日の下に新しきものなし。
あらゆる前提が覆っていく。
あらゆる経緯が顔を覗かせ。
あらゆる結果が顔を寄せる。
一度あったことは二度ある。
前にも同じようなことが存在していたが、それを知る由はなく。
ただひとつ、日の下になかったもの。
色彩がすべてを染めてゆく、その直前までも。
あるカイザーの拠点にて、カヤはカイザーPMCの者たちと、ひとつの連絡を待っていた……
先日のアオイ財務室長とリン首席行政官の会話は、カヤにさまざまな衝撃を与えた。
気になることはいくつもあったが、しかしその中でも注意すべきことがふたつある。
まず、リン行政官とシャーレの先生の関係は、通常の上司と部下という関係では考えられないほど近い。
近頃、リン行政官が学園自治区関係者に積極的に接触するという異常が発生しており、それをFOXとカヤは、なにかしらの行動が始まるものと思い警戒していた。
いわく、シャーレの先生の提言をきっかけに……とのことだったが。
まさか本当にそうだとは考えていなかった。
となると、あるひとつの疑念が関わっている。
数か月前、カヤとFOX小隊はサンクトゥムタワー内部、統括室の管理する区域にて、機密書類奪取作戦を行った。
消耗は激しかったものの、さまざまな書類を奪取した。
しかしその中には、連邦生徒会長失踪事件に関する痕跡はもちろん、連邦生徒会長が残したであろう引継ぎに関する文書すら、見当たらなかった。
そこから、カヤとFOXは考えていたのだ。
この痕跡はリン行政官がシロということを裏付けるようなものだが。
もしクロだとするならば、よほど信頼のおける場所に隠しているのだろう、と。
たとえば、シャーレの在留する建物はサンクトゥムタワーの外にあるが、奪取した書類の中に、この建物はかつて連邦生徒会長が用意および管理していたという情報があった。
連邦生徒会長直々に、というのはつまり、特殊作戦用のセーフハウスや、謎の多い廃墟など、重要性が高いなにかに関係している可能性が高い。
それが連邦生徒会のものになっていた、とは……
また、シャーレに先生が着任するまでリン行政官のみが入る権限を持っていたことや、用途不明の空間の存在など、ただの拠点として考えるには奇妙な点がいくつかあり……
それはいくつかの目的があってのものではないか。
特に、何かを隠している可能性がある、と。
今回の先生とリン行政官の距離は、その疑問点を強く刺激した。
つぎに、非常対策委員会を用意しようとしている、ということだ。
リン行政官の言葉が確証となり、即座にカヤは考えた。
いろいろと思うことがあるが……
それはさておき、シャーレの先生を動かすまたとない機会だと。
シャーレの先生はよく動いているが、確実に拠点を離れる保証がある、というタイミングは非常に少ない……
そもそも情報共有をあまりしないので、流出もしないのだ。
捜索には時間がかかる。普段使っている拠点であることを踏まえて、FOXの痕跡がわからないよう、監視映像などを消す作業まで含めると、かなりの時間が。
建物の設計を手に入れているとはいえ、確実に調べられるという保証が必要だ。
過去に得た、カイザーの情報があった。
カイザーがアビドス砂漠を探っていたのは、なにかしらのオーパーツらしきものを探し出すためであり……
同様にシャーレが保有している、これもまた、なにかしらのオーパーツらしきものを入手しようとしている。
そのために、ある程度のリスクを許容しうる程度には。
もしもの場合の尻尾切りが可能だった。
不知火カヤ防衛室長は少ない時間で、カイザーと取引をすることに決めた。
ヴァルキューレの制服を用意し、ヴァルキューレへの指示を正式に用意し。
しかしカイザーの私兵を使う。本来のヴァルキューレ生徒は申し訳ないが出戻りしてもらおう。
偽装した私兵は、先生を本来とは違う位置へ送り届ける。
シャーレの先生を非常対策委員会に出席させないように、まったくもって遠い場所へ……
それだけともいえるが、それ以上を望むには、リスクが大きすぎる人物だった。
先生はあまりにも手広い交友関係を構築している……
そして、あくまで連邦生徒会の一部だ。
カイザーはシャーレ内部のなにかを探るため、監視網を麻痺させるとのことだった。
そのタイミングで、FOX小隊はシャーレ内部にあると思わしき機密を探るよう指示を出した。
