王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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一閃

 

 森の中で金属音が鳴り続ける。金属同士が削られるような、滑らせる音が鳴りやまない。それは三人がかりで攻め続けているというのに決定打を与えられないという事実を指し示す。

 

「…………これだけやって、傷を付けれてるのは貴女だけなんて本当コイツ実力だけはヤバい」

「アタシのだって魔法で無理矢理だ。しかもそれであんな掠り傷しか付けられねぇ」

「掠り傷でも上等だろう。私達など全て捌かれている」

 

 毒で足を大きく動かすことが出来なくなるまで追い詰められてなおその身体には大きな傷がない『槍王』を見て三人が苦虫を嚙み潰したように顔を顰める。

 

 間違いなく『王』を除けば世界屈指の強者と言える彼女達でも不完全であり、毒に侵された状態のそれを倒しきることが出来ない。『王』という戦力がどれほど無法なのかを嫌というほど味わわせられる。

 

 その上で三人ともが徐々に削られていく。大きくもない隙を広げられてそこにねじ込まれる槍に何度も襲われて、死にかけていないのはただ単に『槍王』の関心がただ一人に向いているから。

 

「邪魔だぞ、貴様ら……。いい加減そこをどけ。我は……私は、あのまがい物を、殺す」

 

 それでも目的をいつまでも達せられない事実に苛立つ『槍王』はその目を三人に向ける。いい加減に鬱陶しくなった彼女は三人をまず殺すことを決め――――そして後ろから迫ってきた聖剣を反射的に受け止める。

 

「全員離れろ!!!シオン!!決めたとおりに!!!」

「了解した!!!!」

 

 その声に『槍王』を除く三人がその場から跳び下がり、トーマと『槍王』をその場に残し辺り一面がシオンの『毒煙』に包まれて視界が閉ざされる。

 

 咄嗟に服をちぎり咥えることで出来る限り毒を吸わないようにした『槍王』だったが、足を動かせない状態でこの中に長い時間いればまずいと判断しすぐにでも脱出しようとその魔力を全開にして毒に抵抗する。身体を無理矢理にでも動かしてその場から離れようとして、その行動をトーマによって阻止される。

 

「き、さまぁ!!!」

「生憎、この中でも僕は動ける。ここで戦えばどちらが先に倒れるかは分かるよなぁ!!!!」

 

 聖剣第三能力『適応する者(カメレオン)』。かつてシオンと戦った時に発現したアリシアとの絆の結晶はここに来てその真価を発揮した。

 

 どのような状況であろうと戦い続けられる、生き残ることが出来る。その為の力でトーマは『槍王』を仕留めようと『毒煙』の中を駆け回る。

 

 視界が煙で閉ざされたこの状況では『槍王』の魔法での移動は出来ない。視界内のどこへでも一瞬で移動できるという事は、裏を返せば視界を閉ざされては魔法を使えないという弱点になった。

 

「おのれまがい物がァああああああああああああアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」

 

 一刻も早くトーマを殺しこの場から離れなければ詰み。その事実に辿り着き未だにその身体を蝕む毒の猛威への抵抗をより一層激しくする。既にかなり消費している体力と魔力を注ぎ込んで無理矢理身体を動かし何度も振るわれる聖剣を捌く。『槍王』は間違いなく今追い詰められていた。

 

「ぅおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!」

 

 一方のトーマも既に限界が近い。『毒煙』の満ちる中で戦えるのは適応したトーマだけ、他の人間が入れば間違いなく動けなくなる猛毒の煙幕の中で聖剣を振り続ける。治療したばかりの脇腹が痛むたびに視界が白に染まり、遠くなる意識を必死に繋ぎとめる。

 

 どれだけ振ろうと、どんな攻め方をしようと『槍王』を崩すことが出来ない。薄皮一枚斬れない状況に心がどんどん擦り切れていき、逆に崩れそうになる精神を立て直すことに必死になる。一秒が気の遠くなる程長く、『槍王』が考えているような長期戦による確実な勝利など実質不可能なのだとトーマは確信している。

