王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
前回の『王戦』と同じように王専用の馬車に乗り『王戦』の会場に向かっている。今日が全てが決まる決戦の日であり、シオンとシエルさんの関係性に決着をつける日でもある。
「今、なんと」
「シオンにシエルさんの本当のことを話したよ。彼女は最後まで聞いてくれた」
現在この馬車に乗っているのは僕の他にヒカリとアリシア、そしてシエルさんの四人だけ。防音魔法が掛けられている為外に音が漏れることはない。
その中で僕は数日前にシオンに事実を告げたという事をシエルさんに言う。彼女の目は見開いて手はガタガタ震えている。覚悟はしていたとはいえ、それでも正体を知られることについて恐怖がなかったわけではないのだろう。いつもの笑顔ではなく、素顔である無表情だがその顔色は非常に悪い。
そうした僕が何を言っても仕方ないが、伝えないことは不義理になる。それに彼女にも改めて覚悟を決めてもらいたい。
「そ、れじゃあ、シオンが、最近……部屋から、出てこなかったのは……」
「僕のせいだね。食事は運び込んで食べてもらっていたけど、それ以外の時間はずっと考え事をしていたみたいだよ」
「なんてことをしたんですかァッ!!!!!!」
その叫びは防音魔法さえ貫いて外に聞こえかねないほどに大きい声だった。それほどまでにシエルさんは激昂している。怒り狂っていると言っても過言じゃない。
「そんなことしたらシオンが戦えなくなってしまう!!!シオンはようやく自分の人生を歩めるようになったのに!!!戦えなくなったら、『王戦』で負けてしまったらあの子がッ!!!!」
「その時は僕が何とかする。一人だろうと相手三人を倒して彼女を守る。だからそこは心配する所じゃない。シエルさんが考えるべきは勝った後のことだ」
「勝った後のことなんてどうでもいい!!この戦いが終われば私は自分で明かすつもりだった!!!!その上であの子から離れるつもりだった!!!!もう何にも縛られることのない人生をあの子は歩めるようになる!!!!!今までの咎を全て私が!!!!!」
「でもそれは貴女の考えだ。シオンの考えを無視してる」
頭を掻きむしり、血が流れるシエルさんをヒカリが止めてアリシアが癒す。彼女達に事前にシエルさんが危なくなるかもしれないから協力してくれと言っておいてよかった。何も聞かずに手伝ってくれる彼女達には感謝しかない。
やはりシエルさんはシオンのことだけを想っている。自分のことを蔑ろにして、自分のことを憎んでほしくて、その上でシオンに幸せになってほしいと願っている。その傍に自分がいることを絶対に認めたがらない。偽物だから、そんな価値はないから、そんな風に言って逃げている。
「シエルさんは幸せになりたくないんだね」
「あ、当たり前です!!!こんな、こんな!!!シオンをずっと騙し続けてきた私が幸せに!?今まであの子と一緒に入れて幸せだった!!!嘘を吐き続けて幸せを得続けてきた!!!それだけでもう十分なんですよ!!!!」
「シオンに裁いて欲しいんだよね」
「あの子に殺されるなら本望です!!!ずっと一緒にいて、ずっと笑いかけてくれて、なのに私は私のことしか考えてなくて!!!もう死にたいんですよ!!!あの子の傍にいると」
「――――許されてしまいそうで怖いの?」
もしシオンに許されてしまったらどうすればいいのかわからなくなってしまうから。彼女のお母さんへの愛を知っているからこそ、自分を許してしまったらそのお母さんへの愛を否定させてしまうことにつながるから。
「だから逃げようとしてるんだ、貴女は。これからどうなるか分からなくて、それが怖くて、早く終わりたいと思っているんだ」
その気持ちは僕には分からない。どれほど切実にそう思っているかも分からない。この考察があってるかすら分からない。分からなくても言わなければならないことがある。もしそう思っているのなら。
「殺されることが罪を償うことじゃない。そんなことさせたらシオンが傷ついて一生罪悪感を背負い続けるだけだ」
