王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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タイトルに副題付けました


これからも今作をよろしくお願いいたします



恐怖

 

「がばごぼごごがばばばばば!!!!」

「ふーん、水中でも息が出来るようになるまでに3分はかかるのね。一回「適応」しても何回も経験しないと完全には無理、と。結構扱い辛いわね」

 

 現在僕はキャロルの専用研究部屋にて拷問……もとい実験を受けていた。彼女が作った水球の中に閉じ込められて聖剣の第三能力の「適応」を試す。

 

 どんな力なのかを把握しなければならない以上これは絶対必要なことだが、だからと言って何度も窒息しそうな環境にぶち込まれるのは精神的に色々と削られていく気分だ。

 

 まぁこの程度で擦り切れるようならあの『魔霧の森』の時点で僕は僕じゃなくなっているのだが。あれを耐えて乗り越えたという事実が僕に一種の自信を与えているのは間違いない。百回以上殺されまくった経験した人なんてそうはいないだろう。

 

「はぁー……はぁー……。そ、それで、何か分かった?」

「んー、まぁ魔道具としては破格の性能してるって言うのは前から分かってたから予想以上、ってわけじゃないんだけど。改めて色々と試していくと規格外っぷりに脱帽するわ」

 

 うん、まぁそれは分かる。水中に「適応」したら窒息死しなくなるとか最早人間というか地上生物としてあり得ないことになってる気がする。ありえないレベルの肺活量を得るとかじゃなくて普通に水中でも呼吸が出来るんだから規格外という評価もあながち間違いではない。

 

 しかもこれで能力の一端であるのだから驚きだ。戦術を考える時にこれを考慮すれば一気に幅は広がるだろう。

 

「……何考えてるかは大体わかるけど、そういう風に考えれるのはどっか狂ってる奴だけよ。今の実験だって大丈夫だって分かってても普通は窒息一歩手前まで追い込まれるなんてトラウマものよ」

「それを乗り越えなきゃ欲しい未来(もの)が手に入らないんだからやるしかないよ。結局先にやるか後にやるかの違いでしかないし、覚悟を決められるだけこっちの方がいい」

 

 というか窒息死は以前目の前のエルフにさせられたので覚悟が決めやすいというのもある。辛いし苦しいしあんな死に方は絶対に嫌だと思いつつ、経験したことがあるという事実は窒息一歩手前までなら許容する土壌を僕に作り上げている。

 

 うん、多分普通ならキャロルの言う通りトラウマになってなきゃおかしいんだろうけど僕はどうにもどっかが壊れだしているらしい。というより戦うことに対して「適応」してきたのかもしれない。

 

 それは人間としてはしてはいけない変化なのかもしれないが今の僕には絶対に必要なことで、繋ぎとめてくれる人もいるから大丈夫という自信もある。ヒカリが隣にいて引っ張ってくれるなら、アリシアが後ろで帰る場所を示してくれるなら僕は僕であり続けられると信じられる。

 

「第二能力の方の身体強化も最大値がかなり上がってるし。速度だけなら前の槍遣い戦の『闇星』を使った移動時と同じかそれ以上の速度が素で出せるようになってるわ」

「あー、それは助かるね。あれ色んな所に『闇星』仕込まないといけないから大変だし、何よりカウンターに死ぬほど弱いから」

「移動してる時に槍でも立てかけられてたらその時点で突き刺さって死ぬしね」

 

 多少の痛みや怪我なら我慢で何とかなるし、腕一本脚一本使えなくなった時の経験も嫌というほど積んでいるのでそれくらいならまだいいが心臓にでも当たったら一発で即死だ。

 

 その危険性を減らして速度を上げられるなら戦いにおいては非常に有利になれる。なんだかんだ速さというのは立派な武器なのだ。

 

 …………相変わらずヒカリ達との絆をこういう風に戦闘力の強化に使っているような感覚は非常に気に入らないが、僕には選り好みしているような余裕がないのもまた事実だ。

 

