王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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黒くすると言いながら甘くなった

メリハリが大事だよね!!! という事でメインヒロインの出番です




霧の中 晴れる景色

 

 シオンを助けてほしい。それがシエルさんの唯一の望みだという。

 

 その為ならば彼女はきっと文字通りなんだってするだろう。だけどその献身に対して僕は何が出来るのかが分からない。何かをしようとしても、その為の力が何もかもが足りない。

 

 『槍王』の真実を知り、余計にそう思わされる。500年も生きて、その間経験を重ね研鑽を積み上げてきた存在が本気でシオンを奪おうとしてきたら僕に出来ること等あるだろうか?

 

 僕の全力の抵抗でさえきっと『槍王』には何の意味もなさないのだろう。そう思ってしまうのは気分が落ち込みどこまでも思考がネガティブになっているからだろう。

 

「はぁー……どうしよう……」

 

 湯船の中で足を放り出して漂わせて一人深いため息を吐く。既にシエルさんは風呂場から出ていってこの場にいるのは僕一人だけ。

 

 考えをまとめたいから一人にしてくれと言ったら彼女は音もなくその場から去っていった。それだけの所作でこれまでどんな苦労をしてきたのかが想像できてしまう。音を立てて移動をしてうるさいと思われたら、それだけで罰を受けるような環境。

 

 僕には想像しか出来なくて、その想像ですらきっと現実のそれと比べれば遥かに甘いのだろう。僕の想像が現実通りなのか、それとも違うのか。どちらにせよ僕が考えてもシエルさんの過去は変わらず、今の現状も変わらない。

 

「確かに騙してたのは、悪いとは思うけど……それ以外に選択肢がなかったのも事実なわけで。でもシオンを騙してお母さんの立ち位置を奪っていたというのもまた事実なわけで」

 

 こちらを立てればあちらが立たず。どちらも放っておくことなどできず、だけど何が出来るかすら分からず思考は堂々巡りを続ける。

 

 最高の結末を迎える為には力が足りない、時間が足りない、そして何より間に合うことのない過去がそこにあって。何一つ一人ではどうにかなる気がしなくて。

 

 手を伸ばしても届かない物とはこれほどまでにもどかしいのだと初めて知った。伸ばしても伸ばしても霞みを掴み取るようにして、結局徒労に終わりそうなそんな感覚。

 

 お湯の中に頭を突っ込む。頭が茹って何の意味もない考えが頭の中を支配しているのが分かる。それを一度リセットさせる。

 

 お湯の中で力を抜けば何か見つかるかもしれないとただ漂う。だけどそんなことで思いつくのならば誰も苦労はせず、案の定何も思いつかずに終わる。

 

 お湯から頭を出して思いきり振ってお湯を切る。結局何もいい考えは思い浮かばない。それでも強くなる必要は間違いなくあることだけは分かり、そこに自分の全てをつぎ込む覚悟を決める。

 

「まーたなんか背負ってんなぁ」

「うん……事情は人それぞれと言っても、何とかしたいことが多すぎてうひゃあ!?」

 

 ちゃぷ、という音が聞こえさらには声を掛けられてそこでようやく誰かが隣にいることを認識し……横を見ればヒカリが入っていた。

 

 普段は首元で縛ってある長い白銀の髪もをお湯に浸けないように上げて、健康的でありながらシミ一つない僕とはまるで違う柔肌を惜しみなくさらけ出して、大事なところだけを隠すようにタオルを纏った彼女はお湯の温かさに大きく息を吐きだしていた。

 

「いやいやいや!!!なんで入ってきてるのさ!?こんなところ誰かに見られでもしたらどうするつもり!?」

「大丈夫だろ、ただいま王様使用中の掛札付けてきたし。リチャード団長に言ってきたから騎士団の鍛錬も今日はもう少しかかるし」

 

 なにも困らない、そう言い放つ彼女は可憐な容姿とは裏腹に男前すぎた。何故僕の幼馴染はこうも可愛いのにカッコいいのか、明らかに僕の母親の影響が大きいことを認識し天にいる彼女の両親に手を合わせて謝罪しておく。

