王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
上空から降ってきた『剣王』トーマ・ソードリア、『剛槍』ライラ・ケイトの二人はそれぞれの武器を『槍王』に向ける。現状がどうなっているのか、まるで把握は出来ていないがトーマは『強き者』による直感で。ライラは目の前にいるジュリアの姿を見て大体を理解する。
「…………完全に乗っ取られてる」
「見れば分かる。彼女は僕に対してかなりの敵意を向けていた。なのに今は何の反応もないし、明らかにおかしいって分かる状況だ」
こちらを見る目に一切の興味はなく、また新しい邪魔者が来たとしか思っていない。毒に侵されながらもその毒を抑え込む魔力操作に、五感の半分以上を機能不全に落とされてなお戦闘経験と勘で圧倒し続けた『槍王』を前にして冷や汗が頬を流れ落ちる。
「ヒカリは強い。シオンも強い。二人が組んであの程度の傷しか与えられてない事実がもうヤバいってことを表してる」
「…………後ろの水溜まり見る限り、レイラの『水槍』も受けきってる。私ならともかく、生半可な奴じゃ吹き飛ばされるのがオチなのに、シオンの毒も効いてるはずなのに、これ……端的に言って化け物」
それでも抗うしかないと覚悟を決めて息を整える。『槍王』が何かを思い出すようにこちらを見て行動を起こさないことを確認して、後ろに倒れ込んでいるレイラに目を向けた。
「そっちの……えっと、レイラ・トレイであってるよね。早く逃げて、僕達が何とかする」
「…………久しぶりに本気出して戦えてたのに邪魔されてムカついてたけど、あの不愉快な『槍王』をぶっ潰せるチャンスなら、引き続き本気出せる」
「ことわ、る……!!」
先程まで戦っていたことなど忘れたかのように当たり前のように手を組んで目の前の化け物退治をしようとする二人に、しかしレイラは槍を杖にして無理矢理にでも立ってその言葉を否定する。
「常に本気を出すのを面倒という女と、ジュリアが大嫌いな男が戦って、私が倒れてるなんて許せるか……!!」
「無理しない方がいいよ。見たところもう魔力がほとんど残ってない。魔力は生命力から生み出されているけど、その魔力が0になるまで戦ってたらもう意識を保つことだって難しいだろ」
「関係あるかッ!!!!」
その叫びは心からの物で、どこかで聞いたことのある声音だとトーマは思い出そうとして―――かつての『王戦』でアリシアのことを叫んだ時の自分を思い出して思わず口角を上げた。
「アイツは私の友達だ!!!こんな妹と一緒に『槍王』候補がどうのこうのなんて巻き込まれて、そんなときに声を掛けてくれたのはアイツだけだ!!!それが利用する為だろうとなんだろうと、私は最後までアイツを諦めないッ!!!!」
「…………我ながら、少しだけ昔を省みた方が良かったかもと思わせる姉の拗らせ具合」
「うん、確かに君はもう少し周囲のこと考えた方がいいかもね。戦ったところの周辺、ほぼ木が残ってなかったし。ただまぁ、うん。謝るよ、レイラ・トレイ。彼女は君の大切な人だ。大切な人の為に何も出来ないことは辛いことだ」
槍を支えにしていたレイラだったが、それでも足腰に力が入らずに倒れかけて。その背中を誰かが後ろから支えた。
支えた手から暖かい何かが流れ込んできて、身体に活力がわずかに戻ったレイラはそちらに目を向ければそこにはソードリア王国の『聖女』が光魔法の『癒し手』を発動して彼女を回復している。
「だから君が戻ってくるその時まで僕が彼女を抑える。戦える状態に早く戻って僕達を、ジュリア・デュースを助けろ。アリシア、悪いけど」
「言われなくても分かってます。私の魔力全部使ってでも皆さんを回復させます。だけどそうしたら怪我人の治療は出来ないから」
「うん、無傷で帰ってくるよ。これ以上心配させたくないからね!!!」
