不知火カヤ(精神的超人)   作:ふぁっしょん

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なぜ同じ道を歩むのか。
それは、道を外れたときにわかる。
それは、道を外れなければわからない。

道を外れた。
それはどの道を言うのだろう?


吊された女(13)/Blue Archive Vol.4 Ch.2 page.8

 不知火カヤは、七神リン行政官を拘束した後から、丸一日ずっと働いていた。

 本当に休みなく、連絡と書類製作を続けていた。

 連邦生徒会長代行の交代に関する告知なども含め。

 それは本来ならもっと段階的にやるべき作業ではあった。

 

 だがどの行動も直ちに行った。なぜか。

 新しく増えたやるべきことだけではなく、これまでやっていたことも同時にこなさなければならないからだ。 

 カイザーを利用するなら、カイザーが動ける隙を少しでも削るべきだ。

 カヤはそれを痛いほど理解していた。

 

 カヤが主にやっているのは、連邦生徒会長が残した資料をもとに、現在の状況を鑑みて、最短最速でD.U.が復興できるよう、あらゆるしがらみを無視した業務分配を行うことだ。

 それはカイザーに対する自らの認識も含んだ。

 

 カイザーコーポレーションは連邦生徒会に反逆した敵だ。しかしD.U.を復興するためには必要不可欠の大企業でもある。

 カイザーPMCは弱い。しかしカイザーの保有する数少ない実働部隊であり、これが動けるか否かでかなり行動範囲が変わってくる。

 カヤは考えた。逆転の発想だ。

 

 

 カイザーがD.U.復興事業で治安を悪化させるなら、治安維持にカイザーPMCを使えばいい。そもそもあそこが暴れたのは戦略的戦力であるオーパーツがあったからだ。戦術的戦力である歩兵を払底させてしまえば、ただのサラリーマンのたまり場に過ぎない……

 もし歯向かおうとしたところで、FOX小隊ならカイザーPMC本部を、たったの一個小隊で壊滅させうることが実証されている。

 元SRTのヴァルキューレ生徒を複数小隊動かすだけで、鎮圧できるはずだ。

 

 カイザーがすぐに問題を起こさないよう、規定は隅々まで張り巡らせておく。

 しばらくすればそれでも問題が出るだろう。だが、そこで再建したSRTを叩きつけてやれば、いやヴァルキューレが対処するだけでも、名誉が回復して万々歳だ!

 

 そういう余裕を持たせるため、特別権力関係に服するようになったカイザーPMC職員だけが対処義務を負うようにして、市民に対する告示というかたちで行政規則を施工。

 こうすればいざというときはヴァルキューレが動けるが、そうでないときは動く必要がなくなる。カイザーだけがひいこら働けばいい。

 市民が条例を全部守れるわけはない?それはいつものことだ。いつもこういう条例は無視される。それがキヴォトスのあたりまえだ。

 カイザーはせいぜい、いくらやっても良くならない治安維持に尽力して、これまでのヴァルキューレの気分を味わうがいい……

 

 カヤは笑いながら書類を用意した。どうせD.U.復興事業でどうあがいても労働者が流入して、治安をもとの人員では維持できないことが明白だったのだ……

 金はいるが、金で解決できるなら、それに越したことはない。

 代行になったからこそできる金の使い方だ。

 

 

(いや、これだけ人員がいれば、犯罪の抑止を目的とした内容をもっと盛り込んでも……もっともっと……

 そうだ、今なら、もっと……)

 

 それは、常に最悪を想定し、常に慎重に行動を進めてきた、不知火カヤ防衛室長らしからぬ急激な変化だった。

 しかし今後において不知火カヤとカイザーが消えるという前提をもって見るならば、カヤが考える最終形をはやめに吐き出しておかなければまずいということも、事実ではあった。

 どうせD.U.が復興して用済みになったカイザーを排除したら、引責してカヤも消えることになるのだから……

 たとえこれまでのことを誰も何も知る由もないとしても、カイザーという連邦生徒会の敵に対する処罰を大幅緩和した派閥は、いずれ消えなければならない。

 

 

