王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
シオン達が来てから一週間ほど経ち、彼女達もここでの生活に慣れてきたようだった。この一週間はこの国でのルール説明や、基本的な知識を教育係が教えていた為ほぼ接触はなかった。
これでも僕は王なので色々と忙しい身なのだ。こちらとしてもヤランリ王国について色々と聞きたかったのだがその時間もなかった。
基本的に僕達は自分達の国のことしか詳しく知らない。確かにそれぞれ他国に情報収集をするための人材を派遣したりはしているが、それでも深いところはあまり知らない。それは民衆からしてみたら他国のことなど興味がないから、というのも理由の一つだろう。
この世界では戦争の代わりに『王戦』が存在している為他国との争いで人死にが出ることが殆どない。その為国が戦争を起こすためのプロパガンダ、主に戦争相手の国に対する士気を上げるための悪評が必要ないことも影響しているんだろう。
戦争する為に士気は必須であり、その為には他国が「悪」であることにするのが一番簡単で楽だ。だが戦争のないこの国では士気を上げる必要もなく、その結果他国への興味自体が薄くなっている。
『王戦』だって民衆に影響が出るほど大きいことを決めることは少ない。関税率とか決めたりするが、その『王戦』の頻度だって少ないし、それを目にすることなど余計に少ない……はずだったが。
クラリスちゃんが作ってしまった映像投影機のおかげで次の『王戦』を楽しみにしている人達が出来てしまったのは間違いない。
このソードリアは基本的に資源が豊かであり、不作もあまり経験しない上に食料の貯蔵は常にしている為飢え死にする人も殆どいない。毎日の生活は穏やかで生きていくだけなら苦労しないのだから恵まれていると言っても間違いない。
だが満たされているとさらに求めてしまうのが人間である。別にそれが悪いわけではないのだがこの国の技術というのは前世からしてみるとアンバランスと言っていい。本を大量に生産する技術がない為基本的に娯楽は身体を動かすことだがそれだけでも限界はあるのだろう。
そんな中で『王戦』を見た人達は何を思うのか。確かに見慣れない血が出ていたりはしたがその迫力は間違いなく今までの人生で見た物の比ではないだろう。
映像投影機を量産しまくってクラリスちゃん始め魔法研究室のマッド達によって各村に『王戦』の映像を見た民衆は次を楽しみにしているとのことだ。王城に手紙を送ってくる人もいるくらいには。
「というわけで今回は対軍訓練を映像にして放送したいと思いまーす。…………娯楽の提供って王様の仕事なのかな?」
「あ、あははは……。いつもやっていることとあんまり変わらないですから、ちょっと映されているだけで……」
アリシアと共に送信機の前で挨拶するがコレの需要があるのか僕にはわからない。ただリチャード騎士団長がやった方が多分いいと強く推したのでやることを決めた。
今回映す内容を二人で説明するだけでもみんな見ると言っていたがどういう理屈なのかはわからない。変な趣味をしている人達が多かったりするのだろうか?
「それで毎日トーマ君は対人戦闘訓練をしてますけど、今日やるのはそれとは違うんですか?」
「そうだね。今回はこうして王都の外にまで出て広い場所でやる訓練だよ。王都にいる騎士団員の殆どが参加してるこの演習で、僕が騎士団員全員と戦うって内容。対多数に慣れるって言うのが今回の目的だよ」
「あの、それって映していい内容になるんですか?団長さんと戦った時、物凄い怪我してましたけど」
「今回はリチャード騎士団長は不参加だから多分大丈夫。大丈夫じゃなかったら、うん。終わった後アリシアに助けてもらうことになるかもしれないけど」
「もうっ!!怪我したら治しますけど怪我してるところは見たくないんですよ!!」
普段は滅多に怒らないアリシアもこういう時は絶対怒るのでこのやり取りも慣れたものだ。慣れたはずなのだが……やはり何度見ても怒ってる彼女は怖くない。
全身で「怒ってます!!」とプンプン表現しているのだがどうにも迫力がない。胸の前で両手を握りブンブン振り回しているのもどこか小動物を思わせて愛らしさの方が勝るのは見る人全員が同意するだろう。
