王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~ 作:ビスマルク
流石に6時半出勤の22時帰宅はきついんや……
お菓子作りが終わり、ジュリアとライラの二人は用事があるとのことで別れた。少し前までは敵同士だったのにこんな風におしゃべりしたり一緒に笑ったりしたりと少し不思議な気持ちになる。それが悪い物じゃないので思わず微笑むが、その微笑みも少しすれば考え事に飲み込まれ消えていく。
作ったお菓子を両手で持って運びながらアリシアは先ほどライラに言われたことを思い出していた。
「…………アリシアが友達のこと想うのはいいことだと思う。でもそれで自分を抑えるのは間違っている。大事なことなのに遠慮しあう仲なのは、本当の友達じゃない。なんていうのは私の考えだけど」
いつもアリシアはヒカリに対してどこか遠慮をしていた。トーマのことでもそうだし、一緒にいる時も邪魔したりしないように自分を抑えたりしていた。それが悪いことだとは思っていない。
「…………もっと自分に我儘でもいいんじゃないの?私はいつも自分に素直、それで疎まれることもあるけど剣王はそういうタイプじゃないし、ジュリアとちょっと似てるあのヒカリって子も似たようなもんだと思う」
「アンタは少しは遠慮しろ」
(確かに、そうかもしれません。だけど私は本来トーマ君と出会うはずじゃなかった。トーマ君が『剣王』になったから、私は彼とこうして仲良くなれた)
出会いこそトーマが聖剣を抜く前だったが、そこから仲を深めていけたのは間違いなくトーマが『剣王』になったからで。そうでなければきっと成人を迎えた時にヒカリと一緒になっていたのは容易に想像出来る。
そこに割り込むことにどこか罪悪感を抱いていた。トーマに対する恋愛感情も出来る限り抑えようとして、それでも抑えきれずに溢れてしまってこうなっている。張り詰めた想いはどこまでも膨れ上がっていってもう自分で求められない。
(出会わなければよかったなんて全く思わないけれど)
それでも気持ちを抑えることが苦しくなる時があるのは間違いなくて。だけどそれを全部出してヒカリとの友情を壊すのも怖くて。以前とは違う悩みをアリシアは抱えていた。
(きっとこの恋心はトーマ君にも気付かれている。だけどそれに対して何も言わないのはどうしていいか分からないからなんでしょうね)
好きな人を困らせているという実感が更なる罪悪感を産み、好きな人が自分のことで困ってくれているという事に少しの喜びがあって。自分が嫌な子なんだと思って。
「きゃっ!?」
「んあ?あれ、アリシア?大丈夫かよ」
「えっ、あっ……ヒカリ、さん」
そうやって俯いていたから曲がり角を進んできたヒカリにぶつかる。幸いお菓子は落とさずに済んだが、トーマの為にお菓子を作ってきたのを見られてなぜか焦ってしまう。
「おっ、それがアリシアが作ってきたお菓子かよ。トーマも楽しみにしてたから早く持ってて……いやアイツ今寝てたな」
「と、トーマ君がなんで私がお菓子を作ってるって知って!?」
「いや。そりゃ部屋の前であんな大騒ぎしてたら普通に気付くだろ。何話してたかも大体聞こえてたし。トーマがお菓子作りをしてるって予想してたけど本当なのは割とびっくりしたけどな」
「にゃあぁあああぁー……!!」
トーマ達にお菓子の作り方をジュリアに教えてもらうために頼み込んでいたことを聞かれていた事実に思わずしゃがみ込んで顔を抑えてしまう。
あの時に何を言ったかは興奮していたからよく思い出せないが、間違いなく大声は出していた。女の子として大声を聞かれるのは辛いものがある。それが好きな少年相手だったら猶更なのが乙女心という奴だろう。
「ま、なんにせよトーマに食わせんだろそれ?だったら早めに持ってた方がいいと思うぜ。アイツそわそわしてたし間違いなく喜ぶから」
「……ヒカリさんは、それでいいんですか?」
カラカラ笑いながらそういうヒカリに思わずアリシアはそう言ってしまう。先程まで考えていたことが考えていた事だったからか嫉妬心が表に出てきてしまった。
彼女は本来嫉妬心が強い少女だ。同時にそれ以上の優しさも持ち合わせる為表に出すことはないが、それでもあまりに強い気持ちには反抗できなくなる。それは以前トーマに対して本音をぶつけてしまった時と同じで。
心を許した人間にしか見せない姿だった。
「私は、トーマ君が好きです。大好きです。だけど、トーマ君にはヒカリさんがいて、だから私は……」
「アタシを言い訳に使うなよ」
ヒカリはそう言ってアリシアの言葉を切り捨てる。だけどその言葉とは裏腹にその表情は優しそうに微笑んでいて、まるでアリシアがそう言いだしたのを嬉しいことのように受け止めていた。