 そうして普段ならば業務を終えているほど遅い時間まで残り、普段なら各種情報を再確認する時間まで机へ向かい、これから必要な書類を準備し続けた結果。

 それらが一区切りついたちょうどいい時間に、連絡が入った。

 

 この調子で進めば、明日の午前中の中ほどには、睡眠をわずかだが取れそうだ。その後はFOX小隊に報告といこう。ついでに、久しぶりに高い豆でコーヒーを淹れられれば……そう思って。

 そして、これからの会談と、それによってもたらされるものを思って。

 とても、上機嫌だった。

 

 

 すこし暗い気がする部屋。

 扉が開き、シャーレの先生が入ってくる。

 それを見て、カヤは挨拶をした。

 

「こんにちは、先生」

 この会談がもたらすだろうものを思うと、なんだか笑みが止まらない。

 

「こちらの事情で突如お呼び立ててしまい、申し訳ありません。

 一度迎えを送ったのですが、今日の午後はシャーレにいらっしゃらなかったようですので、このよう形をとらせて頂きました。

 現在、連邦生徒会では一刻を争う事案が起きています。

 その件について少々先生とお話ししたく、ご足労頂いた次第です。

 火急の用だったとはいえ、不躾な手段を取ったことをお詫びいたします」

 

 そこまでいって、ふと疑問に思った。

 

「……ところで、先程は急用でもあったのでしょうか?

 スケジュール上はこれといった予定がなかったと記憶しているのですが」

 

“ちょっと野暮用で。

 ……それより、リンは?”

 

「リン行政官は、諸事情で寮に。

 そして放送でもお伝えしたとおり、彼女の代わりとして、現在は私が連邦生徒会長代行を務めています。

 ……連邦生徒会長の手紙に従って」

 

“その手紙はどこにあったの?”

 

 カヤは真顔になった。

 

「……シャーレの地下です。

 そこには手紙だけでなく、クラフトチェンバーを始めとするこの世に知られていない連邦生徒会長の私物が保管されていましたので、間違いはないかと」

 

 

 そして考え直す。

 そうだ、この先生は手紙を隠していたわけではなく、ただあそこに保管されていただけという可能性もあるじゃないか!

 思わず、その発想に笑みが浮かぶ。

 

「おそらく、シャーレに権限を渡す際、ちょっとしたミスがあったのでしょう。

 リン行政官のような方でも、時には間違えることもありますから」

 

“……カヤ、無断でシャーレの地下に入ったの?”

 

 どのような立場とも取れる質問だ。

 知っていたのか、知らなかったのか、わからないが。

 ひとまずカヤは、誠実に答えることにした。

 

「……そうですね。その点は否定しません。

 たしかに私は先のクーデターでD.U.が混乱に陥った際、シャーレの地下に侵入し、連邦生徒会長が残した物を持ってくるよう指示しました。

 連邦生徒会長の真意を知るために」

 

 そして思い出す、リン行政官のこの一年での姿を。

 ひどいものだった。

 ずっと疲れた様子だった……

 

「ずっと疑問だったのです。何故、連邦生徒会長は完璧とはいえないリン行政官に代行業務を任せて姿を消したのかと。

 そこには何か、凡人には理解できないお考えがあるのではないか。

 その想いで私は捜索を遂行し……」

 

 笑みがこぼれる。

 

「ついに、彼女の本当の考えを知ることができました。

 もちろん、そのために先生のプライベート空間を侵害してしまったことは自覚しています。

 しかし……」

 

“……仕方のないことだったと思ってるんだね”

 

 カヤはその言葉にまさにと思った。

 

「さすが、理解が早くて助かります。

 先生もご存知ですよね。規則に縛られていては守れない正義があることを。

 規則とは、司る者が超人でもない限り、いずれ歪みが生じるもの。

 そこにつけ入るものが必ず現れる。

 故に彼らを排除するためには、強い力が必要なのです。

 ……ただ、それはひとつだけでは足りません」

 

 

 カヤがカイザーと繋がっていることも、繋がっていたことも、そして起きた問題も、否定できない事実だ。

 しかしここでシャーレにカイザーを始末されるとまずい。特に学園自治区関係者と協力されると、D.U.を復興する余裕を捻出できない可能性があった。

 わざわざカイザーを使う理由は、学園自治区の介入を防ぐためでもあるのだ。

 

「……たしかにカイザーコーポレーションは先の件で少々張り切り過ぎていたようですが、彼らの持つ力は紛れもなく本物……

 ですので、私はその力を有効活用することに決めたのです。

 もちろん心配はいりません。

 防衛室長として、力の扱いには慣れていますから」

 

“……そんな力を手に入れて、何をするつもり?”

