王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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家族という関係

 

 シエルさんが、シオンの年下……その事実を聞いて僕は少し昔を思い出した。

 

『トーマ様、私は罪人です。自身の為にあの子の心を捻じ曲げ、あるはずもない希望を見せ続けてきました』

 

 それはあの浴場で彼女が真実を話してくれた時の光景。

 

『シオンが大切なんです。5年前から騙し続けて、母親を私の姿に歪めて、彼女の家族愛を馬鹿にし続けてきた私だけど、それでも大切なんです』

 

 本気でシオンを想っていることを伝えてくれたあの時の光景。自分の罪を認めてその上で僕に娘の幸せを本気で祈ったあの時の姿。

 

『トーマ様。どうか、どうかシオンを助けてください。あの子があの子らしく生きられるこの国で生活させてください。あの子を、守って』

 

 例えシオン本人に殺されたって構わないとまで言ったあの姿は間違いなく母親の物だと僕は信じた。そしてその結果シオンは『槍王』から解放されて自分の人生を歩みだすことが出来た。

 

「えっ、あれだけしっかりしてたのに?」

「…………それが必要な状況なだけで、判断自体は歳相応だと思う。話を聞いた限りでは、だけど」

「年齢の割に見た目が幼いと思ったけどマジで?」

「間違いないわよ。『槍王』にとって重要だったのはシオンを成長させる為の動機として機能するかどうかだけ。だからアイツを騙せる魔法を持っているのならそれでよかった。実際の年齢なんてどうでもよかったんでしょ」

「なんだそれ」

 

 シエルさんは言ってた、シオンは『槍王』のせいで自分の人生を歩めなかったと。だけどその話が本当なら、自分の人生を歩んでこれなかったのは彼女も同じだったはずだ。

 

「だから言ったでしょ。アイツら滅茶苦茶複雑な関係なのよ。早急に仲直りさせたいなんて夢は捨てときなさい」

「えっ、絶対ヤダ」

「……そこで即答するんじゃないわよ」

「そうは言われても嫌なものは嫌なんだから仕方ないよ。だって二人とも幸せになる権利はあるのに一人は遠慮してて、もう一人は諦めてるなんて僕は認めたくない」

 

 認められない、ではなく認めたくない。僕の我儘だっていうのはよくわかってるが、その上で僕はこの考えを改める気は欠片もない。

 確かにシエルさんがやったことは間違いだったのかもしれない。一人の女の子の心を弄ぶ行為だったのだろう。だけどそれに一番後悔しているのはやった本人自身で、それを許したのが一番の被害者だったシオンだ。

 

「シオンが許したならシエルさんは遠慮しちゃいけない。それはただのシエルさんのエゴだ」

「シエルさんの気持ちは分かりますけどね……こうなったトーマ君は止められませんから幸せになってもらいましょう」

「剣王も聖女もなんでソードリアの人間ってこうなの……?」

 

 まぁ僕がこうしているのも僕自身のエゴだから偉そうなことは言えないんだけど。

 んー、考えが煮詰まって思考が止まってるなぁ。難しいこと考えだすとどうにも過激で極端なことを考え出してしまうのは僕の悪い癖だ。

 

「ヒカリ、とりあえず僕の頭を叩いてくれない?なんか独善気質が出てきてるみたい」

「斜め45度チョップ!!!」

「ぐおっ!?チョ、チョップと言いながらぶん殴るのやめてくれない……?」

「…………えっ、なんなの急に。怖い」

「コイツらいつもこんなことしてるの……?」

 

 ヒカリの手で思考をリセットすることに成功した僕は単純明快な事実だけを思い出す。そう、難しいことなどどうでもいいからあの二人がまた仲良くしてるところを見たいのだ。説教とか説得とかそんな偉そうなことではなく僕自身の為にも彼女達には幸せになってもらいたい。

 なんかライラとジュリアが恐れおののいてる気がするが今はそれを意識する暇はないのだ!!

 

「よし、それでは改めて母娘仲直り大作戦の内容を詰めていこうじゃないか!!!!」

「トーマ君、先にまずそのたんこぶの治療をしましょう。ヒカリちゃん、思いきり叩きすぎですよ」

「ごめん。でもコイツこれくらいしないと暴走しだすから」

「おお、凄いな。外から見ても分かる程度に膨らんでる。ふむ、借りを返すために頭に冷水をかけてやろう」

 

 そういうこと言わないでほしい。思考を回すことで頑張って無視してるのにそういうこと言われると頭の痛みに意識が剥いて涙が出てきそうになる。というか出てきた。

 

「僕は強い子!!この程度の痛みは慣れっこだ!!!!」

「うん、それはいいんだけど頭から全身びしょぬれになって言われてもシュールな姿にしかならないわよ」

「ずぶぬれにしたのはジュリアの側近兼親友のレイラさんだよね???」

 