「出来る限り頑張るけど、それでも怪我するのが仕事みたいなところあるからね。この先心配させないためにも強くならないと。だから見たくなければ見なくてもいいよ」
「~~~~~~~!!!見てなかったら怪我してるところ隠すでしょう!!!見てますよ、見てますからね!!!!」
『王戦』に怪我は付き物だ。前回なんて槍で貫かれて血が噴き出たり毒を吸ったせいで五感を奪われかけたりした。こういうことはもう慣れと経験で抑えるしかないと思っている。
対策を考えるのももちろん必要で大切だが、必ずしも手に入った情報が全てという事もない。戦うなら絶対に様々な経験をする必要がある。
だからこの対軍戦闘訓練も絶対に必要だ。
「王様がまーた聖女様とイチャイチャしてるよ……」
「ああいうの見た後のヒカリさんめっちゃ怖いんだよ。目つきがいつもより鋭くなって……可愛さより怖さが勝る感じがなぁ」
「あれ間違いなく嫉妬してるって。王様モテんだよなぁ」
「いやあれは嫉妬じゃなくって「自分もしたい」って言うのをどういえばいいかわからなくて結局言えなくて自分に対して不機嫌になってんだと思う」
「聖女様と仲いいもんなぁ。親友って言っていいくらいに」
「もう面倒だから二人ともまとめて娶ればいいのに。王様だしそれくらい当然だと思うけど……」
「いやいや俺はあのもどかしい雰囲気をもう少し見てたいぜ。聖女様の方も最近遠慮が少なくなってきて攻め始めてるからな」
「ああ、きっとここからが面白い所だろ」
「恋愛競争にさらに乱入者が入る方に俺は賭けるぜ」
「俺も入る方に賭けるわ」
「俺も」
「僕も」
「某も」
「拙者も」
「賭けにならないじゃねぇか」
「はーい、そこで隠れて賭け事してる馬鹿共全員締めるからねー。見ろよアリシアが今の聞いて真っ赤になって顔覆ってるんだぞ、めっちゃ可愛いだろ?」
「「「「「「「「「「同意します陛下」」」」」」」」」」
「皆さんもうやめてください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
涙目で睨まれるので止める。これ以上やったら拗ねて一週間は黙ってしまいそうだ。こういうことはちゃんと限度を弁えてやらなければならない。僕達はそれを知っており、心得ているのだ。
「……聖女殿は、剣王殿を好いているのか?」
「ふぁっ!?!?!!?!!?!!!!?」
しまった、今回はこういうこととは無縁だったシオンが参加しているんだった。彼女にとって色恋沙汰というのはまるで縁がなかったことだ。つい疑問をそのまま口に出してしまったのだろう。
もっともそのせいで我らが聖女様は真っ赤になっているわけだが。これに関しては僕達は関係ないが、これ以上彼女を追い込むとそのうち気絶しかねない。
なのでもう訓練を始めてしまおう。目線を向けると騎士団員全員が頷き剣を引き抜き、槍を持ち、弓矢をこちらに向ける。
全部刃のないモノだが、金属の為当たれば怪我をする。僕は聖剣の第二能力で強化する為死ぬことはないがそれでも痛い物は痛いし当たらないように動くことを覚えなければならない以上刃の有無は関係ない。
気合いを入れて木剣を騎士団員に向ける。聖剣を持たずとも能力を使えるようになったので相手を殺さないように木剣を使う。騎士団員は鎧を着ているので当たり所が悪くなければ怪我だけで済むし、その怪我もアリシアならば治せる。だから遠慮はしない。
「―――――さて、やるか」
この国全域で見られる僕達の訓練が始まった。
「凄いな、トーマ殿は」
彼を囲んだ騎士達はまずは剣による近接戦闘を狙った。戦いは一部の例外を除いて多い方が非常に有利だ。当然この状況では剣王であるトーマ殿が不利である。
それを分かっているだろうに彼の顔には笑みが浮かんでおり騎士達の攻撃を受けて避けて反撃をしている。一つ一つの動作が流れるように、長年かけて身に着けた技術ではなく間違いなく生来の才能と戦った経験が作り出した身体捌きは私からしてみれば羨ましくも感じる。
剣を避けて、その先に槍が突き出されそれを木剣で弾き無傷でやり過ごす。本当の戦闘のように刃があると仮定して怪我をしないように立ち回る彼は前の私との『王戦』の時以上に成長していた。毎日似たようなことをしていたのかもしれない。