 

 先生の顔が怖くなったのをみて、カヤは少し困った。

 やっぱり変なことを考えているらしい。

 

「あらあら、そんなに怖い顔をしないでください。

 ご心配なさらなくても、誰にも手を出させはしません。

 もちろんシャーレにも」

 

 ここはしっかりとした根拠を説明するべきだろう。

 そう思って、誠実に発言しておく。

 

「シャーレは混乱していた連邦生徒会の代わりにキヴォトスの問題を解決し、多くの生徒から絶大な信頼を得ています。

 お礼を言いこそすれ、危害を加えるなんて私たちがする理由がありません」

 

 そして、さすがに話が逸れ過ぎていると思ったカヤは。

 そろそろ本題に入ることにした。

 

 

「しかし……先生が日々、多すぎる業務と責任を負っているのは事実です

 様々な生徒が当番活動を行い、先生の業務を減らそうと尽力しているようですが……シャーレの根本的構造を変えない限り、先生の負担は変わらないでしょう」

 

 学園自治区関係者が入り浸るほどの、それでもなお終わらない業務……

 想像するだけでも恐ろしい。

 

「この問題については、私たちも考え続けていました。

 先生のために連邦生徒会ができることはないか、と。

 その答えが……」

 

 

 カヤは一冊の書類を先生に見せた。

 

“……これは?”

 

「シャーレの行政手続きの改善案です。

 主に先生の業務負担の軽減を目的とし……

 いくつかの業務においては、先生の権限が強化される内容となっています

 軽く目を通していただき、問題がないようでしたら、ここにサインをお願いします」

 

 

“ここにサインしたら……なにが変わるの?”

 

 その質問に、カヤは思わず苦笑した。

 少しも精読せずに、用意した側に内容を聞くとは……

 これはもう、筋金入りの書類嫌いだ。

 

「……特に何も。変わるものはありませんよ。

 先生はやりたいことを続ければいいのです。

 今までどおり、ね。

 生徒と日常を過ごし、困っている人を助け……」

 

 まずこれまでと感覚的には変わらないことを説明し。

 

「ですが、それらを必ずしも行う必要はありません。

 何もせずとも、先生を責めることはありません」

 

 むしろメリットがあるということも、説明していく。

 

「お金が必要でしたら、いくらでも支援しましょう。

 面倒な報告書だって、代わりに作成いたしますよ。

 ええ……すべては、先生の自由です」

 

 そして、このような説明のとき、決して忘れてはならないことがある。

 あとで責任問題に発展した際、どこが担当するかという点だ。

 これを無視されて変な手続きをすることになると、もうなにもかもが混乱する。

 

「ただ……一つだけ、約束してください。

 今後シャーレのすべての活動は、連邦生徒会の名義のもとに行うと。

 承諾していただけるのであれば、先生がされたことに対する責任はすべて私たちが請け負いましょう」

 

 今までシャーレの活動は、どこの誰が事後処理を行うのかはっきりしておらず、そのためにシャーレがすべての関連書類を制作するという異様な状況が続いていた。

 本来防衛室など事務方がやるような業務内容まで、現場で動くシャーレがやるというのは、おかしい。

 

 そもそも非常に業務処理能力が優秀な統括室の、これまた特に優秀なリン行政官がサポートしていてなお、ろくな休みが一切ないというのは、もう根本的に問題があるとしか言いようがない。

 例えば費用請求先が複雑骨折していて、損害賠償などが発生した際に関係者が毎回シャトルランめいたことをしていたようだ。

 これを整理するだけで随分と楽になるだろう……

 

「要は、先生がどんな問題を起こしても……

 先生が責められることはありません。

 私たち連邦生徒会が後始末します。

 どうです?悪い話ではないでしょう。

 いろいろ面倒が省けますよ」

 

 カヤはより簡潔にまとめた。

 シャーレはもとよりSRT特殊学園のような超法規性を持っていたが、連邦生徒会長の不在によりそれは半端なかたちに留まっていた。

 それをもう一度、完全なかたちに正すというわけだ。

 組織に詳しくない先生からすれば、こういう例えの方がわかりやすいだろう。

 

「私たちが先生の面倒を見ます。

 何もかもを楽に……自由にしましょう」

 

 

“提案してくれるのはとても嬉しいけど、遠慮しておくね

 大人は自分の言動に責任を持ってこそだから”

 

 

「……はい?

