!!!ちなみに三人お揃いな雰囲気になってるのよぉ」
「いい商売してんなおばちゃん。だけどこれいい生地使ってねぇか?この値段で本当にいいのかよ」
「大丈夫大丈夫!!王様が使ってくれたって話が広まるだけで商売繁盛するからっ!!そっちのお嬢さんもどーう?」
「それじゃああそこにいる長身美人なあの子に似合う服を見繕ってください!!!」
うん、本当に楽しそうだ。あとで着せ替え人形にされることが確定しているようなものだが、それくらいの我儘は可愛いものだと思って納得しよう。別に僕自身それが嫌というわけでもないしね。
「……なんというか、本当にこの国の王都では王と民の距離が近いんだな。あんな風に自分から売り込みに行ったり、それを笑顔で受け入れたり。明るい街、というのが私が抱いた第一印象だ」
「元平民が王様だし、そもそもごく最近まで王がいない王国ってことで偉い人って印象がないんだと思うよ。あんまり身分差というのが実感できてないんだろうね」
それでも急に聖剣を抜いただけで王様になったような人間をきちんと受け入れてくれるあたり、気のいい人達であり、力になってくれる人達だ。
彼らの王様として何が出来るか、と考えた時思いついたのは例の映像放送。あの映像はどうにもあちらこちらで好評の声が上がっていた為定期的に放送してくれと陳情も出されていた。正直恥ずかしいことこの上ない、さらには聖女であるアリシアも赤面する程恥ずかしがっていたが結局民衆の熱意に負けて許可を出した。
そのせいで毎週、決まった時間にあの『王戦』が流れるようになり。それを見た人達は僕のファンになっているという話も聞く。
つい先日もこの街で結婚式を行っていた新郎はその一人だったらしく、色々とお礼まで言われてしまった。慕ってくれる人達がいる、というのは思いのほかモチベーションに関わっているようで頑張る気が湧いてくる。
「そう言うってことはあっちの王都は違うの?」
「ああ、祖国の王都とは随分と違う。私はヤランリ王国のスラム街の出身だったが、表であってもこのように活気には満ちてはいなかった。槍王自身が国の方針について何も考えていないと感じることも何度かあったな。はっきり言って私はあの国の閉塞した空気がどうにも好きになれん、閉じ込められているようで息苦しいんだ」
「それは……何と言うべきか、分からないね」
この国の王都にも一応スラム街は存在するが、剣王教会が孤児や浮浪者の支援をしている為そこまで酷くない。というのも剣王教会は教会とは言うものその教えは初代剣王によるもので、神を信じていたり教えを説いたりはしていないからだ。
剣王教会が為すべきことは一つ、力なき者の支援とその者が自力で立ち上がって歩けるようになれる教育を施すという事だけ。
その為に少なくない資金を予算として毎年割り当てていたりする。この前の会議でもそう言う事を話していたのだが、思い出すと色々と世知辛くなるので出来れば忘れたい話だ。毎年あるという事で頭が痛くなってくるが。
「あまり気にしないでくれ。あの国は長年一人の槍王がずっと君臨している、何かを変えようとする者もいない。最強の槍王に誰も歯向かうことはしない、歯向かうという思考が生まれるという事さえない。支配されているという感覚さえ民にはない。この国とは違い、あそこは檻のような場所だ」
そう言いながら眩しいものを見るように服を選んでいる三人を見ているシオンの目には諦観があった。燃え上がる熱もなく、かといって沈み込むような絶望があるわけでもなく。ただそこにある生活を受け入れることに慣れ切った者の目。
多分彼女はずっとそう生きてきたんだと思う。どうして槍王候補になろうとしたとか、さっきの槍王一人がずっと君臨しているという話も気にはなるが、それ以上に彼女がこういう顔をしているのは似合わなくて嫌だと思う。
「?どうしたんだ剣王殿」
僕は自分に近しい人が悲しい顔をするのがもちろん嫌いだが、知らない人でも暗い顔をしているのを見るのは嫌いだ。我ながらそんな性分だとは思うが、それでも前世から変わることがなかったのだから受け入れるしかない。昔、両親を亡くしたヒカリに対して毎日外に連れ出そうとしたのもそういう理由からだ。
「おっ?デートですかい剣王様?」
「うんまぁね。とびっきりの美人に似合う服をみんなが選びに来てるからその手伝い。それはそうととりあえずこのりんご飴貰える?二人分」
「二人分でいいんですか?後でアリシア様とかにも文句言われそうですけど」
「いやぁー、今は服選びしてるから持っていったら邪魔になるってヒカリに怒られそうだからね。あとでまた買いに来るよ」
「そう言う事ならちょっとお待ちを……。はい、出来やした」
