不知火カヤ(精神的超人)   作:ふぁっしょん

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知らないものを理解することはできない。
私たちは知ってこそ、理解することができる。

「理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか」

そして理解のかたちは、ひとつに限らない。
そのかたちは無限に分岐する。


吊された女(9)/Blue Archive Vol.F Ch.1 page.6

 D.U、サンクトゥムタワー、連邦生徒会の一室。

 扉から声が漏れている。

 さきほど、扇喜アオイ財務室長が入っていった扉から、確かに。

 

「……判断の一つ一つに、指摘を入れるでしょうね」

「あ、財務室長!」

「扇喜アオイ」

「リン行政官」

「おっと……急用を思い出したので、私はここで失礼~」

「モモカちゃん、逃げないでください」

「はっ、離してよ~アユム先輩!

 ここにいたら息が詰まりすぎて窒息死しちゃうって!」

 

 不知火カヤは扉の近くで、その声を聴いていた。

 静かに、扉を開けることもなく。

 

「いつから統括室の行政官が、防衛室の権限まで持つようになったのかしら?」

「アオイ、これは……」

「説明は不要よ。この件については、既に把握済みだから。

 キヴォトス中に、未曾有の異常現象が発生。

 兆候も実害も特に無い。けれど、脅威がないことを立証するまでは、あらゆる手段を動員して、最高水準で対応すべき……その決定に異論は無いわ」

 

 そしてアオイ財務室長は言った。

「……そう決定したのが、連邦生徒会長なら、ね」

 

 誰もが無言になり、動きを止めた。

「……」

「でも、あなたは連邦生徒会長じゃない。行政官よ。

 代行の腕章をつけたからといって、あなたが彼女になるわけではない。

 サンクトゥムタワーの行政権を失ったうえに、SRT特殊学園の閉鎖を決定……

 シャーレという正体不明の組織の認可……」

 

 アオイ財務室長らしからぬ激しい口調が広がってゆく。それを聞いていて……

「その上、これは一体どういう事?

 シャーレの予言?終焉の予知夢……?そんな戯言に振り回されて……」

 不知火カヤの表情から、いつのまにか笑みが消えていた。

 

 

 ふたりの声だけが続いていく。

「いくら代行といえど、度を越しているわ」

「アオイ、私のことが気に入らないのは分かりますが……」

「私は今、私的な感情の話をしていないの。

 私は昔からあなたの能力を高く評価してきたわ。それは生徒会長も然り。

 あなたの能力は、誰よりもよく理解しているつもり」

 

 

「でも、あなたが連邦生徒会長のような超人になれるわけではない。

 あなたが代行になったのは、統括室の行政官だったからであって、その能力が認められたのではなく、あくまで必要だったからに過ぎない。

 その事実は、代行の腕章をつけている限り、あなたにつきまとうでしょうね。

 それを念頭に置いて、判断をお願いしたいの。連邦生徒会長代行」

 

 

「……」

「それでも、あなたが非常対策委員会を設置するのであれば、防衛室の権限を侵害するに足るだけの根拠と正当性が必要よ

 せめて、私を説得できる程度のものを準備してから、発言してちょうだい。

 それができないと言うのであれば。

 あなたの事を、生徒会長の失踪を理由に代行権限を振りかざして、連邦生徒会を私物化しようとしている存在として見る事になるわ」

 

 カヤは自分の体がこわばっているのを感じた。

 しかし、耳をすますことをやめなかった。

 

「……

 そのお言葉、留意いたします」

 

「……そう。

 それじゃ」

 

 

 聞き耳をやめて隠れる。

 アオイ財務室長が出ていくのを待つ。

 彼女はカヤに気づくことなく、去っていった。

 

 そして、そのすぐあと、声とともに。

「アユム、非常対策委員会の準備を」

 リン行政官が出てくる。

 

 

 気が付くと、カヤはリン行政官と対面していた。

「あら、リン行政官……」

「カヤ……」

 

 なぜ私は……

 自らへの疑念を押し込め、カヤは話しだした。

「ごめんなさいね。

 財務室長の声が大きくて……盗み聞きした形になってしまいました」

 

 リン行政官が、いかにも申し訳なさそうな表情で言う。

「……非常対策委員会は、申し訳ありません」

 カヤ防衛室長として明るく返した。

「いえ、代行ですから。

 当然の権限だと私は思っていますよ」

「……」

 リン行政官が黙っているのを見て。

 カヤは思いつく。

 それは直感に基づき吐き出された。

 

 

「行政官は精一杯務めを果たしているだけなのに……生徒会長の穴を埋めることは、容易ではありません。財務室長も、何もあそこまで言う事はないのに……

 ですが……あなたの権威を疑う人がいるのも事実……困りましたね」

 

 不知火カヤは笑顔を浮かべる。

 細めた目、笑顔、明るい声で、その言葉を発した。

「そうですね……非常対策委員会にシャーレを同席させるのは、いかがでしょうか」

 

 リンが訝しげに言う。

「シャーレを……?」

 

「ええ。各学園代表を説得する際の一助となってくださるかもしれません。

 各自治区からシャーレの活躍ぶりは聞き及んでますから。

 警察学校の不法行為まで突き止めたとのことで……これは捜査部と呼んでも差し支えないかと」

 カヤはついでに付け足した。

「先生が同席すれば、行政官の心配も少なくなるでしょうし」

 

 

「……ありがとうございます。

 そうですね。ちょうど、シャーレに協力を要請しようかと思っていたところです」

 

 

 それを聞いて、不知火カヤは決めた。

「……では、私の方で先生に連絡をしておきますね。

 シャーレからここまで移動するのでしたら、警護も必要ですし……

 こちらはヴァルキューレにお願いするとしましょう」

「ありがとうございます、カヤ。よろしくお願いします」

 

 いつもの姿を保ちながら、カヤはリンに告げる。

「いえ、大変な時ですから。お互い助け合っていきましょう」

 リンが去る。

「では、失礼しますね」

 その背中を、カヤはじっと見ていた。

 

「……」

 そしてもう見えない背を視線で追いながら、手元の端末で連絡を行う。

 FOX小隊は、指示を受け取るため移動を早めるようにと。

「……ええ、進めてください」

 そして去った。

 誰もいなくなった。




切り抜かれたカヤの視点、素材の味、挟まざるを得ないほど濃厚です。
どこから聞いていたんでしょうか。
その動揺はどの部分から?

アオイとリンの会話は、不知火カヤが知る由もなかった言葉を多く含んでいます。
どこもかしこもです。それはもう、衝撃的。
カヤにとっての様々な前提が覆っていきます。しかし……
いくつかのものは後回しにされるでしょう。
そうせざるをえない状況ですから。

え、FOXに連絡したの?それも呼び出し?と思った方。
この世界線ではそうなんです。
詳しくは次話のおまけに付けますが……

まず、前提となるカヤがこの時点でリン行政官を動かす計画を建てて、連絡ひとつでゴーサインが出るという状況まで行くには、さまざまな前提知識と交友関係が必要です。
そしてカヤとFOXは連邦生徒会を差配したがっています。
混乱を伴うクーデターではなく、順当に移行した権限によって。
そこらへん大事です……

ところでカヤに対するリンの接し方が柔らかいことに気づいていますか?
少なくともカヤは、気づいていないでしょうね。
ほかの連邦生徒会メンバーがどのようにカヤを評価しているかも、また。
次はCh.1 page.7ですが、もしネタバレを気にしないのであれば、page.9後半部分などおすすめですよ。アオイ財務室長がカヤ防衛室長に対して評価や同情しているのが透けて見えます。
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