王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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本日二話目です

汝に投稿すればいいのか分からないので色んな時間に投稿する


二人の王

 街から少し離れた高台。街の城壁を見渡せるくらいには高いその場所まで来ていた僕達の間に会話はなかった。

 だけどそれは気まずいとかそういうことではなくて、ただお互いに気持ちを静めてその時を待っていただけだ。

 広い台地にポツンと大きな木が立っている。あの下で昼寝でもすれば気持ちいいのだろうが、生憎今からやることはそこから正反対の激しさを伴うものだ。

 

「さて、改めて聞くけど本気でやるんだね?」

 

「――――ええ、そうね。昔からやってきたことだからかしら。本気で何かを伝えようとするなら(これ)を使うのが一番なのよ」

 

 そう言って彼女は両手に槍を出現させる。それは彼女の魔法である『陽炎』による擬態を解いたという事。常に武装しているという事実が彼女の考えを少しだけ分かりやすくする。

 彼女は、力を持っていない状態がとても怖いのだろう。

 

「だけどその服のままだと戦いにくくない?スカートのままだし。あとそれ切り裂いたら僕がレイラさんに殺されそうになると思うんだけど」

 

「それはいいことを聞いたわね。じゃあ着たまま…………冗談、そんな顔しないでよ。ちゃんと着替えるわ」

 

 そう言いながら彼女は服をその場で脱ぎ始める。慌てて後ろを向くが衣擦れ音が何もない平地に思っていた以上に大きい音がしている。

 誰も見ていないが男の前で平然と脱がないで欲しい。これも『槍王』の教育というものだろうか。だとしたらアレは平気でどこでも着替えることが出来たというのか。一体どういう人生を送ってきたのか今更ながらに気になってきた。

 

「この服邪魔ね……。あの大木の近くに置いておくか」

 

「着替えた、ってことでいいんだよね?」

 

「いいわよ。そっちは着替えなくていいの?」

 

「うん、まぁ今回は自費で買った物だし、動きにくいのは嫌だって言っておいたから十分動きやすいよ」

 

 ヒカリ達が僕に着せてきた服は王として相応しい物をということでかなり高めだったが、こうなるかもしれないということで元から僕自身の財布の中からわざわざ服を買ったのだ。

 あれらの大量の服はまた、二人とどこかに出掛ける時にでも着ていくつもりだ。あの着せ替え人形になっていた時間で彼女達の好みは大体理解したしね。

 

 ジュリアの準備が出来たという言葉を信じ後ろを振り向けばそこには戦闘着に着替えた一人の戦士が立っていた。

 動きやすさを重視した全身タイツに、弱点を防御する為の鎧を急所や肘、膝に取り付けている。僕の戦闘着と同じように恐らくあのタイツは魔力を流すことで防御力を上げる効果があるのだろう。

 ただ、この世界屈指の魔力を持つ僕ならばともかく彼女にはそれだけの魔力はない。だからこそ各部に魔力を必要としない物理的な鎧を付けるという事。

 そして隙あればあの硬い鎧でそのまま打撃を行ってくることも目に見える。だからこそ動かしやすい部分に付けている。

 総じて、非常に戦いにくい相手だということだ。

 

「ほら、アンタもさっさと準備しなさい。剣を取りに行く必要はないんでしょう?」

 

「正解。おいで、『聖剣エクス』」

 

 上下関係を叩き込む為の手段として聖剣に名前を付けろとキャロルに言われた。だから、辛うじて僅かに覚えていた前世の記憶から最も聖剣にふさわしい名前を付けた。これによって一定以上の距離を離れれば自動的に飛んできた聖剣は今や僕自身の意思によって手元に呼び込めるようになった。

 

 僕の今の寝室から真っ直ぐ高速で向かって来たエクスを掴み構える。こういうことを予想して窓は常に全開にしてあるし、人にぶつからないように空から来たので安心だ。

 僕の寝室には特に大事な物もないので泥棒が入る心配もなし。完璧な判断と言えるだろう。

 

「……改めて感謝するわ、剣王。私の我儘に付き合ってくれて」

 

「僕も身体動かしたかったからちょうどいいよ。君みたいな強者相手ならなおさらさ」

 

「強者、か……。私はそうなりたかった。強者になれば何も奪われないと信じてそうやって進んできた。でもそれは間違いだったのかもしれない」

 

 強者、その言葉で思い返すのは人に寄生し、身体を乗っ取り500年間生き続けてきた『槍王』の姿。認めたくはないが、あれこそ一つの到達点なのだと思う。僕もジュリアも王になった以上あそこを目指し、あそこを超えて行かなければならない。

