王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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俺の最推しカップリングはFate/Apocryphaのジクジャンです

恋知らぬ聖女と、生まれたての邪龍のカップリングが最高なんよ……


抜けてしまった聖剣

 

 ヒカリに蹴られた後頭部をアリシアが治療してくれたため痛みが治まり、せっかくなのでと誘ったら案内を買って出てくれたため共に歩きながら街中を進んでいく。

 

 一緒に歩くアリシアの姿を特に誰も気にせずに普段の生活を送っているところを見ると、街の住人にとってはこの治療風景はいつも見ているモノなのだろう。

 

 それだけ彼女はいつも誰かを助けているという事で、それはきっととても尊く、そして大変で疲れる生き方をしているのだと思う。

 

 それはそれとしてだ。

 

「後頭部にローリングソバット食らわすのはどうかと思う。記憶がぶっ飛んだらどうするの???」

「その結果奇行が収まるんだったら必要な犠牲だったって大声で言ってやるよ」

「この幼馴染、まるで反省してない……!!!」

 

 暴力系ヒロインは昨今では厳しい目で見られるというのに、彼女はまるで気にしていないようだった。いやまぁ彼女をヒロインとする男がいるのなら僕は採点基準高めで見させてもらうが。

 

 僕はカプ厨であり、変人であることは自覚しているがそれはそれとして幼馴染に幸せになってほしいという程度の良識は持ち合わせているつもりだ。

 

「あ、あの。本当に大丈夫ですか……?頭に大きいたんこぶが出来てしまっていますが……」

「大丈夫だよ。コイツ何回もくらってんのにまるで反省せずに同じこと繰り返してる馬鹿だし」

「抑えられないリビドーがあるからね、しょうがないね」

 

 アリシアの心配する声になぜか僕ではなくヒカリが答えているが、実際何度も繰り返していることなのでお互い慣れっこだというのも事実だ。

 

 我が道を行くことに関してはあの主人公を思い出すが、僕もまた自分の歩みを止めることはない。彼には当然劣るだろうが、それでもこの道を僕は堂々と歩いていきたいと思っている。

 

「さて、と。それじゃあ治療の恩返しとして僕がりんご飴を奢ろう!!母さんから貰い続けた使う機会のなかったお小遣い、使うのはこの時を持って他にないと断言しよう!!!」

「ええっ!?そんな、悪いですよ!!」

「あー。悪いけど付き合ってやってくれよ。コイツ一度言い出すと聞かないし。ほらもう走ってる」

 

 思い立ったら吉日。思いついたことはすぐにでも行動して実践しなければ機会を逃し、その機会はいつ取り戻せるかもわからないのだ。

 

 これは社会に出てから一番に学んだことだ。でなければ効率が下がって残業を大量にやらされるのだからたまったものじゃない。

 

 先程パフォーマンスという名の関節技を仕掛けられていた広場の一角にある、聖地の一つたるりんご飴の屋台に向かいりんご飴を二つ買い込む。

 

「結構大きい上に二つも買ってるけど、それ全部食べれるのか?」

「僕が食べるわけじゃないさ。これはデート代ってやつでね、男がこういう時お金を出さなきゃ可愛い女の子は付き合ってくれないのさ」

「あっはっはっは!坊主は成人したてだろうに女の扱いをよくわかってるじゃねぇか!!よっしゃ、そういうわけなら俺も男を見せてやるよ。二つ買ってくれたんでおまけに一つやるよ!!」

 

 おお、なんと気前のいい。これが余裕のある男というものだろうか。

 

 ヒカリとアリシアの分を買ったら僕の分までくれるなんて……、店主のおじさんは本当にいい人なのだと改めて分かった。

 

 ここのりんご飴はゲーム内でも何度も食べられている主人公の好物の一つ。プライドの高い彼が一言目に「美味い」という味を是非知りたかったのだが、こんな形でとは思ってはいなかった。

 

「おーい!!りんご飴買ったよー!!!本当は二つだったのにおじさんが一つオマケしてくれた!!!」

「お前本当割とすぐに誰にでも気に入られるよな。アタシはオマケなんて貰ったことないのに」

「滅多に笑わないからじゃないの?笑ったら可愛いのにもったいない」

「そういうこと言う奴がすぐそばにいるから笑いたくないんだよ!!!」

 

 僕達がいつもの通りに言い合いをしているとすぐ近くでクスクスという笑い声が聞こえてくる。

 

 その笑い声の音を辿ってみれば光の束を集めたような金髪を揺らしながらアリシアが口元を抑えながら笑っていた。

 

 その笑顔に思わず見惚れていると隣の銀髪がわき腹を抓ってくる、痛い。

 

「お二人とも仲がよろしいのですね」

「昔からの付き合いだからねー。もう十年くらいうちに住んでるんだっけか」

「お前がおばさんに我儘言ったせいだろ。感謝はしてるけどさ……」

 