 他人事のように言うのはやめてほしい。とりあえず着替える為に言ったん部屋に戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、トーマの休息のために用意されていた部屋で仕事に明け暮れる剣王とその側近達の姿があった。安静にするための部屋で仕事をする当たりワーカーホリック気質なトーマだが、基本的に真面目なため仕事を溜めるということが逆にストレスになるというヒカリの進言からこの光景が生まれた。

 普段馬鹿をやっている印象が強いかもしれないが、それでもトーマ的には本気で真面目にやってるつもりなので性質が悪いとは幼馴染と聖女の言である。

 

「あっ、シオン。さっきシエルさんにお昼ご飯作るの頼んだんだけど様子を見に行ってもらえる?」

「私が、ですか?」

「うん、悪いけど僕手が離せないから……。書類仕事多いんだ。料理に関することでヒカリを頼るのは絶対に嫌だし」

「……それは確かにそうですね。分かりました、様子を見に行ってきます」

「お前らそれはアタシに喧嘩を売ってるってことでいいんだよな???」

 

 誘導されているのだとは分かるのだがそれを己が主に問いただすのはシオンとしては難易度が高い。付き合いが長いわけではなく、一度は剣と槍を交わしたが理解度が高いわけでもない。

 そして何より後者で行われている王とメイドのイチャつき(シオン視点)に関わると砂糖が口から出そうになる為彼女は自分の母親が作業をしている調理場に足を進める。

 

「陛下達にも困ったものだ……」

 

 独り言を呟きながらここ最近のことを思い出す。トーマ達が今のぎこちない母娘を心配していることを当然ながら彼女達も気付いていた。それでも直せなかったのはその関係性が複雑極まりないからで。

 

「分かってはいる、のだがなぁ」

 

 あの『王戦』中に和解したはずの母との距離感を未だにシオンは測り切れていない。彼女を家族だと思う気持ちに違いはないしこの思いが変わることはないと断言も出来る。

 だけど事実を知る前の頃には戻れないとも思っていた。知る前と知った後では何もかもが違う。

 大変な想いをしていたシエルにこれ以上は甘えられない、それがシオンの決意だった。

 

「その結果がこれだから笑えんが……。陛下達も心配するに決まっているな」

 

 あのお人好しで他人の為に全力を出す少年――――今の主である剣王のことを思い出し少し笑う。彼は自分の為と言いながらお節介を焼き続ける。トーマにとって確かにそれは本当のことなのだろうが、そのお節介のおかげで救われている人がいることを少しは意識していいとも思う。

 それが出来ないからトーマはトーマなのは付き合いの短いシオンとシエルにも分かる。ある意味物凄い分かりやすい男なのだ。

 だから今の自分達を見てて心配していることも分かっているのだが、それでもどうにもできないこともある。

 

「母さん、手伝いに来た――――待って、その料理に砂糖はいらないはずだよね」

「えっ、シオン?ってアレ!?これお塩じゃなかった!?」

 

 調理場を覗けば今にも鍋に砂糖を投入しようとしていたシエルがいた。きちんとラベルの張ってある入れ物だったにもかかわらず塩と間違えていたらしい。

 この母のドジは生みの親の母の真似をしていたのだと思っていたが……。

 

「母さんってもしかして本当にドジだった?」

「ち、違うから!!ちょっと間違えただけだから!!!ちゃんとこれがお砂糖だったってのは分かっていたわ。隠し味として少し、ほんの少しだけ入れようと思っただけで」

「さっきお塩じゃなかった!?って言ってたよね?」

「そんな昔のことは忘れました」

 

 その強がりに思わず冷や汗をかく。演技だと思っていたことが本当だったという事実に今まで収まっていたシオンの心配性が顔をのぞかせる。

 

「分かった、私も手伝おう。母さん、それでいいよね」

「えっ、でも今お仕事忙しいんじゃないの?」

「私の仕事は陛下達の手伝い。そして今の母さんの手料理を陛下達に出したらお腹壊してしまいそうだから、それならここで手伝ってちゃんとした物を出した方が結果的に陛下達の仕事は早く終わりそうだし。お腹壊したりしたらとんでもないロスになるからね」

「ひ、酷い……。ちょ、ちょっと砂糖とお塩を間違えそうになっただけなのに……」

 

 小さく呟くシエルを横目に近くにあったエプロンを手に取ったシオンは慣れた手つきで鍋に入れる用の具材を切り出す。

 何を言っても無駄なのだと、案外頑固なのだとその付き合いの長さから分かったシエルもまた調理の続きを始める。

 互いに何を話せばいいのかわからず作業を続ける。だがその行動は互いを邪魔することなどなく息の合ったもので、先ほどミスをしかけたシエルもそれが嘘だったかのように淀みなく動く。

 

「……昔からたまにこうして料理してたよね」

「……ええ、そうね」

 

 思い出すのはヤランリ王国にいた頃にあった思い出。数少ない心が安らかだった時間。訓練の合間、身体を休ませる時間にこうして二人で一緒に料理をしていたころ。

 あの時と同じように、だけど違うところも確かにあって。それでも大事な所だけは同じなのだと信じられる。

 