 先生、もう一度説明させていただきますが……」

 

 カヤはちょっと何を言っているのかよくわからなかった。

(もしかして、言い方がまずかったのかな?)

 

「この改善案は、先生を自由にするための提案です。

 先生を拘束したり、シャーレの権限を制限したりするものではありませんが……

 何か気になる項目でもありましたか?」

 

 先生は書類を読んだというか、手に取ったようにも見えない。

 自分の発言がなにかおかしかったのか、それを訊く意図を含んで問いかける。

 

“たしかに魅力的だけど……

 でも、大人が責任逃れをする姿を見せてしまったら……

 先生として、生徒の模範になれないから”

 

 

 思わず、カヤの口からため息が漏れた。

 先生が言いたいことはわかるが、しかし……

 カヤにとっては、そういう問題ではないのだ。

 

 様々な罵詈雑言が脳裏をよぎる……

 そして、シャーレが今日の段階では絶対に変わらないことを理解したカヤは、すこし悪足搔きすることにした。

 

「……わかりました。でしたら、この件についてはしばらく保留としましょう」

 

 あとで書類を当番の生徒に送れば、通るかもしれない……!

 そう願って。

 そうして話すこともなくなったので、カヤは結びの挨拶をすることにした。

 

 

「……明日から、新体制になった連邦生徒会による行政改革が行われる予定です。

 この改革により、連邦生徒会はスマートな組織に生まれ変わることでしょう

 新たな私たちの姿をご覧になれば、先生もお考えが変わるかもしれません。

 私たち防衛室は……」

 

 カヤは気づく、そういえば今は代行だった。

 

「いえ、連邦生徒会は、いつでも先生をお待ちしておりますよ。

 では、引き続きよろしくお願い致します」

 

 

 そして、先生が去るのを見送り……

 カヤは自分を責めた。

 おそらく、自分の言い方が悪かったのだ。

 そのせいで、SRT復興が遠のいてしまった。

 

 もしシャーレが今回の改善案を受諾していれば、それを前例およびテストケースとして、より急激な速さで準備をすることができたのだが……

 しかし、そんなことはなかった。

 

 だが、困っている暇はない、業務に戻らなければならないと気を取り直す。

 疲れをこらえて机に向かった。

 

(関係してる書類を手直ししないと……!)

 

 明日の午前中の予定を開けておいてよかったと改めて思った。

 指示系統の調整に伴う責任の明文化は急務だ。

 連絡は返せないだろうから、そもそもしないようにと送っておく。

 書類を提出してから、カイザーの連絡をそのあとに……

 

 そして、FOX小隊に現状報告。

 それを思うと、カヤはもうとてもいい気分ではなかった。




原作を完全に逸脱しました。しかし実を言うと、もっとはやく逸脱する予定でした。
当初予定していた世界線から軽い気持ちで変えた結果がこの状況です。実を言うと最初は、カヤは心身ともに元気で、カイザーをすぐ滅ぼす予定だったんです。
でもそのルートは救いがなさすぎるかなって……

現在ルート分岐をすべていい感じにパスすることを前提として進めています。原作に近いのは実はおまけです。
リン行政官を一時的に排除したのは、カヤの破滅への道をひとつ封鎖するためでした。正直あれはやめてほしかったんですが……

あれさえなければ、SRT復興という希望もなく治安が悪化していくD.U.をただ見るだけのFOX小隊は、先生とRABBIT小隊という光を見て……
その結果護衛を失ったカヤとその派閥はカイザーの傀儡となってしまい……という展開だったんです。カヤの精神が持ちそうにないのでやめました。
さて、どうしましょうか……
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