王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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祝お気に入り数3000突破ァ!!!!

……正直言って急に伸びててビビってる俺がいる

なんか伸びるきっかけあったっけ……?


壊れぬ理想

 

 ライラの『剛槍』が狙った獲物を貫こうとして、貫こうとした『槍王』は一瞬でトーマ達の背中、遥か後方に移動していた。それはまさに何度も見せてきた瞬き一回にも満たない時間で起こされるには不可解すぎる移動法。何が起きているか常人には理解することも出来ない。

 

 『槍王』の実力を知れば知るほどそれは単なる技術なのではと疑いたくなってしまう。それほどまでに彼女の技量は隔絶していて、人の達しうる一つの頂に立っていることは疑えない。そんな技の頂点が成しうる全てが人に夢を抱かせる。自分も辿り着けると思わせ、盲目にさせる。

 

「『距離』だな、お前の魔法は」

 

 そんな夢などまるで興味のない少年、『剣王』トーマはその絡繰りを直感から得た情報全てを組み立てて答えに辿り着く。振り返りながら獣のように笑った口元には難問をようやく解いた学生のように晴れやかな気持ちだった。

 

「シオンから聞いてた。何度も椅子に座ったままのお前が間合いの外から他人の首を飛ばしてたって。ずっと考えてた、そんな芸当が本当に技で出来るのかって。ヒカリの風魔法みたいに斬撃だけ飛ばしてたのかとも思ってたけど、それじゃあ首がお前の手元にあるのはおかしい」

 

 『槍王』の化物度合いを知れば知るほど真実からは遠ざかる。圧倒的な技量を持つが故にその不可解さも何かの技術なのではないかと疑い始める。そうなってしまえばもう答えにはたどり着けない。盲目になった旅人にオアシスは見つけられないように。

 

「何度も見せてもらったよ。本当に一瞬で、瞬間移動するかのように消えた。凄い歩法とかそんなのがあるのかと思ってた。でも違う。もしそうだとしたら今の移動は明らかにおかしい」

 

 完全に詰ませた攻撃だった。体勢を崩し両手を塞がせた。移動も防御も出来ない状況に追い込んで、そしてその攻撃が当たると思った瞬間に『槍王』はその姿を消した。

 

「お前は『距離』を縮める。恐らくは視界に入った距離の移動を短縮させることが出来る。出なければ僕達のすぐ背中辺りに出て反撃すればいい、そうすれば僕達は何も出来ずに負けていた。だけどそうしなかったってことはそうできなかった理由がある」

「…………それで、視覚内という条件?」

「多分ね。その上で移動できるのは自分と自分の物だと認識してるものってところかな。他にも槍と相手の距離を0にしたりも出来るだろうけど、多分それだと力を入れにくいんだ。だから僕やライラみたいな常に身体強化してる相手には決定打にならないから使わない」

「…………使えば使うほど魔力を使うから」

「その通り。僕みたいに回復量も魔力量もおかしい奴ならともかく、あんなのを連発できるならそうすればいい。それで勝てるのにやらないのは消費が激しいからだ。違うなら違うって教えてほしいんだけど、一言貰えるかな?」

 

 トーマが口を開き自身の手法を一つ一つ解体していく度に『槍王』の顔は歪んでいく。歯が折れそうなほど食いしばり遠く離れていても聞こえそうなほど歯ぎしりする。

 

 その姿が今の言葉を正解だと教えていた。

 

「それが、分かったところで……貴様達に勝利の目はない。私の『距無』を看破したことは誉めてやる。何度も見せたからか、あるいは思考の起点が違うからか……その理由は分からんが。だがそれでも一つ確かなことは、それが分かったところでどうにもならない、という事実だ」

 

 そして『槍王』は口角を上げて笑う。ジュリアが決して見せないであろう表情は、彼女の顔を醜く歪ませて見る者を不快な気分にさせるのは間違いない。

 

「私は決して止められない」

 

