王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
『王戦』の舞台である森の中で金属音が鳴り響く。目の前にいる年下に見える程背の低い少女に向かって剣を振るうことに最初はあった躊躇いも今は欠片もない。それは何故か、理由はただ一つシンプルだ。
「…………大人しくして」
「断るッ!!!」
目の前の少女は自分の身の丈の倍以上ある槍、剛槍を勢いよく振り回せる馬鹿力の持ち主だからだ。
見た目の割に振り回されるたびに風を切る音からその槍が思った以上に重いことが分かる。ただ置いただけで地面にめり込みそうなほど重いそれを彼女、ライラ・ケイトは棒のように扱う。勢いよく振り回されるその剛槍の速さと威力はかつて『魔霧の森』で幾度も戦ったリチャード団長を超えている。技術はリチャード団長の方が上だろうが、力と速度はこちらの方が遥かに上だ。
「チッ!!!」
「…………面倒……!!」
ギリギリで打ち合うことが出来ているのも奇跡なのだろう。少しでも聖剣を握る力を緩めれば一撃で腕ごと持っていかれかねない。一瞬たりとも気を抜けないこの瞬間こそが戦いなのだと僕の身体が思い出し始める。
リチャード団長以上の身体能力で振り回される槍、だが力と速さだけなら付け入る隙はある。上下左右斜めに続けざまに暴風のように振り回されているまさに槍の嵐と言える空間。その中に下手に入ろうものならば一瞬でこま切れにされそうだ。
だが剛槍を上から下へ、下から上へ振る際の継ぎ目が一瞬あり、その一瞬を見切ることが出来れば突破は可能!!覚悟を決めて足に力を込めて一気に踏み出す。少し前であれば見切る事も難しかったが今の僕ならばそれが可能。聖剣第二能力『
全身に駆け巡る力が五感全てを強化し、剛槍の技と技の隙間を教えてくれた。直感に従い踏み込み振り下ろされたばかりの剛槍を思いきり踏みつぶし地面にめり込ませる。
「…………ぬあぁああああ!!!!!!」
「なっ!?」
一瞬驚愕の表情を浮かべたライラ・ケイト。その体躯に見合わない剛力でただ力任せに、思いきり抑え込んでいる僕を空中に吹き飛ばす。
「ッ……!!シオンの言っていたとおり滅茶苦茶な!!!」
思わず悪態をつくほど目の前の少女は滅茶苦茶だ。事前に聞いていなかったら驚愕したまま一気に押し切られていた可能性が高い。直感により初見殺しが通用しにくい僕であってもそうなのだから大抵の人間は間違いなくこの身体能力で押し切られる。
彼女は全槍王候補の中で間違いなく技術的には一番下だとシオンは言っていた。だがその上でライラ・ケイトは槍王候補の上位に居座り続けた。
魔力による身体強化の倍率が他者と文字通り桁外れ。その力は『強き者』を最大限に使った僕すら力負けする程に。その力だけで彼女はのし上がってきた。
「…………これで終わって」
空中に吹き飛ばされた僕には足の付かない場所で自由に移動できない。このままでは虫を叩き潰すように地面の染みになりかねない。
受ければ間違いなく動けなくなる傷を負う。何をどうするか思いつく前に掌に『闇星』を発動させ上空に放り投げる。咄嗟だった為魔力の練りが甘く引力も弱く発動時間も非常に短い。それでも一瞬でもタイミングをずらして剛槍を避けることに成功する。理屈ではなく身体に叩き込まれた生存本能が咄嗟にさせたそれは反撃のチャンスを生み出す。
「ハァ!!!!」
「…………嘘っ……!?」
地面に振り下ろされた剛槍の上に着地し、再び振り回される前にライラの元へ槍の上を駆け抜けていく。どれだけ振るわれる速度が早かろうと剛槍を伝っていけばそこには間違いなくライラ・ケイトが存在する。
「一発めぇ!!!!!」
「…………女の子相手に顔面蹴りっ!?」
思いきり強化した脚で彼女の顔面を蹴り抜こうとするが流石に反応が早く腕を差し込まれてガードされる。強化されたライラの腕はまるで硬い金属のようで蹴り飛ばしたこちらにも衝撃を響かせる。
この反応速度と力と速さ、更には身体強化で引き上げられた防御力。確かにシオンでも真っ向から戦えば敗北するかもしれない。身体の力の差とはそれほどまでに大きい。
「フッフッフッフ……!!」
ライラと戦い始めてまだ10分程度。それでも息切れを起こしかねないほど激しく動いてる。呼吸を整えることを意識するが、いつ再び剛槍が振り回され始めるのか注意しなければならず僅かな時間さえ惜しくて仕方ない。