 

「というかそもそもなんでヒカリは一緒にお風呂に入ってきてるのさ……。僕が入ってるの知ってるでしょ。本当にもう少しこう自分の容姿を客観視というか、自分が美人だってことを考えてほしんだけど」

「お前以外に見せるつもりはねーし、お前以外が入ってないのはちゃんと確認したっての。トーマは考え事で忙しそうで気付いてなかったみたいだけどな。というか昔は何度も一緒に入ったろ、時間とお湯がもったいないってことで」

「それ子供の時の話でしょ……今はお互い大人なんだしさぁ……」

 

 子供の頃の性を意識していない時期ならまだしも今の僕にこれは刺激が強すぎる。隣をチラチラ見る目を隠せずに、ヒカリはそんな僕をニヤニヤ眺めているので多分自分に向けられる視線に気付いている。でもそんな彼女の頬もお風呂に入ったことによるとは思えないほど赤くなっている為多分自爆技の一種である。

 

「………………」

「………………」

 

 互いに真っ赤になりつつ黙り込む空間は居心地が悪く、同時にこの時間をもっと過ごしていたいという矛盾した気持ちを抱く。

 

 魅力的な異性と慣れ親しんだ幼馴染が同居している彼女に対して間違いなく僕は好意を抱いている。好きな女の子が肌を見せて、その上で顔を赤らめているのに我慢しなくてはいけないこの状況こそが生殺しと呼ばれるものなのではなかろうか。

 

 そう思っても何も出来ないのは先ほどの話があったからだろう。

 

「そんで、今度は何をまた考え込んでんだ?アリシアの時みたいに何かしらあったんだろ?」

「…………ヒカリには隠し事出来ないなぁ」

「何年の付き合いだと思ってんだ。生まれてからほぼずっと一緒にいるんだぜ?」

 

 僕と彼女は誕生日までほとんど同じで、わずかに僕が先に生まれた。家も近所であり、村社会では交流するのが当たり前だがその頻度も濃さも他の追随を許さない。

 

 僕にとってヒカリが隣にいることは当然になっており、その逆もまたしかりだと思うのは自惚れではないはずだ。

 

 だからか、僕らは互いに何を考えているかが分かることがある。もちろん詳しいことは分からないが、隠そうとしていてもどこか違和感を感じて何かがあったという事くらいは分かるのだ。

 

 だからだろう、赤らめた僕の顔色からは他の人では分からないほどの僅かな違和感を彼女が見て取ったのは。話を聞くまでは絶対に隣を動かないと言っているようにヒカリは真っ直ぐこちらを見つめてくる。そこに先程まであった恥じらいはなくただこちらを心配していることが分かるほどに真剣で。

 

「シエルさんはさ、シオンの本当の母親じゃないんだってさ」

 

 だからか、僕は観念して彼女に先程明かされた事情を話し出す。国の上層部に話せばきっと僕の身を案じて安全策を取ろうとするだろう。それはつまりつい先日まで笑いあっていたシオンとシエルさんを切り捨てるという事で。それが一番確実にこちらの身を守る方法だとは分かっていても、彼らが本当に僕を心配していることを分かっていても、受け入れがたくて。

 

「シオンの本物のお母さんは5年前に死んでて、その時にシオンの心は折れて。それが不都合だった『槍王』が用意したのが今のシエルさんだったって言ってた」

「ふーん、だからさっき会った時いつもと違って元気じゃなかったのか。ペコリってお辞儀されて無言で去ってたからなんかあったのかと思ったけど」

「どうやらそれが彼女の素顔みたいでね。シオンにとってお母さんの存在は大きすぎて、髪を始めとした容姿の認識は弄れても性格に対する認識は無理で、だから彼女はいつもああしてるんだってさ」

「いつも無理して演じてるってことか」

「昔はともかく、今は楽しんでると思うけどね」

 

 そう、シエルさんは昔はシオンに対しても何も思ってなかった、利用できるとすら思っていただろう。でも今は違う、間違いなく違う。

 