 その言葉と同時にその姿が掻き消える。それと同時に悪寒を感じ、トーマは咄嗟に直感に従って地面スレスレまで倒れ込む。そして数本の黒髪が斬り落とされ――――倒れ込んだ状態から独楽のように体を回転させて背後に出現した『槍王』を襲う。

 

「ライラッ!!!」

 

 双槍のうち一本でそれを受け止めながら追撃を仕掛けようとするがトーマの声に反射的に応えたライラが『槍王』の身体を狙う。流石にライラの全力を受ければどうなるか分からないと判断したのかその剛槍の上に飛び乗ることでその突きを回避した。

 

「邪魔をするな、ライラ・ケイト」

「グッ……!?」

 

 そのまま槍の上を駆けその先にいるライラを蹴り飛ばす。あまりに速すぎるその一連の動作にライラは防御することも出来ずに意識が一瞬跳ぶほどの威力を顔面に当てられて仰け反る。とどめを刺そうと槍を構える『槍王』を後方から止めるように今度はトーマがその隙を突く。

 

「それがどうした」

 

 それを事前に分かっていたかのように『槍王』は高く跳躍し視覚外からの攻撃をも回避する。それは最早飛ぶと言っていい高さまで一瞬で上がり、トーマは直感を使うまでもなくこれはまずいと感じた。

 

 『槍王』の魔法、『距無』は視覚内にある場所への距離を0にする。例えそれが間合いの外であろうと槍と対象の距離を0にすれば移動することなくその首を断つことが出来る。度々見せてきた瞬間移動のような移動も、自分と対象の距離を0にすることで一瞬で移動してるかのように見せてきただけのこと。

 

 制限は二つ。移動できるのは視覚内にある場所、そしてもう一つは自分の物だと認識しているモノしか動かせないという事。だがその二つの制限を補って余りあるほどにその技量は高い。近接戦闘において最も重要なことは距離、自身の有利な距離をどう保ち続けるかが重要になる。それを彼女は自由に操れる。

 

 どこに出現するか分からない、反応が間に合うかも分からない。視覚で探していては決して間に合わないと断定したトーマは両眼を閉じて視覚分の情報を他の感覚で補うことを決めた。

 

 1秒、2秒経ったか、あるいはトーマの決断とほぼ同時に『槍王』が動いた。上空から見下ろすように俯瞰していたところから再び一瞬でその姿を消す。

 

(――――後ろッ!!!)

 

 同時にトーマは振り向きながら聖剣を振るう。僅かな空気の揺れでさえ『強き者』で強化された彼の鋭敏な感覚は捉えることが出来た。

 

 そしてその予想通り『槍王』はトーマの後ろを取っており――――ギリギリ聖剣が届かない場所で槍を構え、最大威力の攻撃をしようとしているのをトーマの目が捉え、自分の間違いを突きつけられた。

 

(僕が奴の魔法を予想したように奴も僕の直感を予想して!!本当にギリギリのところで剣が届かない、ここからどうしようもない、振りぬいた後は回避なんて出来ない!!)

 

 時間が止まったようにゆっくり流れながら思考を進める。この状態から回避も防御も出来ないという事実を突きつけられてなお生きる為に思考を回し、その全てが間に合わないと冷静に判断して、トーマは避けることも防ぐことも諦めた。

 

「死ね――――『死突』」

 

 槍を持つ手を限界まで捻り上げ、魔力を纏わせることで破壊力をさらに上げた『槍王』が唯一名付けた奥義が放たれる。強靭な鱗を持つ『竜王』でさえ貫いたと言われるそれはトーマの心臓を狙って。

 

「ッ!?」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!!!?」

 

 爆発音とそれに被さるように悲鳴が辺りに響き渡る。トーマは自身の脇腹を抉られたことで流れ落ちる血を必死で止めようとし、それを見下ろす『槍王』は今の一撃でトーマが死んでいないことに疑問を覚える。

 

 痛みに叫びながらもこちらを睨む『剣王』が何かをしたのは間違いない。自身の槍が貫く瞬間、何かに引き寄せられた感覚があったことも覚えている。あの感覚が何だったのかを考えて、その膨大な経験から一つの答えを手に入れる。

