王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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王戦前の一夜

 

「陛下、次の『王戦』ですがこの条件でよろしいのでしょうか?」

「うん。これ以上はあっちも待ってくれないだろうし十分時間は得られた。ヤランリ王国の要求と対価も引き出せたのは本当にありがとう」

「いえ、これが仕事ですので。しかし何故シオン殿達母娘を取り戻す為にまたもや土地を賭けるのか……私にはさっぱりです」

 

 ヤランリ王国と交渉を行う為に数日空けてきたデプロン大臣からの報告を執務室で書類にサインを書きながら聞く。どうやらもうあちらはなりふり構わないで二人、というよりシオンを取り戻す気満々のようだ。『王戦』に負けた場合ソードリアとの緩衝地帯の一部をこちらの領として認めるとのことだ。

 

 この土地で何が出来るかは分からないが、我が国の優秀な人材なら何かしら思い付き利益に変えるだろう。その辺り、素人の僕は何をしてるかの最終確認だけすべきなので口出しはしない。

 

「しっかし三対三の団体戦とは……。なんでまたそんな風にするんだか」

「シオンが僕に負けちゃったから、じゃないかな。『槍王』本人が出てくるなら何とでもなるだろうけどそうじゃないならシオンが一番強かった、らしいし」

「三人がかりなら勝ち目もある、って判断ってことか。なんつーか、やり方が本当に切羽詰まってる感じがひしひしと感じるなぁ」

 

 デプロン大臣が部屋から出た後、お茶を淹れてきてくれたヒカリが『王戦』についてコメントをするが、確かに彼女達は切羽詰まってるのだろう。シエルさんの話によるともう既に『槍王』は狂ってる。そんな存在がシオンをあと一歩で乗っ取れる段階まで来てたらしいのにその寸前で他国に逃げ込まれたのだからたまったもんじゃないだろう。

 

 何を考えてるかはわからなくても何がしたいかの推測は立てられる。シオンを取り戻して新しい肉体にする、それ以外は存在しない。そして他人の身体を乗っ取るような奴が周囲に気を配るとも思えない。何をしでかすか分からない周囲としても何としてでもシオンを差し出して自分達の安全を確保したいだろう。

 

「それに関しては僕は何も言えないからなぁ」

「次は自分、と思ったらそりゃ何としてでもってなるか。人間らしいっちゃ人間らしい」

 

 元々互いに互いを蹴落とすような関係性だったので仲間意識もないだろう。シオンだってソードリアに来てから肩の荷が下りて元々の気さくな性格が出てきたが、それ以前は『王戦』の時のように常に余裕がなかった。

 

 そんな状態で他人を気遣う余裕はない。そんな風になってしまうのは理解するが、彼女達全てを救うことは僕には出来ない。

 

 全てを救うという難題を解決する方法があるとしたら『槍王』を殺すくらいしか思いつかないがそれをしたらしたらでまた別の問題が起きる。そもそも相手を戦いの土俵に連れてくることと倒す為の実力が必要なことを考えると非常に難しい。

 

 だから今の僕に出来るのはシオンとシエルさんを守ることだけ。ただそれだけに集中して戦うしかない。その後のことは後で考える。全部救えるなんて思い上がらないで、その上で出来る限りのことを尽くすことを決める。

 

「そんで、こっちの三人は誰が出るんだ?お前とリチャード騎士団長は確定として」

「僕とヒカリとシオンの三人で行こうと思う」

「ぶーっ!!!」

 

 向かい合っていたヒカリが飲んでいたお茶を吹き出す。反応が遅れた僕は顔からそれをひっかぶる。キャロルに燃やされた経験がなければのたうち回ってたくらいには熱かった。

 

「わわわ、悪いごめん!!いやでも突拍子もないことを言ったトーマも悪いだろこれ!!!いやアタシが悪いんだけど!!!」

「別に気にしてないからいいよ。だからタオルがないからって服脱いでそれで拭こうとするのやめようか!?いくら何でも女の子がそれはダメだと思うんだ!!」

 

 慌てたヒカリはタオルを探すがそんなものは執務室にはなく、突発的な出来事だった為冷静さを失った彼女はメイド服を脱いでそれで拭こうとする。ぶっちゃけ下着姿を見たくないかと言われると物凄い見たい気持ちはあるが今の彼女にそんな邪な目を向けたらいけない気がするので必死に抑え込む。

 

 ヒカリは常に冷静というか俯瞰的に見てるところがあるが、突然の出来事が起きた時に対応するのが苦手なところがある。滅多に見られないがこういうところ可愛いと思うのは僕だけじゃないはずだ。

 

「で、なんでアタシとシオンの二人なんだ?リチャード団長とか駄目なのかよ」

「騎士団長は今までの『王戦』で代理として出てて対策が取られてるだろうから。それを踏まえても強いと思うけど、ぶっちゃけあの大剣だと過剰攻撃力が過ぎるって本人が言っててね……」

 

