TS転生チートあり、夢や使命は特になし   作:風鈴

1 / 3
転生したからって、大きく変化が起きるわけじゃない

 異世界転生は、もはや普遍的なジャンルの一つになったわけだけど。

 実際に転生したとして、前世より充実した生活を送れる人間なんて果たしてどれだけいるだろう。

 

 それこそ、前世で運に恵まれなかった人か、転生しても前世と変わらない努力を続けられる人間くらいではなかろうか。

 少なくとも、普通の人間が転生した所で、来世がより満ち足りたものになる可能性は低いだろう。

 それこそ現代から中世風ファンタジー世界に転生したら、文明レベルの差は明らかに落ちる。

 

 転生モノなのだから、当然チートの一つや二つはあるだろうにしても、だ。

 それすらなかったら? それはその時点で詰みだから考慮に値しないものとする。

 現代人がチートなしでファンタジー世界を生きれるわけないだろ!

 

 ともかく、特別なチートこそないものの、生きていく困らない環境と娯楽があった前世と、娯楽に乏しく生きていくのにも命がけだが、特別なチートを有する来世。

 その二つを比べたときに、後者の方が幸福である人間は少ないという話。

 

 だが、だからといって、後者の方が不幸である人間も少ないだろう。

 生きていくのには命がけでも、その生命の危険を可能な限り少なくする力が備わっているのだから。

 

 ようは。

 転生というきっかけで生き方を変えられない人間は。

 転生しても前世と同じような生き方をするというだけのこと。

 

 でも、それでいいんじゃないか?

 別に無理して生活を良くする必要はない。

 前世だって、大した生きがいがあったわけでもないのだから。

 チートを手に入れた来世でも、夢や使命が特になくたって。

 

 私はそれで一向にかまわないと思うのだ。

 

 ……転生して性別が変わってたら?

 それこそ別に気にすることでもない、性別が元のままでも女の子にモテるとは思えないし。

 性別が変わっても、男と付き合うつもりはないんだから。

 ただまぁ、それこそソシャゲの美少女キャラみたいな見た目を自分がしていると思うと、何だか得した気分になるので、総合的には悪くなかったと私は思っている。

 

 

 ***

 

 

 その日の私は、冒険者としてそこそこの成果を抱えて冒険者ギルドまで戻ってきていた。

 ギルドは無数の冒険者でごった返していた。

 そのうち、目敏い何人かは私がギルドに入ってきたことに気づいて、軽く手を振って挨拶をしてきたり、私の胸をジロジロみてきたりする。

 

 ただ、多くの冒険者にとって、私はこの無数にいる冒険者の中の一人に過ぎず、また私もこの中で無駄に自分を主張したいとは思っていない。

 無駄に注目を集めてはいないというのは、私の目指す生き方に沿っていると言えるだろう。

 

 その上で、別に胸をジロジロみてきたりする輩も特に不快ってこともない。別に直接ナンパしてきたりするわけでもないしな。

 むしろ、このやたら顔がいい容姿を認められるのは悪い気分じゃない。

 銀髪で小柄、胸は体型の割にはそこそこ。

 ロリ巨乳というほどには存在感はないけど、それでも確かにあるって感じ、前世だったら結構好みなビジュアルだ。

 

 私はそのまま、挨拶をしてくれた顔見知りに挨拶を返して、人混みの中を抜けていく。

 目当ては言うまでもない、今日の成果を報酬に変えるのだ。

 

 これは単純な話なのだが、成果が目に見えている労働は楽しい。

 そこに加えて、他者から無駄なストレスをかけられたりすることのない環境があれば最高だ。

 ソロの冒険者というのは、そんな私の欲求をちょうどよく満たしてくれる。

 転生者がこぞって冒険者になるのも納得という話。

 まぁ、そもそも冒険者になることを私が選んだのも、そういう転生モノの転生者の右に倣っただけなのだが。

 

「いらっしゃいませ、本日はギルドにどういったご要件でしょうか」

「報酬の換金。それからついでに採取してきた素材の鑑定も頼むよ」

「かしこまりました、少々お待ち下さい」

 

 ちょうど、顔見知りの受付嬢のところが空いていたので、そこで換金と鑑定を頼む。

 冒険者でごった返すと言っても、大抵は同業との雑談に勤しむか、ギルド併設の酒場で飲んだくれているかのどっちかだ。

 

 全体的に、一仕事を終えた後の弛緩した空気がギルドを覆っている。

 

「――クリスさん」

 

 受付嬢が私の名を呼ぶ。

 クリスフィア・マギアストラ。

 それなりに御大層な名前が、私の本名だ。

 基本的に、知り合いは皆クリスと呼ぶけれど。

 

「今日もボーダーベアの討伐依頼ですか? 好きですね」

「私にしてみれば、一番手堅く美味しい依頼だからな。クエストボードに残ってたら、受ける依頼はこれ一択だ」

 

 ボーダーベア。

 名前の通り、こいつを一人で倒せたら冒険者として一人前という、一種のボーダーになっているクマ。

 なのだが、私の場合とある事情からこいつは端的に言ってカモである。

 

「クリスさんなら、もっといい依頼もあると思うんですけど」

 

 でもまぁ、カモだからといって何度も何度も同じ依頼を受けていると、こう言われるのはよくあることだ。

 冒険者っていうのは上昇志向の強い連中が多いからね。

 

「んー、確かにそれはそうかもしれないんだけど、考えてもみなよ」

 

 そして私は、それに対してこう返すわけだ。

 

「別に、変化ってそこまで必要じゃないだろ?」

「でもそれだと、何だか保守的すぎるような……冒険者になったからには、やっぱり挑戦って大事だと思うんですけど」

「もちろん、挑戦だって大事だ」

 

 人間、ずっと同じことを続けていたら腐ってしまう。

 その方が楽だから、というのは確かにあるが。

 実際私も、楽に流れたいからこうして同じ依頼を何度も受けているわけだが。

 

「でも、変化って別に自分から起こさなくても起きるものだろ?」

「まぁ……そうですね」

「だから私はこっちから変化していくんじゃなくて、向かってくる変化に対応することを優先してるわけ」

 

 言うなれば、万全の状態で受け身をするために準備をしているのが私、というわけだ。

 実際、こういう楽な依頼を何度も受けるのは、ただ楽がしたいだけじゃなくて、そうすることで備蓄を増やして将来の面倒事に対応する余裕を作りたいというのもある。

 

「結局は、楽をして適当に生きていきたいってだけだけど、別に何も考えずにこうしてるわけじゃないんだぞ? ってこと」

「ぶっちゃけると、普通な理由でしたね……」

「そりゃそうだ、だって私には――」

 

 とか、話していると。

 換金と鑑定が終わったらしく、お金が運ばれてくる。

 今日は結構頑張ったので、あの中には数日は遊んで暮らせる金が入っていることだろう。

 

 そして、私はその殆どを貯金している。

 

 多分だけど、その貯蓄だけで十年は慎ましく暮らしていけるんじゃないか?

 この世界は娯楽に乏しいから、そのくらいは余裕なはずだ。

 

 ともあれ、

 

「――私には、特に夢も使命もないんだから」

 

 そうだ。

 私はTS転生者である。

 チートが使えて、なまら強い。

 でも、世界には特に私が倒さなくてはならない敵はいない。

 私自身にも、特にこうしたいという夢はない。

 

 だから、私は特に使命も夢も持たないまま、適当に人生を生きていた。




チート持ってるけど、別にそれを活かすわけじゃなくて生活の安定のために使う、顔のいいTS転生者はお嫌いですか?
私は好きです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。