王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
「シオン!!!」
「母さん!!急いでここから離れて、逃げてくれ!!!庇いながら戦える相手じゃない!!!!」
木々をいくつもへし折るほどに吹き飛ばさてなおシオンの戦意は揺るがなかった。いや、そう思って槍を強く握らなければ身体の震えが止まらなくなる程の脅威が目の前にあるからで。
(今の一撃、私が受けてなければ母さんの首が飛んでいた……!!)
かつて何度か見たその光景が母で再現されそうになった。それだけで戦う理由にはなる。だがその理由で昂った戦意をもってしても目の前の少女の姿をしたバケモノに勝てるとは思えなかった。
「『槍王』、だと……!!」
「そうだ、シオン・エース……。既にこの肉体は、我の身体となった……。ジュリア・デュースは我の糧となり果てた……。些か以上に不満はあるが、仕方あるまい……」
ジュリアの声で、ジュリアが決して言わない言葉を口にする。その声は平坦であり感情を捨てたように聞こえ、あまりの温度の無さに本当に同じ人間かと思わせるもので。
だからこそそれが『槍王』なのだと嫌でも理解してしまう。その金の髪も、温度のない喋り方も、僅かしか見えない程早い槍の一閃も、その全てが『槍王』が目の前にいることを証明している。
(勝てるか……!?)
考えてみても勝てるイメージが湧かない。母をこの場から逃がすことが出来ればそれが最上とさえ思ってしまう。それさえも自分と相手の力量さを考えれば奇跡に奇跡を重ねたものだと。
これこそが『王』。この世界における七人しかいない最上の戦力である化け物達の内の一人。
ただ一本の槍のみでそれらと500年渡り合ってきた正真正銘の傑物。戦い続けるその理由さえ忘却しその在り方が歪みに歪んでなおこの世にしがみつき続けた者。
だがその『槍王』も、今ならば付け入る隙があると分かった。
(私の毒が効いている。でなければ最初の一撃で私が止められるはずもない……!!毒が完全に効くわけではない、だけど抵抗するのに力を使ってる……!!こいつを討つことが出来るチャンスはこの時以外には存在しない!!!)
ヤランリ王国は長い間上から搾取される構造が染みついていた。それを作り上げたのは目の前にいる『槍王』であると分かっている。だからこそ頂点に立とうとシオンは努力を重ねた。
目の前にいる少女の形をした暴虐を倒せるとすればジュリアの身体に毒がしみ込んだ今しかないと、弱体化している今しかないとシオンはそう判断して即動いた。
突っ込んでくるシオンに対し、『槍王』は一切目を向けずに槍を握っていない手を開いて閉めてを繰り返し調子を確かめる。身体が鈍い、反応が遅い、五感がかなり制限されている、力が入りにくい。
「些事だな、この程度は」
それらを理解してなお目の前に迫るシオンを脅威とは認識していない。
最速の突きを見てもいないのに槍で受け止められたシオンは驚愕に目を剥く――――ことはなくそれを当然と受け止め猛然と攻め続ける。
「はぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
何もさせない、受け続けさせて隙を作る。それだけを目的に自分を鼓舞するように叫びながら槍を叩きつける。だが上下左右どこから攻めようと『槍王』の防御を超えることが出来ない。
下段から攻めると見せかけて槍で地面を掬い上げて目つぶしを狙おうと一歩下がるだけで避けられる。
上段から後先考えない最大の力を込めて槍を叩き込もうとしても一瞬だけあった隙を槍を突き出されることで半端な形の攻撃しか出せない。
左右から攻めようにも上手いこと場所を取られて木々に邪魔をされて連撃を叩き込むことが出来ない。
五感全てが完全に機能していないはずなのに全ての攻撃が対応され逆にこちらに傷が増えていく。何度も吹き飛ばされ地面に倒れるもすぐに立ち上がり少しでも削らなければすぐに負けることを確信する。
「邪魔だ、シオン・エース……。我はあの反乱分子を疾く処分せねばならん……」
「他人の身体を使わなければ生きることも出来ん亡霊に母さんを殺されてたまるものかぁ!!!!」
「愚かな……アレは単なる代役、貴様を我の器にする為の道具……。役目を果たさぬどころか、持ち主に害を与える道具などに存在価値はない……」
「母さんも私も!!お前の道具じゃない!!!!」
それでも戦わなければならないと確信する。『槍王』は止めなければ必ずシエルを殺す。何を言われようと何をしようとその決定はもう覆らない。抗う以外の選択肢はシオンには存在しない。
だが一人では絶対に勝てない。その力量差は毒の効いている今でさえかけ離れていて、こうして僅かでも時間を稼げている時点でシオンの強さが証明されている。
それは何の慰めにもなっておらず、心が折れそうになるも可能な限り時間を稼ぐ。その時間が何かを起こしてくれるという奇跡を信じて。
「死ねよ寄生虫がァ!!!!!!」
「ジュリアから離れろゴミがァ!!!!!!!」
そして風剣と水槍がその戦場に乱入する。その声に目を僅かに動かし認識し両手に持った双槍で受け捌き二人を地面に転がす。
冷たい視線はこの増援に欠片も揺れずにただ圧倒することしか考えない。