 基本的に『王戦』は殺さないことが前提である。事故で何回か死んだこともあるらしいがそれも数えられる程度。500年間もやっていてそれなのだからその前提をこちら側が崩すのはまずいのだ。

 

「あとリチャード団長自身が言ってたけどこういう団体戦は個人の戦闘力より協力しあえる方が大事だってさ。僕と一番息が合ってその上で強いってなったらヒカリ一択だし」

「ふ、ふーん。まぁそれなら納得しといてやるよ。アタシもシオンのこと見捨てるのも何も出来ないのも嫌だったしな」

 

 これで照れ隠ししてるつもりなのだが顔を背けてても耳が赤くなってるのが見えてる。僕の幼馴染は可愛すぎではなかろうか。

 

 世の男性の嫉妬を浴びかねないと思いながらヒカリを眺めていると背けた顔を戻して僕の目をまっすぐ見つめてくる。その顔は先ほどまでの照れなどなく、真剣であることが分かった。

 

「それで、シオンにはシエルさんのこと伝えるのか?」

「…………まだ考えてる途中。どうすればいいのか僕にはわからなくて悩んでる」

 

 シオンとシエルさんの関係は非常に不安定だ。どちらも互いを想っているが、シオンの方は本当の関係を知らないから、本当のお母さんだと思っているからという部分が大きい。

 

 もし真実を知った場合その関係性は間違いなく崩れてしまうだろう。その一手を僕自身がうっていいのかという不安を強く感じる。一度覚悟を決めることが出来れば早くやろうと思えるのだがその覚悟が中々できない。

 

 伝えなければ相手は間違いなくシオンのメンタル攻撃としてこの話を出してくる。戦いの中でそんなことを言われて、もしそれを証明する証拠でも突き付けてきたら必ずシオンは崩れる。

 

「いっそのことシオンを戦わせない、ってのもありだと思うけどな」

「でも戦えるのに戦えずに、勝手に自分の所属を決められるって嫌じゃない?僕だったら絶対嫌だけど」

「あー、うん、そりゃそうだな。アタシでも嫌だわ」

 

 さらにそれを考えなくてもシオン以上の単騎戦力は僕かヒカリ、後はリチャード団長くらいだ。負けられない上互いの戦い方を知ってるという連携の上で一番必要なことを満たしてなおかつ強いのが選んだメンバーなのでこれは変えられない。

 

 なので結局シエルさんのことを話すかどうかに帰結するのだが……。

 

「あー……こんな時どうすればいいのか誰か教えてほしいよ……」

「時間はまだあるんだからとりあえず悩んどけって。というかアリシアにはこの話しなくてよかったのか?」

「いや、この前一緒に出掛けた時にしたよ。買い物し終わった後に話して頼み事しといたんだ。今も剣王教会の書庫で調べものしてくれると思う」

 

 デートの時にするような話しじゃないんだろうけど魔法に関して僕の身内で詳しいのはアリシアかキャロルだ。キャロルにはもう魔道具関係で色々と頼んでるのでこれ以上はキャパオーバーを起こしてしまう。ただでさえ趣味に没頭して度々睡眠不足に陥ってるのにそれを加速させるような話は出来ない。

 

 聖剣の記憶浸食に関して色々と対策を練ってくれてるみたいだし、多分話したら力を貸してくれるんだろうけど流石に頼りすぎて彼女を潰すなんて死んでも嫌だし。

 

「調べものって何調べてんだ?」

「魔法による魂への干渉方法。『槍王』がもしシオンの身体を乗っ取った最悪の時になんとか出来る方法がないかってね」

「あるのか、そんなの」

「あるかも分からないしないのかも分からない。だから調べてもらうしかないんだけど……アリシアもなんか無理してそうだよなぁ……」

 

 彼女は戦いの場に出られないのを非常に気にしている。だからこうやって頼られると喜んで全力を尽くしてくれるのだが……あまりに全力過ぎて心配になる。

 

 『聖女』としてその治癒魔法の腕前はこの国でも間違いなく一番だと断言できる彼女だが、流石に魂までは範囲外で専門外。「なんとかします!!」って気合いを入れていたけど。

 

「アリシアも真面目だからな。間違いなく睡眠時間削って夜遅くまで調べてるぞ」

「疲れて倒れたりしたら本末転倒なんだけど、頼んだ僕が止めるのもなんか違う気がして……」

「はぁー。分かった分かった、隙を見て風呂にでも連れ出してやるよ。だからチラチラ見んなって」

 

 流石はヒカリ。僕が言いたいことを視線を向けるだけで分かってくれる。そういう以心伝心なところとても助かってる。

 

 何はともあれ、今は全員が全力を尽くしてそれぞれのやることをしている。それを思えば覚悟だって決められる。頑張ってる彼女達に胸を張れる男でいる為には足を竦ませている暇は欠片もないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっふっ……」

 

 槍を振るう。上下に左右に斜めに、あらゆる方向からあらゆる方法で槍を操る。『槍王』になるという目的を得てから毎日重ねてきた動きはこの国に来ても一切鈍ることはない。

 

