王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
自重するのやめました。黒いのぶち込みます
最終的にトーマ君が全部何とかしてくれるって俺信じてる!!!!!
以前、キャロルが長年生きているという話を耳にしたことがある。だがそれは彼女がエルフという種族であり、それは長命であることが当たり前だからだ。
当然ながら人間の寿命はそれよりもはるかに短く、恐らく70になって生きている人物はこのソードリアでもかなり珍しいと思う。現在の『槍王』がそれ以上の年齢と聞いて僕は密かに恐ろしさと僅かな安堵を覚えていた。
年齢による身体の不調によっては『王戦』で有利に立ち回れる、と。
「『槍王』は500年以上前から生きています」
そしてその考えはいとも簡単に打ち砕かれた。
「『槍王』が初めて現れたのはこの国で言うところの初代剣王の時代だと聞きました。実際はそれ以前から存在していたようですが、表に出てきたのはそれくらいだったと」
『槍王』の真実を口にした彼女の言葉に僕は何も言えずそれをただ聞くしかない。口を挟む余地などなく、それを真実なのだと語るその言葉を信じたくないのに信じてしまう。
それはきっとシオンの役割を直感的に察してしまったからで。
「初代剣王とどんなやり取りがあったのかはわかりません。それを覚えているのは恐らく『槍王』と今なおドラコニア竜国に君臨している『竜王』くらいでしょう。各国の王と共に決められたいたずらに戦争を起こさない為のシステム、それが『王戦』です」
あって当然だと思っていた『王戦』の事実を聞いて、それ以上に気になることがあった。500年前から『槍王』が生きているのならば、彼女はエルフか、それとも他の寿命が長い種族なのか。
頼むからそうであってほしい、そんな僕の願いは容易き切り捨てられる。
「『槍王』は他者の肉体を乗っ取り続けて生きています。今の身体は四人目、次で五人目になります。そしてその五人目に選ばれたのがシオンなのです」
「それ、は、シオンは……」
「知りません。次の『槍王』がシオンだと決まり、特区内にいる槍王候補や親衛隊にはその事実が明かされました。私も役割的に親衛隊の一部になっていたので知ることが出来ました」
彼女は顔を俯けて濁り湯を見つめ続けている。その顔色をうかがうことは出来ないが、恐らく僕と大差ないくらいには青い顔をしているのだろう。
「あの王は間違いなくシオンを取り戻すために動き出します。いえ、既に動いているかもしれません」
思い出すのはヤランリ王国からの『王戦』の申し入れ。そしてその時、敗北した時の条件はシオンの返還。シエルさんの予想は的を得ていて、だからこそ恐ろしく感じた。
一人の人間をそこまで病的に欲するその在り方に。そしてそんな人間に狙われてしまったシオンに対しての同情を思わずしてしまう。それが何の救いにもならないと分かっていても、だ
「他人の肉体を乗っ取り、その自我を沈み込ませて、自分勝手にふるまっている。バサルニカ教国での暮らしも酷かったですが、ヤランリ王国もまた酷い。前者は弱者に一切気を配らない弱肉強食の世界。後者はまるで完全に管理された人形の国のようにその一切を支配されている」
この国の人は良く笑っている。それはとても素晴らしいことだと彼女は続けた。この数日で見てきた物がとても価値のあるモノのように、慈しむようにあったことを思い出す。
その中で笑っていた一人の少女を想って、彼女は無表情だったその口元に小さい笑みを浮かべていた。
そしてそれはいずれ来る現実の前に消えて
「シオンは『槍王』にふさわしいようにその言動を変えて、礼儀作法を身に着けて、何より並大抵の女の子では耐えられない傷をその身に刻んで、恋も知らずに生きてきた」
それは自分もそうだろうに、彼女はそれを我が身以上のことのように嘆いていた。無表情で、何の色も宿していなかったその瞳から静かに涙を流して。雫になってお湯に落ちたそれは波紋となっていずれ消えていく。
「トーマ様、私は罪人です。自身の為にあの子の心を捻じ曲げ、あるはずもない希望を見せ続けてきました。この国で静かに暮らすなど許されませんし、私自身が許せません」
自分がどうなってもいいと告げられ二の句を継げなくなる。軽い気持ちで彼女に何かを言う事はその覚悟を侮辱する事であり、彼女自身を貶すことと同じことだと理解してしまう。
「それでもあの子は、シオンは違います。あの子は真っ当に母親を愛して、その為に自分の人生を使って、誰にだって認められる努力をしてきた。そんなあの子の人生が、『槍王』に乗っ取られて魂を誰にも見られない闇の中に沈みこませるものなんて私は認められない」
僕にだってそんなものは認められない。だけどそんな僕以上の熱量を彼女は持っていた。それはまさに親が子を愛する熱のようで。
「私はどうなっても構いません。文字通り死んでも構いません。シオンが真実を知れば私を殺したくなることは間違いないでしょう。その時その刃を受け入れてもいい。それであの子が傷つくというのならば自ら命を絶つことだってします」
その言葉に込められた力は発言全てが真実だと言っているようで、きっと誰にも止められない。
「シオンが大切なんです。5年前から騙し続けて、母親を私の姿に歪めて、彼女の家族愛を馬鹿にし続けてきた私だけど、それでも大切なんです」
シオンの名前を口にするたびに彼女の瞳には愛情が溢れる。その時だけは無表情を貫けないようで、自分のことなどどうなっても構わないと本気で言い放つ彼女がその名前を呼ぶ時だけは本物の母親のようで。
「シエルさんは、君はどうして、そこまで……?」
「……初めてだったんです、私のことを愛してくれたのは。それが嘘に嘘を重ねて得た物だったとしても、あの子は私を愛してくれた」