その反応に思わず閉口してしまうがヒカリは止まらない。彼女はいつだってどこだって自分に素直に、思ったことを言うし行動しだす。トーマと同じで、それはお互いに影響を与え続けたからの共通点だったのかもしれない。
「お前の気持ちはお前のものだろ。それなのに諦めるのに他人を理由にしてどうすんだよ。振られたわけでもないし、嫌われてるわけでもない」
「でも私じゃ絶対にヒカリさんに勝てない」
「そりゃトーマの理解度とか付き合いの長さはアタシが一番だしな。アタシよりアイツと付き合い長いと言ったらおばさんくらいか?ほぼ生まれた時から一緒にいるし。アタシは間違いなくアリシアよりトーマのことを知ってる」
「……………………」
「だけどそんなアタシでも出来ないことをアリシアは出来てるだろ」
「えっ…………?」
俯いていた顔がヒカリを見る為に持ち上げられる。下から見られていることが嫌なのかヒカリは座り込んでいるアリシアの手を取って無理矢理立ち上がらせた。
「アタシはトーマを守ろうと隣に立ってられるけど、治すのも帰ってくるのを待つのも出来ない。アイツ、お前がいるから無茶できるし帰る為に頑張れるって言ってた」
「トーマ、君が……」
「だから全部伝えてみろよ。そうすりゃ絶対アリシアに都合のいいこと言ってくるから。知っての通りアイツかなり欲望に忠実だからな。それは間違いない」
「……そう、ですね。何も言わずに勝手に諦めるなんて、卑怯ですもんね」
「そうそう。というかお前みたいに女の子らしい美少女に好かれて嫌な気持ちになる奴いねぇって」
「可愛いのはヒカリさんもじゃないですか」
「可愛いってアイツ以外言わねぇから信じねーって。トーマは色眼鏡で見てくるからそういうけど」
白銀の髪を後ろ手で撫でながら明後日の方向を見るヒカリは明らかに「可愛い」と言われ慣れていない様子だった。それがツボにはまったのか少しアリシアは笑ってしまい、ヒカリは拗ねた顔をする。
その顔が見たくて、アリシアは少し意地悪したくなった。
「分かりました。それじゃあトーマ君の寝顔、見てきますね。ヒカリ
「あー、うん。やっぱお前って思った以上に普通だわ。聖女様って柄じゃないな」
照れた顔をしたヒカリにひとしきり笑った後、アリシアは想い人が寝ている部屋に歩きだす。恋敵であり親友でもある少女に励まされたからには頑張らないとと思いながら。
「うー……うー……ヒカリぃ……そっちに腕は曲がらない……」
「どんな夢を見てるんでしょう。大体想像はつきますけど……」
トーマの寝ている部屋に入ってみればそこにはうなされているトーマがいた。いつもの日常を夢に見ているのだろう。
その中に幼馴染であるヒカリがいることはなにもおかしくない。常日頃から一緒にいるのだから夢にも出てくるだろう。頭では分かっていてもアリシアは少し拗ねたくなった。
「私だっていつも、一緒に……」
ジュリアにお菓子作りを手伝ってもらい、ライラに焚きつけられて、ヒカリに後押しされた。それでもやはり一歩足りない。この気持ちを、勘違いされないように恋してることを伝えるには勇気が足りない。もう一押し、何かあれば。そう思っても勇気は出なくて、一歩進むことは今日も出来ない。
「助けてアリシアぁ……いや、笑ってないで……」
「あっ……」
笑っている。トーマの中で自分が笑っている。それはきっとアリシアの笑顔がトーマにとって日常であり同時に特に記憶に残る大切なものだからで。
思わず寝ているその手を握ってしまう。硬く、傷だらけになった手。初めてであったあの人はまるで違う戦う者になってしまった手。それでもその手の暖かさは変わらない。いつも空から照らしてくれる太陽のようにそこにいるだけで心が躍る。
「…………んあ?あれ、アリシア……?」
「トーマ君……起こしちゃいましたか。ごめんなさい」
「んん……、いや、いいよ。そろそろ起きないとって思ってたし」
「そうですか。それよりうなされてたみたいですけど大丈夫ですか?」
「あ、あー、うん、大丈夫。まだ肩のあたりが痛い気もするけど大丈夫。夢の中でも関節技仕掛けてくるのって酷いよね。いつものバードウォッチングと人間観察をしていただけなのに」
不貞腐れた表情になったトーマに思わず笑みがこぼれる。いつもの毎日にいつもの日常。それがとても楽しくて変わってほしくなくて。それでもこの関係を進めたいと思って。だけどこの関係を壊したくないとそれ以上に思っていて。だから彼女は一歩踏み出せず。
「っと、アリシアに渡したいものがあるんだった」
「えっ?私にですか?」
「うん。ここ最近あんまり来てくれなかったから僕から探しに行こうとしてたんだけど。その度に毎回寝てろってヒカリが止めに来てさ。だから来てくれてよかった、早く渡したかったし」