 幼馴染の彼女の両親が亡くなったのは僕達が5歳になるかならないかくらいの頃だった。

 

 当時はまだ前世とかまるで思い出していなかったが、魂にこびりついたカプ厨精神が今と同じ行動を僕に取らせていた。そしてそれを止めるのがヒカリであり、だからこそ僕達は常に一緒にいたと言っても過言ではなかった。

 

「こいつ、アタシを一人にするなら僕も家出するとか言い出したんだよ」

「クスっ、それは子供らしい言い方ですね。それで、ヒカリさんはトーマさんのお家に引き取られたと?」

「笑いごとじゃないんだわ。こいつマジで家出して森の中で二日間くらい一人で生きてやがった」

 

 絶句、という言葉がよく似合う表情をアリシアがするが僕の弁解も聞いてほしい。

 

 あの時僕はヒカリが言った通りのことをそのまま言った。そしたら母さんが「本気で言ってるなら行動で示しな」というもんだから頑張っただけだ。

 

 周囲を大まかに把握していた村近くだったから何とか生き残ったが、どことも知れぬ場所で生活しろと言われたら多分一日で猛獣辺りに食われていたと思う。

 

「だから勝算のある無茶だったから許されると思うんだよね」

「それをおばさんの目の前で言うからお前はぶん殴られてたんだよ馬鹿」

「む、無茶はしてはいけませんよ。それで心配する人もいるんですからっ」

 

 一対二で攻められてはこちらも弱い。大人しく白旗を上げるとしよう。

 

 にしても、話していて分かるが本当にアリシアという少女は『聖女』の名にふさわしい優しさと力を持っているのだと再認識する。

 

 『Legenda Septima Rex』の主人公、ヒカルは孤児であり常に村人から敬遠されて生きてきたという。その為生きる為に剣をとり、森の中で自分より大きい鹿やら熊やらを狩って生きていた。

 

 それはこの世界におけるファンタジー要素の一つである『魔素』に愛されている結果だと後に判明するが、要するに彼はモンスターとかいう不思議生物はいなくとも盗賊や獣の跋扈する危険な世界を一人で生き抜いてきたという事だ。

 

 その生い立ちのせいだろうか。ヒカルは誰かに頼るという事も知らない為、ゲーム中ではヒロイン達が心配しても我関せずに生きる。強い相手と戦って生きてる充実感を味わうために彼は義務を背負ったと明言されているのだ。

 

 そんなヒカルがどのルートでも絆されているのが、今僕たちの隣でりんご飴をその小さい口で一生懸命食べようとしているアリシア・セプテムである。

 

 彼女はその優しさと、『聖女』であることの強烈なまでの強迫観念でヒカルと接した。

 

 そう、彼女は優しいだけではなく『聖女』にふさわしい姿から外れないように日々自分を追い詰めながら生活しているのだ。

 

 『聖女』とはこのソードリアにおいて、国家の代表たる『剣王』の補佐をする存在とされている。

 

 『剣王』が死なないように、歴代の聖女全員がこの世界で担い手になれるものが限られている回復魔法を会得している。

 

 詳細は省くが、要するに『剣王』と『聖女』はセットなのだ。だが彼女の片割れである『剣王』は建国以来二代目が生まれることなく500年が経っている。

 

 国を背負う両翼の片方が欠けている状態で彼女は『聖女』の称号を貰い生きている。

 

 それは想像を絶する重荷になるのだろう。ゲームではその片割れたる『剣王』が現れ、彼女の努力はようやく実を結ぶことになるが、その反面半分以上依存している状態にもなっていた。

 

 とにかくだ、彼女を救う人間はもう決まっている。

 

 今の知り合ったばかりの僕達に何かできるわけもない。こうして彼女と共に街を歩き、少しでも『聖女』であることを忘れさせるよう努めるくらいしか出来ない。

 

 だけど彼女は幸せになる。それは断言できる。

 

 いつか必ず、彼女が心の底から笑い合える少年が来る。ここはゲームではなく現実なのに、なぜか僕にはそんな確証があった。

 

「そういうわけで好きな男性のタイプは。出来ることならその人と一緒にしたいことも教えていただけると嬉しいです」

「だから脈絡なく馬鹿話始めんのやめろ!!!」

「あ、あははは……」

 

 突拍子がなくても仕方ないだろう。この質問の答えで今後の僕の人生がかかっているのだ。

 

 この娯楽の少ない世界において、妄想という無限の世界を見せてくれる時間。だがもう犬のカップリングは見飽きているのだ。もう少し刺激が欲しい。娯楽の多い前世を思い出してからその欲求は日に日に増えていく一方だ。

 

 だから少しでもその材料になる話を聞きたい。幸せになってる人を想像して僕もまた幸せになる。

 

