わたしは心をつくして知恵を知り、また狂気と愚痴とを知ろうとしたが、これもまた風を捕えるようなものであると悟った。
それは知恵が多ければ悩みが多く、知識を増す者は憂いを増すからである。
連邦生徒会会議室にて。
カヤ連邦生徒会長代行はレッドウィンター連邦学園の生徒会長と連絡を取っていた。
「……私が求める条件はただ一つ。
レッドウィンター連邦学園のデモ隊なのですから、事務局が責任を負って解散させること。
……わかりましたか、チェリノ会長」
「何か誤解があるようだな、新連邦生徒会長代行。
おいらはただの生徒会長ではなく……
レッドウィンター連邦学園の生徒会長であり、環境美化部部長兼、書記長兼、運動部代表兼、清掃部部長兼、風紀委員長兼、給食部長兼、今月の最優秀プリン試食家として選ばれたチェリノ様だ!
チェリノ会長と省略して呼ぶんじゃない!」
チェリノが語気を強めるのを見て。
カヤは笑顔を保ったまま答えた。
「ええ、レッドウィンター連邦学園の生徒会長であり、その他さまざまな重責も背負っていらっしゃるチェルノ様。いま大切なのは呼び名ではなく……」
「その他……?
なんと無礼な!」
カヤはやはり笑顔を保ったまま、答えた。
「……失礼いたしました、チェリノ書記長
しかし、いま最も対応しなければならないのは、D.U.市内の各地でデモを主導し、連邦生徒会の行政を麻痺させているデモ隊です。
外部の治安機関が調査した結果、このデモ隊員のほとんどがレッドウィンター連邦学園出身の生徒であることがわかりました。
D.U.の治安を管理する防衛室長であり、連邦生徒会長代行として、レッドウィンター事務局に強く抗議します」
それを聞き、チェリノはふんむと唸った。
ひげを触りながらつぶやく。
「そういえば最近、工務部のやつらがやけに静かだと思ったら、そんなところでデモを起こしていたのか……
やつらは一体何が不満だと?」
「いい質問です、チェリノ書記長。
彼女らはプリンの支給や週休5日のような理解できない政策を要求しています。
そしてその活動の結果、人材資源室長が襲撃されるなど、連邦生徒会内部にいくつもの被害が出ています」
「……それがどうしたんだ?」
その言葉を聞いて、カヤは表情にこそ出さなかったが、信じられない思いだった。
「……連邦生徒会の高官が襲撃するなど、様々な行政活動の妨害を行っているのです。
これは立派なテロリズムです。
キヴォトスの治安維持を担う連邦生徒会長代行として、このような事態を容認するわけには……」
「つまりクーデターか。なるほど、この私もよく経験しているぞ。
それがいかに面倒なことかも、よく知っているとも。
しかし、だ。防衛室長……
クーデターを根本的に防ぐ方法など、そもそも存在しない」
「はい?
えっと、それはどういう……」
「生徒会の政策が気に入らない、だからクーデターを起こす。
当然のことだ。やつらは素人だからな。
そもそも、おいら達のような偉大な指導者の政策を理解できるわけもないのだ」
カヤはその当たり前とでもいいたげな表情と態度に、つい一瞬納得しかけて、いやいやそんなわけがないと思った。
それは、レッドウィンター連邦学園では通る理屈なのか。
驚きのあまり周囲を見るが、ひとりとして動揺する者はいない。
ハイネ体育室長なんて居眠りしている。
(これが、あたりまえだったんですか、リン行政官……!?)
「連邦生徒会長代行も何かと苦労が多いんだな……やつらが相手では大変そうだ」
その言葉に気を取り直し、カヤは口を開く。
「え、ええ。ですからレッドウィンター事務局が……」
それを上書きするようにして、チェリノのはこう告げた。
「原則として学園外のことには関わらない主義だが、今回だけは連邦生徒会長代行に免じて……」
カヤの顔が明るくなる。
「我がレッドウィンター事務局からチェリョンカを一箱送るとしよう!」
カヤは真顔になった。
「……チェリョンカ、って……なんですか」
「むむ?防衛室長はチェリョンカを食べたことがないのか?