 彼女はシオンを愛してる。始まりが偽物だったとしても、時間が経ち共に過ごしていた彼女が抱く気持ちは変わってきた。だからこそ自分以外大切なものがなかった彼女は、初めて出来たシオンと言う宝物を守りたくて必死なのだ。それこそあって間もないよく知りもしない男に縋るほどに。

 

「『槍王』はシオンを狙ってる。今回申し込んできた『王戦』だって狙いはシオンで、彼女はそれを予期してて、だから僕にシオンを守ってくれと頼みこんできた」

「……言っちゃなんだが、そこまでお前が無理する必要はねーと思うけどな。短い期間で仲良くなったけどその前は他人で、戦った時なんか敵だったんだから」

「ヒカリ、分かって言ってるでしょ?一度仲良くなった人をそう簡単に割り切って切り捨てるなんて僕には出来ないってこと」

 

 そう、僕は彼女達を助けたい。『槍王』に狙われたようやく平穏を手にしたシオンを。必死に頭を床にこすりつけて、明かしたくなかったであろう偽物であることを話した上で愛した存在を守ってほしいと願ったシエルさんも。

 

 王として見捨てる方が楽だしそれが正しいと分かっているのに、それを選択できないのは致命的なのではないかと思ってしまう。僕は主人公のように格好良く全てを解決できる力はないというのに、欲だけは一丁前で思わず笑ってしまいそうになる。

 

「前のアリシアの時とは違う。あちらは本気でシオンを狙ってくる。『王戦』を受けるとして、デプロン大臣が交渉して『槍王』以外を引っ張り出せたとしても、多分何かを狙ってくる。それを今回なんとか出来たとしても似たようなことが今後何度も起きる可能性が高い。どこまで戦えるか、どこまで僕の心が持つかが分からない。目に見えた破滅が大口を開けて待ってるようで」

「それでも見捨てたくないんだろ?」

 

 彼女達を守ることによるデメリットを並び立てて、ここから先の暗い未来を話してて、ヒカリが出したのはそんな単純明快な答えだった。

 

「見捨てたくないなら戦うしかない。だったらもう頑張るしかねぇじゃん。一人じゃ厳しいんだって言うならアタシがいる、アリシアがいる。シオンだって自分が狙われてるってこと教えて協力してもらえばいい。一人じゃないんだから誰かに頼ればいいんだよ」

「でも、そしたら……」

「アタシ達が傷つくかもって?アタシはそんなん気にしない。トーマがトーマのまま笑ってられるならそれで十分だし、その隣にずっといるのはアタシの問題だ」

「ヒカリが気にしなくても僕が気にするよ」

「じゃあトーマがアタシを守ってくれ」

 

 どこまでもあっけらかんと告げる彼女を思わず見つめる。いつの間にか俯いて湯船を見つめていたことに今更ながらに気付いて、そんなことがどうでもよくなるくらいに綺麗なヒカリを見て頭の中を支配していた黒い霧が消えていくような気がした。

 

「アタシがトーマを守る。トーマがトーマらしくいられるように頑張る。なんでもかんでも一人で背負わなくていいように、隣に立って一緒にその荷物を背負うことが出来るくらいに」

 

 当たり前のように語ってくれるそれが、どれほど大変なことかは僕にも想像できる。そんなことを彼女は何でもないように言い放つ。

 

「今まで助けてもらってきた分、アタシも返したい。ずっと一緒にいてくれて、笑ってくれて、手を繋いでくれたトーマを助けたい。貰ってきた物が多すぎて大変だけど、それでもトーマに返したいんだ。トーマが笑っていてくれないと、アタシが笑えない」

「……ヒカリが笑えないのは、僕も嫌だな。僕はずっとヒカリに笑っててほしい」

「うん、知ってる。トーマがそう思ってくれるようにアタシもそう思ってるだけだ。いつも馬鹿みたいに騒いで、カップル見たらおかしな顔して観察し始めて、犬猫でも眺めて気持ち悪い顔して」

