王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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アリシアのお料理教室

 

「ではこれよりお菓子作りを始めるわ。覚悟と材料の準備はいいわね?」

「はいっ!大丈夫です先生!!!」

 

 アリシア達が滞在している屋敷は流石に二国の王を迎えることも考えられており大きかった。使われる事自体は少ないが、それでも定期的に掃除がされており衛生的にも問題なかった。

 

 そして何より今の状況で重要なのは屋敷の大きさに見合う立派な調理場が存在するという事。生徒役のアリシアとなぜか居合わせてしまった結果教師役になったジュリアは流されるままそこに立つことになった。

 

「……いや、なんで私がこんなことしなくちゃならないんだろう?」

「えっと、やっぱり駄目ですか?ジュリアさんの作ってきたというクッキーが、あまりに形が整っててお店で買った物と言われても簡単に信じれるくらい綺麗だったから、勢いで連れてきちゃいましたけど」

「そ、そんなお世辞言ったって駄目よ!!あの程度、出来て当然のことだしぃ!!!」

 

 天然の誉め言葉により腕を組みながら明後日の方向に顔を背けるジュリアだったがその顔が赤くなっていることは誰の目からも明らかだった。その半生を槍に捧げてきた彼女からすればこういう真っ直ぐな好意には弱い。槍の実力が上がったところで周囲からすればそれが当然、実力不足と叱咤されることは多々あれど素直に褒められるという事には本当に慣れていなかった。

 

 なので趣味のお菓子作りでその腕前を認められたことに多少の気恥ずかしさを覚えながら、それでも快くその技術をアリシアに教えようと決めた。決して彼女がチョロいわけではない。

 

「…………これがツンデレ。本で読んだ以上に分かりやすい」

「黙ってなさいライラ。その手に持ってるクッキー全部没収してもいいのよ」

「…………そもそもなんでこれを剣王に作ってるのか、そこから自覚すればいいのに」

「はぁーーーー!??!そんなのただの戦略だしぃ!!!アイツはかなり甘いからこうやって日頃何かとくれてやればいざ戦いとなった時に剣が鈍るかもじゃない!!まさにやり得でそれ以外の理由なんて欠片もありませんけどなにかぁ!?!?」

「…………聖女アリシア。ポンコツ化を治す魔法とかない?レイラは「この状態のジュリアもまたいい」とか言って放置してるし」

「すみません。私の力にも限界がありますから……」

「なんでそんなことまで言われないといけないのよ!?」

 

 心底不本意だと言いたげな表情を見せるジュリアだったが他の二人からの視線は生暖かいような、いつか未来の彼女にこの光景を見せたら後悔するだろうなという確信に満ちたものだった。

 

 申し訳なさそうなアリシアに対してきっとこの子も周囲のことで苦労しているんだろうなと思いつつ、ライラはずっと抱いていた疑問を口にした。

 

「…………というか、そもそもなんで私まで参加してるの?」

「ああ、アンタはお菓子作りには参加しなくていいわよ」

「…………よかった、お菓子は食べる専門だから」

「毒見役だけやってくれればそれでいいの。無駄に体が頑丈だから何かあっても大丈夫だろうし」

「…………帰らせてもらってもいい???」

「帰らせるわけないじゃない。『槍王』命令よ」

「…………こんな事で初めての命令を受けるなんて……」

 

 美味しいお菓子に釣られた結果食べることになるのは毒見が必要な試作品。見るからにがっかりしたと肩を落としながら彼女はどんよりした目をする。

 

 それは不味い物を食べ続けたが故に美食にこだわる少女にとって文字通り苦味が効きすぎた過去を思い出させる行為。とはいえ自身の『王』から命令されては仕方ないと覚悟を決める。こんな下らない命令だが、これ以下の指示を出していたのが前『槍王』なのだから十分マシになっている。

 

「さて、それじゃあお菓子作りにとって一番必要なものは何か分かるかしら」

「はいっ!それはトーマ君に対する愛情です!!」

「はいアウトぉ!!!」

「あいたっ!?」

 

 第一の質問に答えた瞬間チョップを頭に落とされて思わず声を上げてしまうアリシアは、痛む頭を両手で抑えながらジュリアを見る。ジュリアは腕組みをしながら料理初心者とはこういう物なのかと改めて認識しなおしていた。ライラはもう帰りたいという気持ちを既に隠さず表情に出している。

 

 何が駄目なのか分からないアリシアを見つめて深いため息をつきながら、知らないならそれはそれで仕方ないと気合いを入れなおしてジュリアは強敵に向かい合った。

 

「お菓子作りだけじゃなくて料理に必要なのはレシピを守ること!!愛情は作業中に込める!!!愛情だけじゃね、料理の味もお菓子の味も変わらないのよ!!!!」

「そ、そんな!?」

「…………ねぇ、大丈夫?今からそんなにショック受けててこれから耐えられるの?」

「た、耐えてみせます!!私はトーマ君に美味しい物を食べてもらいたいんですからっ!!!」

 

 いつもは縛ったりなどしていない金色の髪をポニーテールにしたエプロン姿のアリシアは気合いを入れるように手を握る。その頭の中にはトーマが美味しいお菓子を食べて笑顔で褒めてくれるところが想像されていて若干顔が赤くなっていた。

 

 成功のイメージを頭を振ることで何とか追い出した彼女は教師役のジュリアに向き合って気合いを入れていることをアピールする。

 

 普段は自分にも他人にも厳しいジュリアだったが根っこはなんだかんだでどうしようもない状況でもなければ誰かを見捨てることもしないその性格から目の前の少女の本気度合いに深いため息を吐きながら何も知らない『聖女』にお菓子の作り方の手順を教えていくのだった。