 月夜と灯りが照らす王城の中庭で一人繰り返すそれは毎日の日課。ただただ強くなりいい生活をする為に磨いたが、今では寝る前にこうしていなければうまく眠ることすら出来なくなっている。

 

 ソードリアにやってきて数週間、ここは平和で穏やかで優しい人の多い国だと思った。それは余裕があるから出来ることだと分かっているが、その余裕を作る為に王城で仕事をしている人間が必死になってることをここに来てから知った。

 

 ヤランリ王国は違う。姿は幼いままであってもその精神性が既に破綻している『槍王』が政治にかかわることはなく、一部の上層部が国の甘い蜜を吸い続けているのが現状だ。

 

 トップが機能していない為やりたい放題。その結果が私が生まれ育った環境を作っていると思えばそれを変えたいと思うのが人情だろう。

 

 パンを盗まなくても飢えない国を、身体を売らない選択肢を取れる国を、笑って明日を信じられる国を作りたいと思い努力して槍の腕を収めた。だが今にしてみれば『槍王』になる為に槍の腕を磨くだけでは国を変えることなど出来ないのだと分かった。

 

 国を変えるには知識と協力者と金が必要だ。そして私にはそのどれも欠けていた。『槍王』になれたとしても理想の国作りなどできずいずれ破綻するのが目に見えている。

 

 その破綻を回避する為に他国から奪う為に『王戦』を仕掛けていたであろうことは目に浮かぶ。そしていつか敗北し、積み重ねた負債を民に背負わせるだろう。こんな暴君など今の上層部の方がまだましだとすら思える。

 

 今なら分かる。他国に何度か行き、『王戦』の為の交渉をしていた男達の私を見ていた値踏みするような目は多分私を見ていたのではない。私に勝った時、負けた時のことを考えていたのだろう。

 

 国の利益を考える以上それは当然で、それを勘違いして見下していた自分こそが愚かなのだと思い知った。いや中には間違いなく下賤な目で見てきた奴もいるが、母さんにまで声を掛けた奴もいたので評価全部をひっくり返す必要はないな、うん。

 

「次は団体戦か。ジュリアとレイラは出てくるだろう……もう一人はライラ辺りか?」

 

 私以上の男嫌いのジュリアと、双子の姉妹レイラとライラ。彼女達の槍捌きは私の方が上だと断言できるが魔法のことを考えればこの実力差はいくらでもひっくり返せる。正直私が彼女達を抑えてエースを名乗ることを許されていたのは運の要素が大きい。

 

 トーマ殿もまた以前より強くなっているが、それでも彼女達を相手にすれば足元を掬われる可能性は十分あり得る。そうなった時その隙を何とか埋めるのが私の役目だ。

 

 トーマ殿には恩がある、母さんと共に今ここで笑えているのは彼のおかげだ。あの『王戦』で負けてよかったとすら思えるのは彼の言葉を聞いたから。心からの叫びだったからあっさりそれを信じることが出来た。ここにいれば母さんは間違いなく幸せになれると確信した。

 

 だからこそ必ず役に立つ。彼に私の価値を認めてもらう。彼の側近になり、この生活を続ける為に。

 

「どこまでも自分のことばかり、か……」

 

 結局私は王の器などではなかった。ただの棒振りが上手いだけの小娘、何もかもを知ったふりして母親以外の何も気にすることなく、叶えられるはずもない夢を抱いていただけの。

 

 それでも出来ることはある。彼の役に立つ。そうすればきっとこの槍だって無駄ではなかったと信じられる。

 

 母さんと一緒にいられる。

 

「――――こんな夜遅くまで、頑張ってるね」

「むっ」

 

 後ろから声が聞こえる。振り向けばそこにはこの国の王である少年がいた。風呂上りなのか、いつも整えられていた黒髪は所々で跳ねており、これが彼の本来なのだとまた新しく知る。

 

 私と違い王になる為の教育も受けていないのに聖剣を抜いたというだけで『剣王』にされた少年。成人している私よりさらに年下の彼は確かに王としてはまだまだ未熟なのだろう。

 

 だが未熟程度で済んでいることをまずは誉めるべきであり、その器に関しては文句なく王としてふさわしいものだと思う。

 

 王として権力を得たのにも関わらずそれで欲を満たそうともせず、仕事も出来る限りのことをしつつ主な部分を部下に任せその責任を背負う。それが出来るだけで上等だと私は思う。

 

 何より戦いとは一切無縁だったはずなのに彼の勇敢さと戦意の高さには驚愕させられたものだ。

 

 間違いなく『槍王』より王として上だと思う少年が、複雑そうな顔で私に会いに来た。それだけで嫌な予感がする。

 

「ごめん、シオン。色々と頑張ってるところ悪いんだけど話したいことがある」

「私に、話したいこと?」

「うん。絶対に君は知らなきゃいけないこと」

 

 その夜、私は真実を知ることになった。どうしようもない真実を。

 

 そして、一つの決意をしたのだった。

 






評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!

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