「私はずっと貴女を騙してた」

「……気付かなかった私も馬鹿だったよ。それに母さんが苦しんでたことも分かってる」

「例えそれでも私がしたことを私自身が許せない。許しちゃいけないと思ってる。ずっと私が抱えていくものなのだと思う」

 

 いつもの母親としての顔ではなく、本来の無表情を出してシエルは呟く。決してシオンに見せることのなかったその横顔を見ないようにシオンは包丁で具材を切り続ける。

 何を言えばいいか、どうすればいいのか分からない。伝えるべきことはあの時確かに伝えたのだから。それ以上に何を言えばいいかなど誰も教えてくれなかった。それでも何かを伝えなくちゃいけないとただ思ったことを口にすることを決めた。

 

「確かにそれは母さんが背負っていくべきなのだと思う。それを他の誰かが背負うことなんて出来ない」

「……………………」

「それでも私は母さんを許すよ。母さん自身が許せなくても私は許す」

「シオン……?」

「嘘から始まった偽物の関係だけど、それに救われ続けたのは私で。今ここにある愛は本物なんだろう?だったら私は貴女を母さんだと慕える。これは絶対に嘘じゃない」

 

 その言葉に決してシオンの方を見ないようにしていたシエルが鍋をかき回していた手を思わず止めて娘の横顔をみる。そこにあったのはいつも彼女が見せていた愛しい者を見続けていた目で。そんな権利はないのに常に向けられていたその視線をまっすぐに受けて、シエルの目から涙が堕ちる。

 

「大好きなんだ、大切なんだ。今までと同じではいられないと分かっていても今までと同じように家族でいたいと心の底から思えるほど」

「……私に、そんな権利は」

「権利があるかないかじゃない。私がそうしたいと思ったから、母さんがどう思うかは関係ない。これが私から母さんに与える罰だ。絶対に拒否なんてさせない」

 

 どこまでも厳しく、そして優しい罰。犯してきた罪を考えればそれがどれほど破格の物か。それでもシエルの心境を考えれば幸せをただ享受するということは辛すぎて。だからこそこれが罰なのだとも分かった。

 

「………厳しい。だけどいい女になったねシオン」

「母さんが私をそうやって育ててきたんだ。娘の成長くらい素直に喜んでほしいよ」

「あら、嬉しそうに見えない?貴女もまだまだね」

「生憎泣きながら鍋をかき回してる姿を嬉しそうとは思えないよ。その笑顔がなければね」

 

 二人以外の誰もいない場所で、昔のように共に並んで料理をする。昔とは確かに違う心境で、それも昔と変わらない「家族」という関係で彼女達は共に生きる。

 偽物の関係だった二人は、それでも間違いなく本物の家族だった。

 

「さて、陛下達に早く昼食を持って行かないと」

「涙の跡を残したままでいいのかい?陛下達が心配すると思うけど」

「無駄、とは言わないけど気を遣いすぎてる陛下に対するおしおきみたいなものよ。わざわざ同じ調理場に放り込むなんてこと仕掛けるんだし」

 

 かつてと同じように二人並んで歩きながら仲直りのきっかけを作ろうと苦心していていたトーマに対して多大な感謝とほんの少しのいたずら心を表情ににじませながらシエルは笑う。

 あのお節介をかきたがる少年は案外考えることが分かりやすい。ここ最近ずっと何とかしようと考えを張り巡らせていたことも当然分かっていた。

 

「陛下、お食事を持ってまいりました――――」

「仲直りパーティーの開催だァ!!!!!!!!!!!」

 

 昼食を持って部屋に入ると同時にクラッカーの乾いた音が鳴り響く。そこにはトーマを始めヒカリとアリシアだけではなく、何故かヤランリ王国の重鎮になる予定の三人もいた。なおジュリアの目は死んでおりもうなんでもいいから早く終われと思っていることがはっきりと滲んでいた。

 

「さぁ二人とも今すぐ仲直りしてもらうよ!!!とりあえずお酒でも飲んで本音を語り合おう…………あれ、もう仲直りしてる?」

「だから言っただろ。こういうことは本人達に任せるのが一番早いんだってば」

「だ、大丈夫ですよトーマ君!!仲直りパーティーは駄目になってもより仲良しになるパーティーにすれば……無駄には、ならないと思います、よ?」

「アリシア、慰めるなら最後まで頑張ってほしいんだ」

 

 いつものようにトーマが周囲を振り回し、それにツッコミを入れつつも付き合うヒカリ。困惑した顔をしているトーマに対して何とかフォローを入れようとして若干失敗しているアリシア。

 それは短い期間で何度も見てきた光景で。これが日常なんだと思うと面白くてシオンとシエルは二人して顔を見合わせて同時に噴き出す。

 

 周囲の困惑をよそに笑い出した二人の母娘は、これから先を想い未来を始めて楽しみに思えたとさ。

 

 

 

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