王戦物語~聖剣抜いたのでヒロインみんなを笑顔にします~   作:ビスマルク

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三章エピローグ また会える日まで

 街に用意された屋敷の一室。その中で一人の少女が眠っていた。

 現『槍王』、ジュリア・ヤランリ。先程まで僕と戦っていた少女だ。

 彼女を抱えてこの屋敷に戻った後治療して寝かしていたが、大きな怪我等もなくアリシアが完璧に治してくれたので今眠っているのは最近の過労のせいかもしれない。

 

「ん……ここ、は……」

 

「起きたかジュリア」

 

「レイラ……?」

 

 レイラさんはジュリアの手をずっと握りしめていた。穏やかな寝顔をしていたので迷惑ということはないだろう。意識がはっきりしていたらやめなさいなんて言いそうだが、彼女が強がりそういう事を言う人間だということはもうみんな知っている。

 

「……ああ、そう。私は剣王に負けたんだった。あーもう、これが『王戦』だったらこの悔しさ味わった上に賭け品を持ってかれるんでしょ。最悪中の最悪じゃない……」

 

「起きて早々そこまで言えるなら元気も戻ってきているみたいだな。待っていろ、すぐに食事を用意してくる」

 

「…………私の分もお願いおねえさまー」

 

「ふざけるな自分で取りに行け馬鹿力の愚妹」

 

 ジュリアの為に部屋を出て食事をとりに行くレイラさん。その脚に縋りつきながらも蹴り払われてその辺に転がるライラ。呆れて見ているジュリア。

 この三人のやり取りを見ていると和やかな気分になる。これも一つの尊い関係性と言えるだろう。ジャンルは違うとはいえカプ厨としての本能が若干刺激され思わず笑顔になる。

 

「――――笑ってるとは随分余裕じゃねぇか?なぁ大馬鹿くん?」

 

「――――いくら怪我をしても治しますけど、それが喜ばしいかは別の話しなんですよ?」

 

 同時に目の前の二人の少女から発せられている威圧感が倍増する。その重圧は実際の重さのように正座している僕の膝にダメージを与えてくる。というか二人して僕の膝をつんつんと足で突いてくるのがキツイ。見下ろしてくる銀髪美少女と金髪美少女とか変な扉を開けそうになる。

 お説教から目を逸らして笑ったりしたらそうもなるだろう。でも僕の魂に刻まれた本能なんだ、本当なんだよ。

 

「……何してるのよ?」

 

「い、いや違うんだ。これはちょっとした手違いというかなんというか。説明が難し「良くしゃべるな。さっきまでアタシ達の前じゃ黙ってたのに」すみませんでした」

 

 気絶する前まで戦っていた相手が起きたら正座されて美少女二人に説教されてたらそりゃ状況も知りたくなるだろう。僕だってジュリアと同じ立場だったら理由を聞く。

 だけど今は待ってほしい、お願いだ。

 

「い、いや待ってほしい。確かに今回のこれは割と無茶した気もする。でもお互いに本気で殺し合ったわけじゃないし、多少の怪我は見逃してほしいと思うんだ」

 

 膝とメンタルと性癖にこれ以上のダメージを負うのを避けるために必死に言葉で説得する。ヒカリもアリシアも僕の無茶には耐性があるはず。ならばそこを狙って減刑を手に入れる……!!

 

「まぁ確かにお前の無茶は今に始まったことじゃない。生まれてこの方大人しくするとは正反対の生態をしてるのがトーマだしな。アタシだってこの前『槍王』とやり合った時結構無茶したし」

 

「はい。それに関しては私達も強くは言えません。最初の王戦であそこまでトーマ君が無茶したのは元はと言えば私のせいでもありますから」

 

「いやまぁそこらへんに関しては僕がやりたいと思ったからだしあんまり気にしなくてもいいと思うけどね。ヒカリに関しても僕は縛る気はないし……うん、ちょっとは安全策を取ってほしいと思わないでもないけど」

 

 二人は腕組みをしてうんうんと頷いてくれている。よし、このまま行けば僕のおしおき&お説教は終わりを迎える。後は痺れた脚を治し、起きたジュリアに対して無言で去るクール男みたいな雰囲気を出して出て行けばいい。

 

「ああ、トーマの無茶に関しては今更だからアタシ達もそこは軽い説教で済ませるつもりだ」

 

「そっか!!いやぁよかった!!立てなくなる前に終わってくれて本当に!!!」

 

「だけどなんでお前今回の戦い放送されてんだよ」

 

「「えっ」」

 

 ベッドの上であきれた様子でこちらを見ていたジュリアと、正座のせいで痺れた脚に顔を顰めていた僕の表情が一気に凍り付く。

 いや、え、放送?