 

「あの愚王は強かった。間違いなく強者だった。だけど死んだ。アンタ達によって殺された。強者なのに死んで奪われた」

 

「そうだね。強くあっても奪われる、という意味では『槍王』は確かにそうなのかもしれない」

 

「じゃあ私の目的は無駄だったの?私が目指した物はそもそもなかったの?あの時、奪われた痛みをもう二度と味わいたくなかったから鍛え続けてきた。家族を奪われて復讐を奪われて、今度は目標を奪われた」

 

「……………………」

 

「だから確かめたい。私がやってきたことが本当に無駄だったのか、それとも確かに意味があったのか。それを知る方法を私はこれしか知らない」

 

 彼女が腰を落として双槍を構える。あちら側から仕掛けることはない、完全に待ちの姿勢だ。

 僕もまた前傾姿勢で剣を構える。防御など一切考えていない攻撃する事にのみ集中する姿勢。

 

「ジュリア、君の確かめたいことがこれで本当に分かるのか、僕にはわからない」

 

「そうね。そう簡単に分かったら苦労しないわ」

 

「だから、分かるまで僕は付き合うよ。今回の戦いだけじゃない。他の方法を試したいというなら、何度でも。僕達は唐突に王になったいわば似た者同士だからね」

 

「――――感謝するわ、心の底から」

 

 風が舞う。もうお互いの間に言葉はない。大木から木の葉が一枚風に吹かれて落ちていく。

 息を整え、脚に力を込めて、いつでも走り出せるようにする。真っ直ぐジュリアの所に辿り着けるように。

 

「『剣王』トーマ・ソードリア、行くよ」

 

「槍王候補ジュリア・デュース……。いいや、違うわね。『槍王』ジュリア・ヤランリ、来なさい」

 

 木の葉が地面に落ちて、その瞬間駆けだした。

 『聖剣エクス』の第二能力『強き者(クレス)』を全開まで引き上げて最高速度に一歩で到達させて突っ込む。

 

「疾ッ!!!!」

 

「甘い!!!!」

 

 突っ込む僕に対してジュリアは槍を突き出してくる。顔面を狙ったそれを首を傾け回避し――――瞬間悪寒を感じて地面に倒れ込む。『強き者』によって強化された感覚が直感として僕に危険を教える。

 

「避けんじゃないわよ!!!」

 

「冗談キツイね!!!!」

 

 頭を下げると同時に髪の毛が何本か切り裂かれて宙を舞った。恐らくは突き出した槍をそのまま横薙ぎにしたのだろう。あの速度で突き出された槍を即方向転換させるのは並大抵ではないはずだが、彼女も新米とはいえ王。それくらいならばやってもおかしくない。

 

「ラァ!!!!」

 

 この体勢から剣を振るのは不可能と判断し、倒れ込む速度のまま一回転して裏蹴りを叩き込む。ジュリアの鼻先を掠めながらも彼女はすぐに下がり回避している。

 それでも逃がすつもりはない。蹴りは外れたが勢いは未だに死んでいない。そのまま回転するように飛び上がり上から剣を叩き込む。

 

「ッ!!!」

 

「力比べじゃ勝てないんじゃないかなぁ!!!」

 

 双槍を交差させて聖剣を受け止め、物凄い轟音が辺りに鳴り響き鳥たちが飛び立つ逃げ出す。彼女は上手く力を逃してはいたが僕の強化された力を完全に止められるはずもない。ヤランリ王国で純粋な力では最強のライラを打ち合えたのだから。

 受け止めたジュリアの足元の地面は砕かれ小さいクレーターが生まれる。このまま押し込めば問題なく勝てると判断し、再び直感が警鐘を鳴らし咄嗟に一歩下がる。

 

「これも躱すとかどうなってんのよ……!!」

 

 見れば完全に脱力することで力の押し合いをやめた彼女が下から顎を狙った蹴りを放っている所だった。直感に従っていなければ完全に無意識の所から蹴りが飛んできて僕の意識は刈り取られていただろう。

 

 間違いなく、ジュリア・ヤランリは強敵であり難敵だ。純粋な実力ならばシオンにも勝てると豪語するのは伊達ではなく、そして強がりでもなかった。

 今の一撃をシオンに放てば押し切ることは出来ずとも底を起点に勝利に近づけることは出来たと思う。だがジュリアはそこからさらに反撃をして来た。なんというか、勝負度胸が凄いのだ。失敗すれば大怪我をするという行動であっても彼女に躊躇いはない。勝つ為であれば自分の傷など気にしないその在り方は素直に尊敬する。