「私に……何を?」
「それは見てからのお楽しみ、っと」
ベッドの下を探っていたトーマは目当てのものを見つけると笑いながらその手に紙袋を取り出した。それはお洒落に興味を持ったばかりのアリシアでも知っているようなとても有名なお店の物で。
トーマはその中から一つのネックレスを取り出してアリシアに手渡す。それはアリシアの金色に輝く髪と同じ金の飾りがつけられた物。見るからに高価なものでアリシアは戸惑う。
「これ、高いんじゃ……」
「うん、高かった。個人的なものだから国庫から出すのもおかしいし、お小遣い?給料?今までの殆ど使っちゃった。まぁ他にあんまり使い道もなかったから問題ないんだけどさ」
「なん、で……」
「アリシアにプレゼントしたかったから」
いつのまにかネックレスを握っていた手をその両手で包まれている。傷だらけの手で大切な物を触れるように優しく、壊れないように。
「ネックレスって「幸せ」や「飛躍」って意味を持っててさ、大切な人へのプレゼントに選ばれてきたんだって。だから渡したかった。君が幸せになること、君が欲しい未来を見つけること。それを僕は応援したかった。『聖女』としてじゃなくて、ただ君が君らしく在れるように祈ってる」
恥ずかしそうに顔を見ないでネックレスを握っている両手だけを見ている。その顔は赤面していて自分が何を言っているのかを理解しているようで。
「アリシア、君が大切で大好きだから。僕は君に幸せになってほしい。君が幸せになれるなら僕はどんな時でも頑張れるって確信してる」
アリシアのどうしても踏み出せない一歩をトーマが埋めた。どうしようもないほどに涙が出てくる。熱くて火傷しそうなくらいに、どうしようもなく溢れてくるそれは彼女の恋心のようで。
突然泣き出してしまったアリシアを見てトーマがあたふたと慌てだす。いつも身に着けていたハンカチで彼女の涙を拭こうとして、それをアリシアの手が握って止める。今はただこの涙と一緒に溢れる気持ちを言葉にしたいとそう思った。
「トーマ君、私はトーマ君が大好きです。ずっと一緒にいたいです。ヒカリちゃんにも負けたくないくらいに貴方を想ってます」
それは愛の告白。伝えたくて、伝えられなかった言葉をようやく彼女は伝えられた。
「私を見つけてくれて、一緒にいてくれて、頑張ってくれて、笑ってくれる貴方が大好きです」
『聖女』としてではなく、ただ一人の女の子として好きな人に告白する。それはかつて彼女が夢見ることも出来なかった当たり前のことで。だからそれがどんな意味を持つかは彼女以外には分からない。
「トーマ君、私と恋人になってほしいです」
少し強欲かもしれないと思いつつそう伝えて、真っ赤になっている目の前の少年を見てまた泣きながら笑う。その姿がおかしくて、照れてくれてることが嬉しくて。
「返事は今じゃなくてもいいです。ヒカリちゃんにも悪いし、ちゃんと私のことで悩んでほしいですから」
「……アリシアって結構意地悪なところあるよね」
「知らなかったんですか?私だって女の子なんですから」
『聖女』だった時には決して見せなかったはしたないと言われていた歯を見せる笑顔。イタズラ好きな少女は恋した少年に少しの独占欲を見せて笑う。
「はい、それじゃあトーマ君の手で私にこのネックレスを付けてください!!」
「うぇっ!?それはちょっと恥ずかしいんだけど……」
「私ばっかり恥ずかしいこと言ってるんですから、トーマ君も恥ずかしい目に合ってくださいっ」
「わかったよもう……。誰にも見られなくてよかったや」
いつも振り回されているからそのお返しとばかりに要求して、それが叶えられる。少年の手が後ろに回り、顔が近くなって互いに熱くてしょうがない頬の熱を感じる。首にネックレスが付けられてこの世で一番の宝物を手に入れた気持ちになって幸せが溢れる。
「はい、それじゃあお返しにお菓子を作ってきましたっ!!一緒に食べましょう!!」
「すぐに切り替えられて凄いね……。僕はもうドキドキだったよ」
「私だってドキドキですよ!!」
一緒に笑いあえる時間がとても大切で。その関係も時間と共に変わっていく。それでもこの気持ちが強くなることはあっても減ることはないとアリシアは心から信じられる。
「ジュリアさんにも手伝ってもらって作りました。今日のお菓子はマカロンです!!!」
「マカロン……作るの難しいんだけど凄いね」
「何度も失敗しちゃいましたし……でもちゃんと完成品を持ってきましたよ!!」
「それは楽しみだね。それじゃあまずは一口いただきます!!!」
マカロンの意味は「あなたは特別な人」である。
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