「酷くない?」

「――――そんでいつも誰かの為に一生懸命なトーマがアタシは好きだ」

 

 その告白は、突然握られた手と同時で心の準備なんて何も出来ていなくて。それでもスッとちゃんと心で受け止められた。

 

 いつか僕からしなくてはと思いつつ、『剣王』になってしまって、好きだからこそ守らないとと思って。守る為の力がないうちは無理だと思って焦って、それを表に出さないようにしてきた。

 

 そんな垣根を彼女は一瞬で飛び越えてきた。

 

「昔っから自分のことは二の次で、自分も父親死んで悲しい癖に失礼なことしか言わない幼馴染の為に毎日毎日家に来て声を掛けて笑わせようとして。泣いてることを隠して、必死に頑張って。あの頃から本当に何も変わってない」

「……成長してないって素直に言っていいよ?」

「その成長してない部分が好きなんだよ、アタシは。あの時、父さんも母さんも死んだあの時にトーマが一緒にいてくれなかったら今のアタシは絶対にいない。トーマがアタシを助けて守ってくれたから、アリシアとも友達になれたアタシがここにいる」

 

 その告白は心底大事な物をさらけ出すように彼女の心情を物語る。それがどれほど彼女にとって救いになっていたかなんて僕は知らない。だって僕はやりたかったことをしただけだ、笑ってほしいと思ったから、一緒に泣いてたら笑ってくれないと思ったから。

 

「だからトーマはトーマらしく、自分がやりたいことをやればいい。王様なんだしそれくらいの我儘言ってもいいだろ?一人じゃ無理だってなら助ける、支える」

 

 ただの言葉。だけどその言葉には不思議と力がこもっていて。

 

 だから彼女の握ってくれた掌を僕もまた握り返す。決して離さないように彼女の、ヒカリの目を見て。

 

「僕は弱い」

「……うん」

「弱くて弱くて、一人じゃ何が出来るかもわからなくて」

「うん」

「その癖欲が深いから、欲しいものがあると手を伸ばしまくって。我武者羅に頑張ることしか出来なくて、僕の我儘にみんなを振り回すかもしれないけど」

「それでもいいよ」

「僕はシオンとシエルさんを助けたい。例え相手が『槍王』だとしても、あの二人の幸せを守りたい。二人が笑っている未来が見たい。諦めたくないし、諦められない」

「トーマらしいな」

「だから、僕を助けてほしい。一人じゃフラフラどこに行くかもわからない僕と一緒に歩いてほしい。僕の手を握って離さないでほしい」

「当たり前だ。離せって言われても離すもんかよ」

「ヒカリが一緒にいてくれるなら誰にも負けない気がする。誰が相手だって勝てる気がする。望んだ結末を手に入れられると信じられる」

「アタシも同じだ。トーマと一緒なら笑ってられる未来を信じれる」

「僕は君が好きだ。多分君が思っている以上に」

 

 いつか言おうと思っていて、だけどいつまでも言えなかった言葉を今口にする。目の前にいるヒカリのポカンとした顔が可愛くて、おかしくて、思わず笑ってしまう。

 

 そうだ、彼女と一緒にいれば笑うなんてことは簡単で、笑っていれば開き直ることだってできる。

 

 口角を上げて、一緒に歩むと決めた彼女の目を見つめて、頑張ろうと思い、頑張れることを確信する。

 

 二人揃って赤くなって、それでも握った手は離さずに進むと決める。望んだ未来を掴むために出来ることはなんだってすると決める。

 

 僕は『剣王』だ。その自認をもって我儘を貫く覚悟を決める。ヒカリがそれを認めてくれたから、僕は僕らしく生きることを決める。例えそれがどれほど苦痛に満ちていても、ヒカリが、アリシアが、みんながいてくれれば戦えると確信して。

 

 ヒカリとの初めてのキスは、どこまでも甘い気がした。

 





トーマ君にはヒカリが必要でその逆もまたしかり

互いに互いがいなければ成り立たない関係が好きです


評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!

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