彼女に聞いたバサルニカ教国の話を聞けば弱者として生まれてきた彼女の人生がどんな物かは想像が出来る。だけどそれはあくまで想像であって彼女が経験してきたことの百分の一も僕は理解できないのだろう。
愛情を向けられるというのが、彼女にとってどれほど難しかったのか。それを向けられることがどれほど嬉しいものだったのか、きっと僕にはわからない。
「私は奴隷として生まれて奴隷として生きてきた。名前も与えられず、ただ転々と生きる為だけに生きてきた。それ以外のことなんて知らなかったし知ろうとも思わなかった。今の状況だって始めの頃は本当に楽な仕事だとすら思っていた。シエルになり切る為に教育までされて、そこで初めて人になれた気がした」
それは罪の告白。彼女自身が自分を許せない理由を、ただただ口にする。それは誰かに聞いてもらいたかったことで、誰にも言えなかった事。ずっと、一人で抱え込んでいた事。
「シオンを騙して、あの子を馬鹿にしていた。気付かないで私を母さんと呼ぶあの子を私は愚かだとすら思った。当たり前のように毎日傷だらけになって、それでも今日の食事を一緒にとれることを喜んで、たまにあった休息日には朝から夜まで一緒にいて、他愛のない話を繰り返して、最後は一緒のベッドで眠って」
「…………」
「初めて人に抱かれて眠ったんです。その暖かさを初めて知って。こんなに小さい子がいつも頑張っているってことがどれほど大変だったのか。頼れる大人がどこにもいないことの辛さは、私も知っているのに想像すらせず、その愛情を本物のシエルの代わりに受け続けた」
静かに流れ続ける涙は湯船に混ざり続ける。目元を手で拭うことすらせずに、自身の愚かさを口にし続ける。シオンと共に過ごした日常を思い返して、それがどれだけ幸せだったのかを気付かずにいた自分を許せずにいる彼女に出来ることは僕にはなかった。
「シオンが熱を出した時がありました。私はあの子を看病し続けました。あの子が死ねば私の役割は終わりになり、また奴隷に戻る。また毎日がろくな寝床もない最底辺の生活に戻る。それだけは嫌で、だから私は私の為にあの子を生かそうとした」
それなのに、そう語る彼女は今は何を思っているのだろう。自分の愚かさへの怒りか、それともシオンを想っているのか。多分両方当たっていると思う。
「それなのにシオンは私の心配をしました。「熱が移るから母さんは離れてて」と言って、熱にうなされているほどなのに、私を……こんな私を心配して!!」
「……………………」
「うなされながら寝ている時は無意識に私の手を取って「母さん」と呼んでいたあの子が、きっと寂しくて今後が不安で自分が何とかしないとって思い続けて、誰かを気に掛ける余裕なんてあったはずのないのに、シオンはそう言った。初めて、人に心配されたんです。あの時初めて私は人間になれた気がした」
それが彼女にとってどれほど衝撃的なことだったのか。普通に生きて、普通に愛されてきた僕は初めてその普通こそが何にも代えられない価値を持っているのだと知った。
「私のことなんてどうでもいい。あの子を騙し続けた私なんて無惨に死ねばいい。絶対に嫌だった奴隷に戻ることだって厭わない。地獄に落ちて未来永劫この身を炎で焼かれても私は構わない。これから先どんな酷いことになろうと私がしてきたことを考えればそうなって当たり前で、出来ることなら自分で自分を殺したいくらい憎い」
覚悟を感じた。本物の母親のように彼女はシオンを想っている。それを彼女自身は絶対に認めないだろうけど。
「でもシオンが幸せになれないなんて認めない、認められない。あの子はようやくあの悪夢みたいな国から逃れることが出来た。『槍王』という化物から逃げることが出来た。これであの子は自分の本当の人生を歩むことが出来る」
思い出すのはいつかシオンが言っていた言葉。シエルさんはシオンがソードリアに行くことに賛成し、その上で自分を置いて行けと言ったと言っていた。それを無理矢理連れ出してきたと。
目の前にいる彼女は自分という鎖からシオンを解放するつもりだったのだと悟る。そんなことをすればどうなるかくらい火を見るよりも明らかなのに彼女はそれを選んだ。
「お世辞じゃありませんけど、このソードリアは本当にいい国です。活気に満ち溢れて、弱さが罪にならず、誰もが明日に希望を持って、それがずっと続くと思っている」
「大臣達の、長年の努力だね」
「そうかもしれません。だけどそれだけじゃなくて、決して自分達を見捨てない王がいるという事実が彼らの希望を支えていると思ってます。あの時の『王戦』で私も貴方にならばシオンを任せられるかもと思い賭けました。そしてその賭けは成功したと思っています」
「……僕は、そんなに大した人間じゃないよ」
「それでもです。それでも私は貴方に賭けたい。貴方に捧げられるものなどこの身には何もありはしないけれど、何の対価も支払わずにこんなことを言うのは、貴方の良心に訴えるだけの卑劣な行動だと分かっているけれど、それでも言わずにはいられない」
湯船から上がった彼女は、風呂場の床に頭をつけて懇願する。
僕の性格を理解した上で、僕を利用することだと断言しながらそれを実行する。そうしなければシオンを救うことが出来ないと分かっているから彼女は躊躇わない。
シオンを守ることを自分には出来ないからと言って、それを出会ったばかりの人間に頼み込むことだけを希望だと思って。
「トーマ様。どうか、どうかシオンを助けてください。あの子があの子らしく生きられるこの国で生活させてください。あの子を、守って」
彼女の顔の下に溢れていく水は、きっと風呂場のお湯だけじゃなくて。どれほどの無力感を感じているかなんて僕には全部分からなくて。
それでも彼女の涙も、シオンの笑顔が消える所も、僕は見たくないとそう思った。
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!