「なんで、そんなこと貴方が断言できるんですか……!!」
「それが嘘だろうと、騙されていたとしても。本当に愛してくれていた母さんと慕った人を殺して傷つかない子じゃないと知ってる。そしてシオンがそういう子だってことは、僕以上にシエルさんの方が知ってるんじゃないかな?」
「ッ……!!」
目を見開いて、口を開けて何かを言おうとして、結局それが意味のある言葉にはならなかった。僕の言ったことが間違いではないと納得してくれたのだろうか。それすら僕には分からない。分かることはただ一つ。ここで敗北したら、この親子は本当に引き裂かれて壊れてしまうことだけ。
そして僕はそれを認めない、認めたくない。どんな終わり方であろうと、それは本人達が決めることであって他の人間が決めることじゃない。
だから、その結末を決める間での時間を僕が、僕達が作る。
「シエルさん、怖くても逃げないで。どんな選択をシオンがするかは分からないけどそれを受け止めてあげて。それがどんな物であっても彼女を幸せにすることは約束するから」
ヒカリとアリシアがじっと見つめてくる。また勝手に背負う物を増やしてるのを怒っているのだろう。それでも何も言ってこない二人に感謝する。
ここでこういう選択をしない僕は僕じゃない。例え死んでも記憶を失おうとそれだけは変わらないと信じている。
馬車が『王戦』を行われる街につき、早々にヤランリ王国からの使者がやってきた。彼女達が言うには『王戦』が始まる前に代表者同士で会いたいとのことだった。
何を企んでいるのか、あるいは本当に会いたいだけなのか分からないがそう言われた僕には会いに行かない選択肢はなかった。これから戦う相手がどんな人なのかを知ることは間違いなく有益なのだから。
そう思いヤランリ王国の代表者が待つこの街で一番大きい建物の中を進んで行く。前回の街とは違い、この地で『王戦』が行われることは滅多になかったのかこの街は発展してはいなかった。近くの森で狩猟生活をしている人もいるとのことだ。
それでも流石に国家の代表者が待つ施設となる建物は大きく、清掃も度々していたのが分かる。どういう状況で戦うかの予想がつかないのはしょうがないとして納得する。
進んだ先にある扉を開けて入る。その先に身の丈より遥かに長い槍を包んだであろう物体を持つ小柄な少女が待っていた。
「来たわね」
「ああ、来たよ」
傲岸不遜に話し掛けてくる彼女は短く切り揃えた茶色の髪の下の目で睨んできている。甲高い声でありながらどこか甘さを残した声はしかし、その内にある苛烈さを隠そうとは微塵も考えていないのが分かる。
ジュリア・デュース、シオン・エースに次ぐ槍王候補にして身軽さと速度ではシオンを上回り場合によっては彼女ですら敗北するかもしれないと言わしめる強敵。
僕がソードリアの『剣王』だと分かっていてなお彼女が態度を変えることはない。それは圧倒的なまでのプライドが原因か、それとも僕を見る目が嫌悪に染まっていることから男にいい思い出がないからか。それは分からないがどうにも嫌われていることは分かった。
「アンタが『剣王』ね。うちのと違って結構普通じゃない」
「王様になって半年も経ってないからね。これ、他国にもちゃんと流してる情報なんだけど」
「そんなもの信じるわけないじゃない。それで舐めた奴に『王戦』を挑ませて逆に色々と奪い取る策だと思ってるところが大半じゃないの?」
その発想はなかった……。愕然とするがよく考えたらすぐ思いつく発想ではある。あのシオンでさえしばらくの間は信じてくれなかったのだから。
改めて僕の祖国は王様の決め方がおかしいのだと再認識する。国としての体裁を守り続けてきた歴代の内政官、外交官、それと貴族の人々に感謝しなければならないと思う。
「ぶっちゃけどうでもいいけどね、アンタなんか。シオンをぶっ倒して連れ帰ることだけが目的だし、今ならシオンとあのクソ女狐を差し出せばこの『王戦』をやめても良いわ。一国の『王』が王候補に負けるなんて醜聞待ったなしでしょ?」
