TS転生チートあり、夢や使命は特になし   作:風鈴

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TUEEを私は選ばなかった

 私の生まれは、それなりに高名な魔術師の一族だった。

 代々魔術師として、多くのエリートを輩出してきた名門。

 当然ながら幼い頃から魔術に触れる機会の多かった私は、自然と魔術師になることを夢見ながら育った。

 

 特に前世の記憶を思い出してすぐ――物心が着いた頃は、夢中になって魔術の本に齧り付いたものだ。

 単純に、読み物として面白かったのが、まず一つ理由として挙げられる。

 言うまでもないことかもしれないが、私は前世でオタクだった。

 こういう魔術みたいな、異世界特有の法則みたいなものには自然とワクワクしてしまうのである。

 

 次に、異世界で生きていくためにはチートが必要だと考えたからである。

 私の生まれは名門魔術師の一族、今のところ衣食住には困っていないが、成長してからはどうか。

 仮に将来が冒険者であった場合、そうなるまでにある程度力をつけていないと、どうなるか解ったものではない。

 

 後は、ある程度強くなっておかないと政略結婚の道具にされそうな気がしたしな。

 男と結婚とか、マジ勘弁である。

 

 ともあれ、趣味と実益を兼ねて私は魔術書を読みふけった。

 この頃の私は、転生というものにたいしてそれなりに希望を抱いていたのである。

 今思えば前世は決して悪い人生ではなかったのだが、当時の私は前世がつらく苦しいものであったと思っていた。

 まぁ、ブラックに近い社畜生活の末に若くして死ぬとか、割りとろくでもない人生ではあるしな。

 だから、少なくともあの頃は、それなりに来世をもっと良く生きようという思いが私にもあったのである。

 

 

 ――生まれつき、魔術が使えない体質であると知るまでは。

 

 

 びっくりである。

 いや、思い返してみれば私に対する家族の態度はなんというかどこか冷たいものがあったし、時たま侮蔑の視線を向けられてる気もしたけれど。

 まさか、魔術師一族に生まれていながら、魔術を使えない落ちこぼれだったことが理由だったなんて。

 いや気づけよ! と思うけど、これが案外気が付かないものなのである。

 両親は生まれた時から期待していなかったために、私に構うことなんてまったくなかったのが逆に悪かったのだろう。

 普通に、高名な魔術師は忙しくて家に帰る時間がないだけだと思ってましたよ。

 

 それが、弟が生まれたことで単に私の才能がなかったからだと知らされたのである。

 んでまぁ、そんな私の無能っぷりが露呈して。

 私の扱いは更に冷たいものとなった。

 

 まぁ、ここまではよくある話。

 それこそ転生モノでは、無能な主人公と天才の親族なんてよくあるシチュで。

 だから、はっきり言うと私はそのことに何の感慨も抱かなかった。

 そもそも両親は私にほとんど干渉してこなかったから、こっちも両親――というか家族には大して愛着がなかったし。

 

 問題は、もっと別の所にあった。

 具体的に何かと言えば――

 

 

 ()()使()()()ンすよ、私。

 

 

 普通に両親の見てない所で、バリバリ魔術使ってました。

 子供が高度な魔術を使っていたら、危険だと怒られるかもしれないので黙ってたけど。

 魔術の才能がないと気が付かなかった最大の原因は、これである。

 

 結論から言うと、それこそが私のチートだった。

 正確に言えば魔術が使えないのに使えるというのは、そのチートが効果を発揮した例の一つに過ぎないのだが。

 ともかく。

 私のチートは、魔術が使えないはずなのに使えるというもの。

 まぁ、これも転生チートとしては、そこまで奇抜なものではないのだけど。

 

 この世界では、異質すぎる力だ。

 私がこのことに悩む最大の理由がこれだった。

 

 これが、他人より魔術の才能がある、とかだったらいい。

 魔力量が一般的にはAランクあれば一流と言われるところを、実はSSSランクありました、とかならばよかったのだ。

 隠せばいいのだから。

 

 Sランクだけど面倒だからBランクと周りには思われているけど、本当はSSSランク。

 みたいな感じのチートだったらよかった。

 でもこれは、できないものをできるようにしてしまうチートである。

 もしもこれを全力で活かしてTUEEをしようと思えば――私は世界を変えてしまうだろう。

 

 だから思ってしまったのだ。

 そこまでして、TUEEがしたいか? と。

 私のことを侮蔑の目で見てくる両親と、私を人と思わないよう教育された弟を。

 理解らせて悦に入るためだけに、その後の人生に大いなる責任を発生させたいのか? ――と。

 

 答えは、否だった。

 

 そしてその結論を出したその日。

 私は荷物をまとめて家を出た。

 

 それから、五年。

 今のところ、実家が冒険者になった私に干渉してくることはなかった。

 

 

 ***

 

 

「――そうだ、クリスさんにお願いしたいことがあるんです」

「というと?」

 

 いつも通り、クエストの報酬と鑑定を終えた素材の報酬を受け取りながら、受付嬢に私はそう切り出された。

 なんとなくその後の内容には想像がつくが、とりあえず続きを促す。

 聞かない理由は特にないからだ。

 

「“シールドウッド”の討伐依頼を受けてもらいたいんです」

「ああ、やっぱり」

 

 シールドウッド。

 名前の通り、盾みたいな形をした木の魔物である。

 

