不知火カヤの本領は戦術レベルでの指揮など、現場にあるのではないかと思います。
超人である連邦生徒会長の部下で、自らを超人と呼ぶ現場叩き上げの、身体能力に劣る部隊指揮官って、巧い戦い方を知ってそうですよね。
“迷惑をかけた生徒たちに、きちんと謝ってあげて”
ほんの一瞬、カヤの表情が変わった。
一瞬の無表情は、しかし瞬く間に掻き消える。
「……も、もちろんです。先生がおっしゃるのなら、相手が誰であろうとも謝ります。」
おどけたように笑いながらカヤはいう。
「だ、誰にあやまりましょうか……?リン行政官……?」
先生は彼女をよく知っているわけではない。会った回数すら数えるほどしかなく、当然推し量るものもないのだが……
その無表情に、なにか、いつもの不知火カヤ防衛室長らしからぬものを感じた。
廊下を走る足音が聞こえる。
RABBIT小隊の視線が、扉へと向いた。
「連邦生徒会長代行!無事?」
ハイネの姿が見えたそのとき、カヤの指が机の下へ伸びた。
「!先生」
その動きを察知したミヤコがカヤに射撃するものの、それよりもはやく、閃光が部屋を包む。
すばやくハイネに近づいたカヤは、その体を盾にして部屋から飛び出した。
「いたたたったったった!?」
猛烈な銃撃をくらうものの、さすが体育室長であるハイネは、悲鳴をあげるだけにとどまった。
「体育室長、ちょうどいいところに……!」
「なに!?なにがおきてるの!?」
閃光と銃弾に襲われたハイネは叫ぶ。しかしそれを無視してカヤは駆けた。
あやまる?あやまるとは、いったいなにを、だれに?
不知火カヤは連邦生徒会防衛室長であり、治安維持に関しては第一人者である。
そんな彼女から見て、キヴォトスは連邦生徒会長失踪以前から、悲惨な状況にあった。
それが失踪を機に凄まじい勢いで更に悪くなり、多少落ち着いたもののいまだひどい。
それはつまり、なんとしてでも変えるべき最悪の状況から脱せていないということだ。
温泉開発部を筆頭としたテロ・犯罪組織だけが問題ではない。むしろそれよりも、一般的な生徒が犯す犯罪件数がとどまるところを知らないことが課題といえる。
それの原因として聴取されるのは、主に具体性のない不安や不満や不平だ。
そんなもので犯罪を犯す生徒がありふれていることに、不知火カヤは思う。
あたりまえのことなのだ、と。
不正を犯すことも、治安を乱すことも、キヴォトスにおいて当たり前のことなのだ。
他人を蹴落とすことも、他人を傷つけることも、キヴォトスにおいては当たり前のことだ。
物心つく前からキヴォトスではそうだった。
物心ついてからも変わらずそうだ。
連邦生徒会長が現れる前だろうが後だろうが、失踪しようがしていなかろうが、変わってなんかいない。
これが世界の普通ってものなんだ!
だから変えなくてはならない。
ハイネを盾として、カヤは駆けまわった。
生活安全局に突っ込み、職員を盾にした。
それから文化室に行き、交通室に行き、人材資源室に行き、交通室に行き……
やがてハイネが気絶して捨てられ、カヤ自身も負傷を負ったが、諦めなかった。
連邦生徒会長は素晴らしい人物だと、不知火カヤは思う。
その手腕は間違いなく超人的といえた。
だが、精神性においては、超人といえないかもしれない。
「超人」とは永劫回帰の無意味な人生の中で、自らの確立した意思でもって行動する事のできる存在であり……
人間関係の軋轢におびえ、生活の保証、平安、快適、安楽といった、いわゆる幸福を求める「凡人」とは隔絶した存在なのだ。
だからこそ、不知火カヤは超人なのだ。
痛みをこらえながら、カヤは遮蔽に身を隠した。
連邦生徒会全体を巻き込んだ逃走劇は各所に混乱を巻き起こし、実際いくつかの部署を巻き込むことに成功した。
それだけだった。
「まさかここまでやって、たったこれだけしか動かないとは……自分の人望のなさを笑うべきですかね」
RABBIT小隊と先生は、カヤがやっとのことで拵えた混乱を簡単に鎮圧し、逃げ場を効率的に制限している。
防衛室で培った経験がなければ、ハイネが気絶した時点でもう捕まっていただろう。
このままいけば、不知火カヤは逃げ場を失い、確保され……
連邦矯正局に送られ、これまでの政治的基盤を失い、地位は適当な輩に奪われ、これまで通り、リン行政官が連邦生徒会を差配していくことになるだろう。
それだけは、避けなければならない。
ならないが……
“カヤ!”
なにやら先生が言っているのを聞き流しながら、あれこれ考えを巡らせていく。
文字通り、逃げ場はもうない。RABBIT小隊が経路を封鎖しているだけでなく、連邦生徒会内のいくつかの部署が部隊を動かしていた。
このまま遮蔽に隠れていても、動ける程度に回復する前に鎮圧される。
「 」
耳が遠くて、何を言ってるのか聞き取れない。
カヤは考える。
今後の展望として最悪なのは、SRT特殊学園の優秀な生徒がシャーレに吸収されることだ。
シャーレはすでにSRT特殊学園の領分を取って食ってついでに足したような権限を持っていて、そこにSRT特殊学園の強力な実行能力が付いて、これが連邦生徒会の名義でシャーレの考える規定のもと動くようになれば、どうなるだろう。
それはつまり、かの連邦生徒会長の劣化品に違いない。
あのひとにできなかったことが、先生とやらにはできるって?
それは悪い冗談ですらない。
カヤは……
連邦生徒会の一員として、ひしひしと感じていることがあった。
ここにいるのは連邦生徒会長の手足でしかない。
頭を失った手足が勝手に動いている。
誰もがそれでいいと思っている。
いや、思ってすらいない。
何も考えていない。
変えなければ……
私が……
誰もが昨日のような今日と明日を望んでいる中で、よりよい明日を求めることは、いけないことだろうか。
不知火カヤは思う。
だから私は超人なのだ。私こそが超人なのだ。
不知火カヤ(超人)はどんな状況でもキヴォトスをよりよくするため諦めません。その根っこや視点は承認欲求や連邦生徒会長への捻れた感情などで混沌としていますが、なんにせよ現体制を変えるためにどこまでもあがきます。
そして初期状態では他人に期待していませんから、先生と和解することはもちろん、ハイネがやってきた場面で「自分の支持派閥」の存在を信じず、最後のあがきに出ます。
だからこうならないようにカヤとカイザーと協力させるなどして、精神的に緩める必要があったんですね~(n敗)
(2023/10/04、世界線の変更に伴いある場所を変更しました)