王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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風毒陽水

 

 トーマとライラの戦いが本格化する少し前、森の中に潜んだ二人組は獲物が所定の位置に来るのを待っていた。互いの能力をジュリア・デュースとレイラ・トレイは把握している。何度も模擬戦をした仲でもあるし、何よりシオンの監視役でもあるという関係からだった。

 

 特にレイラにとっては双子の妹であるはずのライラよりもジュリアとの関係の方が深いと個人的には思っていた。一卵性でありながら性格も能力も何もかも違い、何を考えているかも分からないライラとはあまり関わりたくないとすら思う。

 

 それでも何かやらかした場合説教をするのはそうしなければ血縁だからという理由でこちらにまで叱責されるから。仲が悪いというわけではないが仲がいいというわけでもない、そんな姉妹関係。

 

(それに比べればジュリアは分かりやすくて助かる。実力もあるしな)

 

 仕事の関係上付き合いが長くもなる。そうなれば他愛のない話をすることもあるし、『槍王』の真実を知った時など二人してキレて自室で喚き散らした仲でもある。

 

 実力も性格も何が得意で何が不得意かを互いに理解している。ジュリアとレイラはヤランリ王国内で言うのならば最も組んだ時の力が発揮されるコンビ。

 

 だからこそ慢心ではなく確かな自信を持っている。たかが二ヵ月程度しか共に過ごしていない二人組など敵ではないと森の中を歩いているシオン・エースとソードリア側の三人目を眼下に収めながら思う。

 

「どうする、ジュリア。あちらはこっちに気付いていないぞ」

「射程圏内に入った瞬間一人撃ちぬいて。出来れば脚をね」

「動けなくしてもう片方が守りに入らざるを得ない状況にするという事か」

「そういう事。こんな馬鹿げた命令なんて出来る限り消耗無しで切り抜けるのが正解でしょ。アンタの妹は分かってないみたいだけど」

「ここまで地響きが届いている、という事はそのうち終わるだろう。アレの力に勝てる奴がいるとは思えんしな」

 

 今の生活に不満はない。あの狂った『槍王』の命令を聞かなければならないとはいえ、それ以外ならば最上位の生活が出来ているのだから。

 

 あそこに連れてこられた者はほぼ全員が底辺の生活をしていた者。一度手に入った平穏と利権を手放したいとは思わない。何より再びあの底辺の生活を送ることが我慢ならない。それならば他者を蹴落としてでもこの場を守ろうとするのは当然だとすら思う。

 

 だからシオンには戻ってきてもらわないと困るのだ。あの『槍王』の次の肉体として生贄としての役割を果たしてもらわなければ次はジュリアかレイラの番になりかねない。

 

 

森の木々の間から槍の穂先をヒカリに向け相手が気付いていない事を確認しレイラ・トレイは小さく呟く。小さく、それは自身の魔法を使用する時に必須の一言

 

「『水槍』」

 

 その一言と共に穂先から人体をも貫く勢いの水が噴き出る。狙いは脚、機動力を奪いシオンを守りに入らせる為に、シオンの足手纏いにするためにヒカリを選んだ。

 

 『水槍』、彼女の異名であり絶対の必殺技。槍の穂先から金属をも貫く圧縮された水を射出する魔法。そのまま薙ぎ払うことも出来るが使用中常に魔力を消費する為にレイラはそれを狙撃の為に使うことが多い。もちろん人体ならば容易に貫くことが出来る。水魔法を強化する魔道具である槍を使えばさらにその速度と威力は上がる。

 

 彼女達の戦略は何も間違ってはいない。狙撃手があえて敵を殺しきらず負傷させ、それを助けようとする敵を撃ち殺すように非常に効果的な戦い方と言えるだろう。

 

 だから、誤算だったのは。

 

「――――そこか」

 

 狙った相手(ヒカリ)が戦いにおいて『剣王』であるトーマを超えうる才能に満ち溢れていた存在(バケモノ)だったことだろう。

 

 射出された水魔法が当たるその瞬間に足を持ち上げるというだけで回避し、そのまま駆け出す。森の木々を盾にしながら、姿を隠しながらとにかく一気に接敵する事だけを考えて。

 

「ッ!!避けられた!!その上こっちに向かってくる!!!もう一度狙うのは無理だぞ!!!」

「なら一旦下がるわよ。確保してあるポイント2まで下がって迎え撃つ」

 

 外したのならば外したで策は練ってある。一つの策に固執するのは危険な行為だと知っている二人は避けられた現実を受け入れ次善の策を実行しようとする。

 

 その対応は素晴らしいものだろう。完ぺきではなくとも失敗を引きずらず、冷静にすぐさま次の判断を下すのは戦士として十分な素質と言える。

 

「よぉ、遊んでくれよ」

「っ!?馬鹿な、早すぎっ!?」

 

 相手がこの少女でなければ。

 

 木々に紛れながら最短経路を駆け抜けてきたヒカリはその手に持つ剣をレイラに叩きつける。咄嗟にその刃を槍で受け止めることに成功させたレイラだったがその身体に幾つもの切り傷が刻み込まれていった。

 

 歯を食いしばり刻まれる傷に顔を歪めながらも押し返し距離を取る。いつの間にか攻守が逆転している事実に、しかもそれを成したのがまるで無警戒だった少女だったことに動揺しつつも最早油断の欠片もなく槍を構える。狙撃銃を持った狙撃手のように目の高さに合わせる独特の構えはレイラが自身の魔法を使いやすくした結果だった。

 