初めて王都に来た時からの付き合いのりんご飴の屋台から二つ買い、シオンのいる場所に戻る。食事をする時食べられなくなるだろという人間はいない。この程度なら夕食までに軽く消化できる程度には僕の胃袋も鍛えられていた。
それくらいできなければ騎士団での鍛錬についていけない、とも言うが。
「はい、これが僕が初めて王都に来た時に食べた思い出の味。君にも味わってほしくてね」
「りんご、飴か。初めて食べるが……いいのか?私はこの国の通貨を持っていないから支払いなどできないが……」
「そんなこと気にするくらいだったら最初から買ってこないよ。無駄遣いはあんまり好きじゃないんだよね」
つまり彼女の為にりんご飴を買うという事は僕の中では決して無駄ではないという事だ。暗い顔をしている女の子には甘い物が一番効くと経験則で知っている。
シオンに押し付けるようにりんご飴を渡し、僕は再び彼女の隣に座って自分の分のりんご飴を食べ始める。初めて食べた時もそうだったがコーティングされた飴のパリっとした食感と、そのあとに広がるりんごの甘味・風味のバランスが最高。バランスが良くていくらでも食べれそうな気がしてくる。
僕が食べてるところを見てシオンも恐る恐るその口をはしたなくならない程度に開けてりんご飴にかぶりつき、その大きな目を見開いた。
「これは……凄いな。初めて食べる味だ。何と表現していいか分からないが、菓子というのはみんなこんなにも美味なのか?」
「お菓子は甘くて美味しいものが多いよ。アリシアもたまに食べすぎちゃって頭抱えてることもあるくらいにはね」
女の子らしく甘い物が大好きなアリシアはよくお菓子を食べてたりする。一緒に食べることも多いのでよく知っている、その後の彼女の後悔の顔も合わせて。
僕はあんまり気にはならないのだが彼女も女の子であり、体重が増えることをあんまりよくは思っていないようだ。かと言って食べない感じのダイエットをするのは僕が許さないので最近は毎朝ジョギングしている。僕もヒカリも一緒に走っているがよくやっているものだと感心するばかりである。
「元の国ではどうだったかは分からないけど、話したくないなら聞く気もないけどさ。それでも今からここでシオン達が暮らすのはこの国で、この国の王は僕なんだ」
何が原因でそうなったかは分からない。それでも剣王になって、その恩恵を受けた。ならばその分を返さなければならない。
今目の前にいる人達の一人一人の笑顔が僕にとって見ててとても嬉しいものだ。その笑顔の彼らの中にシオン達も混ざれればいいと心から思う。
「至らぬところも、出来ないこともあるけど。それでも進まなきゃいけなくて、その為には力がなくちゃならなくて。その力を付ける為にシオンには協力してほしい」
「私はもう槍王候補ではなく、君の物だ。だからどう使っても君の自由だが」
「そういう心を押し殺して、って言うのが嫌いなんだ。どうしようもないくらい僕の我儘だけどさ」
心は大事だ。心からの笑顔は人を幸せにする力があると信じている。その笑顔に何度も救われてきた僕だから断言できる。
「僕は君にも笑っていてほしい。昔のことを忘れろとも割り切れとも言わないけれど、それでも今この瞬間を笑っていて欲しい」
「…………初対面の時から密かに思っていたが、貴殿は随分と我儘なようだな」
困ったような笑みを浮かべる彼女に僕もそれに応えるように笑顔を浮かべる。その笑みが彼女にどう見えるかは分からないけれど。
「そうだよ?僕は王様だからね、我儘で強欲で、みんなが笑っていられる夢みたいな未来が欲しい。だから頑張っているんだ」
そんな未来がないとは誰にも言わせない。夢物語みたいだと言われても、笑われても、こんな立場になってしまったからこそ得た夢だ。
笑っているみんなの中に僕もいる。それが今の僕が目指す夢だ。
「だが、そうだな。貴殿のような王がいてもいいのかもしれない。こんな国なら母さんもきっと幸せに生きていけるはずだ」
どこまでもお母さんを心配する彼女はとても優しい人なんだと思う。だからこそそんな彼女に暗い顔をしてほしくない。お節介だろうと構いたくなる。
「これからよろしく、
その手に持ったりんご飴を食べきって、彼女は手を差し出す。それは契約の証、僕が持つ他の人とのかかわりとは違う、彼女とだけの関係性。
「うん、よろしく。君の力、嫌というほど借りるよ」
その手を迷いなく掴む。最悪のファーストコンタクトだった僕達はこうして和解して先に進むことを決めたのだった。
今回も難産だった……。一つの章の序盤中盤終盤の中で序盤の終わりから中盤にかけてが一番書くのが大変だと思う今日この頃
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!