「…………剣王、流石に強い」
「それは、こちらのセリフだよ……」
一つ間違えればその瞬間押し切られて叩き潰されることを確信する力。剛槍を振り回すときの速度と破壊力。攻撃が迫ってきた時の反応速度と防御力。全てが高く、技術力が未熟という点さえその剛槍の動き方を読めないという利点になっている。
事前に聞いていた通り彼女は強敵だ。身体能力全てが僕を上回っている。だから、全てを忘れてまずは彼女を何とかすることだけを考える。
シオンのこと、シエルさんのこと、離れているヒカリのことを一時的に全て置き去りにしてライラ・ケイトという少女を、戦士を攻略する事のみに全神経を捧げる。
「ここから先、君を倒すまで君しか見ない」
「……………………」
「他の誰の所にも行かせない。君にも僕だけを見てもらう」
「…………物騒すぎる口説き文句。だけど望むところ。私も貴方の足止めが役目だから」
聖剣をライラに向ける。剛槍が僕に向けられる。軽口を叩き合ったその口を閉じて無音で仕掛ける時を選ぶ。
戦いを始める時と同じ状況で違うのは互いへの警戒度。ここで止めなければ『王戦』に参加している味方が蹂躙されるという嫌な確信。
似たことを考えているのだろう。相対しているライラ・ケイトもまた鏡合わせのように僕と同じ表情をしていた。つまるところこの戦いを早く制して味方の援軍に行った方がこの『王戦』の勝利に大きくつながるという事。
汗がトーマの頬を伝い地面に落ちて染みとなる。『強き者』を使用した上で力負けしたことなどなかったが故にライラ・ケイトはトーマ・ソードリアにとって完全に未知の敵だ。これまでの経験では分からない部分が多すぎる。剛槍の威力もまた地面を簡単に抉る威力、恐れない方がおかしい。
だからこそ先に動いたのはトーマだった。
「ッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
全力で駆けだす。これまでの戦いで以前の『王戦』の時にしたように『闇星』を仕込むことは出来なかった。だから魔法によるアシストはなしで『強き者』を全開にしただけの真っ直ぐすぎる突撃。
ライラはそれを見て何の困惑もなく剛槍を持ち上げる。まるでそう来るのが分かっていたかのように。実際彼女にとってこの行為は見慣れた物だった。
己の膂力に恐れを抱き、その恐怖を押し殺すかのように突撃する。何度も見てきた光景、何度も経験してきたこと。だからこそ冷静に対処できると思い、目の前にまで迫ってきていた聖剣への対処が遅れた。
武器を投げつける、言葉にすれば簡単だが剛槍を構えるライラと戦えば戦うほどそんな選択肢はとれなくなる。受け止めることが出来ないと頭で分かっていてもどうしても自分の身を守ることを考えてしまえば武器や防具は必須。
トーマは軽装であり防具と言えるのは胸当てくらいな物。他につけているものと言えば『剣王』であることを示すマントだけで防具になりえる物はない。
「くぅ!?」
咄嗟に姿勢を崩しながら投げつけられた聖剣を躱すライラはすぐさま視線を戻し――――そこには誰もいなかった。
聖剣を投げつけ、それを避けられる。そこまでがトーマの予想通りだった。確かにライラはトーマにとって未知の敵だ。その膂力への対処も、剛槍の破壊力も速度も、聖剣を当てても切り裂けるか分からないほどの防御力も。
未知であることが恐ろしいのならば、相手から既知の反応を引き出せばいいと考えた。
誰であろうと目の前に急に切れ味鋭い刃物が迫って来れば恐ろしく感じるだろう。反射的に避けると予想をつけて行動を決めた。もしもライラが聖剣を避けずにトーマを見据えたまま聖剣を打ち払えていたとすれば即敗北につながるかもしれない場面で彼は賭けをして賭けに勝利し、既知の状況に持ち込んだ。
互いの既知と未知が入れ替わる。
「ッゥア!!!!!!」
「ッ!!?!!?」
ライラの視界から消える為に『強き者』を全開にして地面を蹴って空に跳ぶ。その手は聖剣を持ってるかのように構えて、次の瞬間聖剣の第一能力『
僅かに聞こえた風切り音に反応し、振り下ろされた聖剣を剛槍で受け止めるもその威力にライラの足は地面に沈みその場に釘づけにされる。元々動くつもりはなかったとはいえ、動かないのと動けないのとでは精神にかかる負担はまるで違う。
(なんで、こんなことにっ!?)