「そろそろそんな時期なんだな」

「はい。なので何人かの冒険者に声をかけたんですけど……」

「全て断られて、私の所まで話が回ってきた、と」

 

 というのもこのシールドウッド、倒すのが非常に難しい魔物なのだ。

 端的に言って、硬い。

 とにかく硬い、ダイヤモンド並みに硬いんじゃないかってくらい硬い。

 これを倒せる冒険者は、特殊なスキルを持った冒険者に限られる。

 そのせいで、こいつが出現すると大抵の場合多くの冒険者はこいつの討伐依頼を避ける。

 

 結果として、不人気依頼として残り続けると、今度はシールドウッドが“繁殖”することで増える。

 どうやって繁殖するんだってツッコミは置いておいて。

 なのでこいつが出現したら、ギルドは冒険者になんとか処理してくれないかと積極的に声をかける。

 

「お願いします、クリスさん!」

 

 平身低頭。

 受付嬢さんは、両手を合わせて拝むように頼み込んでくる。

 

 ――はっきりいって、死ぬほど面倒な依頼だ。

 シールドウッドを倒すのが面倒、というだけならまだちょっと厄介な依頼で済むのだが。

 まず、シールドウッドを発見するのが面倒である。

 なにせシールドウッドの出現する場所は森。

 正直言って見分けがつかない。

 盾みたいな形をした、とはいうものの、遠目でみるとぶっちゃけタダの木である。

 

 なので近づかないと行けないわけだが、近づくと今度は結構な勢いで襲ってくる。

 これがまた、不意打ちとしては非常に効果的で、下手をするとそのまま一方的に殺されてしまうくらい脅威度が高い。

 もしも完全に気づいてない状態から至近距離で襲われた場合、私でも普段は使っていないチートをある程度咄嗟に使用しないと対応できないだろう。

 

 本来なら、複数人でパーティを組んで数日かけてじっくりシールドウッドの位置を割り出すことになる。

 そうなると今度は別の問題が発生してしまう。

 報酬に旨味が少なすぎるのだ。

 シールドウッドはとてつもなく硬いが、これはシールドウッドが生きている間しか通用しない特性である。

 そのため、シールドウッドは死んだらタダの木に戻ってしまう。

 結果、素材として何一つ美味しくないのがこいつの面倒な所。

 安全に倒そうと思ったら、報酬が不味すぎるというのがこの依頼が不人気な理由でもある。

 

 だからそんな不人気で面倒な依頼、私みたいな人間は避けたいと思うのが当然だ。、

 故に私は――

 

 

「解った、受ける」

 

 

 受けた。

 ここまでの前フリはなんだったんだって?

 そりゃ、そんなもんあくまで一般的なシールドウッドへの対処の話でしかない。

 そもそもシールドウッドは一人で受けるような依頼じゃない。

 それをわざわざソロ冒険者である私に受付嬢が持ってきたということは、

 

「ありがとうございます! クリスさんなら()()()受けてくれると思ってました!」

 

 過去に、シールドウッドをソロで討伐した実績があるということだ。

 

 なんてことはない。

 私は別に面倒を嫌っているわけではない。

 責任を嫌っているだけだ。

 その依頼を受けることで、将来的に面倒な責任が発生するかどうか。

 それが私が依頼を受ける基準である。

 

 だから例えば、私の受けない依頼はこういう不人気な依頼ではなく、もっと人気があって、討伐することで名声が高まるような依頼である。

 ドラゴン討伐とか。

 

 なのでこういった面倒な依頼はむしろ請け負うことの方が多い。

 こういう依頼を受けておけば、ギルドの印象が勝手に良くなっていくからだ。

 正直、ギルドとはそこまで交流を持ちたくない。

 あくまで一人で好きに生きたいというのが私の願い。

 その上で、一人で依頼を受けることで周囲から好印象を持たれるなら、むしろそれは面倒よりも利益が勝る。

 

 ただ――

 

「じゃあ、今度ホーンズラビットの討伐依頼が出たら、一つ私に回してくれよ」

 

 ――便利だと思われるのは、よくない。

 こういう依頼をほいほい請け負っていると、単なる便利屋だと思われる。

 体よく使われるのはゴメンだ。

 なので、相手が受け入れやすい交換条件を提示する。

 

 ホーンズラビットの討伐依頼は、この冒険者ギルドで最も人気のある依頼だ。

 なぜなら、ホーンズラビットは弱い。

 だが、その討伐素材である“角”は非常に高価である。

 こういうお手軽で美味しい依頼は、普通張り出されたら瞬殺されるものだ。

 しかしギルドが、私みたいに不人気依頼を請け負ってくれる冒険者への補填として残しておいてくれることもある。

 

「わかりました、いつも通り、ホーンズラビットの討伐依頼が出たら、そのうち一つをクリスさんに回しますね」

 

 これで、ギルドからは私が美味しい依頼を提示すれば不人気依頼を請け負ってくれる親切な冒険者に映る。

 私としても、ギルドからの好感度稼ぎをしつつ美味しい依頼にありつける。

 

 このやり取りと私の来歴から言えることは一つ。

 面倒事は甘受しろ、責任からは全力で逃げろ。

 それが私の、この世界で学んだ人生哲学のというわけだ。




ただ怠惰に面倒ごとを避けるのではなく、ある程度面倒とその面倒を片付けた時のリターンを考えて
リターンが勝るタイプの怠惰が好きです。
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