「もうこれ以上ないくらい心配ですけどね!!!!」
軽口をたたきながらトーマの雰囲気が変わる。それまでも戦意は高かったが、可能な限り戦闘を避けようとする気持ちがあった。だがそれはもうなく、あるのは目の前の亡霊をあの世に送る方法しか頭にはなかった。
大切な人を守りたい、助けたい、それがどれほど大きく強い願いかを彼は知っている。ずっとそれを心に置き続けて、今も戦っているのだから当たり前だ。その願いを、想いを無視することなど出来はしない。だから改めて今、トーマは『槍王』を敵だと断定して剣を向ける。
「その、剣は……!!」
そして『槍王』もまたトーマの持つ剣を、『聖剣』を認識して顔を歪める。これまでの戦いのように襲われたから反撃した、そんな無表情は掻き消えてジュリアの顔で彼女は憎悪を剥き出しにする。
「貴様、その剣をどこで手に入れた。いや何も言わなくていい。どうせ盗人の言葉など何の意味もなく何の価値もない。貴様はその剣の価値を分かっていない、いやどこにもその剣の価値を分かる者などいるものか。その聖剣の価値を理解しているの我だけだ。国に引っ込んだ『竜王』ではない。『剣王』の偉業を知っているのは我だけだ。我だけがあの王のすばらしさを知っている。あの王の勇敢さを知っている。あの王の偉業を知っている。それを知りもしない貴様が何故その剣を自分のものとばかり持っている。ふざけるなありえんだろうなんだそれは。彼以外に聖剣が誰かを選ぶ?そんな事実などありえないあるはずがないあっていいはずがない。後継者など存在しないそんなものはいない彼の偉業を継げる者など存在するはずもない。共に彼と戦った我が認めないふざけるな何の権利があってその剣は貴様を主として認めた。彼以外が『剣王』になることを認めたというのかその気難しさと人嫌いを併せ持ったふざけたクソ剣が。それならば今すぐに説明しろ貴様にとってあの光は何の価値もなかったというのか、あの王だけが世界を救ったというのにそれ以上の輝きでも見つけたか。否、否否否否!!そんなことはない絶対にだ!!もしそうならば何故彼は我を連れて行ってくれなかった!!!あれほど尽くしたのに、あれほど想っていたのに!!!幸せになれなんて一言だけ告げて消えて!!!私の幸せは貴方と一緒にいることだったのに!!!だから待つ、貴方がまた生れ落ちる時を、その魂を決して見逃さない、そして今度こそ私は」
「長いしうるさいよ、お前」
『聖剣』を見て、明らかに暴走し始めた『槍王』を一言で黙らせる。トーマの言葉はこれまで誰も聞いたことのないほど冷たくて、その一方的な執着を切り捨てる。
「要するに僕の前の『剣王』に振られたのに醜くこの時代までしがみついてたんだろ。老人の話は長いけど中身があれば楽しめるよ?だけどお前の言葉にはただ単に自分が置いていかれたことを恨むことしかないから中身もクソもないし面白くもない。そんな言葉を聞かされてこっちがどんな感想を抱くか分かんないかな?わかんないから今もそうやって見苦しくこの世にしがみついてるんだろうけどさ。結論から言うね。お前邪魔だからさっさと前の『剣王』の所に行けよ。要するにあの世に蹴り飛ばしてやるからジュリアから離れてさっさと消えろ」
「あの、トーマ君?もしかし……なくても怒ってます?」
今まで見たことのない見下す表情を『槍王』に向けたトーマに恐る恐る質問を投げかけたアリシアだったが、淡々と内心を吐露した青筋の浮いた顔を見て若干後悔する。何せその場にいたレイラとライラの姉妹は「何余計な事聞いてんだ」という視線が突き刺さっているのだから。自分でもそう思ったから責めないでほしいと内心アリシアは叫んでいた。