騎士団員が彼を囲み槍を突き出すのが見える。後ろから来たそれを首をかしげて避けて、突き出された槍を掴み引っ張ることで鎧を着た騎士を引っ張り込む。その騎士の鎧を付けた顔に防具を付けた肘で殴り手に持った槍を奪い取る。
だがその瞬間を他の騎士達も見ているだけではない。一斉に槍を突き出し回避が難しい囲まれたその攻撃を彼は槍の刃のない穂を地面に突き刺して棒高跳びのように上空に飛び上がり避ける。槍の柄の部分で逆立ちするように回避した彼のバランス力には目を見張る。
私も同じことは出来る。出来るがあれほどまでのバランス感覚を得るためには一年ほど必要だった。彼が『剣王』になったのが本当に話の通りであればあの身のこなしを二ヵ月程度で身に着けたというのか。
「陛下は戦闘の天才です。その場にあるモノを使い自分に都合のいいように使う。環境も武器も勝つ為の道具でしかなく、それを特別視することなく使えるように使う」
かぶりつくように見ていた私の隣でこの国の騎士団長が口にした言葉に私はどこか納得していた。トーマ殿の勝利に対する欲求は私にも負けず劣らず強い。
負けてしまえば何もかも失う環境で何年も過ごしていた私に負けないくらいに、だ。つい二ヵ月前までただの田舎の村人だったとは思えないほどに。それをどうやって身に着けたのか私にはわからない。
「自分の身体が傷ついてもトーマ殿は気にせずに動いていた。あれも生来の気質なのだろうか?」
「あ、あー……。いやあれは何というか」
「団長さんのせいです。団長さんがトーマ君をズタボロにし続けたものだから痛みに慣れちゃったんです。これに関してはキャロルさんも悪いですね」
ジっと騎士団長を睨みつける聖女殿の迫力に負けて冷や汗を垂らす。睨まれてる本人も同じように冷や汗を流してその副官である女性はおろおろとしている。
何があったかはわからないがあの優しい聖女殿がそうするくらいのことをしたのだろう。本人は普通に接しているので気にしていないだろうけれど。
「でも団長さんの方が今もトーマ君より強いんですよね?」
「短期決戦ならば、肯定ですが。実戦となればまず間違いなく負けますね」
「えっ、あんなに何十時間も戦って終始トーマ君を殺そうとしてたのにですか?」
殺そうとした、というのは何かの比喩だろうか。比喩だとしても非常に物騒だが。
「あの空間は自身の認識によってだいぶ能力が変わります。私は自身の身体能力を最大強化を常にし、その上で体力魔力が減らないようにと認識していました。しかし陛下はその認識強化を知らない、つまり普段の能力でやり切ったという事です。身体強化が出来ている間は有利に戦えるでしょうが、戦闘不能になるまで追い詰めることは出来ません。長期戦になれば私は陛下に手も足も出なくなるでしょう」
短期決戦ならば体力の残りを考える必要もなく全力で走ることも出来るだろう。それは最大の攻撃力を生み出す行為だ。だがその攻撃を受けきられた場合事態は最悪になる。
何せ全力で戦ったのに倒せなかった相手に体力が尽きた状態で戦わないとならないのだ。それもトーマ殿の体力は今の騎士達との訓練で息切れしてないところから非常に高いのが分かる上、『剣王』になる条件に魔力量とその回復量が高いことがあるのだ。
それを加味すれば長期戦ならば騎士団長がトーマ殿に勝てないのには納得できた。
その戦闘センスと体力と魔力、今の彼に足りないのは戦闘経験だけだ。その経験を積み、さらに新たな魔法という手札を手に入れた時彼がどこまで強くなるかは私にはわからない。
その才能の高さに嫉妬してしまいそうになるが、それ以上にその強さに追いつきたいという欲求が生まれてくる。
才能ならば私も槍王最有力候補になった身だ。周囲からどれほど嫉妬されてきたかはわかる。時には憎まれることもあり罵倒もされた。
ただ母さんと共に一緒にいる為に。トーマ殿と同じように譲れない物を守る為に。今まで見てきた男と違い、ただ純粋に誰かを想った目をした彼と共に戦うのは楽しいのだろうと思った。
私も母さんを、暖かい
その時感じた違和感を、私は目の前の光景にすぐに忘れていった。
今回の話を読んだ後二話前を見ると面白いかもしれないっす
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!