 

 一歩後ろに下がり聖剣を再び構える。今度は受けることを重視した構え。

 それに対し今度はジュリアが前傾姿勢をとる。一気にこちらに飛び込んでくるか、それともフェイントを仕掛けるか。戦闘経験の少ない僕に比べてあちらは戦い慣れている。それは咄嗟の時に出てくる選択肢の数に現れているだろう。

 

(魔法による幻影、『陽炎』は非常に厄介だけど僕の直感ならギリギリ察知できる)

 

 何よりあの幻影を使用する時彼女の周囲は非常に暑くなるという特徴がある。普段、槍を隠す時はそうでもないが独自行動を取らせるなどの方法を遣えばその熱気は一気に強まり広がる。

 五感を強化した結果強まる直感ならばその幻影を判別できるはず。

 

(来たッ!!)

 

 そこまで考えて一気にジュリアが駆けだす。速度自体はそこまで速くはない。問題はその緩急と軌道。読みにくいほどにランダムにしかもその数は3人に増えている。どこから来るか分からない上に、そのうちの二体は幻影だろう。

 

「だけど『陽炎』に物理的破壊力はない!!」

 

 触れれば熱く、軽いやけどをするかもしれないがその程度で怯むほど甘い環境で修練してきたわけではない。

 即座に一番最初に近づいてきたジュリアを切り裂き、即座に消える。更に後ろから迫ってくる彼女の突きを躱し裏拳を叩き込む。即座に消える。

 

「三人目ぇ!!!!」

 

 残った三人目のジュリアは僕に出来た隙を突くようにその槍を振るう。裏拳を放っていたことにより体勢を崩していた身体をそのままの勢いで独楽のように回転させることでその槍を回避する。

 

(これも偽物かッ!!!)

 

 だが、その槍からは威力を感じられず代わりに熱気を感じる。咄嗟に転がるようにその場から離れ、直後上空から本物のジュリアが槍を突き立ててきた。

 

「これも躱すか……!!」

 

「あっぶな!!」

 

 地面に刻まれた跡がそれが幻影ではないことを僕に教える。あの三人の『陽炎』は僕の目をくらます為、そして空に飛びあがった自分の影に気付かせない為だったのだろう。

 一つの行動で終わらせず次に繋げる、その技術が彼女を凶悪な戦士として支えている根幹だ。

 

「考え事してる場合?」

 

 その声に直感が最大限の警鐘を鳴らす。立ち上がることも放棄しその場を無様に転がり、先程まで僕がいた場所に槍が突き刺さる。

 彼女はその二本の槍を器用に使い逆さまになったままこちらに襲い掛かる。例えるのなら竹馬の足場に脚を乗せず、竹馬の上で逆立ちしているようなそんなアクロバティックな姿。

 

「そんなのありかっ!?」

 

 地面を転がりながら対応を考え実行する。降ってきた槍を掴もうとすればもう一つの槍がその隙を突こうと手のある部分を狙ってくる。ならばと着地した瞬間を狙って槍を崩そうとしても即座に槍は上空に戻り掴むことも蹴り崩すことも出来ない。

 

 このままでは必ず遠くないうちに捕らえられると判断し魔力を練り上げる。闇属性の魔力が微かに身体から漏れ出る。これでは魔法を使うとジュリアに伝えているようなものだが、今はそれを気にして魔力を制御する余裕は存在しない。

 

「『闇星』」

 

 呟き、魔法を発動させ、聖剣の機能を最大に発揮し強化した身体で剣を不格好な体勢のままぶん投げる。即座に聖剣に仕込んだ魔法が起動し黒く光り僕自身を吸い込む。強力な引力に引き寄せられて身体が聖剣に向かって飛ぶ。

 

「そんな方法で逃げるとはね」

 

「これくらいしか、思いつかなかったからね」

 

 折角の服が土埃で汚れてしまったが洗えば十分使えるだろう。仕切り直しとばかりに地面に降り立ったジュリアはこちらを呆れた様子で見てくる。

 土を払い落としながら油断なく彼女の目を見る。そこには戦う前まであった揺れている意思はなく、ただ僕を警戒する戦士の目がある。

 

 軽く笑いながら腰を落とし脚に力を込める。彼女の努力は間違いなく彼女の力になっていると確信し、僕は駆けだした。

 

この小説の一番好きなヒロイン

  • 最強幼馴染ヒカリ
  • 好意隠さなくなった聖女アリシア
  • 魔道具マニアキャロル
  • 男装マザコンシオン
  • 王道ツンデレジュリア
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