王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
第二章も恐らく後8話程度で収まる予定です。
予定は未定なのでどうなるかはわかんねぇけど
レイラとの戦いを勝利で終わらせたヒカリは風を纏って足を速める。空気抵抗など邪魔になる要素をその身体に纏った風で吹き飛ばし無効化する魔法『風脚』。嫌な予感が止まらない彼女は可能な限りシオンの元へ急いでいた。
「ヒカリさん!!!」
だから彼女がその声に反応できたのは奇跡としか言いようがない。風切り音で聞こえないはずの声を拾えたのはその驚異的な視力と聴覚の賜物か。
声のした方へ振り返ってみればそこにはここにはいないはずの親友、『聖女』のアリシアが息を切らせながら走ってきていた。
「ヒカリさん!!『王戦』は中止です!!!今回の『王戦』を知った竜王様が、何故かわかりませんが即刻中止を命じられました!!!」
「竜王?それって確かドラコニア竜国の王様だったよな……?なんでそんな奴が……というかそれなら放送で知らせるべきなんじゃねぇのか?なんでお前走ってきてるんだよ?」
森の中は先ほどまで戦っていたレイラの『水槍』とその後のジュリアの『陽炎』と『炎壁』によってただでさえ高かった湿度がさらに上がっていた。ヒカリは風魔法でそれらをある程度防ぐことが出来ていたがアリシアに同じことは出来ず、汗だらけになっていた。
流石にこの状況では普段の厚着では耐えられないのかシャツのような状態になっているがそれも汗でビショビショになり下着まで透けているように見えてる。ヒカリは無言でこれで拭くようにとタオルを差し出す。それで流石に自分の状況に気付いたのかアリシアは赤面した。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいいよ。トーマが見たら目に毒だろうし。それで、何があったんだ」
「何があったかはわかりませんが、ヒカリさん達も使ったゲートが使用不能になりました。それだけじゃなくつい先ほどこのフィールド内で動いてた映像送信器も動かなくなって、放送も出来ません。武器以外の魔道具全てが機能不全に陥って……」
「だから走ってきたのか……。他には誰か来てんのか?リチャードのおっさんとか、意の一番に来そうだけどよ」
「いえ来てません。来ようとしましたが、この森に突入しようとした時に妨害が入りました。今まで見たことのないような生物が襲い掛かってきて……。この中にいるのは私とシエルさんだけです」
その言葉に思わず眉を顰める。この世全ての動物を全て知っているとは言わないがそこまで言われるようなのがいきなり『王戦』の会場に選ばれるような街に現れるようなことがあるだろうかと思い、アリシアはこんなことで嘘はつかないと信じ、それを事実として受け止める。
問題は何か異様な状況になっているのにもかかわらず増援は期待できないという事。そして現状トーマがどうなっているかが把握できないという事。何かあったら、そう思えば今すぐにでもそちらを探しに行きたくなって仕方ない。
だけどそれは出来ない。シエルは間違いなくシオンの傍にいる。この異常な状況で戦えない人間が間違いなく戦場になっている場所にいるのだ。何が起きるか分からない場所に非戦闘員がいて、もしヒカリがその場にいれば助けられたかもしれないのに、なんて状況になったら?
そんなことになれば絶対にトーマはトーマ自身を責める。自分が頼りないことで誰かが傷ついたことに責任を感じる。どこまでも突き抜けた馬鹿は間違いなくそう思うことを確信して、ヒカリは苦渋の決断を下す。
「アリシア、悪いけどトーマの所行ってくれるか。アタシはこのままシオンの所に急ぐから」
「分かりました。一応戦闘用の魔道具を持ってきているので自衛くらいは出来ますから、心配しないでください」
「ああ、気を付けてな――――!?」
別れようとした瞬間、遠く離れた地から闇が立ち上る。それは普段見るトーマの扱う闇魔法よりももっとどす黒く、見ているだけで不安に駆られるようなそんな色。
何があったのかは分からない。だが何かがあったことだけは間違いないと確信したヒカリは再び風を纏い闇が出現した場所に走る。何が出来るかは分からない、だが何かをしなければ手遅れになるという確信が彼女を動かした。
「嘘、よ……!!なんで、そんな、こんなことが、あるわけ……!!」
ジュリアは毒に侵されていく身体を必死に支えながら目の前の光景を注視する。そこには騙した加害者と騙された被害者がいて、だけどその二人の間にあるのは確かな絆で互いにもう離さないというように力を込めて抱き合っている。
涙を流しながら互いの無事を喜ぶ姿は、しかしジュリアの神経を鑢で逆なでしているのに等しい光景で。だからそれを認められずに彼女は立ち上がる。
全てを失って、そこから這い上がってきたのにあと一歩でこんなお涙頂戴の喜劇でひっくり返されるなど認められるわけがない。
情も愛も何もかも捨てて、憎悪と怒りを糧に立ってきた彼女には二人の間にある絆を理解できずに叫ぶ。
「なんで!!!なんでそいつをそんな風に受けいれられるのよ!!?だってそいつはずっとアンタを騙してきた!!!ずっとずっとずっと、アンタを騙して嘲笑ってきた!!!それなのにどうして!?」
それはまるで一人ぼっちの子供が喚くような、聞いてる側が悲痛に聞こえてくる声音で。
「確かに私はずっと騙されてきた。嘘を吐かれていた。だが一緒にいた時間の全てが嘘だったわけじゃない」
それでもシオンは揺るがない。知っているから、母から貰った愛が本物だと。信じているから、母の愛が本物なんだと言った王の言葉を。
