王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

52 / 76
彼女の才覚

 

 森の中の木々が次々と斬り倒されていく。銀色の光の筋が通り過ぎた跡を追いかけるように『水槍』が通り過ぎ何の抵抗も出来ずに木々は倒れる。隠れる場所がどんどんなくなっていく現状にしかしヒカリは焦らずに相手を見据える。

 

「ッ!!」

(見たところそこまで魔力量は高くねぇな。逃げ回ってればそのうち魔力切れするだろうけど……そこまで馬鹿じゃねぇか)

 

 相手は腐っても槍王候補として戦ってきた少女だ。戦闘経験で言えば間違いなくヒカリより上で、だからこそ現状のまずさを理解する。

 

 『水槍』はその破壊力、切断力こそ高いがその分魔力の消費量も多い。槍の間合いから下がって離れた者に対して追い打ちをするのが本来の使い方。連続して使用すればするほど隙を晒すことになる。

 

 事実ヒカリはその穂先からしか出ないことを理解してから完璧に避け続けている。一度避けられたのならば一旦やめた方が明らかに得策だと外から見ていても分かるほどにそれだけを続けていく。

 

「『風斬』」

 

 ヒカリの声が小さく響く。魔法の使い方が未だに未熟な彼女は使う魔法を声に出さなければ使用できない。だがそのデメリットを超えるメリットがその剣から放たれた。剣に纏わせた風を射出し、『水槍』を切り裂きながらレイラに迫る。咄嗟にその場から飛び退き辛くも避けることに成功するがその穂先から水を出すことは中断された。

 

 明らかに隙だらけ、その瞬間に今までの比ではない速度で一気にヒカリが駆け抜け迫る。迫ってくるヒカリに対してその射程外からレイラは槍を突き出すがそれを嘲笑うかのように一足でその頭上をとった。空中で宙返りしながら振るわれる剣に顔をそちらに向ける余裕もないレイラは咄嗟に柄でその刃を受け止める。

 

 冷や汗を流しながら急襲された彼女は確信する。間違いなくこの銀髪の少女は天賦の才を有していると。その剣には術と言える物はなく、ただ本能的に振るわれているモノだけ。鍛えられた鉄よりも天然物のダイヤモンドの方が硬いと言わんばかりの暴力。鍛えてきた今のレイラよりも原石であるヒカリの方が強いという事実が彼女を襲う。

 

 現に今の一瞬の攻防もヒカリにとっては何の苦でもない。当たらなかったこともそうだろうな程度で済ませる。模擬戦は山ほどやってはいるが実戦は初めてのはず、なのにも拘らず彼女は当たり前のように戦える。そこには怪我に対する恐怖も相手を傷つける恐怖もない。あるのはただ一つ、「こいつらはトーマの敵」だという確信だけ。

 

 それだけで彼女は剣を振るうことが出来る。それは危うさとなりえるが、今は立派な武器だった。

 

 これが一対一の決闘であれば勝敗は遠くないうちにつくだろう。だがこれは決闘ではなく『王戦』で

 

「もういいわよレイラ。十分水を撒いてくれたわね」

「やっとか、これで普通に戦えるな」

 

 一対一ではなくチーム戦だった。

 

「…………馬鹿みてぇに増えやがって」

「こうでもしないと色々と面倒なのよ、アンタ達」

 

 木々が斬り倒されて広場になった場所に数多のレイラが姿を現す。一人一人が武器を全く同じタイミングで同じように構える。揺らめくその姿から実体がある分身ではなく幻の類だとヒカリは予想をつけてその予想は確かに当たっていた。

 

 『陽炎』、ジュリアの使う炎魔法の一種。蜃気楼を人為的に発生させるその魔法は両手に持つそれぞれの槍の効果でその規模を広めている。

 

 さらにレイラが『水槍』によって撒いた水によりその範囲を広げ、その上でそれぞれの幻の違和感を可能な限り消して本体を特定されないように出現させる。これらの状況を組み立てるのにその頭脳を最大限回転させながら彼女はエースであるシオンの攻撃を捌き続けた。

 

「一撃も当てることすら出来んとはな……!!」

「当たったら致命傷でしょ。だったら無様に転がってでも躱し続けるわよ」

 

 『毒槍』による傷はなくともその全身には擦り傷が出来上がっている。二本の槍で手数は上とは言え防御に徹していればその利点も半減する。だが攻撃に出ればその隙を必ずシオンは突いてくるという信頼があった。だから地面を転がろうとその穂先から逃げ回ったのだ。

 

 長い時間『毒槍』を避けることは不可能。それでもこの策を取ったのはこの戦いは必ず勝たなければならないからだ。一撃でも掠ればその時点で終わるという賭けをし、見事にその策は成った。

 

「お喋りはそこまで――――死ね」

 