チェリョンカはレッドウィンター連邦学園で生産している、特製ミルクチョコレートだ!絶品だぞ!
食べてみて、気に入るようであれば……連邦生徒会にはチェリョンカの定期納品を検討してやろう」
「……なるほど」
カヤは理解した。
どうやら、だめらしい。
「……おっと!もうこんな時間か?
楽しく話をしていたから、昼寝の時間を逃すところだった。
では、また今度話すとしようか……なんちゃら連邦生徒会長代行」
通話が切れた。
カヤはゆっくりと、あたりを見渡した。
ハイネ体育室長がまだ居眠りしているのをみた。
誰もがいつものような様子だった。
カヤは一応、聞いてみた。
「……調停室長。本当にチェリノ書記長は、レッドウィンター連邦学園の代表で、生徒会長なのですね?」
アユム調停室長はそれを聞いて答えた。
「はい、現在のレッドウィンター連邦学園の生徒会長は彼女、連河チェリノさんです」
「現在?」
「その……一週間前は池倉マリナ委員長がレッドウィンター連邦学園の生徒会長でした」
「なるほど。
リン行政官の頃から、そうなのですね?」
モモカが答えた。
「そういうこと~」
そしてスナックを齧った。
カヤが天を仰いだそのとき、連邦生徒会会議室にノックの音が届いた。
見ると、防衛次長だ。一冊の書類ファイルを抱えている。
彼女は役員だが、本会議には出席していなかったのだ。
「あ、あの……カヤ室長」
カヤは小声でいう。
「連邦生徒会長代行」
「す、すみません、連邦生徒会長代行!
防衛室の報告なのですが、こちらを……」
書類ファイルを開き、その内容をみたカヤは、目を見開いた。
そして役員に告げる。
「本会議はこれにて解散とします」
そして足早に会議室を出る。
防衛次長がそのあとを追った。
ざわざわと役員たちが騒ぐ声が、廊下に伸びてゆく。
その声が消える前から、カヤは防衛次長に聞いた。
「……カイザーはセイント・ネフティスの鉄道事業を一部買収していたはずです。
子ウサギ駅に入った列車のうち、関連すると思わしきものは?」
「か、確認済みです。カイザーPMCの業務時間を踏まえると、マル特の14番までがおそらく。
詳細なデータは、室長の端末に送信しました……」
「十分です、ありがとうございます」
防衛次長は離れた。
カヤは資料に目を走らせる。
そして考えながら、歩き続けた。
連邦生徒会長代行執務室の扉をカヤは開いた。
ユキノがゆっくりと物陰から出てくる。
彼女はカヤを見て、何かを察したようだった。
「……なにがあったんだ?」
カヤは自身の推論を語ることにした。
その雰囲気は硬い。
「子ウサギタウンに、カイザーはなにかを運び込んでいます。
先日、子ウサギタウンの土地所有権などを確認したところ、不審な部分が判明しました。それを部下に追わせていたのですが……
痕跡を探った結果、再開発事業を撤退したはずのカイザーコンストラクションおよび一部のカイザーPMC職員が、いくつかの点において不審な動きをしていたことが判明。確認したところ子ウサギ駅に停留した列車についても異常な形跡があり……
それはカイザーPMC職員が行政命令により分散するようになってからも同様でした。
これが直近のカイザー業務員の移動経路をデータ化した資料です」
カヤは自分のタブレット端末を手渡した。
ユキノは受け取り、情報を確認する。
「広いな。そして偽装の痕跡がある……
たしかに、子ウサギタウンが軸だろう」
カヤは書類ファイルを覗いたまま話す。
「……やはり間違いない。サンクトゥムタワー襲撃の際の痕跡資料をみたとき、どうやってこれだけの兵力を迅速に動員したのか疑問でした。
カイザーは子ウサギ駅地下になにかしらのスペースを用意して、そこを集積地点としていた。そして今回は中継地点として、物資を運びだしている。
災害による混乱の隙を突かれました」
「運ばれたものについて予想は」
「おそらく、高度にモジュール化された戦術兵器です。現在の完成品数は、警備の分布から考えて2つから4つ。最終的な数は不明ですが、拠点の分布を考えると8は下らないでしょう。