「……強力な魔道具を持って、心がその力に引きずられていく人間を何人も見てきてるわ。あんまりその力に頼らないようにするのも一つの強さだと思うわよ」

「うん、それが正しいんだけど……それが出来る状況ならいいんだけどね……」

 

 何せ今はヤランリ王国にロックオンされている状態だ。今回の『王戦』を乗り越えられたとしても次は何をしてくるか分からない以上強さは絶対に必要。何とかキャロルに協力してもらい現状の力の確認を始めることにしたのだが。

 

 説得はし、納得してくれたと思ったがそれでもキャロルは心配なのかこちらを見つめてくる。長年色んな人間を見てきて、色んな経験をしてきた彼女からすれば僕の今の姿は非常に危うく見えるのだろう。

 

 どうすれば安心してくれるかは分からないし、多分どう言葉を募ろうと彼女はきっと心配し続ける。人の来ない『魔霧の森』で住んでいたのはそういう理由もあるのだろう。

 

 要するに彼女は物凄く人間臭いのだ、大した付き合いもない相手を心配してしまうくらいには。

 

「はぁ……これ以上言っても無駄になりそうだからやめておくわ。それより聞いておきたいことがあるんだけど」

「聞きたいことって……おすすめのカップルが集まるスポットとか?」

「そんなもん気にする独り身なんざアンタくらいよ」

 

 失礼な。きっと将来恋人が出来た時の為に情報収集してる人とかいるだろうに。この前なんか取材しに来た人達にもこれについて語りまくってたら「もういいです本当すみませんでしたよくわかったので勘弁してください」とか言われたけど。もちろんその後ヒカリに後頭部を殴られて止められた、取材しに来ていた人達は手を合わせて感謝しているのも覚えてる。

 

「そうじゃなくてその聖剣の能力名よ。いつまでも第一能力とか第二能力とか言ってるのもどうかと思うわよ。『闇星』とか魔法には名前つけてるのに聖剣の能力に何もつけないのはアンバランスね」

「えー。でも今更わざわざ名前を付けるのもどうかと思うしなぁ……。名前考えるのも大変だし」

「それでも、絶対に必要よ。その聖剣という名の魔道具に対して「自分がお前の主人だ」って突き付ける為にも。じゃないとどんどん食われるわ」

「食われる?」

 

 食われるとは物騒だ。確かにこの聖剣の力を使う時にじゃぶじゃぶ、それこそ湯水のように魔力を持っていかれているが。聖剣を抜く為の条件に魔力量と魔力の生成速度が入ってるのが納得できる程に。

 

 それでもこの性能を引き出す為なら仕方のないことだと思っている。燃料がなければ機械も魔道具も動かないのだから。

 

「……やっぱり自覚なしか。私も改めて詳しく見ようとしなければ気付かなかったし」

 

 いつの間にかキャロルのその両目はいつもの灰色ではなくエメラルドに光っていた。いつもならば綺麗だと思うのに、なぜか今は不吉な予感しかしない。

 

 多分それは彼女の問題ではなく、こちら側に問題があるわけで。先程の「食われる」という発言に自分の中で何か心当たりがある事を内心認めていることになる。

 

「アンタ、そいつの能力が拡張されるたびに記憶が食われてる。前は覚えていられた前世の記憶、ほとんど思い出せないんじゃないの?」

 

 疑問形でありながらその言葉は確信に満ちていて、だからこそ僕の中に最近あった違和感がようやく形になる。

 

 思い返せばここ最近、忙しいという理由では説明出来ないほどに過去を思い出すことをしていなかった。いや過去自体を思い出すことは出来るが、キャロルが言う通り前世のことなど言われるまで忘れていたという方が正しい。

 

 元々薄れてはいたが、それでも絶対に忘れないと確信していた大好きなゲームの名前すらもう思い出せない。徐々に自分の一部が知らず知らずのうちに削られている、その事実に多少の恐怖はある。