 

「……闇魔法で、私の槍を引き寄せたのか。防ぐことを諦めて、避けることを諦めて、せめて即死しない事だけを目的に」

 

 その声音に宿るのは感嘆ではなく呆れ。ここまでしてなお両膝と両手を地面につけて、みっともなく出血を抑えて、その癖その目は決して『槍王』を変わらず睨みつけ戦意が揺らぐ様子もない。

 

 槍を構え今度こそ心臓を、いや頭を狙って振り下ろすことを決める。万が一にも生存されることが許容できないから頭を潰す。どれほど生命力があろうと人間である以上頭が潰れれば絶対に死ぬから。

 

「トーマから離れろやぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

「また貴様かっ……!!」

 

 睨みつけてくるその不愉快な目を潰そうと槍を振り下ろそうとして横から風を纏ったヒカリが乱入し力の限り『槍王』を抑え込む。先程刻まれた傷の痛みが疼くのか、ヒカリに対しても無表情を崩し忌々しげな顔を隠さなくなった『槍王』はとにかくトーマを殺そうと隙を作ろうとする。

 

 金属音が鳴りやまない戦場の上から二人丸ごと潰そうとしていると錯覚しそうな勢いで『剛槍』が振りぬかれた。二人とも下がることで難なく避けるが、『槍王』が下がった先に横から射出された『水槍』が迫る。

 

「貴、様らッ……!!鬱陶しいにも程があるぞ……!!」

「この世にしがみついてる亡霊に言われたくはない!!!!」

 

 避けようと身体を動かそうとしてシオンの『毒槍』の効果がピークを迎えたのか足が震えその動きを止めさせられる。やむなくその場で両手に持った双槍で捌こうとして地面に叩きつけられていた『剛槍』が再び迫り受け止めざるを得なかった『槍王』はそのまま吹き飛ばされる。

 

「魔法を使わせるなァ!!!!」

「分かっている!!!ライラァ!!!」

「…………全力でやる。でももう魔力が限界に近い、早く治してきて『剣王』」

 

 三人がかりでその場で動けないでいる『槍王』を攻めるも全く揺るぐ様子もなく捌き続けるその技量に、そこまで辿り着くのにどれほどの時間が必要だったのかと場違いな感心を抱いてしまう。流れ続ける出血を『闇星』を体内に発動することで可能な限り止めようとするも細かい制御が出来るはずもなく刻一刻と命が消えかけていく。

 

「トーマ君!!聞こえますかトーマ君!!!」

「あり、しあ……!!」

「治します!!喋らないで!!!!」

「ひつよう、さいていげんでいい……!!ぼくはまだ、戦う!!!」

「っ……!!分かって、ます!!止めません!!止めても無駄だから!!!でも、ちゃんと生きて帰ってきてください。そうすればまた治しますから!!!!」

 

 戦う、今の状態でそれがどれほど無謀か分かっている。わき腹が抉られたことで出血の激しさもそうだが内臓が一部消し飛んだ。アリシアは今までの膨大な経験からすぐに最低限の生命維持に必要なことだけを把握して治療を進める。

 

 泣きそうになりながら、それでも彼は止めても止まらないことを知っている。『魔霧の森』での経験はどのような状況でも彼に戦うことを覚えさせた。そして彼の心が折れない事を知っている。だからせめて、その願いを叶えられるように全力を尽くす。

 

 アリシアの両手が光り、トーマの身体を急速に癒していく。時間が巻き戻るような速度で傷つけられた内臓が戻り出血が止まる。それでも地面に染みこんだ血が戻ることはなく、その顔は青いままだった。

 

「トーマ殿。何故、貴殿はそこまで戦う」

 

 仰向けにされ、アリシアに治療されていたトーマの耳にそんな言葉が聞こえた。恐らくはシオンだと思いながら目が霞み誰なのかを判別できない。声もフィルターがかかったように聞こえにくいが、それでもその質問に答えなければとなぜか強く思う。