高度な設備がなくとも再組み立て可能な、ミサイルの一種ではないかと考えています。弾頭は対地攻撃用の中でも大規模な破壊力を持つ可能性が高い。
そうでなければ、このカイザーPMC兵員の移動経路予想図を見てください、よほどの打撃が発生し混乱が持続しなければ、連邦生徒会とD.U.の同時掌握は難しいです」
ユキノは重々しく告げた。
「……どう対処する?」
カヤは無言のまま、考えた。
現在動かせる連邦生徒会の実働部隊は多くない。
そして迅速に施設を強襲および制圧可能となると、かなりの練度が必要となるため、更に少なくなる。
SRT特殊学園はすでに閉鎖されている。
公安局の生徒は、公安局長に対する処分への抵抗としてストライキの真っ最中だ。
それ以外のヴァルキューレ警察学校所属生徒となると、元SRT所属生徒を呼び戻すことも考えられるが、再訓練期間もなく特殊作戦を行えると思うほど、カヤは落ちぶれていなかった。
かといって公安局が復帰するまで待つことは、難しいだろう。
カイザーのリソースが今後増えていかない可能性は、まずない。
戦術指揮に長けるシャーレを頼れば、学園自治区などに情報が伝わる可能性が高いという問題もあった。
もし各学園自治区にこの問題が発生したという事実が知られると、ただでさえ通常の業務に支障を来しており、行政上の問題が解決していない状況。連邦生徒会が調停者として足りえないと考えられてしまう。それはキヴォトス全体に影響を及ぼす可能性があり、できない。
そもそも先生は親リン派閥だ。つまりカイザーへの処罰を強めるべきという考えを持っている役員に接点を多く持つ。
カイザーをいま排除するわけにはいかない。それは絶対だ。
となると兵器無力化に動かせるのは、FOX小隊と……
カヤは聞くことにした
「……RABBIT小隊、いえRABBIT支隊は、どうですか」
ユキノは、少しの逡巡の後、答えた。
「……能力は、SRT基準まで戻っている。ベテランとはいえないが」
カヤはその言葉の裏を理解した。
戦場で迷いを持った兵士は、取り返しのつかない失敗をする。
それが許される状況ではない。
だが、だからといって動かさないことが許される状況でもなかった。
カヤは地図を示した。
「もし兵器があるとすれば、この4か所です。
そしてこの2カ所は完了しているでしょう。残り2つは不明です。
ほかの候補地は警備も痕跡も足りません。おそらくまだない。
しかし、どうすれば……」
どうすれば、この子ウサギタウンに分布する4つの施設を、同時進行で迅速に制圧できるのか。
それも、カイザーが攻撃を認識して動く前に。
カイザーの連絡網を遮断する手段はある。だがその遮断に対する対処手段も多い。
作戦が露呈する直後に通信妨害を行っても、カイザーPMCの組織的行動能力自体は高い……
司令官であるカイザー・ジェネラルがD.U.にいることも判明している。
対応速度は間違いなく早い。
カイザーPMCの職員を誘導する手段は多々あり容易い。その制圧も容易い。
だがこれだけのことだ、いくらカイザーが簡単に切り離しを行えるとはいえ……
ジェネラルとカイザーPMCの進退を賭けた動きとみていいだろう。
どうにもできなくなった場合、残された兵器で事を起こす可能性は十二分にあった。
たとえば子ウサギ駅にあると思わしき物資集積所は、もし発覚すればカイザーが買収した鉄道事業なども大打撃を受ける。証拠隠滅のため子ウサギ駅にミサイルを撃ち込まれれば……
あるいは連邦生徒会の臨時本部に撃ち込まれれば、ただでさえ怯んでいる連邦生徒会は、今度こそ崩壊するだろう。
その混乱の隙をついてカイザー・プレジデントが逃げれば、追いかけることは不可能だ。
企業構造からしてジェネラルを抑えれば、D.U.に散らばる一般カイザーPMC職員を統制することが可能だ。しかし有事のため指示を残していないということは考えにくい。
そしてD.U.が再開発途中であり、カイザー全体を始末すると多種多様な問題が発生するという点もまた、問題だった。たとえばカイザーコーポレーション本体まで処分が波及すると、処分を緩和したカヤは失脚せざるを得ない。