 

「そ、っか。確かにそれはやばいね」

 

 それでも、それでも、それでも、躊躇うことはしない。過去は忘れても未来は必ずあるから。その未来を一緒に歩きたい人達がいるならば立ち止まっている時間はない。

 

 ここで過ぎた昔の為に足を止めたら僕はもう二度と一緒に歩いてくれてる彼女達に顔向けできない。

 

「……聞いてもその反応なわけね。予想はしていたけど、一瞬も躊躇わないなんて予想以上の馬鹿だったみたい」

「忘れたことに実感はあっても何を思い出せないでいるかが分からないからねぇ。それにヒカリとの出会いとか、母さんに叱られまくったこととか、犬猫のカップルを見て興奮したことは覚えてる。ならそれだけで僕にとっては十分だ」

「いや最後に関してはそれでいいのかって聞きたくなるんだけど」

 

 記憶がなくなってもその影響はなくならないものだ。今の僕の趣味は王城に巣を作り共に子育てを行っている燕の観察日記を書くこと。毎日毎日餌を一生懸命持ってきて、たまに雄雌でイチャついてて非常に見てて楽しい。観察してるところを見られて「またやってる……」と朝練をしている騎士達に呟かれるのにはもう慣れたし。

 

「馬鹿は死んでも治らないって本当だったのね……。まぁいいわ。それで話を戻すけど聖剣の能力に名前を付けることには意味があるわ」

「記憶を食われるという事を抑制できる、とか?」

 

 コクンと小さく頷くキャロルだったが、正直半信半疑ではある。彼女のことは信頼しているが名前を付けることで記憶が食われなくなるというのはどういう理屈なのかまるで分らない。

 

「名前を付けるという事は明確に自分が上であるという事の証明よ。特にその聖剣みたいに自意識があるタイプには必要な作業よ」

「自意識があるってことも初耳なんだけど……いや前は覚えていた、のかな?でも確かに名前を付ける側が基本は上だよね」

 

 この聖剣に僕の方が上だという事を実感させる為に最も手っ取り早いのが名前を付けるという行為なのか。それ以外の方法もあるにはあるんだろうけど手間がかかるのか時間がかかるのか、どちらであっても今の僕にそれをしている暇はない。

 

「前の剣王もやっていたはずよ。でなければこんなじゃじゃ馬使いこなせるはずもないし。というか少し置いて遠くに行ったら飛んでくるって時点でヤバいわ。私としては研究対象として凄い楽しいけど」

「大浴場でもあんまり離れすぎるとぶっ飛んでくるから距離感さっさと掴まないと危なかったし、じゃじゃ馬って言うのには納得だよ」

 

 一回やった時は驚きのあまり顔に聖剣の柄が顔面に当たって悶えていた。悲鳴とうめき声に驚いたヒカリが飛び込んできて僕の全裸に更なる悲鳴が上がったことこそ忘れたい記憶だ。

 

「さーて、それじゃあどっちが上なのか、徹底的にこいつに教えてあげましょうか」

 

 そう言って口角を上げているキャロルはどこか恐ろしく、思わず僕も震えてしまう。

 

 間違いなく彼女は怒っているが、多分僕の記憶が食われたことに関してだろう。やっぱり彼女は優しいのだと再確認出来て恐怖しながらも笑ってしまうのだった。

 





名前設定


王名と国名


剣王   ソードリア王国

槍王   ヤランリ王国

狂王   バサルニカ教国

万王   アイカテム王国

竜王   ドラコニア竜国

魔王   マライジク帝国

銃王   ガンストライト共和国




聖剣能力


第一能力『収める者(グリップ)

        
第二能力『強き者(クレス)


第三能力『適応する者(カメレオン)


第四能力『???』


第五能力『???』


第六能力『???』


第七能力『???』



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