 一斉に『陽炎』が作り上げた幻が襲い掛かる。その中には間違いなく本体がいるがそれを判別するのは非常に難しいとヒカリもシオンも判断しそれぞれその場から離れる。

 

 幻に追い回されながらも逃げ続ける。これが魔法による現象であるのならば魔力というエネルギーがなくなれば消えるはずと考え少しでも時間を稼ぐ為に。その考えもやはり当然のように対策されていた。

 

「炎の壁……」

「逃がさない為の策だ。通り抜けようとすれば負傷する。そして私達はその隙を逃すことはない」

「馬鹿みたいに水を撒いたのは炎の熱を誤魔化すために周囲を冷やすのも目的かよ」

「そういうことだ。と言ってもアレで片付けることが出来るのが最善であったがな」

 

 逃げたヒカリを待っていたのは炎の壁による逃げ場がないという事実。『陽炎』の効果で幻を引き連れたレイラがその周囲を囲み一斉に槍を向ける。

 

 どれか一人が本物であると理解していながらその見分けがつかないことに今度はヒカリが冷や汗を流す。単独であれば勝つことも難しくないが、このような特殊な状況を経験したことは当然ヒカリにはない。

 

 だがレイラはこうしてジュリアと協力して戦う事は初めてではなく、むしろ多くこの戦術も何度も使ってきた。『陽炎』によって造られた幻の中に『水分身』を混ぜることで本物をバレにくくするという方法も取っている。

 

 先程まで翻弄されていた側が今度は翻弄する側になった。攻守がまた入れ替わり、一斉に数多のレイラがヒカリに襲い掛かった。

 

 一人一人を避けることが出来る程目の前に迫る槍の密度は低くない。かと言って本物がどれなのかの当たりもつかず可能な限り避けようと身体を必死に動かす。

 

 その手に持つ剣で迫る槍を弾こうとして空ぶる。幻だと理解すると共に背中に突き刺さる鋭い痛みを感じ咄嗟にその場で回転し槍に貫かれるのを回避しながらそれが本物だと思い剣を振る。

 

「偽ッ!?」

「本体以外攻撃手段にもなる囮くらい用意するさ」

 

 バシャッという水が弾ける音と共に切り裂いたはずのレイラが水となり地面に吸われ染みとなる。その光景に一瞬何が起きたかを理解できずに困惑し、その隙を逃すつもりのない数多の槍がすぐそこまで迫る。

 

 顔を顰めて何が起きたかを理解する前に槍から逃れる為に剣を振り、転がり、飛び越えて、そこまでしてなお身体に刻まれていく傷はどんどん増えていく。

 

 ここにいるのがトーマならば『強き者』の力で得た直感でどれが本物か把握できたかもしれない。あるいはシオンだったならば今までの経験とレイラへの理解でどれが本物か、何をすればいいかの答えを出したかもしれない。

 

 だがここにいるのは才覚はあれど実戦など『魔霧の森』で培ったものくらいしかないヒカリ。この状況を覆す方法を思いつかず、風を纏わせた剣でその場を薙ぎ払うにもその風を生み出すための集中力を削られている現状でそこまですることが出来ない。

 

「ク、ソがぁ!!!」

「口が悪いな貴様はぁ!!!いい加減倒れろ!!!!」

 

 それでもその身体能力とセンスで致命傷をヒカリは避け続ける。早くジュリアと合流したいレイラだが目の前の風剣使いを倒さずに行けばどこかで逆転されるとこちらも釘付けにされている事実に歯噛みしつつ時間をかけて削ることを選択する。

 

 既に分断策は成功した。後はジュリアがシオンを絶望させさえすれば勝敗さえどうでもいい。再びあのぬるま湯のような地獄で安心して生きていくことが出来る。

 

 だからこそ目の前で傷だらけになりながら必死になっている少女に苛立つ。腹が立つ。槍を握る力が強くなり軋む音が聞こえた。

 

「いい加減邪魔をするな!!!」

 

 思わず叫びが上がる。いつまで経っても倒れずに全身から血を流しながらもその両足で立って戦意をむき出しにしながらこちらを睨むその姿がレイラの心に突き刺さる。

 

 そんな風に生きられるなんて狡いという嫉妬も、なんでそこまでするという疑問も。ジュリアを、友人を助けに行きたいというのに邪魔される怒りに塗りつぶされていく。

 

「私達は私達であるためにあの女を生贄にするだけだ!!それなのになぜ貴様らはそこまで傷つきながら戦う!!!会って数ヵ月もしない、最初は敵対していたあの女にそこまでの価値があるのか!!!!」

「知らねぇよ、そんなこと」

 

 その怒りも叫びも疑問も、全て知らないとヒカリは切り捨てる。だってそんなことどうでもいいから。

 