 

 それでも勝つのだと、『槍王』から尊敬すべき少女を救うのだという決意で戦う。

 

 負けるわけには行かない、もう一度あの『剣王』にあうのだという願いで戦う。

 

「有象無象のゴミがッ!!私がどれほど耐えてきたと思っている!!どれほどの時間国を守ってきたと思っている!?貴様が実感することもないほど長い時間私は耐えたのだ!!!そこまでして会いたかったのだから!!!!だから、邪魔をするなぁああああああああ!!!!!!」

「断るッッッッ!!!!!!!!!」

 

 互いの願いの為に二人の『王』が剣を、槍を、それぞれの武器を振るい相手を消そうとする。防御を忘れて共に身体に傷を増やしながら後のことなど考えないような削り合いをして限界を超えていく。

 

 『槍王』の最大の武器である魔法と技術は積み重ねてきた策と激戦で削った。

 

 『剣王』の最大の武器である聖剣能力は未だ未熟なその身では十全の力を機能させられていない。

 

 互いに互いの武器が不完全であり、かたや毒で、かたや出血で刻一刻と時間切れが見えてきている。この二人の戦いは時期に終わる。それは相打ちという誰も望まない結末で。

 

「ジュリアァッ!!!!!!!!!」

 

 この戦いの結末は二人には変えられない。だからそれを変えられるとしたら外からの介入で。介入したレイラの『水槍』が狙った獲物を貫こうと最後の魔力で射出された。

 

「レイラ・トレイ……ッ!!」

 

 迫った『水槍』を受けるわけには行かず一本の槍でそれを受け止めるも、踏ん張りを聞かす足腰が不完全なのもあってバランスを僅かに崩す。

 

 顔を顰めながらトーマの次の行動を潰そうとし――――攻め込もうとせずに後ろに下がるその姿に瞠目する。その懐にトーマの仕掛けた『闇星』が黒く煌めいていることに気付かないで。

 

「…………一人しか見てないから、こうなる」

「ぶちかませ筋肉ゴリラ!!!!」

 

 その声は着弾と同時に聞こえた。『毒煙』のない上空にヒカリの魔法により撃ちだされ、そこから重力と『闇星』による引力により加速してライラ・ケイトが『剛槍』を『槍王』に叩きつける。今まで決して受けようとしてこなかったそれを、しかもバランスを崩し片手しか使えない状態で受け止めてしまい『槍王』はその威力に圧し潰されそうになり片膝をつく。

 

「捨て身で来たとしても、貴様が毒に侵されればそれで終わりだろうッ!!!!!」

「…………うん、その通り。だから、最後の締めはお願い」

 

 シオンの『毒煙』は万人を等しく侵す。故にその真っただ中に入ったライラの身体から力が抜けじきに『槍王』が抜け出せるチャンスが来るだろう。いくら彼女が世界有数の剛力であっても毒に侵されながらその力を維持できるのは5秒程度が限界。即効性のある毒の中でそれだけ耐えられるだけで破格ではあるが、それでも限界はすぐそこにあって。

 

「――――任された」

 

 その声と共に抑えつけているライラごと聖剣が『槍王』を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「グッがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!??????!?!!?!」

「…………クッソうるさい」

 

 聖剣で切り裂かれたジュリアの身体から聞きがたい叫びが上がっているのを見ながら僕は両手に収まっている聖剣を見つめる。以前の『王戦』で第三能力を発現させた時と同じ感覚を得た瞬間『強き者』による直感で無理矢理その能力がどんな物かを把握した。

 

 聖剣第四能力『選択する者(ライブラ)』。その能力は選択した物だけを切り裂く究極のみねうちにして絶死の剣。

 

 精神だけを選択すれば精神だけを、炎を選択すれば炎だけを切り裂く。それが例え水のような液体であろうと選択して斬り裂けばそれはもう繋がらない。一回の使用に他の能力以上にごそっと魔力を持っていかれる為連続使用は僕でさえキツイ。