「ヒカリ殿に、レイラか……。よく無事だったな、ヒカリ殿と戦って」
「ボロ負けしたさ。ソードリアの聖女様が治療してくれなければこうして戦うことなどできなかった。まぁ治してくれていなければこの銀髪は道に迷ってここに辿り着けなかっただろうがな」
「こんなどこ見ても同じように見える森で迷わねぇ方がおかしいだろ」
軽口をたたきながらも三人は『槍王』から目を離すことをしない。一度目を離せばその瞬間首と胴体が離れていない保証などどこにもないのだから。
『槍王』となり果てたジュリアを見て、顔を歪めて睨みつけるレイラはしかし可能な限り冷静であろうと呼吸を大きく繰り返し、現状を把握する為に敵対していたシオンに問いかける。
「状況は、どうなった」
「ジュリアが『王槍』とやらを使い、私が抵抗に成功した結果今度はジュリア自身が闇に飲まれてああなった。毒を一度打ち込んであるが、それでもなおその技量と力は化物だ。三人いても勝てる気がまるでしない」
「毒を打ち込んである以外にいいことが何もない事実に泣きたくなるわ」
吐き捨てるように言って、毒がしみ込んでいるはずの『槍王』に目を向けるヒカリが冷や汗を流す。シオンの毒がどれほど強力なのかは模擬戦とかつての『王戦』からよくわかっている。
『適応する者』に覚醒したトーマでさえ完全には克服できない毒、五感を侵し戦うどころか立つことさえ難しくさせる猛毒。決して死にはしないもののその威力は間違いないと断言させるそれを受けていながら悠然と立ち続ける『
「それでも抗うことをやめる理由にはならない。私は母さんを守る」
「同感だ。お前やその母親がどうなろうと知ったことではないが、ジュリアがああなっていることは認められん。アイツはどう思っているかは知らんが、私にとって唯一の友人だ」
「友達が少ねぇな、とかアタシが言うことじゃないか。ただまぁ付き合うぜ。ここで放っておいてもトーマは何も言わないだろうけど、間違いなくアイツが悲しむ最後になりそうだからな」
それぞれの理由で手に持つ獲物を握り締める。どこまでもバラバラで敵対までしていたが、それでもこの状況なら協力し合えると互いに理解して。
同時にシオンとヒカリが駆けだす。可能な限り『槍王』の目を惑わすために幾度も交差しながら同じ速度で仕掛ける。何度も何度もヒットアンドアウェイで叩き込む。その全てを叩き落されて、その体を覆う身体強化の魔法に瞠目しながらも必死に縋りつく。
ヒカリの『風剣』により剣を受け止める度に傷をおっていくが『槍王』の目には動揺もなく、冷静に決して受けてはいけないシオンの『毒槍』を捌く。決して無理はせずに二人の隙が出来る瞬間を探し続けるその姿に人間味を感じず、二人の焦りは加速した。
同時に振りぬかれる剣と槍に対してその両手に持った双槍で受け止めながら『槍王』の目は咄嗟にレイラに向く。それと同時にレイラの持つ槍の穂先から『水槍』が撃ちだされ、交差した双槍で受け止めつつよろめいた。
『水槍』の威力をよく知っているシオンとヒカリはその隙を突くことを決めていた。あれを受け止めなければならない状況を作り上げれば、必ず体勢を崩した状態に持っていくことが出来ると確信していた。
同時に後方からジュリアの身体を乗っ取った『槍王』目掛けて剣と槍を叩き込もうとする。それは千載一遇のチャンスであったのは間違いなく、焦った二人はそれに思わず食いついてしまった。
「――――温い」
その程度が通用するのであれば彼女は『槍王』と呼ばれていないことを彼女達は分かっていなかった。それが作られた隙だという発想に至らなかったのは、経験の浅さかそれとも捌かれ続けた結果出来た焦りからだったか。
「がっ!?」
「ぬおっ!?」
『水槍』を防いでいた双槍を少しずらし弾かれた水をシオンとヒカリ、二人の目に当てることで視界を潰しその連携を殺す。その程度で攻撃をやめる二人ではないが、それでもいきなりの状況変化について来れずに隙を晒してしまった。
「耐えたのならば褒めてやる」
その言葉に咄嗟に武器を身体の前に持ってきたことが生死を分けた。二人揃って振るわれた槍に吹き飛ばされ地面に転がされる。
立ち上がろうにもその衝撃は重く、口から胃液が吐き出される。防げていなければ死んでいたという確信が身体を震わせて立ち上がろうという意志をへし折りにかかった。
唯一その一連の動きを目視することが出来たレイラは『水槍』の威力を上げる。決して相手を近づかせてはならないという本能から来る行動はしかし、次の瞬間『槍王』の槍が目の前に迫ったという事実に瓦解する。
「なっ!?」
何が起きているかもわからず彼女の首は胴体と離されそうになり――――上空から降ってきた二人の影に救われることになった。
「人の幼馴染と仲間に!!!!」
「…………人の双子の姉にぃ」
土煙を巻き起こしながら出てきたのは『剣王』と『剛槍』。『王戦』序盤から戦い続けてきたことが分かる傷跡を残しながら二人はともに立つ。
「「何してんだゴラァ!!!!!!!!」」
この場で、『槍王』に抗える可能性を持つ二人が手を組み襲い掛かった。
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