 

「ど、どういうこと!?アンタまさか私に断りなくやったの!?」

 

「ち、ちがっ!?流石にそこまではしないよ!!今回のはプライベートだったわけだし!!!というか本当に!?」

 

「はい、二人のご様子が完璧に……。ああ、でも音声はあまり聞こえてこなかったですよ?撮影機が遠くから撮影していたのと剣戟の音で上書きされてましたから」

 

 あまりの衝撃に真っ赤になったジュリアは僕の胸元を掴みながら首を前後に激しく振ってくる。周囲から見たら僕の頭は恐らく分身してるのだろうと思うくらいには早く振り回されて吐き気がする。

 

「お前ら二人共戦うと決めてからあの台地に行くまで全力で走ったろ。アタシ達も置いてかれたんだよ。だけどこの街の上空に映像が流れ出して、大体理解した」

 

「そういえばあそこには身を隠すところとかなかったもんね。なんで状況把握してるんだろうとか当然の疑問だったのにヒカリに叱られるって状況で反射的に正座に移行してまったく思い浮かばなかったや」

 

「トーマ君、どれだけヒカリちゃんに怒られてるんですか……?」

 

「初対面の時、アリシアの前で怒られたように、二日に一度くらいかな……」

 

 正直面倒見のいいヒカリじゃなければ見捨てられてる自覚はある。だから彼女の言う事は出来る限りは聞きたいというのが本音の所だ。

 まぁそう言いながら彼女も完璧ではないのだが。特に料理の腕は本当に駄目で、実験台になった僕が青い顔になった回数は数えきれないくらいだ。どうにも性に合わないのだろう、仕方ないことだ。

 

「つまり、今回二人が怒っている理由は?」

 

「また女に格好つけた本音ぶつけてたという事実から来る嫉妬だが問題あるか?」

 

「いいえありません。なのでその握りこぶしを収めていただけると大変うれしく思いますヒカリ様」

 

 嫉妬したという言葉に、その裏にある本音を聞いて少しにやけてしまった。即頬を赤く染めたヒカリが睨んできて拳の素振りを始めたので謝るが。

 チラッとアリシアの方を見てみればこちらも似たような表情をしながらコホンと咳ばらいをして言葉を繋ぐ。

 

「トーマ君がそういう人なのは知っていますし、そういう人だからこそ私はこうなってます。なのでそういう部分を否定するつもりはありませんけど……あまりやりすぎると酷い目にあわされますよ?女の子の中にはそういう事、平気でする人もいるんですから」

 

「ええ……。いや僕だって別に誰が相手でも言ってるわけじゃないし……」

 

 僕を女の子なら誰かれ構わず口説き始めるプレイボーイのように言わないで欲しい。僕はちゃんと相手を見て言う言葉を選び、言うべき言葉を口にしている。

 

「ヒカリやアリシアに言ってきたことは本音だし、ジュリアに言ったことだって全部本気だしそれを覆すことは絶対しない」

 

 第一、僕の父さんやヒカリの家族のようにいついなくなってしまうか分からない。人というのは簡単に死んでしまうのだから、いなくなるのだから。大切な人に言う言葉くらいいつだって本気の言葉じゃなければいつか後悔してしまうかもしれないじゃないか。

 

「僕は本気だよ。いつだってね」

 

「だから性質悪いんだよな……」

 

「攻めにくいにも程がありますからね……」

 

「アンタらも苦労してるのね」

 

 なんか三人ともしみじみと言っている。その言葉には実感がこもっている。

 そんな僕達の様子を黙って見ていたライラがその口を開き爆弾を投下した。

 

「…………要するに剣王は女誑しで、ジュリアは誑かされたという事?」

 

「誰が誑かされるかぁ!!!!!」

 

 瞬間湯沸かし器のように一気に顔の温度を上げたジュリアはそのまま何故かライラではなく僕の頭を掴んできた。

 

「なんで!!私が!!!コイツに誑かされたって決めつけんのよ!!!!」

 

「…………いや、だって、私の聴覚ならあの映像越しでも大体聞こえたし。表情見ればそうなのかなと思って」

 