 

 

「包丁の握り方がちがぁう!!それにもう片方の手は切るものをおさえる!!!猫の手!!!!」

「ね、猫ちゃんの手ですか?え、っと、こんな感じで?」

「そうそう、そんな感じで…………包丁は引くように当てるの!!なんで剣みたいに振りかぶってんのよ!?」

「えっ、えっ、でもトーマ君はこんな感じで……あっ、そういえばバーベキューの時は違う感じで握ってましたね!!」

「なんでもいいから包丁持ったまま身振り手振り大きくすんな!!!危ないでしょうが!!!」

「…………なんて見てて不安になる光景」

 

 完全素人のお菓子作り……。

 

「次はチョコを溶かしていくわよ。……直接火に近づけるな!!チョコを溶かすときはお湯を使うの!!湯せんするのよ!!」

「湯せん……なるほど、こうやって溶かすんですね。ゆっくりだけど確かに溶けてます!!」

「チョコレートにまんべんなく熱が通るように大きくかき混ぜなさい。ボウルにお湯が入らないように注意しながらね。ちゃんと全部溶けて滑らかになるまで続けなさい」

「わかりましたっ!!これだけでももう食べたくなるいい匂いですね!!!」

「…………よかった、チョコレートを最初から作るとか言い出さなくて。流石にそこまでいきなり難易度の高いことから始めなかったね」

 

 それは熟練者のジュリアが監督していてなお辛い戦い……。

 

「卵を割る……えいっ」

「そんな勢いよく机の角にぶつけんなぁ!!ボウルの中にいれる時に殻も一緒に入っちゃってる!!!やり直しなさい!!!殻なんか入ってたら美味しくならないわよ!!!」

「う、うぅうう……!!!」

「…………あまりに握力がなくて卵が上手く割れない人初めて見た……」

「ち、力を入れ過ぎると殻まで中に入りそうで……どうしましょう」

「それなら多少は殻も一緒でいいわよ。割って中にいれた後に殻だけ取り出せば」

「うぅ……余計な手間を増やしてすみません……」

 

 それでも彼女達は一歩一歩進んで行き、確実に完成にまで近づけていったのだった……。

 

「150℃で13分……あっ!それならもっと熱くすれば早くなるのでは!!」

「そうしたら中に熱が行き渡らないのよ?レシピにはそうなる理由があるんだからちゃんと守りましょう???」

「は、はい……。これ以上二人を付き合わせるのは悪いかなって思ったんです……」

「…………うーん、健気。これはジュリアが悪い子」

「なんでよ!!!」

 

 何とか設置されていた魔道具オーブンで焼く作業まで持っていき、一安心した三人はそのままおしゃべりにシフトしていった。内容は何でもないようなことから大事なことまで、この共同作業で心を許しあえたようで実に楽しそうに、普通の女の子のように話していた。

 

「しっかしソードリアの調理魔道具は凄いわね。何が凄いって普及率が凄いわ。こんな調理場ヤランリ王国だと特区内か料理屋くらいにしかないんじゃない?」

「…………うちの国だと高級品だから、庶民には手が出せない」

「この国でも結構高いものだから気軽には買えませんね。魔法研究室の人達や民間の魔道具専門家の人達が出来る限り安くと頑張った結果とは聞いてますけど」

「やっぱり便利な道具一つあるだけで手間も選択肢の広さも全然違うわよね。これだってたいまー?だっけ。それがついてるから放置しといても時間になったら止まるし」

「…………ずっと時計を見てなくていいのは大発明」

「うーん、これ一台でいいから譲ってもらえないかしら。分解して構造を理解して作らせたいわ」

「そこらへんはもう国の上層部に交渉するしかないですね……。あっ、でもトーマ君に頼んだら一つプレゼントしてくれるかも」

「…………今更だけど甘すぎない、剣王?」

「あ、あはは……。そ、そこがトーマ君のいい所ですよ?」

 

 苦笑しながら頬を掻いているアリシアに他二名の視線が突き刺さる。思わず目を逸らすくらいにはその言い訳が苦しいというのは自覚があったらしい。その姿にこれ以上の追及はやめようと引き下がった二人はもっと気になる事を聞くことにした。

 

「…………そもそも、なんでアリシアは剣王が好きなの?」

「ふぁっ!?」

「えっ、嘘。コイツ、あんなの好きなの!?やめておきなさいって!!アレ、いつかどっかで破滅するタイプよ多分!!」

「と、トーマ君が破滅するなら一緒に行きます!!!」

「…………あっ、これ思った以上に重い感じだ。掘り出しちゃいけないものを掘り出した気分。聞かなかったことにしていい?」

「アンタ好きなだけ引っ掻き回して後は放置とかするのやめなさいよ!!!」

「なんでそんな爆弾みたいな扱いをされないといけないんです!?いいですか?そもそもトーマ君はですね―――」

 

 大いに不満だと手を握りトーマの良さを説明しだすアリシアに対してライラはうんうん頷きながら聞き流す態勢をとり、ジュリアは全く興味がないと言わんばかりに顔を背けながらその耳は情報を一つも逃さないように聞き耳を立てていた。

 

 女三人寄れば姦しい。その言葉を体現するように彼女達は普通の女の子のような時間を過ごしていく。

 





正直料理が下手な人がどんな感じでやってるのか分からないので完全に想像です

笑えないレベルのメシマズに関しては調べるとどんどん闇が深くなっていくし……俺が書きたい闇はこういうタイプじゃないんだ!!

というわけで本当に想像で書きました。これくらいなら多分笑える範囲……


評価感想くれるとテンションぶち上げで続きを書けますのでよろしくお願いします!!!!

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