 そしてその僕が誰かにこの幸せをお裾分けし、その誰かもまた幸せになりそれを見て僕は幸せを感じる。

 

 そう、これが永久機関なんだ。理想のエネルギー機関はここにあったんだ。

 

「だからお願いしますよぉ!!!僕の為に貴女がしたい幸せなことを教えてくれぇ!!!!」

「無視していいからな?この馬鹿に餌をやると無限に燃え上がるから」

 

 人を燃えやすい枯れ木のように言うのはやめていただきたい。

 

「別に構いませんよ?こういう普通のお友達同士の話なんて、久しくしてませんでしたから」

 

 そう困った顔をしながら、それでも笑っている彼女はとても美しかった。彼女をモノにするであろう主人公君は絶対に幸せにしないと許さない。

 

 僕が心配しなくても彼なら、彼らなら絶対幸せになるけどなぁ!!!!

 

 

「あえて言うなら……夜、一緒に散歩をしたいですね。星明りを歩きながら見て、他愛のない話をして、それで夜が更けるまで一緒にいる。そんなことを、一回でいいのでしたいです」

 

 

 どこにでもいる少女のような願いを言う彼女は、その時だけはそれこそ普通の少女だった。

 

 そして僕は安心する。その願いは叶うと分かっているからだ。僕がその光景を見ることはないだろう。だが推しカプの片割れが必ず幸せになるというのは僕にとっては朗報の中の朗報だった。

 

 これで酒場で働く一生を元気に送ることが出来るだろう。一生分の燃料は貰ったのだから、後は妄想で補うだけよ。

 

「んあ?ここ広場だよな。なんか剣が突き刺さってるし」

「抜いた人が次の『剣王』様になるんだっけ。各地から成人になる子供を集めて抜けるかどうか確かめるのも国にとって必要だからだよね」

 

 そう、僕達がこの王都に来た一番の理由はこの『聖剣』にある。

 

 現状各国家との話し合いは継続してソードリアが不利な条件で取引を結んでいる。それは国家の代表である『剣王』がいないからだ。

 

 国家として『剣王』を見つけるのは最重要事項でもある。だからこそ僕達のような田舎の子供もこうして王都に来ているのだ。

 

 まぁ大半は抜けるわけがないと思っているので目的の大半は王都観光だと決まっているが。僕もそのつもりだしヒカリもそのつもりだろう。

 

「トーマさんとヒカリさんはもう挑戦しましたか?」

「後回しにしてたなー。どうせ抜けないし、それだったらいつやっても変わらないだろ」

「抜ける人はもっと特別な人だろうしねー。酒場の一人息子には『剣王』なんて無理無理」

「トーマさんは色んな意味で特別というか……」

「言い繕わなくていいって。ただの変人だから」

 

 それには言い返したいが、まぁ特別というのはこの世界の主人公である彼のような存在を言うのだから何も言い返さずにおこう。

 

 とりあえず必ず一回は挑戦しなければいけないという決まり事だ。失敗すると分かり切っていることをやらなくてはいけないのは夏休みの宿題のようで嫌だが仕方あるまい。

 

「今年もいないなー」

「そんなもんだろ。初代様から500年も抜けてないんだから」

「これで今年も俺らが大変な目に合うわけか……」

 

 『聖剣』が抜けるかの監視をしているであろう鎧姿の騎士に頭を下げながら通り過ぎる。

 

 彼らも『聖剣』が抜けるとは欠片も思っていないようだ。僕が『聖剣』の柄を持ってもなんの期待もなく、いつも通りの作業をするというなんとも前世の社畜時代を思い出させる光景に少し涙が出てくる。

 

 まぁこんなことにいつまでも時間をかけるのも悪いと思うしさっさとやってさっさと退散しよう。

 

 そう思い、剣の柄を上に持ち上げる。

 

 まったく抵抗なく腕が持ち上がる。

 

 腕の先を見れば、地面に突き刺さっていて見えないはずの輝く刀身の先がそこにあった。

 

 周囲を見れば全員が唖然とした顔でこちらを見ていた。恐らく僕も同じような顔をしているに違いない。抜けないはずの剣が、何故か抜けたのだから。

 

 その中でも特に酷いのは幼馴染であるヒカリと、その隣にいるアリシアの二人。二人とも並んで美少女がしてはいけない顔をしている。

 

 そして『聖剣』によって与えられた特殊能力が僕に一つの答えを教えた。

 

 それ即ちヒカルとヒカリが同一人物だという事実を、前世でいうところのTSをしているという事を。

 

 それら全てに対して言えることは一つだけ。

 

「ありえねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!ヒカアリはどこに行ったんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

 

 僕が『剣王』だとかそんなことは今はどうでもよかった。ただただ最推しCPが塵と消えた事実に僕の心はひび割れた。

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