他の槍王候補に技術では勝てない。だから力を求めて、今の戦闘スタイルを手に入れたライラにとって、力で対抗してくる人間など皆無だった。
間違いなく彼女の力はこの世界において最上位に位置する。種族として人類の上である竜人であっても彼女の膂力に対抗できる者などそうはいない。その剛槍は空気を切り裂き、地面を抉り、人など容易に叩き潰すことが出来る。
技術で対抗されることはあった。そうして敗北したのがシオン・エースという存在であった。だがそれに関しては納得している。技に対応させないほどの力がないから悪いと考え、以前シオンと戦った時よりもその膂力を大きく上げていた。
技で対抗できない程の力、それに対して力押しで来る者がいる等想像もしていなかった。目の前に迫る聖剣の刃と必死の形相の『剣王』の顔を見て今までになかった感情を覚える。
それは恐怖でもなければ、驚愕でもない。絶対の自信があった力に力で対抗されたことに対する悲しみでもない。そんなネガティブな感情ではない、ないないない!!!
「アハッ」
口角が持ち上がる。表情が歓喜に染まる。全力をぶつけられる、その全力を受け止めてくれる相手がいる。他の槍王候補、双子の姉でさえそんなことしてくれなかった。その事実がとてつもなく嬉しくなる。
剛槍で聖剣を押し返そうとする。それを抑えるようにさらに力が籠められ聖剣が重くなっていく。力で抑え込まれる初めての感覚にどうしようもないほど高揚して身体に込める魔力を最大まで引き上げていく。
「やぁ!!!!」
「っおっと!!!!」
剛力でトーマを弾き飛ばして、再び剛槍を構える。そこに先程までの無感情無表情はない。気分は高揚し気持ちは歓喜し気力に満ちている。最高のパフォーマンスが出来ると確信し、この状態が自分の最強なのだとライラは確信する。
「随分と楽しそうだね」
「…………うん、楽しい。これほど楽しいのは初めて。だから、もっとやろう。剣王とならもっと、もっともっと、もっともっともっと楽しめる」
「楽しんでもらえるならそれは何より。でも負けてあげることはしないし、負ける気もしない」
一方のトーマは今の一撃で決められなかった事を後悔、してはいなかった。この程度で倒せるのならば苦労はしないと当然のようにこの事実を受け止める。彼の目的は最初から変わっていない。ライラ・ケイトの足止めか可能であるのならば撃破。
彼女が自分に執着し、自分だけを襲って来ようとするのならばそれはそれで望む展開だ。何せ今一緒に戦っているのは以前の『王戦』で運が良かったから勝てたシオン・エースと、剣才だけで言うのならば遥かに自分を上回っているヒカリ。何があろうと大丈夫だと信じている。
だから今は目の前の怪物に見える、ただ自分の力を試したいと思っているだけの女の子に全力を注ぐことが出来る。
「…………初めに言っていたエスコート。今からでもお願いする」
「可愛い女の子の頼みなら出来る限り応えたいと思うけど……」
「ただしデート内容は戦いで!!!!」
「それは出来れば避けたいなぁ!!!!」
聖剣が振るわれる。剛槍が叩きつけられる。周囲の環境を破壊しながら互いの武器を振るう戦いはまだ始まったばかりだ。
またコイツ女の子の脳を焼いてる……
とりあえず新キャラ三人の容姿は以下の通りになっています
ジュリア・デュース 茶色の髪を短く切り揃えている。三人の中で身長は一番下
レイラ・トレイ 空を思わせる青色の髪をサイドテールにしている。身長は一番上
ライラ・ケイト 姉と同じ髪色、面倒なので髪型は伸ばしっぱなしで目が隠れてる。
レイラより少し身長が低いが、胸はその分大きい
評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!
この小説の度のパートが好き?
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厄ネタオンパレード
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バトルシーン
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砂糖吐きそうな青春ラブコメ