 

「『槍王』にヒカリ殿達が傷つけられた。だから奴に怒りを抱くのは当然だと思う。だがそれでもジュリアを救おうとそこまで足掻くのは何故だ。圧倒的なまでの力の差を見せつけられてなお、どうして立ち向かえる」

「いや、だから」

 

 シオンに問われて、改めてここまで自分が必死になっている理由を探す。そこにあったのはただ一つの理由。ただただ「嫌」なのだ、こんな結末は。

 

「難しい理由なんて、ない。アイツに支配されて搾取されているヤランリ王国の人達の為とか、そんなことまで僕は考えちゃいない。そんなことのために戦えるほど、僕は聖人じゃないし正義漢でも、ない」

 

 目の届かない人の為に命を懸けられるほどトーマは強くない。いつだってその行動原理はシンプルで、見たくないものを見ないため、見たいものを見る為だけに戦っている。それはいつだって変わらない。

 

「僕は、ジュリア・デュースのことを何も知らない。彼女がどうして僕を、男を嫌いなのかも知らない。それでも分かっているのは、きっと『槍王』に飲まれる前の彼女はきっとそれを嫌だと拒絶したこと」

「ああ、確かに手を延ばして誰かに助けを求めるようだった。そのまま闇に飲まれてしまったが」

「今までジュリアが何をしたかも知らないけど、彼女の最後がそんなものであっていいわけがない。誰だって最期の瞬間は自分自身でありたいはずだ。だからいやだ、あんな風に誰かに無理矢理乗っ取られて自分の身体を使われてる人を見るのは。許せない、だから戦って勝つ」

 

 嫌なのだと何度も繰り返す。それが絶対なのだと、それ以外存在しないのだと、戦う理由などそれでいいのだと言い切る。その言葉に治癒を続けながらアリシアは苦笑いを隠せず、シオンは思わず吹き出してしまう。

 

 どこまでもお人好しで、その為に彼は命を懸けるのだと改めてシオンは目の前の少年を見る。その大して大きくもない身体で大きいものを背負った少年を尊敬する。

 

(その言葉が、その行動が、ソードリアに来てから今までの短い時間で私を変えた)

 

 いつの間にかトーマは立ち上がっていた。聖剣を片手に持って、可能な限り治療を進めるアリシアに支えられながら。

 

 その前に膝をつき、槍を捧げる。かつて『槍王』の前でした忠誠を誓う儀式をもう一度行う。今度はあの時とは違う心の底からの忠誠を。

 

「私と母は貴方に救われた。貴方の言葉で私達の繋がりは断たれる事はなかった。どこまで感謝しても感謝しきれない。そして私達を救った貴方の心を美しいと思った」

「選んだのは、君だ。行動したのは、シエルさんだ。だから僕のしたことはただのきっかけだよ」

「それでも感謝しているのです。私にできることなど大してない。それでも私は貴方の助けになりたい。だからここに誓う」

 

 槍を捧げる己が王を見上げ、決して衰えることのない戦意を宿したその目を見てこれは間違いではないと確信する。

 

「我が槍はこれより我が王の矛となり盾となります。我が心と身体全てを捧げましょう。貴方の理想を守る為に戦い続けると今、誓う」

「…………………………」

「貴方こそ、私の王だ」

 

 トーマの持つ聖剣が熱を帯びる。どこまでも熱いそれはかつて目の前で戦ったシオンの時と同じ。新たな力が発現して、そのきっかけが目の前で槍を捧げている少女だと分かって、それが本心からの行動なのだと分かった。

 

 王になるつもりなど欠片もなかった。それでもこうして忠誠を誓ってくれる人がいる、支えてくれる人がいる、守ろうとしてくれる人がいる。

 

 だからせめて、彼女達に胸を張れる王で在る事を決めた。

 

 その理想は誰にも壊せないと確信を抱いてトーマは『槍王』に向かって駆けだした。

 





次回『槍王』戦決着!!!


評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!

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