間違いなく彼女は本気で言っている。こちらを侮っているわけでもなければ自意識過剰なわけでもない。シオン曰く彼女は苛烈だが戦力把握を間違えたことは一度もないらしい。
つまり彼女は僕に間違いなく勝てるという自信があるという事。その自信の源が何なのか、その一端だけでも掴みたいが難しいようだ。少なくても今の警戒し続けてる彼女からは。
「悪いけど彼女はもう僕の国の民だ。渡す気はさらさらないし、僕の物に手を出そうとして無事で済むと思っている頭の悪い子の言うことは信じられないね。あと女狐なんて僕の所にはいないよ。生憎うちじゃ狐より狸の方が多く生息しててね。狐なんて僕は見たこともない」
なお狸は何度か村で見た。村の農作物に手を出してブチギレした農家の人達が滅茶苦茶罠を仕掛けていたのを見ていたから。なおその狸はヒカリと僕が追い掛け回して捕まえて最終的に狸汁になった。雑な脂がいっぱいあってあんまり美味しくなかったなぁ。
「人に喧嘩売っといて何馬鹿みたいな顔してるのよ。人前でそういう顔晒すのやめてくれない?不愉快だから」
「あー、ごめんなさい。話してる時に考え事をするのは失礼だったね」
「…………そっちが本性だとしたらアンタ、人を煽るの向いてないわよ」
なんか心配されてしまった。さっきから嫌悪の目を向けられているが、それでもこういうことを言う彼女がどういう人間かなんとなく分かってきた。
「その様子じゃあの女狐からうちの王様についても色々と聞いてるみたいね」
「うん、聞いてる。随分悍ましい話だと思ってるよ。隣国としてどうにかしたいと思うくらいには」
「アンタが何とかしてくれる前に私かあの女が『槍王』に乗っ取られるわよ。そして私はそれを許容できないししたくもない。私は私自身として生きて幸せになりたいの」
吐き捨てるようにそう言い切る彼女からはどこか諦観を感じる。長年恐怖に晒されてきたからか、その心はもう『槍王』に歯向かうことが出来ないほどに折られている。それを責めることは何も知らない僕には出来ない。出来ることなら称賛したいくらいだが、それも許されない。
僕は今から彼女を始めとした少女を倒し、シオンを守るのだから。賞賛も謝罪も口にしても彼女達からしたら何の意味もない。
僕は天秤にかけてどちらかを選ばなくてはならなくて、今回選んだのがシオンとシエルさんの二人というだけ。それを忘れないように手を握り締める。
「随分と怒ってるみたいね。人のことをそんな風に心配できる余裕があって羨ましいわ。本当幸せな人生を歩んできたんでしょうね」
「そうだね。僕の人生は大体の時間は幸せだったよ。それこそ君に妬まれて恨まれて、殺したいと思われても仕方ないかと思える程度には」
「あ、そう。甘ちゃんなのね。その甘さはつけ込みやすそうだし覚えておくわ」
僕がジュリア・デュースを知ろうとしてるように、彼女もまたトーマ・ソードリアという人間を知ろうとしているのが分かる。甘ちゃんなのも自覚はしている、敵対者を心配してる余裕がないことも。
「君の言う通り僕は甘いし、多分これは治らない。君達に対して同情もしてるし、勝った後罪悪感に包まれるかもしれない」
それでも、あの風呂場で自分の全てを差し出してでも大事な人を守りたいと言った人を知っている。
「だけどこの『王戦』の勝利は譲らない。勝つのは僕達だ」
「……どういう人間かは大体わかったわ。それだけで十分だしこれ以上言うことはないけど」
ジュリアはそう言って僕と目線を一度も合わせることなく部屋から出ていく。
「勝つのは私達。幸せになるのは、私よ」
そう言い放って行く彼女は確かにシオンが言う通り傲岸不遜で、プライドも高い実力者なのだろうが。
「なんだかんだ憎めないなぁ、ああいう人……」
ヒカリと容姿も何もかも違うはずなのにどこか似てる感じがして非常に戦いにくさを覚えさせた会合だった。
うん、会ったのはちょっと間違いだったかもしれない。
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!