「確かに許せない気持ちはある。だがそれ以上の愛があり、私はそれを認めることが出来た。一人ではないと信じられる、共に歩いてくれると信じられる。だから絶望などする必要もない」
シエルを、母を庇うように前に出たシオンは槍を構えてジュリアに穂先を向ける。毒で身体を動かすことも億劫な彼女はそれでもまだ立とうと足掻く。
「情を持つ者は強い。私はそれをあの『王戦』でトーマ殿……我が王にそれを教わった。そしてその強さを私自身も発揮できると今なら断言できる。周囲に人がいながら決して誰にも心を許そうとしなかったお前と私の違いはそこだ」
「ふざけるなぁ!!!!!!!」
怒りが、憎悪が、希望を持って立ち上がるシオンのその姿に噴き出る。何もかも正反対だからこそ、シオンの言葉が本当なのだと分かる。分かっていて、だがそれが本当だとしたらそんな強さ絶対に自分には手に入れられるわけもない。
「そんなことで私が負けて、負けてたまるかぁ!!!ここまで何の為にやってきたと思ってっ!!そんなこと認めたら誰にも頼らずに、誰にも弱く見られないように、誰にも侮られないようにしてきた私は一体何なのよ!!?」
自分の手に入らない物を見せられて、駄々をこねるように叫んで。その叫びの最後には怒りや憎悪よりも色濃く絶望が混じる。
「生きる目的もなく、あるかも分からない幸せを求めてやってきて!!!もう少しで手に入るはずだったのにこんな茶番劇でひっくり返される!?そんなの絶対、絶対……」
それでも身体に染み渡る毒には勝てず、膝をつき呼吸を荒くする。明滅とする意識の中で今までの記憶が走馬灯のように駆け巡る。
あらゆる人間を蹴落としてきた。優しい人間もこちらを嫉妬して来た人間も平等に『槍王』候補として選ばれた全てを蹴落とした。その中には手を差し伸べた人間もいたが、誰も信用しないと決めた彼女はその手を振り払った。
一人になって、強くなって、自分の為に他人を利用する事に罪悪感なんか感じないようになって。それでも背中の寒さは消えずに一人立つことの辛さを誤魔化して生きてきた。
その果てがこれなのか。自分が否定してきた物に敗北したという事実にどうしようもなく心が黒く染まっていく。負けたというどうにもならない事実が、重くのしかかってくる。
「ッ!!なんだ、闇が!?」
「えっ……?」
その心に惹かれるように先程シオンに纏わりついていた闇が今度はジュリアに向かい始める。その様子に顔を青くした彼女は逃げようとして、毒によって足をもつれさせて転んでしまう。
「やだ!?やめて、なんで私ばっかり!!?ヤダ、こんなの嫌ぁあああああああああ!!!!!!!!」
必死に逃げようとその手を延ばすも誰もそれを取ることは出来ない。今まで差し伸べられて、彼女が振り払ってきた手のように掴まれることなくその先まで闇に飲まれていく。
「だってこんなのどうしようもない!!アイツを、シオンを生贄にでもしないと私達はずっと!!だからやったのに、私ばっかりなんで失って!!!アイツばっかりなんで手に入れて!!!!」
嫉妬があった。家族と共に在り、その為に強くなっていたシオンに対してずっと劣等感と嫉妬を覚えていた。だけどその事実をジュリアは認められなかった。認めたら何かが壊れてしまいそうで、誰にも頼れないという事実に壊れてしまいそうで。
「何が欲しいかもわかんない!!何をしてほしいかも分からない!!!他人と一緒にいるなんて不安で仕方なくなって、それが当たり前で!!なのに私を否定するみたいに母さん母さんうるさいアイツは私より強くなって!!!!」
嫉妬していたという事さえも認識できない彼女の叫びは闇に飲まれて消えていく。闇がジュリアの中に侵食するごとにその目から光は消えて、茶色だった髪は暗い金色に変わっていく。
「だれか、わたしをあいしてよ……っ」
最後にその言葉を残し、闇の全てがジュリアの中に納まった。何度も身体が跳ね跳び、その小さな身体から異様な雰囲気が漂い始める。
シオンも、シエルもその空気に一人の存在を思い出す。槍一本で他者を圧倒し、すべてを支配してきた存在を。暗い金髪と、その雰囲気に震えが止まらなくなりそうなところを互いの存在を支えにして立つ。
「――――ふむ、我の肉体としては、及第点と言ったところ、か」
ジュリアの声で、ジュリアとは明らかに違うと分かる言葉が吐き出される。かつて毎日のように聞いていた声音にシオンは確信を抱き槍を構えて先手を取ろうとし――――次の瞬間吹き飛ばされた。
「無礼、だぞ。シオン・エース。我を誰か、忘れたわけではあるまい」
多くの木々にぶつかり、へし折ってようやくその勢いを殺すことに成功したシオンは倒れ伏しながらジュリアを乗っ取った存在を睨みつける。
絶望に染まったジュリアの肉体の中に入り込み、再誕したそれは槍を振った状態のままこちらを睨んで全く戦意を失っていないシオンに向かって話し掛ける。
「我は『槍王』。全ての槍兵の頂点に立ち、永遠を生きる者である」
ここに最悪の王が降り立った。
三章をどうするか今から悩んでいる
とりあえず『剣王』の日常編を挟むか、それともドラコニア竜国編に行くか
うーん、悩む
それはそれとしてアンデラのアニメは最高、シェンムイ最高や!!
この小説の度のパートが好き?
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厄ネタオンパレード
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砂糖吐きそうな青春ラブコメ