「ざっけんじゃないわよ!?アンタのその人外染みた五感と身体能力は一体何なのよ!!!」

 

「…………あとその顔はいつもの素直になれていない顔」

 

「誰がそんな表情するもんかぁ!!!!」

 

「ごめん、ライラが一言発するたびに僕の耳を抑えるのやめてくれない?何言ってるのか分からなくなるのはいいとしても痛いんだ」

 

 二人が何を言っているのかまるで分らなくなるし耳がキーンとしてこれはしばらく治りそうにない。まぁジュリアの性格上聞かれたくない事なのだろうと判断は出来る。

 そのらしさを肯定した以上あまり否定するのも悪いだろう。

 

「その微笑ましい物を見る目で私を見るんじゃないわよ!!!!!!」

 

 リンゴのように真っ赤になった彼女は、どこにでもいる少女に見えたというのは誰にも言わない僕だけの秘密にしようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

「たくっ!!誰があんな映像を……!!見つけ出してしばいてやる!!!」

 

 街から離れ、ヤランリ王国へ向かう馬車の中で新しい『槍王』がその表情を未だ収まらない怒りで真っ赤にさせていた。

 向かいの席に座っているレイラはその様子を見て静かに微笑んでいる。

 

「いいじゃないかジュリア。私はお前のことをより知れたと喜ばしく思う。それにスッキリしたというのは本当だろう?」

 

「それとこれとは話しが別でしょうが。私がスッキリしたかと、無許可であの映像が流れたことは」

 

 結局放送されたというあの映像の出所は分からなかった。放送範囲はあの街だけだったのは不幸中の幸いだろう。だが、『剣王』と『槍王』のぶつかり合いという他では見られない戦いはこれから何度も流されることになり、あの街を発展させるきっかけになることを未だジュリアは知らない。

 

「…………私としてはジュリアに嫉妬。私ももう一度、今度こそ最後まで剣王と戦いたかった」

 

「アンタをぶつけるつもりはもうないわよ。トーマの奴、成長したら王クラスになるもの。これからは私がやるわ」

 

 手に持つ『王槍』を強く握りしめ決意する。あの少年に負けたことをきっかけにして更なる飛躍をすることを誓う。

 

「まずはこの槍の力を完全に引き出す。一番難易度が高い二代目の『未来視』と破壊力と広範囲攻撃に優れた三代目の力を。その上で技術を上げていくわ。ムカつくけど、あの愚王の動きは私の体に染みついてるからそれを参考にして」

 

 目指すべき先は見えた。その上でそれを超えて行くことを誓う。そうでなければ『剣王』となったあの少年に届くことは決してないと知っているから。

 これからも彼は周囲の人の為に強くなるのだろう。同じ王として対等であり続けるのならば自分も進むしかないと。

 

「……何黙ってこっち見てるのよ。しかも口を大きく開けて」

 

「いや、いつのまに剣王殿を名前で呼ぶようになったのかと思ってな」

 

「…………やっぱり剣王は女誑し。これは確定事実だと思う」

 

 意識していなかった部分を突かれて顔が熱くなるのをジュリアは自覚した。自分の感情に当たりはつけているがそれを他者から指摘されるのはプライドの高い彼女には耐えられなかったらしい。

 

 ヤランリ王国に帰っていく三人を乗せた馬車は騒々しく騒ぎながら進んでいく。それは行きの時の沈黙とは正反対で、槍の王国がこれから変化していくことを暗示しているようだった。

 

「…………とりあえず剣王をどうやってこちら側に引っ張り込むかを考えるべき。ジュリアを受け止められるだけの器量の男はヤランリ王国にはいないだろうし」

 

「親友である私としてもジュリアには幸せになってもらいたいからな。今度こそ三人組の王戦を挑み、勝ったら剣王殿をこちらに。負けたらジュリアを渡すというのはどうだろう。これなら勝っても負けても得だぞ」

 

「得だぞ、じゃないわよ!!!アンタら面白がってんの分かってんだからね!!!!」

 

 




 これにて三章は終わりとなります。

 一度これで完結扱いとさせていただきます

この小説の一番好きなヒロイン

  • 最強幼馴染ヒカリ
  • 好意隠さなくなった聖女アリシア
  • 魔道具マニアキャロル
  • 男装マザコンシオン
  • 王道ツンデレジュリア
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