「ぶっちゃけアタシはシオンに対してそこまでしたいとは思わねぇよ。これがアリシアだったりしたら別だろうけどな。でもここまでする程アタシはアイツのこと知らねぇし」

「だったらなんでそこまで!!」

「ここでシオン見捨てたら、トーマが笑えなくなるだろうが」

 

 ヒカリにとって一番重要なのはトーマがトーマらしくあれること。幼い頃に見た小さく蹲って泣いてる姿を二度と見たくないという想い。あんな姿を見るのはあれっきりで十分、もう二度とあんなことしないでほしいという願い。

 

 悲しいのに無理して笑って、自分の傷のことを後回しにして誰かを気にかけて。それで誰も見ていない場所で一人ですすり泣く。大声を上げることもなく声を押し殺してなくその姿は誰にも心配を賭けたくないという想いからか。だけどその姿はとても寂しそうに見えて、二度と見たくないとヒカリは思った。

 

 だからこの剣を取った。

 

「アイツは馬鹿だから際限なく手を伸ばそうとする。無理だって分かってても『槍王』を何とかしたいとすら思ってる。この『王戦』だって楽しくなんてねぇだろうよ。それでもやってるのはアイツが望んだ未来がこの戦いの先にしかないからだ」

 

 だから彼の隣に立つと決めた。

 

「アタシはな、アイツが笑ってくれてればそれでいいんだ。アイツの隣にいれればそこがどこであろうと幸せだ。だけどシオンを連れてかれたらアイツが悲しむだろ?」

 

 だから笑っていてほしいと願った。

 

「それがアタシの戦う理由だ。分かったらさっさとかかってこいや抗うことも忘れた負け犬。ここでもう一個黒星増やしてやるよ」

 

 獣のように歯を剥き出して笑う。剣を突きつけて、お前には負けないという意志表示を示す。眼中にないお前のことなどどうでもいいから早く終わらせると言外に告げていることは間違いなく。

 

「その挑発に乗ってやる。これで終わりにする」

 

 それが挑発だと理解しながらレイラは駆けだす。腹が立つ、腹が立つ腹が立つ腹が立つ。何も知らないくせに、こんな所で平和に暮らしていたくせに何が分かるという想いを出すようにその整った顔の眉間に皴を作りながら飛び出す。

 

 幻に紛れて『水分身』を増やし囮にしつつ本体がとどめを刺すべく攻め続ける。先程までと変わり映えのない光景、ヒカリに刻まれる傷もまた増えていく。

 

 ヒカリもまた抵抗する為に剣を振るい続けるが近づいているのは全て『水分身』。どれが本物かを把握する術がない彼女にはどうしようもない。どれだけ斬ろうが周囲に、地面に飛び散るのは赤い血ではなく透明な水だ。

 

 だから一瞬安堵した。こんな相手だろうとジュリアとの協力があれば打倒することも難しくないのだと。才覚は上だろうと努力と機転と作戦によって上回ることが出来ると勝利を確信すらした。

 

「――――見つけた」

 

 剝き出しになった白い歯を見せつけるがごとき笑顔が本物のレイラを貫き唖然とするまでは。

 

 ヒカリの視線は『水分身』を切り捨てた結果出来た泥状態になった地面に向けられていた。どれだけ精巧に偽装されていようと幻は幻、実体はなく当然重さもない。『水分身』もまた斬った感触から重さは本物の人間ほどではないと把握。

 

 だから泥だらけの地面に足跡を残すのは本体(・・・・・・・・・)しかありえない。

 

 本物が分かればこちらのものとばかりその場で留まって耐えていたヒカリは走り出す。『水分身』も『陽炎』によって作られた幻も共に慌てた顔をして追いかけるも時すでに遅い。

 

 本物のレイラもまた間に合わないことを理解し手に持った槍を握り締めて突き出す。リーチはこちらが上だと言わんばかりに、これまでで最速の突きはしかしヒカリの身体を捉えることは出来ずに空振りする。

 

 突き出された槍に片手を添えて静かにその穂先をずらしたヒカリはそのままレイラの懐に入り剣を振った。人を斬った感触と、顔にかかる生暖かい血にしかめっ面になりつつ決着がついたことを確認する。

 

 レイラの意識はあるし、傷もまた致命傷ではない。それでもしばらく動ける状態ではないことを確認してその場から全力を出して駆けだす。

 

 向かう先はシオン・エースとジュリア・デュースの戦いの場。何が起きるか分からないその場所を目指して彼女は走るのだった。

 





純粋な戦闘の才能だったらソードリアで最高クラスのヒカリさん


才能に頼るだけじゃなくて頭も使うから厄介だし、メンタルはトーマ君支えるで常に最高状態なので敵から非常に面倒である

評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!

この小説の度のパートが好き?

  • 厄ネタオンパレード
  • バトルシーン
  • 砂糖吐きそうな青春ラブコメ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。