もしなにか書類があれば、それは絶対に知られては困る情報だ……
たとえば、連邦生徒会長失踪事件に関連するなにかのような。
「ふふっ……いかがでしょう、ジェネラル。
任務は成功しましたか?」
「……ああ、無事確保した」
それを聞いたカヤは、予定していたセリフを吐く。
「流石ですね。
先生を失った非常対策委員会は瓦解。
リン行政官の権威は、地に落ちるでしょう。
これで、シャーレ解体という私たちの目標に、また一歩……
……?」
不知火カヤの誤算は三つあった。
まず、カイザーの戦力への理解がカヤとはかけ離れていたことだ。
「くっ……うっ……!?」
カヤの背、後頭部に多くの銃撃が走る。
たとえ鍛えられたSRT所属生徒であろうと、急所への流れ弾一発で行動不能になることがある。
アサルトライフルの弾を数発急所に撃たれれば、ほぼ間違いなく気絶する。
十数発がすべて命中したのなら、かなりの負傷を避けられない。
カイザーPMCの戦力は、カヤから見てあまりにも弱かった。
元SRTの現ヴァルキューレ警察学校生徒が複数小隊もいれば、精鋭と呼んでいるものすら一蹴りといったところだろう。
FOXが襲い掛かれば、消耗した今でさえ、カイザーPMC本部を壊滅させうる。
当然、兵力を確保するため、協力体制を維持するだろうと考えていたが……
しかしカイザーはその戦力分析を知らなかった。
歩兵戦力はカイザーPMCで十分であり、カヤ防衛室長の戦力は無用と判断したのだ。
「……それは君の目標だろう?防衛室長。
我々は最初から君の正義に興味はない。
むしろ、シャーレを解体する計画をそのまま進められては困る」
(なに?……どういう……)
カヤの意識が遠のいて、消える。
その刹那、言葉が耳に入る。
ふたつめ。
カイザーは先日あるものを確保していた。
戦略的戦力であり、戦術的な要素がすべて覆せると思う程度には、非常に強力なそれ。
そのため常よりさらに強欲で、無軌道だった。
「少し前に計画が変わったのでな」
気絶したカヤの体を、カイザーPMCの兵士が運んでゆく……
流れた血の跡が、床に長い線を描いていった。
そしてみっつめは、これから起こる、連邦生徒会の誰もが予想しえない現象。
それらが絡み合い、そしてすべてが進んでゆく。
誰も予想しなかった事態へと。
カヤは突発的な行動に出ると裏目に出がちです。
今回も裏目。三度目は……
シャーレの先生という学園自治区関係者とすごく親しい人物を拘束……
そもそもシャーレは一応連邦生徒会内部の組織ですし。
事実が知られずとも、先生になにかあったら、どこもかしこも騒がざるをえません。あとで確実に知られます。
そしてもし知られてしまったら、連邦生徒会内外で信用などが崩壊します。
いろいろ崩壊します。ただでさえ業務内容ずっとギリギリなんです。
内輪もめで同僚拉致するなんてやってられません。
それはキヴォトスの平和と安全保障を維持しようとしているカヤとFOX小隊にとっては最悪の展開といえます。
それと、前回の連絡ひとつでカイザーがゴーサイン状態に持っていくには……
たしかにリン行政官は、シャーレの先生から言われたことをきっかけとして、それはもういろいろ動いていましたが、あくまで外部に働きかけた程度。
そして諸々のことを決めたのは、モモカが謎の現象を報告したあそこからです。
まず前提としてリン行政官がどのような人物で先生とどんな距離なのか、カイザーもカヤも知っていなければ、非常対策委員会なんて越権行為は考えられません。普段からだいぶ代行権限の行使を自制していますし。
あとカヤの提言をリンが聞くという確証が必要ですね。
カヤ防衛室長の傘下であるヴァルキューレが、リン行政官傘下にみえる先生を護送するというのは、そもそも先生が持つ交友関係を無視しなければいけません。
総合的に、ここでは厳しかった。護送できちゃいましたが。
さて、大前提として、シャーレの解体やリン行政官からの政権移行を狙うなら、絶対に先生には何事もなく遅刻してもらわないといけません。
しかしそんなことはなかった。
そして始まる異常現象。
カヤはカイザーPMC本部に連れ去られます。
こんな尋問必至の人物がPMC本部に!?
FOX小隊は素早いですが、今は行動作戦中。
なにもかも手遅れになりそう……
(ネタバレですがカヤはひどい目にあいます)