リン行政官がいないこのタイミングで、もしカヤが失脚した場合、連邦生徒会長代行の座は混沌とする。
それは連邦生徒会を機能不全にする可能性が高く……
そもそもD.U.には、既にカイザーが雇用した労働者が流入し始めている。そこにそんな混乱を混ぜ合わせれば、悲惨な事態を迎えることは間違いない。
つまり通信を封鎖している間に、推定ミサイル配備地点を4カ所無力化したうえで、カイザー・ジェネラルを確保。カイザーPMCを制御下におき、封鎖が解除された時点でカイザー全体を完全に無力化している必要がある。
せめて推定ミサイルが組み立て完了している地点が、せめて2カ所以下であると確定し、そのうえでどこなのか判別できたなら、FOX小隊とRABBIT支隊でその2カ所を制圧し、防衛室の部下が警備局を使ってジェネラルを拘束できるのだが……
そこで、カヤはふと思い出した
「おそらくカイザーが用意したミサイルは、かなり高度にモジュール化された、小型のもの。しかしキヴォトス内でそこまでのものを造ることはもうできません。維持することも難しく、外部からの輸送もまた無理があります。
となれば、連邦生徒会長が規制を強める前に取引されていた、あの出所不明の兵器たち以外ありえません。あれは異常に整備性がいい……
そうなれば操作および誘導装置への入力手順は……」
ユキノはぎょっとした。
「カヤ……?」
そしてカヤを見て、絶句した。
「もし私が……
私が責任を取れば……」
ユキノは悟り、語勢を強めた。
「カヤ、考え直せ!
市街地にはまだ市民がいるんだぞ。いくら周辺の土地が漁られているとはいえ、どれだけの破壊力を持っているか推測すらできていないんだ。通行人がいる可能性だってある。
公安局が動けないのは公安局長がいないからだ。公安局長を説得すれば……」
そして思い出す。
(公安局長はカイザーとのリベートで……
それはつまり、カヤの……)
カヤは細めた目、柔らかな笑みを浮かべ、呟くように言った。
「信じるわけがない……」
ユキノは思わず黙った。
リン行政官を排除し、カイザーをD.U.に引き入れたという現在と。
公安局長を汚職させ、カイザーを子ウサギタウンに引き込んだという過去。
それはあまりにも……
「だ、だが、このタイミングでやる必要は……
ほかに、方法はない、が。
しかし……」
カヤは穏やかな声で語る。
「FOX1。最悪を想定しましょう。
もしジェネラルが悪足搔きに出るなら、相当な被害が出ることは間違いありません。そしてそれの対策のため職員や市民を退去させれば、確実にカイザーは感づきます。
我々は物資集積地点を同時に4箇所無力化し、そのうえでジェネラルを確保しなければならない。それも無線封鎖に反応される前にです。
そしてこの機を逃せば、どれほどの速さで敵が動くかわかりません。
今しかないんですよ」
カヤは告げた。
「私が責任を取ります」
カヤ(超人)的に、子ウサギ駅にサイロなんて建造させないです。
とすれば原作で明かされていた、地下バイパスを利用した兵力の展開ができず、子ウサギタウンに執着した理由を達成できません。
ではどうしたのか。
カヤ(超人)はカイザーを管理することに成功しています。
カイザーがもし名前を変えて建て直そうとしても、カイザーPMCが特別権力関係として拘束された以上、歩兵戦力がないので動きが……
ではどうするのか。
いくつかパターンを考えましたが、ここを逃すとカイザーは時期に違いあれど滅びるので、どうにか動くだろうと予測しました。
絶好のチャンスです。ジェネラルもプレジデントも逃さない理由はない。
いくつか考えましたがカヤというか連邦生徒会が滅びるのはNGして、対処可能なものを選びました。普通は対処不可能です。
黒服が過去に無名の司祭の遺産を取引していたことは原作で判明しています。
カイザーが確保していないわけがない。
アリウス生徒は迷宮を経由する必要がありましたが、この世界線のカイザーは鉄道事業に関与できているので、より迅速かつ一気に準備できます。