 

 ただその効力は、目の前で叫びを上げながらジュリアの身体から消えていく『槍王』を見れば分かる通り絶対だ。『王』であっても「異物」として切り裂けばジュリアの肉体も精神も魂も『槍王』だけを殺すことが出来る。

 

「ふざ、ふざけるな……!!聖剣の力に、こんなものはなかった!!我が、私が消える!?ありえないありえないあってはならない!!!こんな、こんな終わり方なんて私はぁ!!!!」

「お前に取り込まれた人達もみんなそう思ってただろうな」

 

 それでも必死にこの世にしがみつこうとしている『槍王』に憐憫の目を向けてしまう。それでもそれがどれだけ強い想いだろうと、他人の絶望を啜るような生き方をしてきたことは絶対に認められない。

 

「お前のやってきたことはそういったことだ。今お前が感じてる絶望を何人にも味わわせてきた。身体を乗っ取る為にどれだけの人を傷つけてきた。王としてじゃない、お前は人としてやっちゃいけないことをし続けてきたんだ」

「あ、ああああ……。や、やめろ、見るな!!私をそんな目で見るな!!!私は、私はただあの人にもう一度だけ!!!」

「それが愛だったとしても、踏みにじっちゃいけないものを踏みにじった。大切に想ってくれる誰かがいるその女の子をお前は傷つけた。ただ自分よがりの愛の為に」

「ああぁああぁぁぁあああ……」

「愛は、何をしてもいい免罪符じゃないんだよ」

「いや、だ……きえたくない……助けて……とぉまぁ……」

 

 その言葉を最期に、ジュリアの身体から力が抜けて倒れそうになる。咄嗟に地面に触れないように彼女を抱きかかえる。流石に身体がボロボロすぎてこちらも限界だが、今まで『槍王』に乗っ取られていた彼女をこれ以上汚すのは憚れた。

 

 『槍王』の最後の言葉が妙に気になりながら、それでも今はそれを忘れる。覚えていても仕方ないと切り替えて身体に叱咤して無理矢理力を入れて立ち上がる。

 

「あ……」

「ああ、起きた?僕に抱えられてるのは嫌かもしれないけどちょっとだけ我慢して。多分まだ動けないと思うから」

 

 抱えたまま歩いているとジュリアの目が開き、その口から声が漏れる。意識が混濁している様子もなく、こちらに目線を合わせる。

 

 男嫌いの彼女からしたら嫌で嫌で仕方ないだろうが我慢してもらおう。事実意識は戻っても未だに身体に力は入らず動けないようだ。

 

 なすがままにされているという事実が彼女を不安にさせるのだろう。身体がどうしようもなく震えだしている。短い間しか会ったことがないし喋ったこともないが気丈な彼女のそういうところは見たくないと思う。

 

「頑張った。本当によく頑張った。もう大丈夫だよ。もう、君は一人じゃないから」

「ジュリアっ!!!!」

 

 こちらに走ってくるレイラ・トレイの姿が見える。魔力も体力も限界だろうに、それでも友と呼んだ少女の為に駆け寄ってくる。それがジュリアのしてきたことで、必死に助けようとしてくれた人がいたという事で。『槍王』との相違点だ。

 

 誰か一人でも『槍王』を助けようと乱入していればこの結末はありえなかった。自分一人でなんでもしようとした結果がコレだった。そうなるに至る経緯を知らない僕からは何も言えない。何人もの人を自分の為に食い物にしてきた彼女は絶対に許せない。それでも一つだけ頑張った彼女に贈ろう。

 

「さようなら『槍王』。君の愛は間違えていたけど、それでも間違いなく強かったよ」

 

 こうして僕の第二の『王戦』は幕を閉じた。

 





次回二章エピローグ

その後は第三章『剣王の休息』を書いていきます

次の章は完全にイチャラブ全開だぜ……!!

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