「僕さ、自分の夢の為になりふり構わない人って好きだよ。それだけ頑張れる大切な理由があるってこと自体が尊敬できるからさ。だからジュリア・デュースのことも嫌いじゃなかったし、その彼女を友達として慕うレイラ・トレイのことも好きだ。流石にシオンを差し出すなんてことは出来ないからこっちも全力で倒しにかかったけど」
夢は大切だ。ヒカリと一緒に酒場を経営して毎日を過ごすという夢をずっと持っていた。たとえどんなに下らなそうなものだろうと、それを実現しようと努力している人間をトーマは嫌いになれない。
だが目の前の『槍王』は許容できない。
「死んだ人間は蘇らないし、もし転生できたとしてもそれはもう別人だ。この世界では前世の記憶を持っている人がいる。だけどそれはもう前とは別人なんだよ。違う人生を歩んでるんだよ。なのになんだお前は。初代『剣王』が生まれ変わったらその人を捕まえる?あほらしくて失笑すらないし、そんなことの為に何人もの人を乗っ取って『槍王』名乗るとか馬鹿だろ。人の夢を食いつぶす亡霊ごときが偉そうにぐだぐだ言うな。さっさとあの世に行け。お前の存在自体が害悪そのものだって気付いてない馬鹿が」
その妄執を邪魔だと切り捨てる。お前の存在が目障りだと言い捨てる。これ以上何かを口にすること自体が不愉快とばかりに顔を顰めて吐き捨てる。
ジュリアの身体を乗っ取った『槍王』は全てを否定したトーマを憎悪する。今を生きている存在に嫉妬する。自分の全てを切り捨てたその言葉を叩き潰すことを決めた。
「死ね」
「お前がな」
一瞬、どんな理屈か分からない移動手段で数メートル離れていた場所からトーマ達の前に立った『槍王』はその手に持った双槍を振るう。
直感で来ると分かっていたトーマは聖剣でその両手の槍を弾き飛ばす。流れるように、何が起きるかを理解してるかのように斬り合う。二つの槍のどれもが間違いなく一撃必殺を狙っているという事実を感じてなお多少の傷を負うことを無視して弾き飛ばし続ける。
足を忙しなく動かし、出来る限りレイラとアリシアから離れようとしながら隙を作ろうと強化された身体能力で耐えながら反撃をする。それさえも『槍王』は後ろに一歩下がってギリギリで避ける芸当を見せて。
「…………無視すんな」
「無粋……!!」
再び上から振り下ろされる『剛槍』を避けるためにさらに下がらざるを得なくなり、そうすることが直感で分かっていたトーマは『剛槍』により巻き上がった砂煙の中から飛びだす。一直線に向かい体制の崩れている『槍王』をさらに力任せで押し倒すように聖剣を叩きつける。
「チッ……!!」
当然のようにそれを受け止め、踏ん張り力を込めることでその聖剣を受け止める。だがそこまでがトーマの狙い通りだという事に彼女は気付かない。
「今ッ!!!」
「…………分かってる」
聖剣を受け止めた双槍を起点にトーマが飛び上がり、先程までトーマがいた場所から『剛槍』が迫りくる。両手の双槍は聖剣を止める為に使われている。下がろうにも今の今まで踏ん張る為に力を込めていた槍にそれは出来ず、もう貫かれるしかないという所まで持ち込まれた。
咄嗟に『槍王』は考える。この槍を受けた後は戦闘が可能な状態であるか。魔力を集中させることでこの槍を受けきることは出来るか。双槍のうち一本を使ってこの槍を叩き落すことが可能か。
その選択肢のどれもが不可能だと叫ぶ。今の毒に侵された肉体ではこの攻撃は致命的だと理解する。避けることも受けることも出来ないこの状況を作り上げることが狙いだったのだとそう理解して。
そうして『槍王』は諦めて――――自身の魔法を使うことを決めた。
恐らく次回『槍王』戦終わる、かな……
ちなみにトーマ君の地雷は結構わかりやすそうで分かりにくい所に埋まってます
間違いないことはヒカリとかアリシアが害されることは一撃でブチギレる
この小説の度のパートが好き?
-
厄ネタオンパレード
-
バトルシーン
-
砂糖吐きそうな青春ラブコメ