 油断なく構えた相方を確認しながらジュリアは周囲を見渡す。そこには誰もいないように見えるが、いつどこから何が来るか分からない以上何があろうと対応できる状態であるのが必須。

 

 何があろうと、と言ったが何もない方がいい。イレギュラーなどない方がいいのだが、ないこと自体がジュリアの神経を逆なでし機嫌を悪くしていく。思わずする必要もない相手との会話を選んでしまうくらいには彼女も冷静ではなかった。

 

「で、もう一人の馬鹿はどこいるのかしら?」

「馬鹿って言うのは誰のことだ?アタシの知る限り馬鹿ってのはうちの王様くらいしか思い浮かばないんだけどよ」

「自分の側近にまで馬鹿にされてるの、あの男……?本当にろくでもない……」

「あ゛?」

 

 ろくでもないと言われる原因を作ったのは自分ではあるが、それはそれとして大して知りもしないであろう女にトーマを侮辱されたことにヒカリはドスの効いた声を上げる。

 

 だがその声は小さく、ジュリアはその反応に気付かないまま周囲を警戒し続ける。この状況でシオン達にとって最も有効な戦術を考えればその警戒は当然だろう。

 

 だがその警戒はヒカリを追ってきたシオンの姿に無駄になったと軽く舌打ちをする。どこまでも思い通りにならない目の前のエース(一番)のことがデュース(二番)である彼女は気に入らない。半端に情を残してそのせいで付け入られる隙を作ってる馬鹿が自分より上だと証明されていることが心底から気に入らないのだ。

 

 あの狂った『槍王』に乗っ取られないために自分で望んだこととはいえ自分より劣った存在が上にいることがどうにも我慢できないのは生来の気質か、それとも生い立ちと今までの経験からか。それは恐らく本人にも分かっておらず、ただ気に入らないという感情だけが前面に出る。

 

「久しいな、ジュリア。それに随分手痛い反撃をくらったようだな、レイラ」

「逃げ出した馬鹿が気安く私の名前呼ばないでくれる?『王戦』なんて無駄なことしなくちゃならなくなったのはアンタのせいよ」

「敗北したのならばその代償は払う。『聖女』であるアリシア殿に衰えた『槍王』を治癒してもらう為に起きた『王戦』だった。彼女の価値を考えれば土地と私も賭けなければ天秤が釣り合わないという物だ」

「相っ変わらず話が通じないわね。天秤とかどうでもいいって言ってんの。私に迷惑かけんなって言ってんのよクソ馬鹿が」

 

 吐き捨てるように見下すジュリアに少しの違和感を覚えながらシオンは槍を構える。基本に忠実な構え。その上触れれば強力な毒が染み渡る『毒槍』は彼女の実力を考えれば非常に厄介だ。一撃、ただの一撃を掠っただけで致命傷になりかねない。

 

 以前の『王戦』でトーマが勝利できたのはひとえにキャロルによる毒のオンパレードフルコースを毎日のように食わされ耐性を高めていたことが要因にあげられる。二度としたくないと思ったそれが結果的に最良の判断だったという事実にトーマは頭を抱えたが。

 

「迷惑をかけられたのはソードリア側だろう。必要のない戦いをさせられた彼らこそが被害者だ」

「どうでもいいってんの。私は私のことしか考えてないし他のことを考える余裕もない。理屈だとかどっちが間違っててどっちが正しいかなんてのもどうでもいい。私はもう二度と虐げられる側には回らない」

 

 だから、と呟きながらジュリアはどこからか二本目の槍を出現させ、両手に一本ずつ持ち構える。無造作なライラとは違う。自分の魔法の特質にあった構えを取ったレイラとも違う。ただ手数が多い方が強いという理屈を形にしたのが彼女の戦い方だ。

 

(隠していた二本目を出してきたという事はいきなり本気か。いや、私に対して二本目を隠していることがアドバンテージにならないことを理解して、か)

 

 当然同じ国で育ち、ともに研鑽しあったライバル同士。互いの魔法も実力も知っている。その上で自分と相手の実力はどちらが上でもおかしくなかったとシオンは認識している。それは『槍王』の真実も、母の真実も、その全てを知った上で変わらない。

 

 彼女達が自分を生贄にしようとしてることを知っている。そのことを仕方ないとも思う。自分が彼女達の立場であれば同じことをしていたかもしれないという思いもあるから。

 

 それでも何の答えも出さないうちに、自分のことさえ理解しないまま消えるなんてことはごめんだった。

 

「ジュリア。私はお前を倒す、それが私自身に課した役割だ」

「出来ればいいわね。私はその手足四本ぶち折ってアンタを連れ帰るわ。私が私である為にもね」

 

 ここまで来たらもう言葉による説得など無意味、出来るはずもないしする気もない。槍を抜いたのならば後は敵を貫くことだけを考える。それが彼女達の身体の髄にまで叩き込まれた在り方。

 

 ピリピリと空気が張り詰めていく。少しの刺激で破裂する風船のように、誰かが動き出せばその瞬間から会話も何もない殺し合いが始まる。殺す気で行かなければ倒せないと分かっているからそこには遠慮も容赦もない。

 

 

「あと少し……早く、偽物を殺そう、我が……」

 

 

 その様子を誰にも認識されない誰かが見ていることなど知らずに。

 

 この戦いの火蓋が切られた。

 






魔法の区分とかもっとわかりやすくした方が良かったと思いつつ設定変更するのが面倒なのでこのままでいく


書いてるうちにこうすればよかったという後悔が積み重なっていくのはあるあるなのかな……?

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